元奴隷がゆくIS奇譚   作:ark.knight

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解決の糸、積もる怨

 

次のイベントまで1週間を切ったところで俺の専用機の改修が終わった。見立て以上に早く終わってやれることが増えたのは嬉しいことだ。俺は機体の細部及びプログラムの確認を終え専用機を回収し、書類を少し書いてラウラの待つ寮の談話室へと向かうことにした

 

「あ」

 

「げ」

 

ちょうど職員室前を通り過ぎたところだろうか。運悪くシャルロットと遭遇してしまった。周囲に一夏はおらず1人で行動しているようだ

 

「あ、あの・・・七実、ちょっといい?」

 

「俺は急いでるんだ。時間を食うようなら夜か明日にしてくれ」

 

「ううん、すぐに終わるから。僕ね、考えてたの。一夏には居場所を貰ったけど本当はどうなんだろうって」

 

あの時の事だろうが、それは甘い蜜でしかない。上っ面で心は満たされるかもしれないけど結局は何も解決には至らない

 

「それでね、怖いけど話すことにした」

 

「そうか。今更信用してもらえるかどうかは別だが」

 

一応は話はつけてあるけど、そこから信用をもぎ取れるかはまた別問題だ。俺だって説得したは良いが、楯無の場合は失敗に終わっている

 

「分かってるよ。でも僕の話を聞いてくれたから話しておかないと思って」

 

「・・・」

 

既に動き出しているという話をしてはズルいだろう。もし、話しておけば俺が頼んだのもバレてしまうからな

 

「これから織斑先生と生徒会長を同時に相手をするんだけどね。胃がキリキリしてくるよ」

 

2人同時に相手とか地獄すぎやしませんかね。いや、多少は織斑先生が楯無を制御してくれる・・・といいんだが。いつもふざけているように見える楯無も、そう見せているだけなのであって普段はちゃんとしている。俺が頼みに行った時もそうだったしな

 

「まぁ頑張れ」

 

「うん」

 

俺はシャルロットと別れ再び寮へと足を進める。途中で詫びとして缶コーヒーを買い向かうことにした。寮の談話室に到着し中に入ると既にラウラが椅子に座って律儀に待っていた

 

「遅いぞ」

 

「すまない。詫びと言っては何だが、ほれ」

 

買ってきた缶コーヒーを投げ渡し対面の椅子に座る

 

「気遣いはできるようだな。ありがとう」

 

「好意を持って接してくる奴には好意で返し、悪意を持って接してくる奴には排他的に。誰だってそうだが、面倒事は避けたい」

 

「そうだな」

 

今日呼ばれたのは作戦会議ということだ。軍人さながら如何なる状況でも対応できるように、との事だ。予期せぬ出来事でも動揺してはならないということなんだろう

 

「早速、作戦会議とする。その前に確認だが貴様のISの特徴、要は単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)について教えて欲しい」

 

「現時点で分かっていることは他者のISと経験の同一化。簡単に言えば他者と同じになるということだけだ」

 

「報告には聞いていたが末恐ろしい単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)だな。貴様を敵に回さなくて良かったと常々思う」

 

だが、デメリットも存在する。単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)以前では検証したことは無いが、機体が攻撃を受けた場合に俺にもダメージを負うこと。これは明かさなくてもいいことだろうか?

 

「なぁラウラ。俺とお前は短期間とはいえ同じ場所で戦う相棒のような者だと思う。それを見越してもう1つ提示したい情報がある」

 

「相棒か・・・良い響きだな。それで提示したい情報とはなんだ?」

 

「俺の機体は危険すぎる。相手にするのも操縦するのもだ。俺の専用機IS<M.M.>は攻撃を受けた際に操縦者にも、同様もしくはある程度軽減されてダメージを受ける」

 

「・・・要はISのダメージ=鏡野七実のダメージということか?」

 

ラウラの切れ目はより鋭くなり、俺を睨んでくる。よくISは現技術では欠陥機と称されているが本当にその通りだと思う。一夏のISでさえ剣1本しか無いのだから世代差を考えなければラファールリヴァイヴでも使っていた方がいいだろう

 

「その通りだ。それを踏まえた上での作戦にしたい。その上である程度の犠牲としてダメージを受けるようであれば受け入れるつもりでいる」

 

「ふむ・・・ならばそれを踏まえたうえで作戦を練るとしよう。意見があるならどんどん出せ」

 

これよりタッグトーナメントに向けての作戦会議を行うことになった。対一夏戦の時やそれ以外の専用機持ちの戦闘、訓練機相手にはどうするか、とかとか。いろんな事の対応について作戦を練るが上げても上げてもキリは無く、翌日の昼休みと放課後を返上して再度行うことにした

