今日はクラス対抗戦当日である。前日まで一夏にはみっちり指導したがあれの成功確率は半々というところまでだった。一か八か、最初の1年目の最初期とも言える時点でここまでできるのは相当なものだと思う。しかし相手は中国代表候補生の鈴という組み合わせだ。まぁ俺からは頑張れとしか言えん。あれだけやったんだから後はお前次第、と言うのは緊張させてしまうからあえてやれるだけやって来いとは言ってやった
「んでどうしてここに連れてこられた?」
「どうせ席は埋まってるんだし、観戦中に何かあったら大変じゃない」
楯無に管制室に連れてこられていた。ここには織斑先生と山田先生もいる。凄い場違いな感じがする
「なんだ鏡野か」
「ども・・・ここにいていいんですか?」
「騒がなければな。というよりも鏡野、織斑弟と仲良くなったのか?」
「まぁ・・・色々と紆余曲折ありましたが」
本当に色々とあったんで。だが織斑先生の表情は何処か嬉しそうにも見えたような気がした。元々はこうなるべきだと思ってこうしたんだ。これから先の事は分からんがまた何か問題が起きそうな気がするのはなぜだろう
「それは良かった。同じ境遇に立たされてる者同士上手くやってくれ」
同じ境遇、確かに男性IS操縦者という立場としては同じだ。だがどうだろう、それ以外ではどうだ?俺と一夏はほぼ正反対と言える立場に立たされている。俺はニュースやセシリアの事もあり学園1の嫌われ者だが一夏は対極とも取れる学園1の人気者だ。到底同じ立場とは思えない
「・・・うす」
「七実君は大きく捉え過ぎよ。もっと客観的に歓楽的になりましょ?」
次は楯無にそう言われるがそうできたら本当に楽だった。過去の出来事も相まって、そうはできない。むしろ普通だったら人間不信になるまである。俺は前世の事もあり既に慣れている
「できたらいいな」
「・・・これはしばらく掛かりそうね」
お前も簪同様に俺を変えようとするのか。今は少し変わろうとはしているが根本は変わることはないだろう。前世も過去も変わることの無い経験、出来事なのだから
「そろそろ第1試合開始時刻です。選出された生徒は入場してください」
もう試合が開始されるのか。第1試合目は一夏対鈴だ。あいつが鈴にどこまで食らい付けるかどうか見なければならない。あいつらが入場してくるが鈴のISは赤み掛かった黒い機体を身に纏っていた。ここから見える分では何かを話している様子だ
「何をしているんだあいつらは」
「さぁ?・・・でも青春っぽくって私は好きですよ」
「あいつらに一悶着あったみたいなんでそのことで話してるんだと」
少なくとも俺は鈴からあの話を聞いている。一夏がやってしまった話。それを話しているんだと思うがどうだろう、ここで話をするのはあいつらにとって丁度いいのかもしれんが他にとって迷惑だ
「山田君、武器を構えたら試合開始にしてやってくれ」
「あ、はい。ではそう伝えておきますね」
付き合いが長いからある程度の事は分かるのだろう。とても妬ましく思う、本来なら俺もそこにいたはずなのに
「そういえば七実君、一夏君に円華ちゃんとかと何か教えてたらしいわね」
「見てれば分かると思う。成功するかどうかも分からんが」
「ふーん。それじゃあ期待して見てようかしら」
期待はしない方がいいとは思う。期待するだけできなかった時の失望感は凄い。あいつらは互いに武器を構えたところで山田先生が試合開始の合図がなされた。それと同時に一夏は吹き飛ばされた
「最初っから本気ね」
「なんだ今の?」
「衝撃砲よ。空間自体に圧力をかけて砲身を生成して余剰で生じる衝撃を砲弾として肩部もしくは腕部から射出する第三世代兵装よ」
よくもまあ知ってるな。さすが生徒会長なのか?
「こればかりは一夏君、分が悪いとしか言えないわね。砲弾は見えないし射角も無制限、空気の歪みに気付いてもその時には着弾しているからね」
「俺が言ったらマズイかもしれんが無茶苦茶な兵装だな」
「本当にその通りだ。鏡野の機体は異常すぎるせいか凰のISが霞んで見える」
と言われるが<M.M.>にも弱点、デメリットがある。SEの量も他の機体よりも少なく機体にダメージを受ければそのまま俺もダメージを受けてしまう。まだそのことは誰にも言っていないからこその反応だろう
「だが貴様はそこで止まっている。全て経験任せにするのもどうかと思うぞ」
流石にバレていたか。だが経験に引っ張られる形で俺の戦い方が形成されていくから何とも言えない
「これからの授業は期待してろよ?」
「無茶ぶりさえされなければ」
本当にあの時は大変だった。ただでさえ体力が無いのにあれだけの事をさせるとは鬼畜の所業だ
「今、失礼な事を考えなかったか?」
「いえ」
これは酷い。なぜ分かったし
「ふむ・・・どうやら躱し始めたぞ」
「よくやるわね。さすが織斑先生の弟さんってことですか?」
「楯無、私はおちょくられるのが嫌いだ。それ以上言ったら、分かるな?」
威圧するのはやめてやってください。結構ビビってますから
「そろそろ進展があるかもな」
「成功するといいんですがどうも上手くいかなかったんで」
「あいつは本番で力が出るタイプだ。現に今だってそうだ」
教師でありながら姉として見ているんだろう。故に一夏や円華の事がすぐ分かりどうするかの予測も立てている。ある意味理想的な関係だと思う。傍から見ていて羨ましく妬ましい
「今だぞ、一夏」
