タイムトラベル物見遊山   作:朝鮮ニンジン

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初めまして、朝鮮ニンジンです。
これが最初の投稿になるので、表現のミスや、文法の間違い、誤字脱字などがあったらどんどん教えてください。


大江戸散歩の巻
~旅の始まり~


芽吹きかけの若葉のにおいが鼻をくすぐる新宿。中年の男が歩いていく。男は道路の向こうの大手新聞社を一瞥してから、小走りで目的地に向かった。

 

池袋壮一郎は自分の幸運に驚いていた。

 

池袋は現在ちょうど40歳だが、街の景色や身の回りの物を見るたびに、変わらないなぁ、と思う。池袋が子供もころは世界は生き生きとしていて次々と新たな技術やものが生まれていた。が、今はそんな過去があったとは思えないほどに世界的に文化の発展は停滞していた。

なんというか、人々からエネルギーが感じられなかった。池袋自身もそうなのだが。

 

だからか、日本の民間貿易会社海老シェングローバル社は急にタイムトラベル技術の開発を発表した時は、世界中が騒然となった。さらに、海老シェングローバル社が一般公開の先駆けとして1000人限定のタイムトラベル体験の抽選を開始したことが公表されると、70億人もの人がそれに応募したらしい。その状況で、自分がなんとなくで応募した1000人限定の抽選に選ばれるとは思っていなかった。

 

池袋は新聞記者である。父が新聞記者だったからか、子供のころからスクープするのが夢だった。26歳で大手新聞社に入社した時は心からうれしいと思った。この世のなかは希望であふれているものだと思っていた。

しかし14年間ただひたすらに特ダネを探して走り回ってきた結果は無残なものだった。スクープを狙うあまりほとんど記事が書けずついには一人で活動させてもらえ無くなってしまったのだ。そしていつしか世界はエネルギーを失い、それとともに池袋の情熱も薄れていった。今の職は自分に向いていないのかな、と真剣に転職まで考えた。そしてたまたま募集していたタイムトラベル体験に半ばやけくそで応募してみた。

一か月後、メールで抽選に選ばれたこと知ったとき、こんなことに運を使い果たしてしまっていいものかと思った。タイムトラベル技術の開発によって、世の中に少しエネルギーが取り戻されてきているのはとてもいいことだと思ったが、池袋の心は暗いままだった。

そんな時にある考えが浮かんだ。今、世界の人口は100億人に達しようとしている。体験に募集されたのは1000人だ。タイムトラベル体験がどういうものなのかについての情報はまだ公表されていない。つまり世界中のどこのメディアもタイムトラベル体験についての情報をほとんど持っていないこととなる。しかし世界中の人がその情報を求めている。その状況でもし自分が一番最初にタイムトラベルした記者になれたら.....。

 

世界中にインパクトを与える記事が書ける。世界で初めて。暗い靄に覆われていた心が晴れていくのを池袋は感じた。運が巡ってきたぞ!

 

踊る心を抑えつつ、池袋は会場である海老シェングローバル社の本社ビルに向かって歩いて行った。結構家から近いのだ。

 

 

海老シェングローバル社の場所は知っていたので、すぐに着いた。

海老型の本社ビルに入り、受付を済ませ、案内通りに廊下を2,3回曲がるとトンネルのような空間があった。壁にはアンモナイトや恐竜、土器などの模型が置いてある。トンネルの先には金属製の大きなドアがある。模型にざっと目を通しながらドアの前まで行き、少しためらってからノックをする。

突如、「オープーーーーーン‼」と奇声が聞こえ、ドアが急に開いた。思わず後ずさり、顔を上げる。

目の前にはゴミ処理場のような景色が広がっていた。あちこちに鉄くずやら、壊れた機械やらが散らばっていて、部屋の真ん中にはイカのように見えるオブジェがある。場所を間違えたかな、と周りをきょろきょろ見渡すと、イカのオブジェの前にソファーに座った中年の男がいて、こちらを見ながら笑顔で手招きしていた。いきなり変な人間がいる、絶対会場間違えたな。念のためもう一度周りを見回すとさっきは壊れた機械に隠れて見えなかった場所に、『タイムトラベル体験の会場』と書いた看板がある。さっき受付で係員は二人だと聞いた。本当にここが会場だとすると、こいつとタイムトラベルしなきゃいけないの?気が重くなったがスクープを撮る機会を無駄にしたくなかったので、歩いてそちらに向かっていると、

