ドヴァキンがダンジョンに潜るのは間違い? 作:ark.knight
53階層を進出してみると宙には先程まで姿を一切見せていなかったドラゴンがいたのだ。あっちの世界でもドラゴンは存在したのだが、こっちの世界でのドラゴンは人よりは大きいがあっちよりは一回り小さく感じた。
「フィンよ、少しばかり先行させてもらうぞ。ドラゴンは私の専門だ」
「専門? 別に構わないけど、くれぐれも無茶だけはしないでくれ」
「了解だ。さて、久しぶりに殲滅させてやろう」
この時だけは本当に仮面を付けていることに感謝しよう。戦いにおいて余裕を持てることは、いいことなんだろうが何せ笑みを隠せないでいる。こんな状態で笑っていられるなんて相当の手練れか異常でしかない。ティオナや犬っころは前線でドラゴンを駆逐しているがそれでも苦戦している
「さぁ……貴様らの骨と鱗、そしてドラゴンソウルを寄こせぇ!!」
全力で駆け出しドラゴンに向かってダガーを両手に跳躍して通りざまに翼にダガーを突き立てるが、いとも簡単に鱗を貫き跳躍の勢いのまま翼を削ぎ落す。飛ぶための翼を失ったドラゴンは地面へと落下していき、やがて大きな音を立てて落下した。地面に落下したドラゴンはピクリとも動かなくなり、灰となり魔石を落とすことはなかった。その代わりに
「まだ足りん。素材提供や武具制作のことを考えても、この階層のドラゴンだけでは足りん!」
上空で飛び交うドラゴンは今はどうしようもないが、それ以外はどうにかできる。さてもっと、もっと貴様らの魂を刈らせてもらう
「もっと、もっと、もっと! 貴様らがそんなに貧弱なわけがないだろう! 世界を破滅させようとしたあの実力はどこにいった!」
まずは1番近くにいたドラゴンの首を断ち、次の
先行すると言った後、彼は凄まじいスピードで竜を惨殺していった。翼を切り落としたり、首を断ったり、はたまた竜の頭部から尾までを一刀両断していた。これらの行動はたった1人で行っていたもので前線で戦っているベートやティオナ、ティオネではそこまでの対応力は無かった。強化種である白い竜は速度が速く、ベートで対応しているけど数に限りはある。しかし、ハイド君に至っては一撃、二撃で必ず仕留めては、また次の竜へとターゲットを変える。その姿はまるで慣れ親しんでいるかのようだった。ただ1つだけ不可解なのが倒した竜の魔石が出ず、光がハイド君に流れて骨と鱗だけがその場に残るのだ
「専門って言ってたけど、こうなるとは思ってなかったなぁ……」
「なんっすか、あれ……訓練してた時はまだ全力じゃなかったって事っすかね?」
ハイド君の訓練を受けていた僕やラウル、ティオナにアイズは彼の実力を知った気でいただけだった。能ある鷹は爪を隠す。僕たちはあれが全力だと思い込んでいたのだ。現に彼によってこの階層にいる竜に限ってはほぼ壊滅させられていた
「儂の出番、一切無かったがこれはこれでいいものが見れたのう」
ロキ・ファミリア一のパワーアタッカーであるガレスですら、出番が欲しいと言うほどに戦う場面が一切ないのだ
「ちょっとハイド君! あたしたちの分まで取らないでよ!」
「ここだけは譲る訳にはいかんのでな! もっとドラゴンソウルを寄こせ!」
52階層では奪えと言っていたが、53階層では譲れないというのはどうだ? それにハイド君に流れるあの光はドラゴンソウルというみたいだがどういう意味を為すのか
「フィン……私も行ってくる」
「ハイド君みたいな無茶はよしてくれよ。それにもうすぐ54階層に到着する。竜だけじゃなく他のモンスターにだっているんだ」
「分かってる……【
アイズも自身に魔法を使い、モンスターの群れに入っていく。本当に無茶しないでくれるといいんだけどな。でも先行しているハイド君だったりベート、ティオナのおかげで僕たちは体力や魔力を温存できている。そこに関しては感謝してるけど、隊列の後ろにいるファミリアの経験値が溜まらないんだ
「まあ、そんなことを考えている暇はないか」
「そうだな。同じハイエルフでも、ここまで違うとはな。魔法剣士というよりもティオナに近い狂戦士のようだ」
「ちょっとリヴェリア。私の妹をあいつと同じにしないでくれない?」
「だったら目の前の光景を見てみたらどうだ?」
今ちょうど目の前でモンスターの返り血を浴びながら、次々と敵を屠っていく姿は狂戦士と言えよう。その光景を見たティオネは気まずそうな表情で僕の方を見てきた
「あいつ……ちゃんと貰い手、現れるといいんですが……」
「そ、そのうちね」
