ドヴァキンがダンジョンに潜るのは間違い? 作:ark.knight
翌日、私達はダンジョンで探索を行っていた。ヴェルフの話によればベルが焦っているということらしく観察をしていたが本当だ。攻撃を避けてはいるが捨て身の攻撃が多く、我が身を省みぬスタイルを取っていた。1~5階層ぐらいであれば単身でも通用するが、それよりも深く潜ると通用し辛い。私以外の冒険者のステイタスがどのように上がるかは分からんが、それにしてもこの方法はいかんな
「これで一息つけるね」
「そうだが・・・ベル、お前ここ最近頑張りすぎだぜ?」
モンスターを一掃し、リリルカが魔石を回収しているとヴェルフがベルに切り込んでいく。表情からは焦燥感は見て取れないが行動的には見て取れた
「そう?」
「そうって、気付いてなかったのか?」
「僕はいつも通りだけど・・・どこかおかしかった?」
無自覚というのは怖いな。恐怖感を押さえてでも強くなろうとしているのだからな
「おかしいところしかなかったぞ。今日の戦い方を見てる限りだと捨て身の攻撃が多くあった。それでは死ぬぞ?」
「ハイドさん・・・」
やはりどこか思うところがあるのだろう。ベルは頭を搔いては、ただ黙ってしまった
「貴様には時間がある。急いで強くなる必要もあるまい」
「・・・ここ最近、夢に見るんです。あの時、僕に襲い掛かってきたミノタウロスが出てくる夢を」
私とベルが出会った時のことだろうか。あの時は確かに殺されかけていたな。トラウマという奴なんだろう、こびり付いた記憶は消そうにも消せないのは、さぞ辛いだろうな
「もし、僕が急いで強くなろうとしているように見えるなら、そういうことなんだと思います」
「大丈夫だ、ベル。私にも同じ経験があるがちゃんと倒せるようになる。だから無理に強くなろうとするな。逆に身を滅ぼす要因になる」
「・・・分かりました」
「旦那もそういう経験あんのか。最初から無双してたんじゃね、とか思ってたけど」
「買いかぶり過ぎだ。私とて人間だ、最初から何もかも出来たわけじゃない。長い年月を積み重ねて出来た叡智だ」
何度も経験してようやく出来た
「とにかくだ、無茶をして怪我して冒険をできなくなるなんていう間抜けなことにはなってほしくない。現に心配してくれる奴もいるのだからな。私も同様だ」
「俺だってそうだぜ。同じファミリアのよしみじゃねぇかよ」
「ヴェルフにハイドさん・・・ありがとう」
「二度と家族を失う羽目に遭わせてくれるなよ?」
同じ家に住めば、もう家族だ。エンやヒョウ、ランにドレはもちろんだがベルやヘスティア、リリルカ、ヴェルフも同様だ。二度も失うことになっては耐えられんかもしれん
「二度も、って・・・ハイド様はそういう経験が」
「一応な。でも昔のことだ、気にするな」
死んでしまった妻と私の縁は奇妙な物だった。私をモチーフにした物語を作りたいという物好きだったな。とにかくリリルカが魔石を集め終わったので今日はダンジョンから上がることにした
先週位からだろうか、毎日のように悪夢を見るようになった。先月の頭ぐらいにあったミノタウロスに殺される夢だ。ベッドから起きると、ぐっしょりと寝汗を掻いて気持ち悪かった
「はぁ・・・はぁ・・・まただ」
僕は怖いんだと思う。エイナさんの言う通りに『冒険者は冒険してはいけない』という言葉はあの時に身をもって経験した。それ以降、僕は無意識に早く強くならなくては、と躍起になっていたんだろう
「・・・ちょっとお風呂に入ろ」
寝汗が酷いのに、このまま寝るのは気持ち悪い。着替えの服を持って地下にある浴場に入っていった。でも先客がいたようだ
「ハイドさん?」
「ん・・・どうしたこんな夜中に風呂なんて」
「ちょっと夢見が悪くて」
一度、身体に掛け湯してから湯船に入る。少し距離を置いてハイドさんの横に座るけど、身体中に無数の怪我と思われる痕があった
「神様も言ってましたけど、その傷痕ってやっぱり冒険でのですか?」
