ドヴァキンがダンジョンに潜るのは間違い? 作:ark.knight
さてこれから51階層に進出しようかという時なのだが、私を含めた攻撃役である3人の内の2人ティオナとベートが騒ぎ立てていた。ここまでの階層とは違うようで、この騒ぎを見て笑っていられる奴と固まってしまっている奴がはっきりと分かれている。遠くの方に目を向ければリヴェリアがレフィーヤに声をかけていたり、ガレスに喝を入れられているラウルもいた
「おいフィン、そこの馬鹿ゾネスはもうどうでもいいがどうしてこの仮面野郎もいやがんだよ」
「それはただ単純にこの戦力の中で最も強いからだ。現にティオナやアイズ、ベートそれに僕だって身をもって体験してるはずだよ?」
「んなことは知ってんだよ。でもそれはモンスターを呼び出したことじゃねぇか。近接は全くのド素人だろうが」
そういえば私の実力を見たのはこの犬っころに召喚を使って一方的にやった一回きりだ。あの後もいつの間にか消えていたし知らないのも当然だろう。無論、私の実力を知っているティオナは犬っころの事を馬鹿を見るような目で見ていた
「あー……ベートは知らないんだっけか。この遠征の前まではアタシやアイズ、ラウルと団長に師事してたんだよ」
「はぁ!? 仮面野郎が師事!? テメェらそんなことしてたのかよ!」
「別に悪いことでは無いだろう。人が強くなるためには最も効率的な考えだ。たかが1週間、されど1週間、付け焼刃程度ではあるが何もしないよりかは断然効果的だろう」
私だってそういう時期が少なからずあった。その中でも特筆してあげられるのは弓術を教えてくれたアンジーさんや各種魔法を教えてくれた講師陣と、少なくとも7人はいる。冒険者として駆け出しである私に全てを教えてくれた心優しき先生たち。ただしアンカノ、貴様だけは許さん
「けっ、どうせこの後で使えるかどうかじっくり見物させてもらう」
「勝手にしろ。それよりもフィン、出発はまだか?」
「ん、もう少ししたら行くよ。まだ上がっている人もいるみたいだし」
周囲をキチンと確認できているようだ。下手に死傷者が出ても救助できるか分かったものではない。私が先頭に立たなければ守ってやることはできるがそれ相応の装備をしなければならない。例えばスペル・ブレイカーを用意しなければならないとかな
ともかく再度装備の確認をしておくとしよう。万全を期すためにコナヒリクに片方の手には火炎、雷撃耐性の両方を付呪した指輪にもう片方には冷気耐性と弓術の両方を付呪した指輪を付けているな。腰には火炎と体力吸収、雷撃とマジカ吸収、冷気とスタミナ吸収を付呪した各種デイドラのダガー。背中には火炎の魂縛と麻痺を付呪したデイドラの弓に数を数えるのも面倒になるぐらいの鋼鉄の矢。そしてなるべく使いたくないミラークの剣とメエルーンズのカミソリは帯刀しているが味方に当たってしまった場合が怖いので抜刀する気は無い。1人になったら重宝するが。装備は全身ドラゴンスケイル装備だ。付呪も鍛冶も完璧に兼ね備え出来た装備だがコナヒリクを付けているため兜は外している。各種魔法に耐性を持ち、持てる重量を底上げし、スタミナの上限を増やした。これ以上の装備は自作できない。故に今の私は近接戦闘においては最強なのだ
「それにしてもハイド君の防具変わったね」
「近接戦を御所望なのでな、昨日までつけていたのは平均的な装備。これは近接戦闘に特化した装備なのだ」
「アハハ……本当にハイド君だけは敵に回したくないなぁ。それはともかくハイド君これからの階層は君にとっては未知だ。だから注意しておくけど、決して立ち止まらず目の前の敵を蹴散らす。それと可能であれば手助けをする、いいね?」
「委細承知。さてはて今日はどれくらい屠ることができるのだか」
「気をつけて欲しいのはそれだけじゃない。ここからはモンスターだって
今、フィンは何と言った? 空を飛ぶ竜だと?