「私の貰い手はもちろん団長ですからね!」
おっふ……こういう時にそういう話に持っていかれるとは思わなかった。彼女的には冗談ではないんだろうが。先ほどまで先陣を切って竜のみを惨殺していたハイド君が周囲を確認しながら突っ立っている。少し遅れてティオナがハイド君の元に近寄る。ここから距離はあるもののすぐに合流できるだろう。後ろを振り返るとゆうに百を超える竜の骨に鱗。できるだけ素材は回収したが、それでも残骸は百は超えているのだ
「お疲れ様ハイド君」
「この程度ではどうということはない。今回の遠征で分かったことは、場所が違えば個体差が生まれる。やはり、こっちの環境は生温いな」
合流した彼が言っていたことが、ふと耳に入ってきたのだ。場所が違うのは彼の過去の冒険をしてきた場所なんだろうが、このダンジョンよりも過酷だったのか。それならばあの強さも納得というもの。あの時にロキ・ファミリアに引き込めなかったのが本当に悔やまれるよ
「まだあんなに骨や鱗が……フィン、私は全て回収してくるぞ」
「ダメに決まってるじゃん! ほら行くよ!」
「待てティオナ。あの素材があれば……」
骨や鱗を回収しようとしたハイド君の手を無理やり引っ張り、またもや先に行ってしまう素材がそんなに欲しかったのか。今回の遠征で入手したドロップアイテムは全てハイド君の物になるけど、ここまで出るものだとは思わなかった
「ここまで運がいいととはね。彼の欲がそうさせているのか、それとも必然だったのか……」
「さてな。ここまでドロップアイテムにご執心というのは些か強欲な気もするが」
「手前らは勘違いしている。ヘスティア・ファミリア、いや、あ奴にはうちのファミリアに素材提供してくれてな。その中に竜の骨や鱗がある。金属よりも硬く、研げばそこら辺の武器よりも鋭い。防具に使えば並大抵の武器では貫けないほどだ」
あの骨の残骸はそこまでのドロップアイテムなのか。褐色のハーフドワーフの椿・コルブランドから説明を受けた。それだけの装備の素材にできる強度をいとも容易く両断できる、ハイド君のあの武器もどうかと思うのは僕だけなのだろうか
「もし使ってみたくばヘファイストス・ファミリアを御贔屓に」
「そうさせてもらうよ。それはともかくだ。リヴェリア、現状をどう思う?」
「芋虫型の新種が出てこないのが不気味に感じる」
やはりリヴェリアは分かっていたようだ。そう、この53階層に入ってからまだ一度もあの芋虫型の新種とは遭遇していないのだ。もし、遭遇しているならばこんなに先行している4人に任せたりはしていない。魔法を行使していないからだろうか。念のため、親指をペロッと舐めてみると指が疼く
「総員、いつでも全力が出せるように準備だ。僕の親指が疼く!」
僕の親指が疼けば、その後に必ず異常事態が発生する。伝令を言い終えた瞬間に奥の通路から出てきたのは今までにもないほどの大量の芋虫型の新種とその上に立っている
『殺レ』
大量の芋虫型の新種が腐食液を放出しようとした時だった。列の最前線から極太な雷撃が射出され芋虫型の新種がほぼ全壊したのだ。よくよく見てみると、今の雷撃を射出したのはハイド君だった
『馬鹿ナッ!?』
「害為すものは全て排除する。見た目が人であろうと一切関係なく殺す」
前傾姿勢になり、今にも
「待ってくれハイド君。あいつは僕たちに任せてくれないかな。因縁があってね」
「了承した。手を借りたいときは言ってくれ。あれを相手している間は周囲の敵を殲滅している」
「そうさせてもらうよ。さて、用意はいいかな?」
『クッ!』
こちらが戦闘準備に入ると煙幕を使い、僕たちの視界を奪った。煙が無くなり周囲を見渡すと
「……逃がした」
「けっ。あんな野郎、次出会ったときにでもぶっ飛ばせばいいんだよ」
「どうやら奥に行ったようだ。この先に行くようであれば待ち伏せを食らうかもしれんぞフィン」
ハイド君だけ煙幕から逃れられていたようで、どこに向かっていったのかを教えてくれた。深層で待ち伏せされているのは非常に危険だ。先ほどのように大量の芋虫型の新種によって囲まれていたなんてことは考えただけどもゾッとする
「引き返すのも手じゃぞ」
「いや、その選択肢だけは無い。もし、その方法を取った場合には前回の遠征みたいなことになったら大変だ。誰か潜伏しながら偵察できる人がいるなら解決なんだけど……できないことを前提に聞くけどハイド君、できたりしない?」
「出来ないことはないが準備する必要がある」
