吸血姫浪漫譚   作:ういうい0607

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能力の把握

「五月蝿い」

 

 銀の鈴のような澄み透った声が空間に響き渡ると同時に嵐のような激しさのある魔力が声の主を中心として吹き荒れた。その結果、迫っていた魔力砲撃は掻き消え、嵐の中心にいた3510号以外の機械人形が扉の外へと吹き飛ばされた。

 

「ぁ……オーレスト、様?」

「……ん。おはよ、ミコト」

 

 3510号が後ろを振り返ると、棺の蓋が横にずれ、思わず息を忘れるような美しい容姿を持つ少女が一糸纏わぬ裸体を晒しながらも気怠げに立ち上がっていた。腰の長さまで伸ばされた白銀の髪に、燃え盛る炎のような赤い瞳、人形のように綺麗だが表情に乏しい顔、---間違いなく少女の前世、錬金術師オーレストが夢見ていた姿だった。

 

「……はっ! 申し訳ありません、オーレスト様。私以外の機械人形たちですが、異常を起こしていまして---」

 

 あまりの美しさに茫然とし、心から喜びの感情が溢れてきそうな3510号であったが、父との再会を喜んでいる場合でないことを思い出し、状況を説明する。それを聞いたオーレストは、ん、と短い返事をして視線を宙に向ける。無表情であるため分かりずらいが、おそらくはどうすべきか考えているのだろう。3510号は前世では普通にいろんな表情を見せていたオーレストと今の無表情なオーレストを比べて不思議に思うが、口には出さず主の答えを待った。

 

「……ちょうどいい。お仕置き、する」

 

 呟くと同時に少量の魔力を練り上げ錬金術を発動させる。光が身体を包み弾けて光が収まると、黒を基調とした退廃的な要素のあるフリフリな服装に身を包んでいた。服装の背中には穴が空いており、そこから赤茶色の筋張った羽が伸びている。錬金術の行使に問題は無さそうだ、と思いつつ、自身の身体へと意識を集中させる。今世のオーレストの身体は前世で戦ったことのある最強種として名高い吸血鬼のDNAを元に、より強く弱点といわれるものを潰した最高傑作だ。制御を誤れば遺跡ごとこの辺り一キロメトム程が更地になるであろう膨大な力が渦巻いているのを感じる。今の力を把握するためにはこの状況は好都合であった。愛する我が子同然の機械人形たちに手を向けるのは抵抗があったが、どちらにしろ彼らを止めなくてはいけないし、コアを壊さずに機能停止に追い込む自信はあった。

 

 そして、吸血鬼の超然的な感覚が扉の外に吹き飛ばされた機械人形たちが動き出すのを察知する。今度は魔術を行使し、見えない魔力が全身を覆う。吸血鬼の身体は凄まじいほどの身体能力を持ち、全力で足を踏み出せば数百メトムの距離を一瞬で詰められるだろうし、全力で腕を振り抜けばオリハルコンで出来た壁さえ打ち破れるであろう。だが、身体の強度はあまり変わらない。その為、身体強化の魔術を掛けたのだ。これで一等級クラスの魔術の直撃を受けてもかすり傷一つ付かないであろう。吸血鬼は生命力にも優れた種でもある為、魔術を掛けなくても死にはしないだろうが、わざわざ痛い思いはしたくなかった。

 

「ミコト……下がってて」

 

 返事を聞かずに吸血鬼の身体能力で一気に最深部の部屋から外へと躍り出る。錬金術、魔術の行使は試した。制御の難しい膨大な魔力を使っての行使だったが、そこは前世での経験が生きる。長い人生で研鑽を続けていたオーレストに、今更、魔力制御を誤ることなどあり得なかったのだ。しかし、これから試すのは吸血鬼としての技能の行使。流石に前世でも見たことはあっても使用したことは無かったが、吸血鬼の身体に魂が定着したからか、問題なく使える感覚が己の中にあった。

 

「はっ……!」

 

 子供のような細い指先から十セメルほどの刃物を思わせるような鋭い真紅の爪が伸びる。瞬爪---機械人形の正面に立ち、コア以外へと爪を向け斬り刻む。かなりの硬度を持つはずの機械の身体をまるで紙を切り裂くかのように容易く斬り刻んでいく。コア以外は細切れにされ一体が機能停止になった。そこで他の一際大きな個体が背後から迫り巨大な腕を振り上げ、少女に向かって振り落とす。大きな音を立てて遺跡の床がひび割れたが、少女を潰した感覚は無い。一体何処に、と探知魔法をかける。すると残りの異常個体全てを見渡せる段差の上で霧が集まっていき再び少女の姿が現れた。魔力砲撃を放とうと腕を向けようとするが、なぜか全身が動かない。どうやら他の個体も動くことはできないようだ。視線を少女へと向けると彼女の瞳は真紅の輝きが妖しく光っていた。

 

「侵、入者は排除。排除、排除する……排、除」

「…………ごめんね」

 

 少女の足元から伸びる影から悍ましい程の数の腕が生え、そして鋭い槍へと姿を変える。それらは凄まじい勢いで機械人形達へと迫り、彼らの身体を破壊していく。やがて、頭部のメインカメラが壊され視界が真っ暗になり、機能を停止した。彼らの最後に映ったのは、涙と一緒に突き上げてくる呼吸を唇を固く結んで押さえているような表情を浮かべる、己の創造主の姿だった。

 

 

 


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