元奴隷がゆくIS奇譚   作:ark.knight

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何を基準とす?

 

翌日の放課後まで俺は特に何をするでもなくただ暇していた。どこか近寄りがたい雰囲気に当てられ一夏達に謝ることもできなかった。俺が深く考えすぎなのかもしれんが今後あいつらとどうやって接していったらいいか分からなくなっている。一夏と円華に関しては、より密接な関係を築きたい。箒はどうしたらいいか分からんし、セシリアはあの一件により苦手意識が強く残ってしまっている。はてさてどうしたものか

 

「まだここにいたんだ」

 

「円華か」

 

思いに耽っていると円華が声をかけてくる。昨日の今日で俺に何かあるんだろうか?

 

「今日も一兄さんの訓練手伝ってよ」

 

「・・・昨日あんなことをしたのにか?」

 

「やり方はいけないかなって思ったけど言っていることは正しいと思うよ。もしかして引き摺ってたの?」

 

「やった後の後悔ってやつだ」

 

あの時は疲れていたのだろう。そのせいもあってあんなことをしたんだと思う。どんな事情があろうとやってしまったことには変わりはない。こんな俺でも罪悪感ぐらいは抱く

 

「あんまり気にしなくていいよ。一兄さんも納得してたし」

 

「普通あんなことされたら納得なんてしないと思うのは俺だけか?」

 

「でもいいんじゃない?昨日七実が言ってたことを流用するなら本人が気にしてないから気にするなってやつ」

 

そんなんでいいのか。だとしたらこんなに悩んだ必要はあったのか?結果論でしかないがそれでよしとするならいいか

 

「わかった。それで今日は何をするかは移動しながら聞かせてくれ」

 

「はいはい」

 

円華は溜息交じりで呆れながらそう言った。いらん世話かけさせてすまなかったな。移動しながら話を聞いたのだがある程度の戦闘はできるようになってきたため、そろそろ難しいことを取り入れようとの事だ。機体スペックは高いものの武器は剣1本しかない専用機IS<白式>で出来ることは限られている。さて何をやるのだろうか。俺から教えることはできないが何かアドバイスぐらいはできるとは思うからな。アリーナに到着するなり既に一夏、箒、セシリアの3人は訓練を始めていた。実戦形式でやっているのだがやればやるほど一夏の上達が目に見えて分かる。あいつの戦い方は武器の関係上、ヒットアンドアウェイを基本とする戦法だ。しかし、まだまだ機体に頼りすぎている感が否めない。スペックを十全に使うのは良いがそれに頼り切って最後はごり押しになってしまっているのだ

 

「お、ようやく来たか」

 

「昨日はすまなかったな」

 

「いや、あれは俺も悪かったからさ。お互い様ってことにしないか?」

 

「ああ」

 

こいつは際限なく優しすぎる気がする。俺の事もそうだがセシリアの事もそうだ、簡単に許し過ぎている節がある。今回はそのおかげで助かったとも言える

 

「円華、今日はなにするんだ?」

 

「今日は少しステップアップしようと思うの。瞬時加速とか」

 

「冗談じゃありませんわ!瞬時加速は加速機動技術の中でも上位に位置する技術なのですよ!?」

 

もしセシリアの言うことが正しければそれ相応に難しいということになる。それを少しステップアップで済まそうとするなよ

 

「私はできるし、七実もできるって聞いたけど」

 

「・・・そういえばしていましたわね」

 

恨めしそうにこちらを見るな。俺の場合は特殊なんだよ

 

「一応できるが教えることは難しいぞ?」

 

「でも、鈴に対抗するならこれくらいはできないと難しそうなんだよね」

 

「とりあえず教えてくれよ。それにどんなものか見てみたいし」

 

「それじゃあ七実よろしくね」

 

なんで俺がやることになってるんだよ。円華もできるならやりながら教える方がいいだろ?

 

「お前がやるんじゃないのかよ」

 

「分担だよ、七実がやって私達が教える。これなら問題ないよね?」

 

確かに教えることができないが実行できる奴と両方できる奴ではそうなってしまうな。仕方なく従いISを展開した。今回は一夏に分かりやすくするために<白式>の姿で展開した

 

「・・・やっぱり七実のISって常識の範囲外なような気がするんだよね。どこ制作なの?」

 

「さぁ?」

 

どこ制作と言われてもベースは<打鉄>から派生した馬鹿げた機体だというのが答えになる。だから暈した。宙に浮上し一夏と同じ目線に並ぶ

 

「それじゃあ七実、実演よろしく」

 

「随分適当だな・・・」

 

その後、教えていたが今日では使用するには至らなかった。余程、高等技術なのだろう。これでは2,3日で習得は不可能だろう。だとしたらクラス対抗戦に間に合うのだろうか。最悪先生方の手を借りるやもしれん。別に先生を頼ってはダメという制約も無い、今日確認を取ってみるか