今の装備じゃなくて、前の装備ならできた。もしくはその手の用意をしていないということか。やはりハイド君は敵にしたくないな。気づかない間に気絶、全滅させられていたなんてことになりかねない。冒険においては、このオラリオ1だと思う
「なら準備にはどれくらい時間がかかるかい?」
「1,2分あれば十分だ。聖堂に取りに行くだけなのでそんなに時間は掛からん」
「こんな場所に聖堂なんかあるわけねぇだろうが。頭湧いてんじゃねぇのか?」
ベートの発言にやれやれと一言呟きながら首を振っていた
「では行ってくる」
僕たちから少し距離を置き、仮面を取り外したと思ったら木の仮面を取り出してつける。あくまでも素顔は見せないようだ。木の仮面を取り付けると奇妙な歌と共に消えてしまった
「消えた……?」
「今の木の仮面って
「さぁ、でも今はあいつが戻ってくるまで持ちこたえるわよ!」
またしても周囲にはモンスターの群れが集まっていた。たかが1分、されど1分。これから先に進むためには重要なことだ。いままで消費してこなかった体力や魔力はここで使うのがいいだろう
聖堂に来て、大量にポーションを持っていくことになるとはな。1分であろうと外で戦っている奴らに苦労を掛けていることには変わらない。餞別の意味も込めている。この世界では魔力が無くなるのは死と同等だからな。それはさておき、ここに来るまでもそこそこの素材もといドロップアイテムを入手できていたのでここに置いておき少しでも身軽になっておく
「家に戻った後が大変だな。ドレたちにも手伝ってもらうか」
この聖堂でやることを終え、木の仮面を外しコナヒリクをすぐさまつける。さてあいつらが持ち堪えている現状に飛び込むのかと思うと憂鬱である
「念のためにスペルブレイカーでも持っていくとしよう」
ドラゴンの火球を魔法と仮定した場合、この盾はとても有能だ。有る無しにしても十分な性能を有している。これを使っている際は攻撃が不便になるが、その時は支援に回ればいいだけのこと。ようやく奇妙な歌が流れると元いた場所であるダンジョンへと戻ってきていた
「言った通り早く戻ってきたな。フィン!」
「ああ、わかってるとも! みんな、戦闘中止して54階層に向かう!」
フィンの命令と共に先へと進んでいく。前進しながら後方を向き、弓を番え放つ。あれだけ大きな蜘蛛は両方の多眼の間を貫き、角の生えた黒いモンスターは頭部を一部破損させた。どうにも、柔らかいというよりも歯応えがない
「ここから54階層だ! 頼むよハイド君!」
どうやら下に降りる道へと到着したようだ。ここの道なら攻撃はおろか、サイズ的にモンスターも来ない通路だった
「その前にだ。ここまで来るのに魔法を使った奴はいるか?」
「私とアイズ、レフィーヤにハイド、お前ぐらいだろう」
「そうか、ではこのポーションでも飲んでおけ。魔力を回復できるぞ」
3本のポーションを手渡すとティオナの顔が青くなったような気がするが気にしない。3人がポーションを飲み始めるとレフィーヤは特に反応は無かったがアイズとリヴェリアには反応が濃く表れたようだ
「おいハイド、辛いというよりも体が燃えるように熱いのだが、なんだこれは!?」
辛い、熱いという反応が出るなら炎の塩鉱石を使ったやつだろう
「こっちは脂っこい……それでもって甘いような気もする」
アイズはたぶんドワーフのオイルにムーンシュガーでも使ったポーションなんだろう。良薬は口に苦しというんだから耐えてくれ
「味は最悪なのは知っている。だが、その分の効能は得られるというのは保証しよう」
レフィーヤも自分が飲んでいるポーションに何が混ぜられているのかと不安そうに見ているが、どうせ山の赤い花やらエルフイヤー・リーフなり使っているんだろう
「ちなみに素材は聞かない方がいいぞ。想像を絶する物があったりするのでな。話が変わるがフィン、先行するに当たって合図を決めておこうと思う」
「そうだね。弓があるから入口付近に矢を放ってくれれば、あの
「了解だ。では行ってくる」
透明化のポーションを飲み、54階層へと進んでいく。敵からの攻撃を受けず視認されないため、かなり便利なのだ。登山をする際には重要なポーションである。それはともかく、久しぶりの隠密仕事だ。今でも十分に通用する技術なので重宝しているが、ここ最近多用しすぎのような気もする。まぁ、見破ることはほぼ不可能に近いので気にしないでおこう。さて、私の本領発揮するところだ
今回もお読みいただきありがとうございます
今回も難産でした。2,3回書き直してこれです
次回は、なるべく早く投稿できるように頑張ります