あれから時間が経ち日曜となった。今日はデートの予定だったな。とはいえ相手が4人もいるなんて贅沢だ。だが結果が目に見えて分かっている。いつものように楯無と本音に振り回されるのだろうな。俺は黒いワイシャツにジーンズと割と適当である。そもそもファッションには興味は無く、着れればいい程度にしか思っていない。簪には白い眼をされたが別にいいだろ。それはともかく既に用意は終わって後はモノレール駅へ向かうだけだ。財布も持って俺たち5人は部屋を出た
「てか、なんで楯無と虚が俺たちの部屋にいたんだ?駅の前とかで待ち合わせでもよかっただろ」
「ダメよ七実君、それじゃあ女性を待たせることになるわ。女性を待たせるのはいけないぞ」
マナーとしての話なんだろう。こう言っちゃ悪いが非常にどうでもいい。最低限の事ができてれば問題はないだろう
「そうか、それでどこに行くかなんて決めてないぞ」
「いいのよ、今日はレゾナンスに行って簪ちゃんと本音ちゃん、七実君の水着を買うのよ」
さり気に俺のも混ざってるのか。臨海学校ということで初日の夕飯までと最終日の4日が自由時間だそうだ。2日、3日はISの訓練と整備技術向上の為の授業らしい。この学園の特色がよく表れていると思う。それはともかく外出届を専用の投函箱に入れて寮を出ることにした。校門を出ると目の前にはモノレール駅がある。IS学園の生徒もちらほらと見える。休日ということで出かける奴や臨海学校の準備をする奴も見える。同じクラスの奴も複数いるしそういうことなんだろう。モノレールが駅に到着し乗り込むが4両編成の為、内部にはそれほど満員というわけでは無い。モノレールが発車し揺られ始める。たかが10分程度だがこの揺られ加減は眠くなる。電車特有のものなんだろうか?
「七実さん、眠いのですか?」
「そういうわけじゃないが、多少揺られているから心地よくはあるが」
となりに座っている虚にはそう見えたのか。この程度なら別にどうということは無いがこの程度は慣れている。それよりも対面で座っている3人の方が慣れない。本音に簪、楯無の3人がずっとこっちを見てきているのだ。これこそどうにかしてほしいものだ。モノレールに揺られること約10分、無事到着した。駅を出て歩いて5分のところにある大型ショッピングモール「レゾナンス」へと向かっているらしい。構造物の全体が見えてくるが予想以上にでかいな
「さーて今日はここで買い物よ。買ったものは七実君が持ってくれるわ!」
「「おー!」」
「買った奴が持て。なんで俺が持たなきゃいけないんだよ」
楯無の案に賛同する簪と本音だが面倒な事をせにゃならんのだ。レゾナンス構内に入ると人が多く混みあっているのが分かる。この中を進まなきゃいけないのはしんどいな。とりあえず、2階へと進んでいく。人混みは好きではないがこうやって普通の事ができるだけでも良しとしよう。2階にある水着売り場に到着したが男性ものでは無く女性ものの水着売り場だった。さすがに足を踏み入れようとは思わない
「んじゃ俺は別行動するな」
「「待って」」
この場を立ち去ろうとしたところを楯無と簪によって両手を掴まれ退路を断たれてしまった。別に水着を買う予定は無いから適当に時間でも潰そうかと思ってたんだが
「どこに行くつもりかな~?メインがいなくちゃ話にならないでしょ?」
「何をさせるつもりか知らんが俺はここに入るつもりは無い」
「ヤダ・・・恥ずかしいけど七実に決めてもらう」
センス皆無の俺に何を決めさせるつもりだ。お前らまで俺を精神的に殺しにかからないでくれ。虚に顔を向けるが溜息と共に首を振られた。多数決を取ったとしても無理というのが分かりきっている。諦めろというのか
「そもそもなんで俺が決めなきゃならん。お前らが着るものなんだから自分で決めろ」
「ななみんがどういうのが好みか知りたいんだよ~」
知ったところでどうするつもりだ。服なんて着れればいい程度にしか思ってないんだぞ?
「その後に七実君の水着も見て、その後に昼食よ」
「俺は水着なんか着ない。背中のあれを見せびらかすようで気が進まん」
「そうでしたね・・・お嬢様、ここは七実さんのお洋服でもどうでしょうか?」
まさかの発言ですよ虚さんや。味方だと思ってたら実は敵だったでござる。それもあんまり変わらないからな?
