どうやら俺は部屋に戻るなり、すぐに寝てしまったようだ。時計を確認すると6時半、ここに着いたのがだいたい5時半だから1時間程寝ていたようだ
「んっふっふ~」
重い瞼を開けると目の前には、カシャカシャと音を立てながらスマホを構えている本音がいた。おいコラ人の寝顔を撮ってんじゃ
「お、おはよ~」
「全部消せ、バックアップ込みで全部消せ」
こういう場合、普通に全部消せというとバックアップ以外を全部消す。だから全て消させる、経験談だ
「え~、いいでしょ~?」
「良くないから消せ」
「仕方ないな~」
何が仕方ないだよ。本音だって寝顔は撮られたくないだろうに
「消したから~また撮っていい~?」
「ダメに決まってるだろうが」
消させたのに何でまた撮らせる必要があるんだよ。というよりもなぜに写真なんか撮るし。とりあえず俺は起きて体をほぐす。もう夜だからやることはほとんどないが、ストレッチとかするぐらいは寝起きですると少しは眠気が飛ぶ
「そろそろ夕飯だから、用意して」
「わかった」
ベッドから立ち上がった時だった。誰かが部屋の扉を力強く何度も何度も叩いてくる
『七実!いるか!?』
声からして一夏だろう。夕飯時というのにいったい何だ?俺は扉を開け廊下を確認すると何やら焦ってような表情を浮かべていた
「こんな時間に悪いけど一緒に俺の部屋に来てくれ!」
「はぁ?っておい」
一夏に手を引かれ、そのまま為すがままに部屋を出て一夏の部屋に入れられた。部屋の中に入るとジャージ姿のシャルルと思われる奴がいるのだが、おかしいことに気付いた。男ではありえない、胸部が膨れているのだ
「あはは・・・ごめんね七実」
「この通りだ、一緒にシャルロットを助ける手段を考えてくれないか?」
何がこの通りだ、だよ。状況の説明も無しに、はいそうですか、と答えるようなお人好しはいないだろう。的確で正確な情報が欲しいところだ
「俺にはさっぱりだ。何が何だか分からんから説明してくれシャルル」
「俺から説明する」
「一夏、お前に聞いていない。シャルルに聞いているんだ」
当事者というと一夏も当てはまるような気がするがそこじゃない。問題の中心にいる
「別に俺でもいいだろ?」
「良くない、事の中心にいる奴から聞かなきゃ見えるものも見えてこない。さぁ話せ」
「そんな言い方ないだろっ!」
一夏は俺の胸倉を掴み、壁に追いやった。情報が欲しいのもそうだが協力するとも何とも言っていない。話を聞いてから判断してもいいだろう
「やめて一夏!協力を求めた相手にそんなことをするのはダメだよ」
「・・・わかった」
手を放し解放された。前にもあった事だが目の前の問題に対して直情になりすぎて暴力を振るうのにも躊躇いが無さすぎるだろう。いや、俺も他人の事を言えないか。一度こいつを殴ってるし
「それじゃあ話すね」
暗い表情のままシャルル、いやシャルロットは話し始める。フランス代表候補生である、本名シャルロット・デュノアは今日の授業での説明通りデュノア社の社長の娘、より正確に言えば愛人の娘らしい。設定が最初の段階で滅茶苦茶過ぎませんかね?それは置いておいて、父には2度しかあったことは無く、本妻には痛い仕打ちをされたらしい。本当の母は病死し、社長である父に引き取られたがそこでは地獄のような毎日が続いたようだ。本来であれば無償の愛、養いを受けるべきはずだが一切なく、虐げられてきたそうだ。まるで奴隷のようにな。そんなある日、シャルロットに大きな変化が訪れたそうだ。それは高いIS適正が判明したことだ。そこからは今までよりも地獄の日々が続いた。検査と称し投薬実験を強いられたり、虐待の悪化と色々だそうだ
「それでも、僕はデュノア社の広告塔及び特異ケースと接触しやすくするために男としてIS学園に入れさせられたんだよ」
「本当に酷い話だと思わないか?自分の娘をこんな風に道具みたいにしやがって!」
確かに酷い仕打ちだ。前世を思い出すようで胸糞悪い。だが俺も言いたいことは沢山ある。ただ俯いて話しただけで何を求めているのか。どうして俺にお鉢が回って来たのか、諸々、何一つ話されていない
「で?」
「でって・・・今のを聞いて助けようと思わないのかよ!」
