俺は本音に車椅子を押され移動していた。本音の後ろで簪と楯無がこちらを睨んでいるが悪いのはお前らだろ。織斑先生と虚はこっちを見ては笑っているし山田先生なんかは少し顔を赤くしてるし一体なんなんだよ。自販機の手前で止まる
「さて何がいい」
「ミルクティーで」
「相変わらずの甘党ね」
「うっせ」
確かに今の俺は甘いもんが好きだがそれは前世込みで食べてこなかった分を楽しんでいるだけであってそこまで量を食うわけじゃない。てか俺小食だし。俺は織斑先生から奢ってもらった紅茶〇伝を受け取り飲み始める。うん疲れた時は甘いものに限るその後も織斑先生は簪たちにも奢り続ける
「そういえば鏡野のISの待機状態はどんなのなんだ?」
そういえばそうだ。専用機の特徴としてISを待機状態になることなんだが探してみると大きめな銀の懐中時計がベルトにぶら下がっていた。開いてみると蓋側には鏡がついていた。肝心の時計部分は英数字で12時間表示ではなく24時間表示になっていた。英数字の23、24の所だけ色が違っていた。23は灰色で24は銀色。それ以外は黒色だった。もしこれは推測なのだが形状の保存、維持を可能なのだろうか?
「これみたいです」
「懐中時計か。くれぐれも紛失することの無いようにな。そのISに使われているのは学園のコアなのだから問題が起きるのは目に見えているのでな」
「了解」
無くせるはずがないこれは俺自身であって私自身。とどのつまり俺が俺であるための証明でもあるのだから
「なぁ鏡野少しいいだろうか」
「なんでしょう?」
「私の弟もこの学園に入ってくるのだがどうか仲良くしてやってほしい。根は良い奴だし真面目なんだがどこか抜けていてな」
弟、一夏の事だろう。本当は俺の弟でもある織斑一夏と仲良くか・・・
「それは一夏次第。俺に迷惑を掛けるか否かで変わる。それに俺自身あいつに
そう生まれてすぐに誘拐された俺にとってはある種の運命のようにも感じたこの出会いは勝手ながら私怨を抱かずにはいられなかった。なんで一夏や円華と呼ばれる奴じゃなくて俺だったのだろうかと
「私の事はいいんだよ七実」
簪は暗い表情をし俺にそういうがそういうことじゃない。確かに簪の事もあるが元をただせば悪いのは一夏ではなく作っている側のせいだ。それに関しては簪がどう思うかだ
「・・・そうか。でもこれだけは言っておくが私の下共々よろしく頼む」
「分かりました」
「さて山田君行くぞ」
「は、はい!」
織斑先生は山田先生を連れてどこかに行ってしまった。俺は奢ってもらった飲み物を飲み干しゴミ箱に投げ入れた
「そういや円華も来ることすっかり忘れてた。あの子苦手だな」
「織斑先生の妹さんでしたっけ?」
「うん。織斑先生そっくりなんだけど追い越したいっていう理由で代表候補生になった超絶ブラコン」
一夏大好きっ娘か。あれ楯無と一緒じゃね?
「なんだ楯無か」
「んーなんでそういう風になるのかお姉さん知りたいなー。というより私は確かに簪ちゃんの事がね・・・」
地雷を踏んでしまったようだ。楯無は簪の事を好き過ぎて遠ざけようとしたのにそれが解消されるとこんな風に暴走してしまう。なんというか外見は良いとは思うが中身がシスコンシスコンしてるから残念である
「お姉ちゃんもういい黙って。いい加減にしないと嫌いになるよ」
「え・・・」
と、まあいつもこんな感じで簪が嫌いになる宣言で楯無が絶望した表情になり膝折れるまでがテンプレになっている。なんだかんだで見ている俺としては羨ましく思う
「帰ろ七実に本音」
「あぁ!待ってぇぇぇぇ!」
簪は車椅子を押してこの場から立ち去ると後ろから楯無の悲痛な声が聞こえてくる。哀れなり楯無。寮の部屋に戻るなり車椅子から立ち上がるが今の俺では何とか立ち上がるのが精一杯でろくに歩けなかった。明日から歩行訓練しようと心に誓い2人の力を借り自分のベッドまで行くことができた。明日から頑張るから今日はもう寝ることにしよう
楯無サイド
昨日はもういろんな意味でダメだったけど今日はもう大丈夫よ!さて今日はどんな悪戯をしてやろうかしら?私は深夜3時に簪ちゃんたちがいる部屋に侵入した。月明かりがあるものの全てが見えるわけじゃなく薄暗いが問題ない。私は真ん中のベッドで寝ているであろう七実君にターゲットとしベッドに潜りこんでやった。彼は眠りが深いのか起きることなく成功したがまだこれだけじゃ終わらないのが私。そのまま抱き着いて一緒に寝させてもらうわね。本当ならこんなことをしないけど私は密かに七実君の事が好きになっている。簪ちゃんと疎遠にならなきゃいけなくなっていざ実行しようとしたらそれを呆気なく止めた彼、実行しようとした時には分かっていたけど本当は簪ちゃんと離れようとするのが怖かった。でもそれを止めてくれた七実君には感謝してもしきれないしいつの間にか見かけるたびに目で追うようになっていた。でも簪ちゃんもそれは一緒なのは知っていた。また離れるのは怖いけど私だって七実君が欲しい
「ねぇどうしたらいいかな?」
聞いているかどうかも分からない彼に聞いてみるが返事は帰ってくるはずもなく寝息でかき消されてしまう
「やっぱり聞こえてないよね」
無口な彼は言い方や態度が悪いのはいつもの事だけどなんだかんだで私達をちゃんと上っ面じゃなく素の部分を見てくれる優しい彼に惹かれた
「可愛い寝顔ね。つい襲いたくなっちゃうわね」
今なら彼の怖い目も開いていないから見れる彼の眼。どうしてあんな目をしてるかは分かったけど今はどうなっているのかしら?でも今も隠しているってことはまだ七実君の中では解決してないことになるとしたらいったい何が問題なんだろう?