「ねえ、ねえ、はやく~」男が子供のような声でいった。仕方なく走る。俺は客だよな。

男は丸々と太っていて、どっしりとソファーに座っているさまは、どこかの教祖に見えなくもない。

「飛鳥ちゃーん、お客さんだよー」男が言う。

「はいはい」飛鳥と呼ばれた女が、イカに似たオブジェの後ろから出て来た。二十歳ぐらいだろうか。かなりの美人である。ほっと胸をなでおろす。この人は普通の人だ。たぶん。

「お名前は?。」飛鳥が聞く。

池「池袋です。」

飛「えーっと、池袋壮一郎さんですね」

池「はい、そうです」身分証明を見せた。

飛「お待ちしておりました。ここがタイムトラベル会場になります。こちらが胃部鯉故(イベリコ)太郎タイムトラベル課課長で、私が秘書の三笠山飛鳥です。今日から二泊三日の間よろしくお願いします。」

胃「よろしくねー」

胃部鯉故が名字ということは海老シェングローバル社長の親戚か。珍しい名字なので覚えていた。

 

さっき会場を間違えたと思った理由の一つが、近くにタイムマシンらしき物が見当たらなかったということなのだが、改めて周りを見渡してみてもそれらしきものはなかった。どこか別の場所に収納されているのだろうか。

池「あの、タイムマシンはどこにあるんですか?」外観の写真を撮っておきたいと思った。

飛「あれです」飛鳥がイカのようなオブジェクトを指さした。

池「あれですか?」

飛「あれです」ずっと思ってたんだけど、なんでイカ?海老じゃないの?

 

一通り外観の写真を撮った後、イカの口(足が集まっているところ)からマシンに入った。内装は飛行機のようだった。

飛「それでは、さっそく体験についての説明をしていきましょうか。課長、よろしくお願いします」

胃「勝手にやっといて」必死に鼻くそをほじっている。

胃「今いいとこなの」

飛「はぁ、じゃあ私が説明します。これから池袋さんには弥生、古墳、飛鳥、奈良、平安、鎌倉、室町、安土桃山、江戸の中から一つ時代を選んでもらい、その時代で二泊三日私たちと生活していただきます。」池袋はうなずいた。大まかな内容は知らされている。

飛「どの時代にしますか?」

池袋は考えた。

池「じゃあ、江戸時代にします。平和な時代がいいし」

飛「わかりました。課長、江戸時代に設定しますよ」

胃「うーーん」まだほじっている。

 

その後、タイムトラベルする上での注意点を説明され、生命保険のようなものに入った。

胃「歴史を変えるようなことは絶対しないでね」それはもう聞いた。

そしてイカの先端の部分にある部屋に入り、がっちりとした椅子に座る。飛鳥はタイムトラベルの準備をしているが、もう一人の方は椅子に座ってボーっとしている。

飛「では、出発まであと十五秒です。シートベルト、ゴーグルを着用し、防護カプセルを展開してください。」

右腕の近くに壁にあるスイッチを押すと、半透明の膜が池袋をすっぽりと覆った。

説明によると、今自分がいるイカ型マシンは高速で移動することで、設定した時代にタイムトラベルすることができるらしい。原理は教えてもらえなかったが。

飛「10,9,8,7,6,5,4,3,2,1。イカモドキシステムを起動します」マシンが大きく前後に揺れる。

次の瞬間、池袋は空に投げ出されたかのような感を味わった。

 




これからもどんどん投稿していくのでよろしくお願いします。

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