元奴隷がゆくIS奇譚   作:ark.knight

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掘り返し、突きつける

 

昨日で俺と一夏の関係が元に戻った。だが、まだどこかぎこちなく接してくる一夏。あいつがどう思いそうしているのかは知らない。俺としても解決してよかったと常々思っている。だが1つ困ったことが出来た

 

「おーい七実。一緒に飯食おうぜ!」

 

やたらと構ってこようとしてくることだ。こう言っては失礼だが厚かましい。誘ってくれるのはありがたいことなのだが、俺は人混みが嫌いだ。食堂で食べる気も無いし、もとより簪や本音と食べるので遠慮しておく

 

「先約がいる」

 

「なら俺も一緒していいか?」

 

「すまんが遠慮してくれ」

 

簪はまだ一夏に苦手意識を持っている。昨日、互いに元に戻ったということを伝えたが喜んでいいのかそうでないのかはっきりとしなかった。簪の場合は互いに悪いのではなく、企業が悪いので気にする必要は無いはずだが色々あるらしい。それ故に今は離れておくことにした

 

「そっか、無理に頼んでごめんな」

 

「俺は人混みは苦手だ。食堂にはたぶん二度と行かない」

 

「お、おう。それじゃあまた後でな!」

 

一夏は教室を出ていく。俺も待ち合わせである屋上に向かうことにした。今日はこの後にISの実習が入っているから量は少なめに摂るつもりでいる。屋上に着くと既に本音は食事を摂っていた

 

おふぉふぁっふぁふぇ~(遅かったね~)

 

「食べながら喋るな」

 

口いっぱいに物を詰め込み頬が膨れた状態で話す本音。隣では簪が呆れたように本音の頭にチョップをくらわせ俺は適当なところに座る。今日は簡単に昼食を済ませることにしよう

 

「遅かったね」

 

「一夏に誘われてな。それを断っていた・・・簪もまだあまり、対面したくはないだろ?」

 

「その・・・ごめん」

 

簪は顔を背けるがその内、嫌でも接触しなければならない羽目になるだろう。今はこうして逃げることができるがその時にさえ、キチンと出来れば問題は無い

 

「謝る必要は無い。みんながみんな、誰かを好きになるなんて無いから別にいいだろ。然るべき時にちゃんとできればいい」

 

「・・・うんそうだね」

 

納得はしていない様子だが内容が分かればいい。一応だが簪も専用機持ちだからな。政府や企業の方から接触するように言われるだろう。俺の方はどうだが知らないが

 

「ななみんもよかったね~。いっちーと仲直り出来て」

 

「一応な。この先はどうなるか知らんが」

 

今はまだいいが、未来のことは誰も知らない。俺がどんな関係を築いているか、はたまた崩れているか。知らないことだらけだ

 

「そういえば簪は4組の代表なんだろ?何で出るつもりなんだ?」

 

「えっと、打鉄かな。なんだかんだで一番使ってるのはあれだし、それに専用機はまだ使えないから」

 

「専用機の方はまだ目途が立たないか。今はまだ無理だがクラス対抗戦が終わったら手伝ってもいいか?」

 

「その時はよろしくね」

 

「ああ」

 

その時は持てる知識全てを使って作業に取り掛かるとしよう。俺が持っているなけなしの知識(転生の特典)がどれくらい役に立つかは知らないけど

 

「ななみ~ん、そろそろ移動しないとマズいよ~」

 

「もうそんな時間か」

 

ISの待機状態である懐中時計で確認すると移動や着替え込みで丁度いいくらいにゆっくりとできる時間だった。残った昼食は実習が終わった後にでも食べるとしよう

 

「ちゃんと時間を作れなかったようだ」

 

「いや大丈夫、頑張ってね」

 

「んじゃ部屋でな」

 

簪と別れ、俺と本音はそれぞれ更衣室に向かうことにした。今年は特例ということでで女子は教室で着替えることとなり、男子は更衣室を使うようにとの事だ

 

「今日は何すると思う~?」

 

「基礎的なところでもするんだろ。代表候補生が2人いたところで素人の方が多いから」

 

「そだね~」

 

訓練機を貸し出して歩行や走行の訓練でもするのだろう。知らないことを教わる時、大抵は初歩のところから始まる。今回もそうなのだろう

 

「俺はこっちだから行くぞ」

 

「は~い、また後でね~」

 

本音と別れ俺は更衣室へと向かった。実習の後は放課後になり一夏の訓練が始まるだろう。それまで体力を温存しよう。昨日の一夏の訓練を体験したのだが粗が多く感じた。試しにセシリアに徹底した引き撃ちをしてもらうようにお願いし戦わせたのだが、多少は避けていたのだが最短距離で駆け抜け攻撃しようとしたのは流石に呆れた。あれを粗として片付けるのもどうかと思うと円華にも言われたな。それ以外になんて言えばいいんだよ。まぁこの後の実習は適当にこなすとしよう

 

 

 

実習を終えて俺はグッタリとしていた。再度セシリアと再戦させられ、SEの補給後に連戦で一夏との戦闘をやらされた。模擬戦と称しやらされたのだが攻撃を貰うわけにはいかなかった。そのことを念頭に置き遠距離から攻撃するだけのチキンぷりを徹底したのだ

 

「あ・・・残った飯どうしよ」

 

疲れすぎていて食べる気にもなれずにただ一人、更衣室で休憩していた。既に放課後なので別に問題は無いのだが、この後に一夏に訓練をつけなければならない。いっその事サボろうか

 

「大丈夫か七実?」

 

「げっ」

 