「ドラゴンが出るのか?」
「その通り、例えハイド君でもあの竜には苦戦を強いられるだろうね」
「嘗めてくれるな。ドラゴンなど殺し飽きたわ」
あっちではアルドゥインを倒した後もなぜかドラゴンが出現した。理由も判明していないが目撃情報を聞き次第、撃破していたらいつの間にか出現しなくなっていた。今ではどうなっているだろうか
「状況を見てまた指示するよ。さて、そろそろ持ち場についてくれ。これ以上は判断が鈍るのもいけないだろうし」
「フィン、最後に言っておくが貴様は絶対に指揮を執ることだけはやめてくれるなよ」
「忠告ありがとう。僕もそんなことが無いように祈るよ」
そう言うことでは無いが、そういう状況にならないように私が動けばいい。指揮官がいなくなってしまえばその集団の士気が下がってしまうのが目に見えている。そうなってしまえば待っているのは死だ。そんなのは誰も望んでいない。さて今日も色んなものを見させてもらうぞ
灰色の大樹林を抜け、51階層へ下る急斜面を前にして一旦立ち止まる。ここからは今までの階層とはまるっきり違う。言葉に表すなら地獄だろう。崖とも思えるようなこの急斜面の先にはモンスターの眼光が闇の中に浮かび上がっていた
「ここからは無駄口無しだ。総員、戦闘準備」
先頭に立つのはロキ・ファミリアの中でも迷いのなく近接ができるベートとティオナ。いつもはアイズも先頭に立たせても問題ないほどの実力はあるが、9階層でヘスティア・ファミリアの冒険者、ベル・クラネルの冒険を見てからというものの迷いが生まれてしまったようだ。この状態では先頭を任せるわけにはいかない。そこで現オラリオ最強、レベル8のハイド・クロフィを先頭に置かせてもらった。彼がどれ程できるのかは遠征前の訓練で知っていた。実戦ではどうなのかは知らないがあの自信が保てることは重要なことだ
「3人とも、先行頼んだよ。ティオナとベートはハイド君の誘導もよろしく」
「おい馬鹿ゾネス。俺はやんねぇからな」
「はいはい。誘導は任せてね、ハイド君!」
「そこは頼む」
「さて、出撃だ」
僕の合図と共に先行して行く3人。それに合わせて僕たちも少し遅れて出撃する。未到達領域への
「予定通り正規ルートを進む! 新種の接近には警戒を払え!」
この51階層から57階層までは珍しい迷宮構成で黒鉛色のダンジョンの組成は平面の天井に段差状の壁。波打つようにある段差は海を連想させるかのような構造だ。だが、必要最低限の戦闘だけを行い、余計な物資の消費を避けるに限る。だが一番先頭でモンスターを屠っているハイド君の勢いは全てのモンスターを滅ぼさんとする勢いだ。屠るというよりは斬首という表現が正しいだろう。僕たちの足元には幾つものモンスターの生首が転がっている。というよりも、その生首は焦げていたり凍結していた
「無駄な戦闘は避けて先行を優先してくれハイド君!」
「この数では仕方あるまい。ここは妥協しよう」
妥協するといってもさすがレベル8、ベートやティオネよりも先に前に立ち軽快な動きから繰り広げられる的確な攻撃によりモンスターの首を狩っていく。
「がるぁああああああああああああ!!」
ハイドだけじゃないベートだってそうだ。途切れず出現してくるモンスターを蹴撃の一閃と続く回し蹴りで根こそぎモンスターの上半身を吹き飛ばし、崩れ落ちる死骸に目もくれず更なる敵を食い荒らしていく。二つ名【
「ナルヴィ、
「はい!」
ティオナは使い慣れた
「この感覚は久しいなぁ!」
「ハイド君は暴れ過ぎだって! あたしたちにも残しておいてよ!」
「ならば奪ってみよ!」
昨日までの戦い方がまるで嘘のようだ。魔法で徹底的にモンスターを焼却か凍結、はたまた灰へとしていた冷静な彼は180度反転したかのように戦闘狂へと変貌していた。前衛もできて後衛もできる、それでもって回復役も可能。あの時にロキ・ファミリアに引き込めなかったのが手痛く感じる
「っ! 来た、新種!」
幅広の通路を埋め尽くす黄緑色の塊。極彩色に侵された表皮に広く平たい腕に疣足の多脚。体内に含まれるのはあらゆるものを溶かしつくす腐食液だ
「隊列変更!! ティオナ、下がれ! 新種の体液は腐食液だから無闇な攻撃は避けるんだハイド君!」
「ならば灰にしてしまえばなんら問題は無いのだな」
ハイドは武器をしまい両腕に黄色の光を纏わせていた。それと同じく、アイズとティオナを入れ替えさせ新種の相手をさせる
「【
「アイズ、こっちにも風を寄こせ!」