「そうだな。身体の傷は戦士の誇り、とかいう奴がいるがどう見ても恥でしかないぞ」
強敵相手にそうなったら誇ってもいいんだろうけど、ハイドさんにはそう感じるんだろう
「なぁベルよ。お前はどういう冒険者になりたい?」
「どうって・・・強い冒険者になりたいですよ」
ハイドさんは呆れたように苦笑し、僕の方を見てくる。こうしてみるとハイドさんって本当に女性の顔なんだよなぁ
「そういう話ではない。タイプ的に、という話だ」
「タイプ?」
「私が見たところベルは剣士タイプだろう。だが、純正に剣士タイプと言っても両手剣や片手剣、ダガーみたいなのもある。一撃を丁寧に入れるのか手数を重視するのか。そういう話だ」
僕の戦い方は速度に重きを置いて手数で攻めるタイプだ。でも今日の戦い方を見るに不安に感じたんだろう
「手数ですね。最初からこのスタイルを貫いているので」
「・・・隠密に手を出してみるか?」
言葉の通りなら暗殺とか闇討ちが似合いそうな言葉。でも、僕が思い描いている冒険者の姿とは違う気がする
「いえ、結構です」
「そうか」
暫く無言になり、水音だけが聞こえてくる。そろそろ僕は上がろうかな
「本当にここ最近、夢見が悪いんだったな?」
「ええ」
「そうか・・・思い詰めず気分転換しとけ。明日はダンジョンに潜ることは許さん」
「え!?」
まさかの冒険禁止令だった。そんなに強くなるために張り切ることがいけないのかな?
「考えてもみろ。夢見が悪くて体調が優れませんでした、とか言ってたら重大な怪我に繋がるやもしれん。明日は1日休憩を取って気晴らしでもしてこい」
「う・・・」
「そうだな・・・アドバイスを受けに行ってくるというのも一つの手かもしれんぞ?」
アドバイスか・・・なら明日はエイナさんのところに行って相談でもしてみようかな
「分かりました。話に乗ってきてくれてありがとうございます」
「家族なんだからこれくらいの事はする。さて私も上がるか」
2人揃って浴場から出て、それぞれの寝室へと戻っていった。今度こそは夢見が良いといいな
既に私の体力は限界ギリギリとなっていた。日に日に疲れが溜まっており、遠征が翌日というのにこの体たらくだ。ブランクというものを侮ったからだろう。朝から少々体調不良だ
「ねぇねぇハイド君、今日は動きが鈍いよ?」
「そうだな・・・ブランクがあるもんでな。2,30年も冒険もせず、一か月前に再開しているものだから疲れやすいのだろう。昔はこんなこと無かったのだがな」
早朝から頼まれているロキ・ファミリアでの訓練だが、今日は碌に体がついていかないのだ。そのせいか今はティオナに心配されている
「大丈夫ッスか?」
「すまんが今日はここで終了にさせてもらってもいいか?私も明日の遠征の為に体を休めたい」
「ファミリアじゃ休んでないの?」
「早朝はここで訓練、戻ったら同じファミリアの奴3人とダンジョン探索。夜は夜で遠征の為の準備で忙しくてな。寝る暇が少ないのだ」
ここ3日は3,4時間程度しか寝ていないのだ。今日ぐらいは寝させてくれ
「なら・・・仕方ない?」
「いい加減、その疑問形で返してくるのをやめて欲しい」
「でも疲れてるんだもんね。なら仕方ないよ」
「そうっスね。ここ1週間で色々学べたんで自分的には満足っス」
そう言ってくれるとありがたい。対人戦を重視させて経験を積ませておいたから何かの役に立てばいいのだが、滅多にない経験だろう。あの手この手と考えて戦いを挑むが、大抵は流されご破算という結果に終わる。この訓練中に誰一人として影の戦士を発動させるに至らなかったのだ
「ならいい。すまんが今日はここまでだ、解散」
私はそそくさと自宅に帰ることにした。疲れが出ているせいもあって道中はひたすら何も考えず、まっすぐ自宅に帰った。家に到着するなり、自室に篭りすぐに寝ることにした。部屋に戻る際にヒョウから「朝帰り?」と謎の発言を頂いたのは秘密にしておこう
今回もお読みいただきありがとうございます
次回は遠征とベルの戦闘回になる・・・のかなぁ?