元奴隷がゆくIS奇譚   作:ark.knight

15 / 57
表裏一体の歪んだ鏡

保健室に到着し中に入るが誰もいない。そんな中織斑先生はななみんを軽々と持ち上げベッドで寝かせる

 

「さて布仏妹。鏡野の事で話がある、さっきの鏡野は一体なんなのだ?」

 

「さぁ~?私も初めて見たので分かりませんよ~」

 

7年以上の付き合いがある私でもあのななみんの豹変ぶりには驚かされた。でもおかしな点はいくつか上がっている

 

「本当か?いや、疑うわけではないがそれでも気になることがいくつもあるはずだ」

 

「ん~まぁそうですね~。一人称が崩れて俺や私と混在になってましたし~、セッシーがどこの代表候補生かも知らないのに的確に当ててますしね~」

 

「前者は混乱してああなっただけだと思うが、後者に関しては調べたのではないのか?」

 

「教室で興味ないし知らんって言ってましたよ~」

 

それに私の中ではもう1つ気になることがあった。なぜ何十年も苦しめたという一言をつかったのだろうか?確かに苦しめられたはずだけど、その年数は10にも満たないはずだからだ。何せ彼が体を動かせなくなったのは7歳の時で、それ以降は幸せな生活を送っていたのだから

 

「謎が出るだけで答えは闇の中・・・か。この時間はこいつの看病をしてやってくれ布仏妹、ここの担当が出張でいないのだが、山田君も今は電話の対応で来られんからな」

 

そういい織斑先生は保健室を出ていく。この授業は自主学習になるはずだから大丈夫なはず、そう思いななみんのお世話をすることにした

 

 

 

七実サイド

 

俺が目を覚ますと見知らぬ天井が目に映る。周りにはカーテンみたいなもので囲まれ、ベッドの上で寝ていたみたいだ。どうしてこうなったか思い出すと、あの金髪に奴隷と言われた後の記憶がないということはそこで気絶したのか?授業の始まりか終わりかもわからない鐘が鳴る。鐘が鳴って少しすると誰かが入ってくる音が聞こえてきた

 

「七実起きてるかな?」

 

「分からないよ~」

 

入ってきたのはどうやら簪と本音だった。ベッドの周りを仕切っていたカーテンを開けると、安堵したような表情を浮かべる2人

 

「ななみん大丈夫~?」

 

「気絶した以外は大丈夫だ、それよりも次の授業はお前ら大丈夫なのか?」

 

「え?だってもう昼休みだよ」

 

俺が気絶したのは2時間目だ。ということは2時間近くも気絶していたということになる

 

「そうか」

 

「それよりも七実、何があったか覚えてる?」

 

「・・・すまん。あんまり思い出したくない」

 

覚えているが思い出そうとするだけで、まるで頭蓋骨に杭を打ち立てられるような頭痛がしてくる。だが心配させるわけにはいかないと思い、平静を装うことに決めた

 

「それにしてもななみんの様子がおかしくなったのはなんで~?話し方も変わったのも一人称も崩れてたし~」

 

「すまんがそれは覚えていない」

 

本音が言っていたのは本当に覚えていない。俺の記憶はセシリアのところで途切れているからだ。一度も一人称を崩した記憶も無いし、話し方を変えたことはあるがそれは目上の人間にだけで、たかが代表候補生の為に変える必要も無いと思っている

 

「本当~?」

 

「これに関しては嘘偽りが無いと誓える。俺は何も覚えていない」

 

「そうなんだ~」

 

「七実君起きてるかしらって、簪ちゃんに本音ちゃん来てたのね」

 

今度は楯無と虚が入ってくるが、楯無はどこかイラついているようにも見えた

 

「七実さん大丈夫でしたか?」

 

「まぁ一応は」

 

「それよりも七実君。あのイギリス代表候補生のことどう思っているのか教えて貰えるかしら?」

 

オルコットの事か。確かにあいつのことは嫌いだ。だが一部を除きあいつの言い分も分かる気がするが、それでも言ってはならないことを言ったのは確かだ

 