ベートの要請を受け白銀のメタルブーツに風の力が宿る。両足装備≪フロスヴィルト≫に気流を纏い、腰の双剣を引き抜きアイズと2人で新種の芋虫型のモンスターの大群に躍りかかった。一方、ハイド君はというと連鎖する雷撃を両手から1つだけ放ち、行動を止めたり灰にしていた。魔石やドロップアイテムが一切見られないがそれでも十分な働きといえる
「【閉ざされる光、凍てつく大地。吹雪け、三度の厳冬―我が名はアールヴ】!!」
「総員、退避!」
アイズ達の奮闘の陰で行われていたリヴェリアの『並行詠唱』が瞬く間に終了する。前衛と中衛が左右に割れ、砲口の如く部隊の展開した。砲身の中央から発するのは翡翠色の
「【ウィン・フィンブルヴェトル】!」
三条の吹雪が通路中を突き進んだ。蒼と白の砲撃が迷宮ごと前方のモンスターを凍結させる。先頭に立っている3人が横道に回避する中、一直線に伸びる通路は最奥の突き当たりまで蒼氷の世界と化していた。凍りついた芋虫型、果ては巻き添えを食らったモンスターが無数の氷像となって乱立していた
「もう少し私達の事も考えて欲しいものだ。危うくあれらと同じく凍結する羽目になるところだったぞ」
最前線で戦闘をしていた3人が合流してくる。あの時、ハイド君は寸でのところで回避していた
「それは悪かった。お前であれば回避できると信じていたものでな」
「過信だけはしてくれるな。私とてあの手の魔法を受けてしまえば幾らかダメージを負いかねん」
「一応、僕は退避するように指示してたけどね」
ギリギリのところまで魔法戦を挑み、詠唱が終わった瞬間に段差状の壁へと跳躍して回避して退けた。本当に良くやるよ。そんな雑談をしていると52階層へと続く広く長い階段の目の前で僕は振り返る
「ここからはもう、補給ができないと思ってくれ」
この先に待ち構えているのは地獄だ。迷いが生まれれば、モンスターに臆すれば死に直結する。故にノンストップ行進となる。ここまでは、一切の損失は無いが魔力の消費はした。ただロキ・ファミリア以外の冒険者であるハイドとヘファイストス・ファミリアの褐色肌のハーフドワーフである椿・コルブランドは首を傾げていた
「行くぞ」
僕の命令と共に52階層へと進出する。51階層となんら変わらない構造だが、先ほどよりも部隊を速まったペースで進ませていく
「戦闘はできるだけ回避しろ! モンスターは弾き返すだけでいい!」
またしても先頭に立ったハイドは襲い来るモンスターを屠っていく。しかしドロップアイテムを拾うために立ち止まってしまった
「ここで立ち止まったら狙撃されちゃうよ!」
最前線にいたとしても立ち止まってしまえば、すぐに追いついてしまう。ティオナは彼の手を引きこの場から急いで立ち去った
「狙撃だと? どこからだ?」
「下から。とりあえず走る!」
これからが本当の地獄だ。地の底から昇ってきたかのような、禍々しい雄叫びが響いた
「ヤバいよ、あいつらに捕捉されちゃったよ!」
「なんだ今の咆哮は、それに何に捕捉されたのだ?」
「何って、そりゃあ竜だよ!」
「ベート、転進しろ!」
先頭にいたベート、遅れてティオナにハイドとパーティ一団は正規ルートを外れ横道へと飛び込んだ。次の瞬間、爆音とともに地面が爆砕したのだ。突き上がる轟炎、そして紅蓮の衝撃波。ここにいる全員を焼き尽くすかのような凄烈な爆炎は、まさに特大の地雷が炸裂したかのような現象だった
「迂回する!! 西のルートだ!!」
正規ルートを外れた冒険者達は迷路状の広幅の通路を全力で走った。すぐに、再び轟く大爆発
「モンスターを引き寄せてもいい!! リヴェリア、防護魔法を急げ!!」
「―【木霊せよ―
「敵の数は!?」
「6、いや7以上!?」
足を取られる程の振動と途方もない熱量がパーティを襲う。何発もの大爆砕が続き、熱風と無数の炎片が僕達に押し寄せる中、命令を矢継ぎ早に飛ばした返事すら惜しみリヴェリアが詠唱を開始しする
「フィン、私は列の1番後ろまで行かせてもらうぞ」
「なら後ろからサポートを任せるよ」
「ああ、ドラゴンの姿が見えないのが面倒だが最大限やらせてもらう」
ハイドの提案を飲み、殿を任せて進攻していく。だが、この現象を目の当たりにして動揺を隠せない。それも仕方ないだろう。なぜなら、地面を突き破り頭上の天井へと突き抜けていく紅蓮の大火球を目の当たりにしたからだ。第一級冒険者ですら一心不乱に逃げ惑う恐ろしい竜の咆哮と、今もなお続く怒涛の『砲撃』に、悲鳴が喉をせり上がり
「ラウル、避けろ!?」
「えっ?」
