吸血姫浪漫譚   作:ういうい0607

6 / 11
獣王との邂逅
王都到着


「………太陽なんて滅びればいい」

 

 フランのやる気は冒険の第一歩で萎えた。最強種と名高い吸血鬼であるが、意外と弱点は多い。特に吸血鬼の中で下位種である劣化吸血鬼(レッサーヴァンパイア)は太陽の光を浴びるだけで身体が灰になってしまう。フランの身体は神祖と呼ばれる最強種である吸血鬼の更に最強と呼ばれる個体のDNAを元に創った為、太陽の光を直接浴びても灰にはならないが、それでも熱でもあるのかという気怠さを感じてしまう。

 

「申し訳ありません、フラン様。私にはフラン様の怨敵である太陽めを破壊する術を持ちません。力不足な私をお許しください」

 

 何処まで本気で言っているのか、多分全部本気なんだろうなぁ、と思いつつ、ミコトが空間魔法により自身の保存領域から真っ白な日傘を取り出し、太陽の光から守るようにかざしてくれたため、フランは出来るだけ日の光を浴びないよう、ミコトに身を寄せた。

 

「ん。気にしなくていい。……それより早くいこ?」

「そうですね。ではまずは南へ進み街道へ出ましょう。その後、西へ一刻ほど歩けば王都へ到着するでしょう」

 

 ミコトに日傘を差してもらった事により少しは気怠さがマシになったフランはさっさと王都へ向かい室内に入りたい一心に足を動かした。やがて街道にたどり着くと、依頼帰りだろうかポツポツと冒険者のパーティが王都へと足を向けているのが遠くに見えた。王都の近くで吸血鬼が現れたともなれば、冒険者ギルドはすぐにA級以上の冒険者を緊急招集するだろう。もしかしたら王国でも騎士団の討伐隊が組まれるかもしれない。その為、フランは一計を案じた。話は簡単だ。フランが吸血鬼に見えなければいい。吸血鬼の特徴である鋭く尖った八重歯や、羽根を隠せば、傍目には良いところのお嬢様か商人の娘にしか見えないだろう。フランは周りが八重歯や羽根を認識できないよう一等級の魔術を使い、認識阻害を自身にかけた。これで一等級クラスの魔術師が解析魔法を使いもしない限りバレることはないだろう。

 

 オーレストとして生きていた時にも、人間と吸血鬼含む魔族の仲はとても良いとは言えなかったが、ミコトに聞いたところ、ここ数年は国家間で緊張が続き、少しの火種でも戦争が始まるような一触即発な状況だということだ。争いというのは、いつの時代にもあるものなんだな、と人類の罪深さを感じ入る。まあ、国家間の争いに自分が出る幕はないな、とか萌えの素晴らしさを世界に伝えれば争いもなくなるかも、とか取り留めのないことを思考しつつ、王都へとフランとミコトは向かった。

 

 そこからの道中は特に何もなかった。物語の始めでよくある、お姫様の乗る馬車が盗賊、もしくは魔物に追われているなんてイベントもなく王都へと辿り着いた。まあ、当たり前だ。王都の近くで盗賊行為なんてすればすぐに屈強な騎士団が飛んでくるし、王都周りの魔物は定期的に冒険者達が一掃しているのだから。前世の父から聞いたことのある物語では数多の主人公がそんな状況に出くわしていたが、その周辺の国は一体何をやっていたのだろうか、とフランは子供ながらに思っていた。

 

「やっと着きましたね。フラン様、お身体の調子は問題ありませんか?」

「ん。大丈夫。……日も落ちて来たし」

 

 王都の関門にたどり着き、中へと入る手続きをするために商人や冒険者達が並ぶ列の後ろに付いた時には、太陽は西の空へと落ちていき、薄っすらと東の空に星々が見えて来ていた。

 

「やあ、お嬢ちゃん。随分とお疲れな様子じゃねえか。今日は何処から来たんだ」

 

 やがて、フラン達の番になり、門番の兵士が気の良い笑みを浮かべながら問いかけて来た。見た目が滅多に見かけることのできない美人にしか見えないミコトはともかく、フランの認識阻害も問題なく効いているようだ。門番の問いには、予めミコトと決めておいた設定を答える。

 

「ん。……東の村から」

「へえ、あそこの村にお嬢ちゃん達みたいな美人がいたんだなあ。オッチャンも今度の休みに行ってみようかねえ」

「すみません、妹がもう疲れていますので……」

「お? あ、ああ悪りぃ悪りぃ。オッチャン美人と話せるのが嬉しくてね。さて、それじゃあ仕事をしようかね。王都へは何の目的で?」

「観光です」

「だわな。仕事をしに来たようには見えん。よし、行って良いぞ。……あ、宿屋に行くならまっすぐ歩いて最初の分かれ道をずっと右に行った所の宿り木って宿屋が飯も上手くてお勧めだぞ」

「ありがとうございます。是非、寄らせて頂きます」

「おう。じゃ、まあ、---ようこそ、王都ペンドラゴンへ!」

 

 門番の兵士による気持ちのいい歓迎の言葉を受けながら、フラン達は関門を潜り抜けた。そこに広がるのは人、人、人。多くの人が広い筈の道を隙間を縫って行くように行き交っていた。道の端には露天商達が並び、行き交う人たちに声をかけている。とても活気を感じる光景だった。

 

「さて、まずは先ほど勧められた宿屋に行きましょうか」

「……行く」

 

 宿屋で部屋を取り食事を取った後は、情報収集だ。取り敢えずは冒険者ギルドで聞き込みを行うことに決めていた。何はともあれ、まずは食事だ。遺跡で目覚めてからまだ何も口にしていないフランの腹はいい加減限界だった。今にも腹の虫が鳴りそうで---、

 

 ---ぐぅぅぅ。

 

「……早く行きましょうか」

「…………うん」

 

 居た堪れなくなったフランは赤くなった顔を見られないように早足でミコトより前に出る。もちろん、フラン命のミコトは赤面したフランという滅多に見られないものを逃すことはなく記憶領域に永久に刻み付けることに成功していたのだが。ミコトはこれ以上赤面した顔を見られたくない主のために、ゆっくりとした歩みで宿屋へとむかった。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。