「でも今はいいわ。今はこの時を楽しむとしましょう」
抱き枕にして寝ましょ!
七実サイド
重い・・・身体に違和感を感じ目が覚めると隣に楯無が寝ていた。どうやって忍び込んだかは知らないがなんで俺と同じベッドで寝てるんだよ。俺を抱き枕にしてるせいか邪魔すぎて身動き1つ取れないため抜け出すことは諦め時計を見るとまだ朝の6時だった。後で面倒になるのもあれだからこのシスコンを帰らせておくことにしよう
「おい楯無起きろ」
起こそうとしても起きる気配なし。さてどうしたもんか。本音を起こしても簪を起こしても面倒ごとにしかならないしかといってこの状態では虚に連絡もできない・・・結論ふて寝して誤魔化す
「んー・・・七実起きてる?」
あ・・・詰んだ。ゆーっくりと簪の方に顔を向けると百面相していた。最終的には冷たい視線を送りながらにっこりと笑ってる
「一応起きてる。話を聞いて欲しい」
「とりあえず聞くから」
「俺は今楯無に抱き枕にされてるけどどうしてこうなったかは知らん。違和感を感じて起きたらこうなっていた」
なんか額に嫌な汗が出て来た。というよりなんで俺が問い詰められてるんだ?普通だったら楯無が対象になるべきだろうに
「はぁ・・・七実、嘘はダメだよ?」
「思い出せ。俺はお前らより先に寝たがわざわざ起きてまで楯無を招き入れるという行為ができると思うか?それよりもまず歩けるかどうかすらわからんのだぞ?」
「うーん・・・ならなんでお姉ちゃんが部屋の中に入ってきてるの?」
「いや知らん。てか俺としては安眠を妨害されてムカついてるんですが」
これで済ませている当たりまだ温情だと思う。昔からの付き合いであろうと関係なしにバッサリいうことにしてるしな、特にこのシスコンにはな
「ちょっと待ってて」
簪はベッドから立ち上がりドアの方に行くなり大きな溜息をつきながらこちらに戻ってきた
「侵入したみたい。ドアの鍵が閉められてなかったから今回は七実は無罪」
だから言っただろう。某親善大使風に言うのであればこれは楯無がしたんだ!という感じになる
「今からお姉ちゃんを起こすから待ってて」
「頼む」
まだ4月が始まった布団を剥ぎ若干の寒さが襲われ眠気が覚めてしまいもう寝る気にはなれなかった。楯無は両手で俺の腕ごと両足で俺の足ごと抱き着いていた。非力な俺じゃあまず抜け出せないわな。簪はそっと楯無の脇腹をくすぐり始める。最初は身を捩る程度だったが時間が経つにつれて声を出す。こういっちゃあ悪いけど耳元で声を出されるのはやめてくれ
「あ、そこはやめて!」
「ここがいいんでしょお姉ちゃん。というよりもう起きてるよね?」
「起きてる!起きてるからやめて!」
ようやく俺から離れてくれたようで自由になった。てかこんだけ騒いでても起きない本音も凄いな。俺なら起きて説教するまであるぞ
「おはようお姉ちゃん。早速で悪いけど説教ね」
「アイエェェ!?説教!?説教ナンデ!?」
「お姉ちゃんが七実と一緒に寝ていたから。しかも侵入してまで。それとも織斑先生に報告していいんだったらするけど」
「それだけはやめてちょうだい!私死んじゃうから!」
いつも思うがあの喧嘩以来楯無は簪に負けてばかりだ。今もこうして負けているのだからそうに違いない
「ギルティ。ということで否応なしに報告してくるから虚さんに」
「対象が変わっただけで私死んじゃうわよ!助けてナナえもん!」
俺に涙目で縋る楯無だが今の俺は安眠を妨害されている身だ。助けてやる義理は無い
「俺に振るな。潔く逝ってこい」
「もしもし虚さん?朝早くごめんなさい。今お姉ちゃんが」
簪は虚に電話して完全に退路を断った。残念系姉こと楯無よ、俺の睡眠を妨害した報いを受けてこい。しばらくすると虚がやってきて楯無を強制連行していったが俺は寝る気になれずそのまま起きることにした。簪はまたしても溜め撮りしていたアニメを見始めるが暇すぎてしょうもない。朝飯でも食ったら歩行訓練でもしよう
今回もお読みいただきありがとうございます
次回から原作開始です