「お~お姉ちゃん、さっすが~!」
「いや若干路線が変わっただけで俺は乗り気じゃないんだが」
「ほら行くよ七実」
拒否権なんて最初からなかったんですね。俺は楯無と簪に手を引かれそのまま女性水着売り場の中へ連行されていく。なんかもうね、されるがままって感じですよ
「ねぇななみん~、私はどういうのがいい~?」
「知らん、俺に聞かないでくれ」
「むぅ~けちんぼ~」
そうむくれられても俺にはこういうのは向いていないんだ。身体が動かなかった時も服なんて着れればよかったのだ。だから制服とかスーツなんて最高過ぎる。着るものを選ばなくていいとか自由最高
「七実、これなんてどう?」
簪はフリルが付いた薄い水色の水着を持ってくるが・・・いやどうと言われても分からんよ。脳内で想像して感想でも言えってか?
「だから俺に聞くな。この手の事は本当に何もわからん」
「着てくる・・・だから感想をお願い」
そう言って近くにある更衣室へと入っていく。簪に釣られ本音も水着と言えるかどうか分からない物を持って簪とは別の更衣室に入っていく・・・というよりも本音、お前は何を持っていった?狐のような顔をした何かが付いていたような気がするんだが
「というよりも楯無と虚はいかなくていいのか?」
「行きたいのは山々だけどここに連れてきて放っておくのは失礼じゃない?」
「お嬢様が行ったとしても私は残るつもりでしたので」
こんなところで1人ぼっちとか死ねるからな。まぁその時はこの場から逃げるつもりでいたが
「つい2か月前ではこういうことは考えられませんでしたね」
「七実君が動けなかったから仕方ないわね。どう?外で買い物をしてみた気分は?」
「正直な感想だけ言わせてもらえるのであれば微妙だな。だがこうして気分転換としては良いと思う。滅多に来ようとは思わんが」
「なんとなく知ってたわ。でもこの前みたく爆発しちゃうのはお互いに望んでないでしょ?だったらたまにはこういうのもありなんじゃないかなって」
ああなる前に約束を取り付けておいてこじつけっぽいが、それには賛成だ。俺とてああなることは望んじゃいない
「1番はそうならないってのが最高だけど、今の環境じゃ難しいわ。改善に向けて頑張ってるけど早くても夏休み明けとかになるわ」
「してもらってる側としちゃ何も言うことはない。助かる」
「私も気に食いませんし。七実さんの過去を知っている分、原因であるメディアも七実さんを叩こうとしている人も許せなくて」
「でも生徒会に入ってるからそういうのができない。板挟みって感じか。俺が言うのもなんだがすまんな」
付き合いが長いからか、それとも生徒会として放っておけないのか。そのどちらなのかは分からないけど少なからずそう感じてもらえるのはありがたい
「七実さんが謝る必要なんてありませんよ。現に七実さんのおかげで助かった人もいることですし」
「感謝なんてされんがな」
「そう卑屈にならないの。そうね・・・例えば、そこにいるシャルロットちゃんとかは感謝してるんじゃないかしら?」
「えぇ!?」
楯無が柱を利用した商品棚の方を指さしそういうと女性、というよりもシャルロットとラウラが出てくる。いや、相棒さんは制服なんですか
「貴様やるな」
「ふふん、伊達に生徒会長を名乗ってないのよ。こっちにしてみれば敵が増えたような感じだけど」
「七実来て・・・ってシャルロットにラウラまで・・・七実どういうこと?」
更衣室からひょっこりと顔を出してこちらを見るなり俺に冷たい視線を向けてくる。なんで俺だけなんですかね?