そう思った矢先に一夏が更衣室に入ってくる。どうやら逃げる(サボる)事は出来なさそうだ

 

「その反応、酷くないか?」

 

「知るか。それで何の用だ。今は無茶ぶりのせいで疲れてんだ」

 

「いつまで経っても来ないから迎えに来たんだ。てか、本当に大丈夫か?」

 

「この様子を見て大丈夫に見えたんだったら、お前の目は節穴だ」

 

「だからその言いよう酷くないか?」

 

これが俺にとって普通なんだ。別に変える気も無いが簪には矯正することを宣言されたのだったな。はてさてどうしたものか

 

「慣れろ。さて行くか」

 

「お、おう」

 

更衣室を出てアリーナに向かうことにした。今日はできることはそんなに無いがそれでもやるしかないのだろう。相手の中には中国代表候補生(凰鈴音)日本代表候補生(更識簪)がいるのだから油断はできない

 

 

 

一夏サイド

 

七実にはすまないと思っている。俺がやったことで周りからも冷たくされてしまった。それに一方的に突き放したのにもかかわらず謝ってきた。その時、俺は初めてやってしまったのだと気づいた。あいつがセシリアに何を言ったのかはピットの中で聞いてはいたが許せなかった。だから俺は七実に敵対したのだが、俺が聞かなかったこと、一方的に聞こうとせず突き放したことであの話は捻じ曲がってしまったんだ

 

「なぁ七実。本当に俺の事、気にしてないのか?」

 

思わず聞いてしまった。本当はどこか聞いてはいけないような気がしていたが聞かずにはいられなかった。あんなことをしたのにこうも簡単に許してもらえるとは思っていないから。七実は立ち止まり大きな溜息をつく

 

「まだそんなことを考えていたのか。大小問わず人は間違えるものだ、例え許せなくても許容ぐらいはする」

 

「そんなことって・・・結局お前はどうなんだよ」

 

「本音を言えば許してはいない。セシリアは言わずもがなだがお前は2度も邪魔した。あまつさえ無用な戦いも挑んできた。俺からすると非常に面倒だったがお前はお前で考えがあっての行動だったはずだ。意見が分かれもするだろう。対立することもあるだろう。だけどそれでいいだろ」

 

やっぱり許されていない。結局は互いに悪いと言われたが、このことで悪いのは七実ではなく俺だ。言わなかったことに問題があると言っていたが、それは聞こうとしなかったことの裏返し

 

「だけど、この程度は気にするほどでもない。もう既に解決したんだ」

 

「でもよ・・・俺は七実に」

 

「俺がいいって言ってるんだ。それで納得しろ、以上だ」

 

そういい歩き出す七実。あいつがいいと思っていても俺はそうじゃない。前に円華にも教えられたけど、その時も俺は片意地になって突っ撥ねた

 

「それに言ったろ。許しはしなくとも許容したって」

 

「・・・わかった」

 

本当に俺はどうしたらよかったんだろう。七実は許容したって言っても俺はそれを納得できない本当にどうしたらいいんだろう。このままアリーナに戻って訓練をするが何一つ身に付かなかった。4人には困った顔をされた

 

「おい一夏気合が足りんぞ!」

 

「ごめん箒」

 

「おーい一夏、ちょっとこっちに来てくれ」

 

今日は疲れている七実は見学ということになった。その七実に呼ばれ上空から降りISを解除する。同じぐらいの身長、もしくはそれよりも高い七実は俺の頬に拳を当てそのまま振り抜いた。力の入っていない拳だったけど痛く感じた

 

「引き摺ってんなよバーカ」

 

「何してんの七実!?」

 

「この馬鹿はな、俺とこいつに何があったかでこうなってんだよ。おい一夏、ここにいる奴らは誰のために時間を割いてる。他ならぬお前の為だろ?だったらなんだこの体たらくは。俺が気にしないことにしているのにお前はそうやってうだうだと悩むのか?他人の時間を無駄にして」

 

「そうじゃねぇよ!俺がこれでいいのか、このままでいいのか悩んでんだよ」

 

千冬姉はいつだか忘れたけど、人は何かを失ってから気付くようではダメだ。失う前に気付けと言った。今回の事で俺の中の正義を失ったかのような感じがしてならなかった

 

「悩むのは良いがここで悩むな。他の奴らに迷惑だ。今日はこれ以上付き合ってられん」

 

「あ、おい待ってくれよ!」

 

七実はアリーナを去っていく。確かに今は悩んでる時じゃないと思う。だけど俺は七実みたく割り切ったりはできない。イエス、ノーみたいに単純まではいかないにしろ、悩まざるを得ない

 

「一夏さんもお気になさらなくていいのですよ?」

 

「いや、俺が七実にしたことをな・・・」

 

「一夏!気に食わないがあいつも言ってただろう!うだうだと悩んでいる暇があったら剣を振って忘れてしまえ!」

 

凄い暴論なような気もするが確かに箒の言う通りだ。七実の言う通りで他人の時間を無駄にするわけにはいかない

 

「悪かったみんな。再開しよう!」

 

「あとで謝っておきなよ一兄さん。言い方はあれだったけど正しいこと言ってたし」

 

「ああ、分かってるさ!」

 

悩み事を脳内の片隅に追いやって訓練を再開した。先ほどとはうって変わって動きはよくなったがまだまだ精進しなきゃな。模擬戦でセシリアと対決したがボロ負けだった。だが昨日よりは弾幕を避けることもでき調子に乗って攻撃を加えようとしたところで撃たれるというオチがつくのだが少しずつできるようになっているとは思いたい

 

 


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