 

「やっぱりラウラは凄いな。初見の時の印象ではこんなにことをする奴に見えなかったが、今日ので見直した」

 

「当たり前だ。私は誇り高き軍人だぞ?それを言うなら貴様もだ。私に物怖じせず、意見を出してくるとは思わなかった」

 

「最初にも言ったように俺はラウラの事を相棒だと思っている。この程度で根を上げられては困るんでな。俺としても一度はあいつをボコしたい」

 

俺は俺で一夏の事を恨んでいる。あの時に殴られた恨みだ。だが、恨みを晴らすのは誰だっていい。俺でも簪でもラウラでもだ

 

「なんだ貴様もか。ならばよろしく頼むぞ」

 

「こちらこそな」

 

俺たちは別れそれぞれの部屋へと戻っていった。既に夕食時ということもあってか人気はあまりないが部屋には簪と本音は居ることだろう。部屋の扉を開けるとそこには簪と本音だけではなく楯無に虚までいた。てか楯無は俺のベッドで寝そべるんじゃない

 

「おっそーい。今までどこに行ってたのかな~?」

 

「談話室だ。ラウラと話をしていてな。というよりもなぜ楯無と虚がいるんだ?」

 

「まぁ一応報告がてら一緒に食事って感じかしら。簪ちゃんと本音ちゃんには許可は貰ってるわよ」

 

「無理矢理だったけど・・・用意しておくから着替えてきて」

 

「ああ」

 

着替えを取ってから部屋にある洗面所で着替えを済ませ戻ると既に料理が並べられていた。今日は和風のようだ

 

「さぁ早く座ってちょうだい」

 

「なんで楯無が指示してんだか。まぁ座るけど」

 

右隣には簪、左隣には楯無、対面には本音と虚が座り夕食となった。約半年ぶりだろうか、俺を含めたこの5人での夕食は。いや、その時には親父と母さんもいたからまた別か。だが俺はこの関係、空間が好きだ。笑いの絶えない4人との関係は大切にしておこう。夕食も食べ終わり、今日の作戦をPCでまとめ始める

 

「七実さん、お茶です。何をしてらっしゃるのですか?」

 

「ん、ありがとう虚。今日話してきた内容のまとめだ」

 

今は全員リラックスしていて簪と楯無は一緒に格闘ゲームをしている。BBだったかな

 

「それとこれを」

 

小声で4つ折りにされたルーズリーフを渡してくる。中身を確認すると

 

本日、シャルロット・デュノアが自身の事で話があったわよ。匿名で「僕の事でどれだけ幼稚な思考だったかを思い知らされた」とのこと。多分、七実君か一夏君のどちらかだと思うけど行動を考えるに七実君かな?

 

いったいどんなことを言ってそうさせたのかは知らないけどよくやったわ。これで証拠は揃ったし学年別タッグトーナメントの後には解放されると思う。アフターケアはまだ微妙なところもあるけど

 

まぁ、それは置いておいて、もうすぐ夏よね?臨海学校もあることだし今度一緒にデートしましょう?もちろん5人でね。もちろん拒否権は無いわよ

                                   by楯無

 

なんとまぁ大胆ですこと。だが、誘われる分には行くしかないな。IS学園に入学する前には外に出かけて買い物をしたなんて記憶早々無いから楽しみでもある

 

「この内容はまだ秘密ということで」

 

「了解」

 

小声での会話はこれで終わり虚も2人のところへと行ってしまった。さて俺も作業というよりもまとめ作業に戻るとしよう。後ろでは勝った負けたの勝負が行われているが淡々と作業を進めていった。そのせいか意外に早く終わった。とはいえ消灯の1時間前だが

 

「あら終わったのね?だったら一緒に遊びましょう!」

 

「・・・消灯時間まで1時間前だ。風呂とか入らなくていいのか?」

 

「入ってきたに決まってるじゃない。それともお姉さんの生まれたままの姿でも見たかったの?」

 

「シャワーでも浴びて寝ますかね」

 

こういうのは無視に限る。面倒事は極力避けるべきだ。下着を持って誰もいないシャワー室に入る。この時だけが1人でいられる時間だ

 

『七実くん、私達帰るからねー』

 

「ん、そうか。あーそうだ。あいつのことは助かったありがとうな」

 

『いいのよ、それじゃあデートはよろしくね』

 

「簪にも言っとけよ」

 

楯無と虚は帰ったようで部屋には簪と眠りこけている本音しかいないのだろう。さっさと浴びて俺も寝るとするか

 

 




今回もお読みいただきありがとうございます

次回はついに積年もとい積月の恨みを晴らすやも?

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