最後尾でパーティを守るガレスが通路の横穴から迫りくる太糸の束に気付き、呼びかけるが反応出来なかった。しかし、1人だけ反応した人がいた。それはレフィーヤだ。咄嗟に手を伸ばしバックパックごと突き飛ばしたのだ。しかし、かわりにレフィーヤが捕縛され隊列から引き剥がされた。横穴に引き込んだのは『デフォルミス・スパイダー』の太糸だった。顔を焦りに歪める少女を釣り上げた巨大蜘蛛のモンスターは捕食しようとその顎を開口させるが、膨れ上がった地面が何発もの爆炎に巨大蜘蛛は消滅させられたのだ
「レフィーヤ!」
重力に従って自由落下していくレフィーヤを救える人はいるだろうか。ベートを前線から降ろしてしまえば助けることも可能だ。しかし、距離的にも時間的にも間に合わない。ティオナやアイズも同じだ。リヴェリアやガレスは無理だ。ティオネもモンスターを弾き返していて無理。僕も指揮を止めることはできない。刻一刻とレフィーヤが竜によって開けられた大穴へと吸い込まれていく。その表情は戦慄していた
「
後方から竜の咆哮にも魔法の詠唱にも聞こえる叫びが聞こえた途端、大穴に吸い込まれそうになっていたレフィーヤの姿が消えた。竜の攻撃を受けて消滅したわけでもなく、忽然と姿が見えなくなったのだ
全く何をしているんだか。戦闘が起きているのであれば、常に周囲を確認するのは当たり前のことだ。それを怠ったことでああなったのは仕方ないことだろう。しかし、今は
「
時間減速の
両腕の中では絶望に苛まれたかのように怯える彼女はよほど怖かったのだろう。そろそろ
「……―ヤ!」
「フィン、お届け物だ」
「こんな時にふざけないで、ってレフィーヤ!?」
こちらを見るなり、ありえないものを見たかのような表情となった。まぁ、先ほどまで落ちていた奴が急に隣にいたりしたらそうなるだろうさ
「へっ? ……あ、あれ? 今落ちていたはずじゃあ……」
「状況から察しろレフィーヤ。ついでに言っておくがこの階層はこのまま抱えられていろ」
「何を言ってるんですか!? 早く降ろしてくださいよ! というよりもなんでお、お姫様抱っこなんですか!」
「はぁ……言っておくが穴に落ちそうになったのを助けてやったんだぞ? その言い方はあまりにも酷いぞ。それにこの状況で貴様を降ろすためには立ち止まらなければならん。そうなれば私はどうにかできても貴様は死んでしまう。これでは助けた意味が無くなってしまうので却下だ。53階層に降りたら降ろしてやるから今はじっと周囲のモンスターでも見て状況の報告でもしていろ」
そういうと不満が残っていそうだが渋々納得してくれたようだ。しかし、このままでは殿はおろか近接戦も魔法も何もできないではないか
「ハイド君、レフィーヤを助けてくれてありがとう」
「貴様の命令だろうが。まぁ、もし命令が無くとも助けただろうがな」
「あ、あの……どうしてか聞いてもいいですか?」
「なに、簡単なことだ。たかが4,50年先に生きているとはいえ
なんてことは建前だ。いや、半分ぐらいは本当でもある。こいつはこれから先、たくさんのものを学び、見ることになるだろう。異世界とは言わんがこの世界を見て回ることも可能だ。そんな未来ある少女の命、ここで断たせるわけにはいかんだろう。私のいたところでも幼い身で虐待を受けることになった奴もいる。リフテンの孤児院の名前はなんだったかは忘れたわ
「ふふ、そうですか。その仮面が無ければいい話でしたよ」
「貴様、ここで振り落とされたいようだな。身体に巻き付いている蜘蛛の糸のせいで身動きが取れない貴様をうっかり落としてしまうかもな」
「それだけは勘弁願います。なのでしっかりと運んでくださいね」
先ほどと打って変わって絶望する様子もなく柔らかい表情へ変わっていた。そろそろ53階層への階段が見えてくる。これからが本格的にドラゴンと対峙しなくてはならなくなるが、懐かしく思う。素材として骨と鱗が取り放題だといいんだがな。そうなれば、1人でここまでくる理由が出てくるというものだ。こうして52階層も突破し53階層へ続く階段へと進む。この際にティオナから白い目をされたのはなぜだろうか?
今回もお読みいただきありがとうございます
書き始めたのが5月27日・・・うそ、書くの遅すぎっ
あと、なぜか少しだけ甘くなってしまいました。こんな予定はなかったんですがね
どうでもいい話
SSの進行状況やらアンケ用のTwitterアカを作りました
@alex_SSwriter
他のSSも同時にやっていますのであしからず