「七実君たら私達を置いてシャルロットちゃんとラウラちゃんを引掛けてきたのよ?」
「流石に怒るぞ。具体的には更識姉とか言うようになるだけだが」
「本当にごめんなさい。昔みたいに戻るのはやめてちょうだい」
真顔で言うな。相手が嫌がることをしていいのは戦っている時か謀の時だけだ
「どうしてと言われると難しいが偶然いただけだろう」
「偶然・・・後をつけてきたの間違いじゃないの?」
どうしてそうややこしい方へ持っていくのだろう。いつもとは言わないが仲良くできないのだろうか
「知らん。そうかもしれないがたまたま見つけたかも分からん。んで呼んだってことは着替えたの・・・か・・・」
俺が言い終わる前に簪は更衣室のカーテンを開けた。顔を真っ赤にして恥じらっているが個人的感想を言わせてもらうのであればとても似合っている
「どう・・・かな?」
「あー、その、いいんじゃないか?似合ってると思う」
「ありがと・・・もう少し考えてみるけど、これは買う」
「おー!簪ちゃんかわいいじゃない!」
目の前で楯無が簪を抱きしめ撫でまわし始める。目の前で百合百合しい光景を見せるな。鏡越しでシャルロットがラウラの目を抑えているのは分からんがな。だが簪は時折苦しそうな声をあげている
「ほれ行くぞ」
流石に見ていられなくなったので楯無の頭にチョップを1撃加えて簪から離れさせる。
「あ~待ってよ七実君ー。簪ちゃんの写真を撮るから!」
「当店では撮影は厳禁」
流石に恥ずかしいのか再びカーテンを閉じてしまった。全く・・・はしゃぎ過ぎだっての
「へぇ・・・七実ってああいう水着が好きなの?」
「お前もか・・・だいたい俺はこういうのは苦手なんだ。服なんて着られればいいとしか思っていない人間だ」
「七実もなんだね・・・」
シャルロットは大きな溜息と1つ吐くとラウラを見た・・・もしやラウラも同じなんだろうか。というよりも制服で来ている時点で多少はおかしいのを気が付けばよかった
「相棒も同じ意見だとはな。さすがだ」
「「いや、それはおかしい」」
シャルロットと楯無が妙に意見が一致していたようでハモってしまった。お前ら実は仲良しだろ?
「更識会長、ここは一旦協力しませんか」
「いいわね。ここで買い物が終わったら次は七実君の服を買いに行くのよ。一緒に行く?」
「はい!」
すんごいにこやかな顔でそう言わないでください。ラウラの方へ目を向けると顔を引き攣らせている。こいつもなんとなく察しているだろう、これから俺たちがどういう目に遭わされるのか。ラウラもこちらに目を向けて視線が合った。もう察しているならやることは1つ!
「っ!」
「どこにいくのかな、七実?」
俺とラウラは一目散に逃げるつもりだったが、そうはいかなかった。なぜなら既に着替え終わっていた簪が俺の背後に立っており腕を掴まれてしまったからだ。振りほどこうにもろくに鍛えていない俺では簡単に振りほどけるはずがなかった。ラウラはというと同じく本音に先回りされ逃げ道を失ったところをシャルロットに取り押さえられていた
「逃げようとしちゃダメよ七実君」
「怖いんで近寄らないでください。本当に怖いんで」
にこやかに笑っている簪と楯無ににじり寄られる。ある意味でトラウマになりかねんよ、すんごい良い顔でにじり寄られて(服の着せ替えの)強制を要求されるとか
「・・・降参だ」
さぁ・・・地獄の1丁目が訪れようとしている・・・そこにいるのは俺とラウラだ
「なぁ相棒・・・ここはヴァルハラか?」
「いいえ、ここはファミレスです」
買い物が終わり既に13時を過ぎてしまったところでレゾナンス内にあるファミレスへと入っていった。俺とラウラは対面で座っておりテーブルに突っ伏していた。俺とラウラは着せ替え人形の如く遊ばれてしまい疲弊していた
「まさか買い物程度でこうなるとは思わなかったぞ相棒」
「同感だ・・・下手したら今までで一番疲れたかもしれん」
「あはは・・・ごめんね七実にラウラ。つい楽しくなっちゃって」
「「誰が許すか」」