「思わないも何も助けを求められていない。事情を話してお終いというのは助けを求める側として言葉が不十分だ。それ以前にスパイ行為を強要されていてやる気が無いのであれば、なぜ教師や生徒会長に直談判しない」
そう、そこが分からない。身の潔白を証明するのであれば即決即断即時即答と言わんが早く言わないと証明が難しくなる。嫌なら嫌で伝えるに限る。何事も伝えねば何も分からない。感情も動機も全てだ。シャルロットは目も合わせようとせず言うだけ言った。それが気に食わない
「それに俺に頼る前に教師、特に織斑先生や山田先生に話したか?」
「いや・・・千冬姉とか先生には頼れない」
馬鹿なの死ぬの?頼る先が教師である姉とか生徒会長じゃなく、なぜ俺なんだ。頼るべき相手は俺よりもいるはずだ。優先順位を間違える程、切羽詰まっているということなのかもしれんが俺じゃないだろう
「呆れて言葉も出てこない。そもそもこんな問題を、たかが一般生徒なんかが解決できるわけがない。親との関係を切れば解決で済むような問題ならさっさと切ってしまえばいい。だがこれは家族間の問題でもあり会社、国家の問題だ」
そもそもの話だが、ISという超法外的な兵器の運用のために出来たアラスカ条約に基づいて設置された学園だがスパイ行為は禁止されている。あらゆる国家、組織が干渉してはならないという前提がある。しかし、シャルロットの祖国は前提を覆し干渉してきたことになる
「俺や一夏は通常ではありえない存在、イレギュラーだ。それを狙う理由はなんとなくわかるがそれとこれは話が違う」
「何も違わねぇだろ!いい加減にしろよ七実!」
いい加減にして欲しいと言いたいのはこちらだ。頼る先を間違えて厄介事に巻き込んで挙句の果てに問題が見えていない。狙う理由なんてモルモットだとか研究目当てでしかないんだから
「なら一夏はどうやってこの問題を解決するつもりだ?」
「学園特記事項21、本学園における生徒はその在学中においてありとあらゆる国家、組織、団体に帰属しない。本人の同意が無い場合、それらの外的介入は原則として許可されないものとする。これならシャルロットを守るには十分だろ」
確かに本来であれば十分だと思う。だが最初から帰属していた場合はどうだ?シャルロット自身も自分で広告塔と言っていた。それはどういう意味か、既に帰属しているのではないだろうか。それに専用機の事で呼び戻されたら帰らざるを得ない。
「不十分だ。シャルロットが言っていた言葉を嚙み合わせると適応されるかどうか分からん。シャルロットはフランス代表候補生でもありデュノア社に所属している」
「ならどうしろってんだよ」
どうしろって、既に解が出ているはずだ。誰しもやらねばいけないことがある。真実から目を背けても、いずれ直面する羽目になるだけだ。問題を今解決するか、先延ばしにするかの違いでしかない
「頼るべき相手に頼る、以上だ」
「それができねぇって言ってんだろう!」
今度は胸倉を掴むだけじゃなく普通に殴られた。寝起きからそんなに時間も経っていなから一気に目が覚めた気分だ。てか口の中切れて地味に痛い
「一夏、お前はシャルロットを守ろうとしてるのか?」
「そうだよ!」
「それは素晴らしいことだ。感動すら覚える。でもな暴力に走るのはどうかと思うぞ」
「それは聞き分けが悪いお前が悪いんだろうが!」
俺は割と正論を言ってるだけなんだが、それで聞き分けが悪いのか?本当に俺は一夏とそりが合わないのが今回で証明された。やっぱり平行線なんだな俺と
「シャルロット、お前がどう思っているかは知らん。助かりたいのかそうでないのかさえ分からん。だが覚悟だけはしておけよ」
「シャルロットに何をするつもりだよっ!」
再度、顔面を殴られる。1度ではない3,4回もだ。口の方が血の味がしてくる。こいつの「守る」とは、暴力を簡単に振るってもいいことなのか。そう思わざるを得ない。「守る」という行為には何か代償が必要になってくるのを忘れてはならない。俺が篠ノ之箒を助けた際に、俺は死にかけた。俺が生死を掛けたおかげであいつは死なずに済んだとも言える
「さてな。害をなすかもしれんし得となるかもしれん、とだけ言っておく。俺は帰らせてもらう」