 

 

 

夕食後、俺は寮長室を訪ねていた。寮長は織斑先生の為、仕事が長引いていなければ寮長室にいるだろうと思い来たのだがノックしても出てこない。ということはまだ仕事をしているのだろう

 

「さてどうしたものか・・・」

 

手っ取り早く強くなるのであれば誰かを完璧に真似ることが最短距離で強くなる方法だ。真似た相手を超えることは無いが負けることも無いたった唯一の方法。最悪勝てはしないが負けもしない方法だが戦いにおいては十分すぎることだ。一夏はそこまで求めていないだろうが最終的にはあそこまでの高みを目指すのだろう

 

「あら七実さんではありませんか。寮長室の前でどうしたのです?」

 

帰ろうとしていたところにセシリアと対面した

 

「ちょっと一夏の事でな、聞かなければいけないことがあって」

 

「そうでしたの」

 

俺が言えたことじゃないがさっきからこっちを見ていないのはどうかと思う。対面している時ぐらいは俺でも目を合わせるぞ?

 

「はぁ・・・今、時間空いてるか?」

 

「ええ、空いてますわよ。それがどうかしました?」

 

「お前とも話がしたくてな。少し外行かないか?」

 

「・・・わかりましたわ」

 

この際キチンと話をしてこいつとの蟠りを無くした方がいいだろう。俺としてもこいつとしてもそうした方がいいだろう。寮の外に備え付けられていたベンチに距離を置いて座る

 

「なぁセシリア、お前には俺がどう見えていた?」

 

「どうとは?」

 

「ほじくり返すようで悪いが俺と初めて対面した時に俺を罵倒したな。その時、お前はどんな風に感じていた?」

 

この関係を修復するためにはまず根本から変えねばならない。ならばどういうことか。こいつにも真実を知ってもらう必要がある

 

「・・・あの時、わたくしは貴方の事が嫌で仕方ありませんでしたわ。なぜ犯罪者の息子なんかがいるんだと」

 

俺が思った通りだ。俺が知っていたのは旧名佐野七実こと俺がどんな目に遭ってあんなことになっていたかをニュースによって捻じ曲げられ改竄された結果としてこうなったのだろう

 

「やっぱりそうか、それはニュースで見て聞いた話か?」

 

「その通りですわ」

 

「だろうな。真実を捻じ曲げてまで伝えた報道に何の意味があるんだか。セシリア俺の背中を触ってみろ」

 

俺はセシリアに背中を向け触らせる。背中には斜めに二分割するような大きな傷跡があり服越しでも触れば分かるほどに抉れている。傷跡に沿ってなぞられるのだが嫌な記憶が思い出されて気持ち悪くなる

 

「犯罪者になったあのクソ野郎が斬った(付けた)証拠だ。犯罪者の息子では無く犯罪者の被害者というな」

 

「これは・・・大変でいらしたのね」

 

「簪や本音、楯無、虚。あの四人には本当に世話になった。それはともかくだ、何で俺がここまでしたかはお前とも良好な関係を築きたいからだ」

 

でなければこんなことはしない。この傷に触れさせること自体、あいつらにもさせる気はない

 

「どうしてそこまでしようとするのですか?どうあれわたくしのした事はあなたにとって許されざることだったはずですのよ」

 

「確かにその通りだが俺は水に流そうと思う。もう終わったことだしな」

 

「いいのですか?」

 

「かまわん。俺だっていつまで経ってもいがみ合っていないのにどうしてこんな関係を続けなきゃいかない」

 

「分かりましたわ。いえ、ここはありがとうございますでしょうね」

 

これでこいつとの蟠りも消えるもしくは、かなり少なくなるだろう。本当にこれでよかったと思う

 

「さて話はこれでおしまいだ。帰ることを勧めておく」

 

「あらどうしてですの?」

 

「俺は織斑先生を待っているからだ。お前は何にも用は無いはずだ」

 

「それもそうですね。わたくしは帰ることにしますわ」

 

セシリアは寮内に戻っていくのを見届けた後、俺は織斑先生がやってくるまで1人で星を見ることにした。簪に言われた通り、俺自身が変わること。今まではああいう風になった関係は悉く切り捨ててきたがどうだろう。少しは変われてきているような気がする。だが根本に残っている物はどうしようもなく変えられない。自身がどれだけ選択肢において切り捨てやすいか、真実を知りたいかということはどうしても変えられないのだ

 

「どうしたものか・・・」

 

俺は多分どうすることもできないのだろう。現に他人に理由を求めて行動することしかしていないのだから。とにかく今はやることをやるだけだ。俺は織斑先生が戻ってくるまで待っていた。織斑先生が戻ってくるなり約束を取り付け自室に戻ることにした。これでダメだったらもうどうしようもないがやれるだけの事はしたはずだ

 

 




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