熱くなりすぎて苗字では無く名前で呼び始めた。今は教師では無く姉として見ているのだろう。だが織斑先生の予測通りに事は進み、この1週間で叩き込んだ瞬時加速で接近し斬りつけようとした瞬間だった。大きな衝撃がアリーナ全体に響き渡った。鈴の放つ衝撃砲なんかとは比べ物にならないほどの物。アリーナの遮断シールドさえもぶち破り何かがものすごいスピードで降りてくる。土煙の中に隠れてしまったが今回の出来事の犯人は降りてきた何かだろう
「ステージ中央に熱源反応あり!ISです!」
「すぐさま生徒を避難させろ!」
「外部からのハッキングで外へのシャッターが閉じ、アリーナの防壁が降りません!」
「2,3年の整備科の奴らと教員に要請を頼み、事の対処に当たれ。更識姉はそっちを頼む」
「分かりました」
「鏡野、生徒の避難に手助けしてやってくれ。シャッターの破壊を許可する」
「一番遠いところからやってきます。他の専用機持ちにも声掛けを」
緊急事態なんでとりあえず従うことにする。俺が困るからというわけでなく後々面倒な事を頼まれるぐらいならこっちをした方が楽であるという判断の元だ。遮断シールドは普通では破壊されないはずだ。ならなぜ壊れたのか、あのISは普通では無いからだ。戦うことなんてしたくない。一夏や鈴もすぐ逃げるだろうとの考えである
俺は距離が1番離れた西口に出来るだけ全速力で向かった。到着には少し時間はかかったが酷いものが目に映る。誰しもが命の危機を感じ、我先にと思っているだろうが終着点は空いていないという現実を目の前にして嘆いている奴や絶望している奴と様々だった。<M.M.>を<打鉄>として身に纏う
「邪魔だ。今からそこのシャッターを開く!」
みるみる道が開きシャッターまで到達できた。近接用ブレード『葵』を展開しシャッターを叩き斬り、道を開くが誰もが走り出し逃げようとするが俺には見えていた。視点が高く見えるのだが数名が転んでしまっている
「走るな!転んで踏まれている奴がいるぞ!」
誰もが強靭な体の持ち主ではない。人の体重分の荷重を掛けられてしまえば誰だって苦痛に感じる。骨だって折れる可能性もある。それすら考えず我先に逃げようとするのはおかしい。俺を批難する前に自分の行動を振り返ってみろ。とりあえずアリーナから生徒が避難し終わるまで見届けた後、管制室に通信を入れた
「織斑先生、西口の避難完了しました。なお避難の際に数名怪我人が出た模様です」
『そうか、ご苦労だった。今オルコットにも避難の援助を・・・山田君、先ほどまでいた篠ノ之はどうした?』
向こうでそんな会話が聞こえてくる。セシリアと箒が一緒に行動しているのはおかしいが個人を匿うには十分なのだろう
『もしかしたら避難したんじゃないですか?』
『・・・鏡野、すまんが見回りを頼む。こちらも離れるわけにはいかん』
「分かりました」
避難できていない奴および篠ノ之箒の捜索、もし見つからなかった場合は逃げたのだろう。西口には姿を確認できなかった。ならばもう1つの入り口である東口はどうだろう。先の会話からセシリアが向かっているはずなので通信を取ることにした
「こちら鏡野七実だ、セシリア聞こえるか?」
『どうなさいまして?』
「箒なんだが東口の方に逃げてないか?」
『いえ、まだ管制室にいると思いますわ』
最悪な事態だ、まだ逃げずにアリーナのどこかにいるようだ。一刻も早く探して俺たちも逃げなければならないというのに
「セシリア、よく聞け。管制室から箒がいなくなった。西口からの避難も無し、まだこのアリーナに残っているはずだ。避難が終わり次第、捜索の手伝いをして欲しい。俺は先行して探しに行く」
『分かりましたわ。どうかご無事で』
死ぬことは無いだろうがとっとと捜索せねばならん。1階はさっきまで混雑していたから逃げようとしたならまずはここに来るのだが来ていないから1階は除外だ。2階はトイレぐらいしかないが緊急時に行ってもいられんから後回しでも問題ない。ならば最上階の3階だ。ISを一旦解除し急いで駆けていく。ようやく少しは走れるぐらいにはなったが体力が無いのでそんなに走ることはできなかった。3階まで辿り着き息を整える。時計周りで探しはじめた途端見覚えのあるポニーテールが部屋の中に入っていくのが見える
「さっさと逃げろよ!」
体力もほぼ尽きかけたが体に鞭を打ち箒と思われる人物が入っていった部屋にたどり着く。そこは中継室と呼ばれる場所だった。なにか嫌な予感がする。第六感というべきか分からんが本当に嫌な予感がする。確認のために部屋の中に入ると箒と女性が2人のびていた。箒がやったのだろう
「一夏ぁっ!男なら・・・男ならそのくらいの敵に勝てなくてなんとする!」
中継室のマイクを使いそう叫んだ。モニターでは一夏と鈴が黒く腕の長いISと戦闘しているのが見えるが2人のいない方に手をかざし光を集めていた。嫌な予感が当たってしまった。こちらというよりも箒目掛けて何かをしようとしているのだろう。目の前で誰かが死なれるのは非常に目覚めが悪い。ISを展開し走って篠ノ之を突き飛ばすことにした。ISであれば一応防御機能がある。絶対防御という本当に絶対なのだろうかというものがある。俺の身体は大変なことになるだろうがそれでもやるしかない
「この・・・馬鹿野郎がっ!」
篠ノ之を突き飛ばした後、俺が目にしたのはこのアリーナの遮断シールドを破壊した光だった。それに飲み込まれ俺の意識は暗転した
今回もお読みいただきありがとうございます
次回鈴ちゃん編終了です。次回は後日談、その次は幕間的な話です