一夏の手を無理やり振りほどき部屋を出る。本当に何のために連れてこられてんだか。ただ厄介事に巻き込まれて殴られるためだけに来たようなものじゃん。だがまぁ、話を聞いちまったからには仕方ない。慣れないことをするもんじゃないのは知ってるけど、俺が感じてしまったからにはやるしかない。俺は俺なりのやり方を綱抜くだけ。とりあえず今は部屋に戻るか
シャルロットサイド
僕と一夏の部屋から七実は出ていった。一夏は七実に対して何か思うところがあるのだろう。不機嫌というか怒っているというか何とも言えない表情をしていた。今日の一夏と七実の関係を見るに友人だと思ってたが、今はどうだろう?手を取り合うでもなく対立しているように見えた
「これなら、あいつに相談なんて持ちかけるんじゃなかった」
「それは違うんじゃない?」
どうやって説得して連れてきたのか分からないけど頼んだのは僕たちだ。そこで七実に当たるのはおかしい
「・・・シャルロットは今日転校してきたから分からないけど、前にも似たようなことがあったんだ。その時は、いろいろと思うところがあってもう和解したけどな」
僕のスパイ行為とは別に何かあったんだ。でも、その時がどんな状況でそうなったか分からない・・・あぁ、七実が最初に言っていた「見えてくるものも見えてこない」ってこういうことなのかな。内容が伝わってこない
「とりあえず今の状態で食堂に行くのはマズいからなんか持ってくるな」
「あ、うん、ありがとう」
一夏は部屋を出ていく。僕はやることも無く、1人で椅子に座ってた。いや、やることはあるね。一夏と七実が言っていたことを考える。とはいえ大半は七実の言っていたことになる。一夏の言っていたことは確かに正論に近しいけど、七実が言いたかったのは、僕がデュノア社に所属している以上、逃げられないということ。帰属していない場合のみに適応されるなら広告塔なんて言い方はしない。たぶんそのことを言おうとしたのかな?
「・・・今、頼れるのは一夏しかいないのかな?」
七実は多分助けちゃくれない。僕が一言「助けて」といえば変わったのだろうけど、怖くて助けを求められなかった。一夏は最初から乗り気だったけど。でも最初に頼るのは織斑先生だと思って覚悟を決めたんだけどなぁ。まさか七実が来るとは思わなかった
「それに覚悟って何を覚悟したらいいのさ・・・」
七実が言っていた覚悟、その内容が分からない。何を覚悟して待つの?厄介事に巻き込んだこと?それとも殴られた事?考えれば考える程、たくさん浮かんでくる。本当にどうしたらいいんだろうか。七実は僕に何をするつもりなんだろう。正直なところ怖いと思う。でも今の僕にはどうすることもできない、籠の中の小鳥なのかな
七実サイド
部屋に戻る前に1度口の中を濯いでから部屋に戻った。口臭が血の臭いとか嫌すぎるしな。部屋に戻ると中華系の匂いが充満していた。もしやこれは地獄を見る羽目になるのでは?
「あ、七実おかえりって、その傷どうしたの!?」
「気にすんな。俺の不注意でこうなっただけだ」
部屋に戻るなり調理を終えた簪に心配された。名誉の負傷とかそういうのじゃなくてただの殴られ損の傷だけどな
「本当?・・・一夏に連れていかれたから腹いせで殴られたとか・・・考え過ぎかな?」
いや、大方当たってるけどね。簪はエスパー技能でも持ってるの?弾丸で論破する作品のアイドル並みに鋭いのはなんでなんだか
「私達はもう食べちゃったけど、食べる?」
「食べる」
どうか口内に優しいものであることを希望します。もうね、ここ最近はヤサグレ気味ですよ。メディアによる真実改変から始まり、奴隷宣言、箒の救助で死にかけとどめに今日の事。本当にどうしろってんだよ
「はぁ・・・」
「やっぱり変・・・何があったの?」
「いやIS学園に来てからいろんなことがありすぎてな・・・普通と癒しをくれ、普通と癒しを」
「うわ・・・切実すぎる」
同情してくれるのはありがたいけど今はそうじゃない。もうね大変なんですよ。特に今日の事が
「はい、どうぞ」
テーブルには麻婆豆腐とか口に染みるような食事だった。本当に頑張らねばいけないのはここからだったか。あ、無事に食べつくしましたよ。激痛と共に完食しましたよ。殴られた時より痛かったと感じたのは秘密である
今回もお読みいただきありがとうございます
またしても対立って感じですかね・・・どうしましょ