ラウラの隣に座っているシャルロットを睨んでおく。その向こうでは虚は吹けない口笛を吹いており、簪と本音は目を逸らし、楯無に至っては少し舌を出して「てへぺろ」とか言ってる。というよりもなんだかんだで1番楽しんでたのが虚だったのは意外だった
「戦場とは兵器が飛び交うだけじゃないのは初めて知ったぞ」
「そういやラウラは軍人だっけか。んじゃこういうことは無縁に等しい・・・のか?」
「そうだ。大抵は訓練や整備、いろんなことをしてるな。そのせいかこういうことは慣れていない」
軍人とは大変なんだな。とはいえ休日ぐらいはあるだろう。その時ぐらいは買い物とかしてるんだろうけど、さっきの事を考えれば経験は少ない方だろう
「お待たせいたしました。こちらがご注文されたお品です」
ウェイトレスさんが注文したものを持ってきた。俺はパエリアを注文していた。目の前には量はそこそこあって海老や烏賊、ホタテなどが入っているパエリアが1つ。みんなに料理が行き渡り食べ始める。うん、美味い
「ななみん~少しちょうだ~い」
「ほれ」
取り皿に少し分け、本音に渡す。少し減ったところで別に問題ない。まだまだ量はある
「七実、僕も欲しいな」
「私も」
「お姉さんにも貰えないかな?」
「・・・俺の分がなくなる」
どうして俺の分を取ろうとするんだよ。自分の分があるんだからそっちを食え、もしくは少しこっちにくれよ
「じゃんけんで勝った奴にやるから、それでいいだろ」
隣でじゃんけんを始める3人。そんなに食いたいなら同じのを注文すりゃよかったのによ。勝者はシャルロットに決定したようだ
「やった!」
「ほれ、これでいいだろ」
既に半分近く減ってしまったパエリアに視線を向ける簪と楯無・・・はぁ
「食いたいなら少し寄こせ。それなら分けてやる」
「「本当!?」」
「こんなんで嘘をつくと思うか?」
「思わない・・・はい」
等価交換という感じだろう。簪と楯無から多少貰うが両方パスタの為、似たようなものに感じる。だが食べてしまえばどっちも同じだから関係ないはずと思いたい
「相棒は優しいな」
「どうだかな。その分俺が食う量は減ったとも言えるが少食でも済むから問題ない」
「そういう問題ではないぞ。キチンと栄養を取らねば緊急時に動けなくなってしまう」
「日本ってそこまで物騒じゃないからね?犯罪はあるかもしれないけど数は他の国より少ないらしいよ」
シャルロットのツッコミもおかしい気がする。ここでは「その考えは軍にいる時だけにしろ」が正解だと思う。ちなみにシャルロットの解説も正しいかもしれないがそれは観測者によって統計に差が出る。それでも基本的に安全だと言えよう
「楯無、この後はどこに行くんだ?」
「そうね・・・特に決めてないわね。疲れた?」
「どっかの誰かさんが俺で遊ぶからな。良い買い物が出来たとは思うが遊ばれちゃ疲れるに決まってるだろ」
「あはは、つい楽しくなっちゃってね。それじゃあ帰ろっか。みんなはどうするのかしら?」
簪はゲームショップに行って買いたいものがあるらしい、本音は簪に付き添い。残りは全員IS学園へと戻るらしい。昼食を取り終え支払いを済ませ、店をでた。簪と本音と別れ寮へと戻っていく。道中でラウラが疲れたのか、眠りこけてしまった。仕方なく背負い学園の寮へと戻ることにした
「流石男の子だね」
「うるさい、荷物を持った状態でラウラをおんぶしてんだ。少しぐらい荷物を持ってくれよ」
おんぶされているラウラに手を伸ばしちょっかいを掛けているシャルロットは手伝う気は無いみたいだ。あくまでも自分の分だけらしい。モノレールを降り、校門をくぐり寮へと足を運ぶ。道中、生暖かい目で見られたが気にするだけ無駄だ。寮に入るが楯無と虚は階層が違うためここで別れることになる
「今日は楽しかったわ。また行きましょうね」
「まぁ楽しくは感じた。今度行く場合は俺で遊ぶなよ。虚もな?」
「つい楽しくなってしまいまして、すみませんでした。でも七実さんも楽しめたようで何よりです」
「んじゃ俺はこいつを部屋に届けていく。というよりもこいつの相部屋って誰だ?」
「あ、僕だよ」
ラウラの相部屋の相手はシャルロットだったのか。確か一夏と相部屋だったはずじゃなかったか?