「嫌な奴だ。あまつさえも俺の過去を再びほじくるようなことを言ったしムカついた」

 

だが彼女も人間だ。規模が違えど間違いを犯すこともあるだろう。たとえ()()()()()と思われようがこういうだろう

 

「だが1度だけは許す」

 

何せ俺はあの前世から既に狂っているのだから

 

 

 

楯無サイド

 

本音ちゃんから七実君に何があったかを聞いた。それは彼の過去をほじくり返す内容で、さすがの私も激昂しかけた。でもこれは聞いておかなきゃいけないと思い聞いたが、私達はどこかで気が付けばよかった。彼が他人より大人びているのではなく狂っているのだと

 

「・・・」

 

ここにいる私を含めた4人は言葉を発することができなかった。七実君の発言は予想できるものではない。普通ならキレて殴りかかるであろうことをあたかも当然のように許すと言ったのだ

 

「ち、ちょっと待ってちょうだい。今許すって言ったかしら?」

 

「ああ。人間誰しも間違いはあるものだ、規模の大小かかわらずな」

 

「それとこれは違う!七実はまたあの頃に戻るつもりなの!?」

 

簪ちゃんは声を荒げて彼にそう言った。私もそう思うし虚ちゃんや本音ちゃんもそう思っているはず。でも彼は違った

 

「あれは賭けだが、そもそも勝負すると宣言も無しに勝手にそう思い込んでいるだけだ。そこからがすでに違う」

 

「でも!」

 

「一旦落ち着きましょう簪ちゃん」

 

涙を浮かべて必死に伝えようとするけど、冷静にならないと伝えれるものも伝わらないと思って止めた。そりゃ彼がこんなにもおかしい考え方をしているとは私も簪ちゃんも思っていなかった分、心情的ダメージが大きい

 

「七実さん失礼します」

 

虚ちゃんは彼の頬に平手打ちをした。なんでこんなことをしたかは分かる。こんな異常とも言える発言が許せなくてしたのだろう

 

「確かに仏の顔も三度までという諺もあります。しかし今回の事は許されるものではありませんよ」

 

「知っている。知っているからこその発言だ」

 

「それでもあなたはイギリス代表候補生のセシリア・オルコットを許すのですか?」

 

「そのつもりだ」

 

やっぱり狂っているとしか思えない。どうして彼はこんな考えをできるのだろう?更識という対暗部組織のトップになった私ですら、こんなにも狂人ともとれる考えは持ち合わせていない

 

「だがあいつには目にものを言わせてやるつもりだ。あいつが俺の事をどう思っていようが、それだけは決定事項だ。4人とも俺に力を貸してくれないだろうか」

 

その場で頭を下げそう訴える。あの考えは確かに狂っているが、よくよく考えてみれば負けなければどうということは無い。彼の実力は打鉄を纏った織斑先生でさえ上回ることは私達は知っている。目くばせで確認を取ると、虚ちゃんと本音ちゃんは了承してくれた

 

「簪ちゃんはどう?」

 

「七実の考えはおかしい、狂っているけど今回は置いておく。でもいつかは直させるから」

 

「・・・勝手にしろ」

 

いつも彼は肯定の場合こう言う。捻くれて考えが狂っている今の彼にはあまり考えを肯定はしたくないけど、またあんな生活に戻ってほしくない

 

「分かったわ。力を貸すけどその代わりに絶対に勝つことが条件よ!」

 

「助かる」

 

さてどんなメニューを組んでやろうかしら?そう考えるや否やそろそろ次の授業が始まりそうな時刻になっていた

 

「さて明日から本格的に行くから期待しておいてね」

 

「体力の事だけは気にかけてくれ」

 

「だーめ。さて出るわよ」

 

私達は保健室を出た。簪ちゃんも元に戻ったみたいで元気に駆け出して行った。さーてこれから忙しくなるわね

 

 




今回もお読みいただきありがとうございます

さてみんながどうなることやら?

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。