目覚め
ローレライ王国から数キロメトム離れた場所に、人避けの結界が張られている場所がある。今では使い手の少ない1等級の魔術によるものだ。そんな結界の中には現代では失われた数々のテクノロジーが眠る、そして一人の少女が長い眠りについている遺跡があった。
A級冒険者が五人集まってようやく倒せるほどの強さを持った
そして、今。ついにはたった一体を残し、他の個体は全て異常を起こして、最深部に眠る姫へと襲いかかろうとしていた。
「……くっ。使命を忘れた愚かな同胞達よ、これ以上先へとは進ませません!」
濃紺のワンピースとフリルのついた白いエプロンを組み合わせたエプロンドレスに身を包んだ20代女性と見た目の区別がつかない機械人形が、遺跡最深部の部屋へと続く扉の前に立ち塞がる。侵攻を遮り異常個体の数を何とか残り十体程まで減らしたが、ついに姫の身体の目前まで迫られてしまった。更に状況を付け足すと3510号の身体は既に限界に近い。魔力残量が異常個体全てを倒しきるには心許ないし、彼女の右腕はワンピースごと肩から先がなくなっていた。一言で言って絶体絶命だった。
「排除す、る。侵、入者は排除する。……退、け、3510号」
「哀れですね。使命を忘れるだけならまだしも我らが創造主であるお方を排除するなどと。同胞のよしみです、私が貴方達を
「3510号接、近。……敵性個体と認識。戦闘を開始す、る」
そして3510号にとって勝ち目の少ない戦いが始まる。だが、彼女には微塵も負けるつもりはなかった。彼女の役目が姫の身体を守ることだからというのもある。しかし、それ以上に彼女は姫を崇拝していたのだ。自身の創造主である姫---正しくは姫の前世である錬金術師オーレストは、栄光ある役目を与えてくれた。機械人形である自分を一人の人間のように扱ってくれた。そして何より娘同然に愛してくれた。彼の手に頭を撫でられるのが好きだった。彼は創造主であり父であったのだ。その彼の魂が姫の身体に宿っている。魂が定着するのに時間が掛かっているが、彼の魂は確かに自身の背後に在るのだ。ならば---、
「---負ける訳にはいかない」
腰を落とし全身の力を足元に集中し、そして踏み出す。残った左腕をロングスカートの中へと伸ばす。スカートの裏地に括り付けたナイフを同時に三本取り出し、魔力を洗練された無駄のないように注ぎ、敵へと投擲する。それらは動きの鈍い限界の近かった個体のコアへと刺さり、動作を停止させる。更に一本取り出し、動きを止めることなく敵の背後を取り、逆手に持ったナイフをコアへと一閃する。
残り六体。だが、そこで彼女の快進撃は止まる。通常、魔力を扱うことができるのは人種や魔物などの生物のみだ。それを機械の身体を持つ機械人形が扱えるのは偏にオーレストの錬金術の技術の賜物だ。そんな彼を彼女は誇りに思っていたし、自身の身体を自慢に思っていた。しかし、それはつまり魔力を扱えるのが彼女だけでないということを指している。
「くっ、魔力障壁---きゃあっ!」
五体目の背後を再び取りコアを狙った3510号だったが、コアへと突き刺さる瞬間に魔力による防壁が展開されたのだ。魔力障壁に弾かれ一瞬の隙ができた彼女の元に別の個体が迫り足を掴まれる。宙に浮いた彼女の身体をそのまま最深部への扉に向かって、凄まじい勢いを持って投げた。そして重厚な筈の扉をぶち破り、姫が眠る棺の元でやっと止まる。残った異常個体、六体は最深部へと足を踏み入れる。
ついに侵入を許してしまった遺跡最深部。そこは遺跡の中とは思えないような場所だった。中央部に祭壇があり、姫の眠る棺が大切に置かれている。周りには百合が咲き誇り、色鮮やかな蝶達が舞う、思わず息を飲むような幻想的な光景が広がっていた。しかし、このままではこの幻想的な雰囲気は機械人形の手により失われてしまうだろう。異常個体達は片手を3510号と棺へと向ける。そして魔力を収束させて、球のような魔力の塊を作り上げた。あとはそれを放出するだけで、3510号と姫の身体はこの世界から消え去ることになる。異常個体のうちの一体がまるで死刑宣告のように口を開く。
「そう何度、もワンパターンな攻撃方法では、障壁を張るタイミングも簡単だ。……さら、ばだ、3510号。侵入者、諸共消え去れ」
「や、止め……止めろぉおおおおおお!!!」
咆哮するも虚しく彼らの動作は止まらない。白い閃光が迫る。逃げ場はない。そうして彼女たちの身体が閃光に包まれる、---その瞬間。
「五月蝿い」
---魔力の嵐が吹き荒れた。
1キロメートル=1キロメトム
こういうファンタジー世界の単位っていちいち注釈しなくても大体わかるよね。