「なら部屋まで案内を頼む」
「うん任せて。それでは先輩方お疲れ様でした」
楯無と虚と別れシャルロットたちの部屋へと向かっていく。部屋に到着するなり部屋に通された
「ラウラのベッドは手前側ね」
言われた通りにラウラをベッドの上に寝かせて掛布団を掛ける。可愛い寝顔をしているが眼帯が気になる。軍にいる際に怪我でもしたのだろうか
「ありがとうね七実、今からお茶でも淹れるから飲んでいって」
「助かる」
シャルロットはキッチンでお湯を沸かし始める。ふと思い出したがここは女子の部屋だったな別に緊張しているわけじゃない。むしろ男子の部屋という方が分からない。いままで入ったことのある部屋は簪、本音、楯無、親父に母さん・・・後ろ2人は換算していいのか分からない
「ねぇ七実1つ聞いていいかな?」
「答えられるものならいいぞ」
「憶測でしかないんでけどさ、七実は僕のことで織斑先生や更識会長を説得してくれたんだよね?どうして説得してくれたの?」
あの時の話の続きか。どうしてと言われたら過去の経験が酷似していたとしか言えん
「話したくないなら話さなくてもいいけど、できれば教えてくれないかな?」
「・・・俺もお前と似たようなことを経験したからだ。説得した際は織斑先生にお人好しと言われたな」
「やっぱりそうだったんだね・・・本当にありがとうね。感謝しきれない程嬉しいな」
「前にも言ったが感謝されたくてやったわけじゃない。だが自由になれてよかったなシャルロット」
「うん!」
久しぶりにこうやって感謝されたような気がする。良い気もしないが悪い気もしないな
「はいどうぞ」
お茶というか紅茶が入って渡してくれた。1口啜ると口内に一杯に広がる味というのだろうか風味がすごくよかった
「どうかな?」
「美味いな。ありがとう」
「いいのいいの、おかわりもあるしどんどん飲んじゃって」
「そんなに量を飲もうとは思わないが、飲める分は飲む」
本来だったらこういう風にできることが普通だったんだろう。笑い、話し、何も考えなくて良いという普通。こういうものを望んでいたはずなのにどうしてこうも歪になってしまったんだろうか。まだ俺が知らなきゃいけないことが、話さなきゃいけないことがたくさんあるのが実感できる
「にやけちゃってどうしたの?」
「そうか?」
最近はなんかおかしくなってきたのか?溜まっていたものを吐き出して以来、無意識に笑ったりしてるらしい。これが感情なのだろうか。感情なんてやっぱりわからない
「口元がこう、にや~って感じで」
「無意識のようだ。昔から笑ったことなんて早々無いのだが、最近はどうもおかしい」
「笑うことはおかしくないよ。人間としてはいたって普通だよ」
「俺にはさっぱりだ。全くもってわからん」
「なんかラウラがもう一人増えたような感じだよ。ラウラもたまには笑うけどいつも、あの表情だし・・・似た者同士って感じがする」
「さてな。俺は俺、ラウラはラウラだ。似ていようが俺みたいな奴とは違う」
大きな溜息を吐かれた。そもそも俺が誰かと比較されること自体おかしいのだ
「なんら変わらない同じ人間でしょ?性別は違えど本当はみんな同じなんだよ」
「そうか」
俺は同じだとは思えない。俺個人の過去がそれを物語っているからである。原型は同じかもしれないが内容は全く違う。例えば前世持ちなんて俺以外にいないだろう
「・・・話は変わるけど、七実って好きな人いる?」
「知らん」
いったい何を口走ってるんだか。どういうのが他人を好きになるっていう感情なんかも分からないってのに
「知らんって・・・初恋の人ぐらいは居たんじゃないの?」
「そもそもの話だ。他人との関りなんて面倒にしか思っていなかったぞ。もし友好関係が多少なりにあるのであれば、もう少し生きやすい生き方をしていたはずだ」
「あはは・・・じゃあ僕にもまだチャンスはあるんだね」
乾いた笑いと共に小声で言っていたことは聞こえていた。好意を寄せられても応えるとは思わない。関係が壊れてしまいそうで怖いのだ。この後もお茶と会話を楽しんだ。来週は臨海学校だが何も起きないといいな。ここ最近はトラブルというトラブルが連続して発生しているから何かあるんだろうと警戒したくなる。何もなきゃいいんだがな
ご感想ありがとうございます
ここ最近、投稿ペースが速いのは他の2作品の案を練り直しているのと就活が忙しくなっているためです。決して思いつかないとかじゃないですよ