【完結】テニスこそはセクニス以上のコミュニケーションだ(魔法先生ネギま×テニスの王子様)   作:アニッキーブラッザー

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第6話『あくまでテニス』

「ほう、随分と盛況だな。この学園の繁栄ぶりを思わせる」

「こちらが食堂塔で、すべてのフロアが飲食店になっておりまして、土日祝日関係なく、大勢の人で溢れていますわ」

「そっ、だから私たちは普段はここで食べてるんだ。ゲンイチローたちは学校に食堂があるの?」

「確かに、購買と食堂がある。俺は基本的に弁当だがな」

「ふふ、真田さんのお弁当は、和式の重箱のお弁当箱を想像できますわ」

「そんなことはない。最近では部活の帰りに部員と一緒にハンバーガーも食している」

 

 休日にもかかわらず、私服の生徒や地元住民たちで溢れる広々とした食堂の光景に真田も感心した。

 そう、真田、アスナ、あやかの三人は、どういうわけか試合の合間に噂のモンブランを食べるためにワザワザ来た。

 普段の真田なら絶対にしないことなのだが、部長命令ゆえ逆らえず、また最初は乗り気でなかったものの、これも良い気分

転換になるかもしれないと、受け入れることにした。

 

「そこの店員よ。このテーブルにモンブランを三つ頼む!」

「「・・・ぶっ・・・」」

「何がおかしい!」

「いや、だって・・・戦国武将みたいなあんたがモンブランなんて・・・」

「申し訳ありませんわ。ですが私もおかしくて・・・」

「くだらんことで水を差すな。さっさと食ってテニスコートに戻るぞ。貴様ら覚悟しておけ。我らの力を存分に見せてくれよう!」

「うん。ってか、もう十分わかったって」

 

 テニスウェアを来た三人組。見る人によれば、休日に娘とテニスをやって、帰りにモンブランを食べて帰ろうとしている親子に見えるかもしれない。

 少なくとも、今はテニスを通じて互を認め合ったからか、ギスギスした雰囲気はなく、テーブルでの会話も意外に弾んでいた。

 真田の学校はどういうところか。部活は大変か。大会でのこと。時間はあっという間だった。

 真田もそれほど悪い気分でもなかった。

 だが・・・

 

「さあ、ゴーヤモンブラン、お待ちですよ〜」

「「「なっ・・・・!?」」」

 

 急にテーブルに運ばれた予想外のモンブラン三つを前にして、機嫌の良かった真田が立ち上がって声を上げる。

 

「たわけえ! 俺はモンブランを持って来いと言ったのだ! 断じてゴーヤなどではない! 普通のモンブランを持ってこんかー!」

 

 アスナとあやかもオーダーミスに文句を言おうとしたが、先ほど自分でも言ったが戦国武将のような男がオーダーミスを怒り、モンブランを持って来いという光景がシュールすぎて、思わず声が出なかった。

 だが、すぐに異変に気づいた。

 怒鳴ったはずの真田が、店員を見て固まっているのだ。

 

「き、貴様は・・・」

「おやー、真田クン。両手に花といえば、ゴーヤでしょう?」

「貴様、なぜここにいる! 木手永四郎!」

 

 真田は突如、店員に向かってそう言った。

 

「えっ!? 知り合い!?」

「真田さん、我が校に知り合いの方がいましたの?」

 

 そう、真田はこの男を知っている。

 この男の名は木手永四郎。

 現在、九州最強のテニスプレイヤーだった。

  

「球影分身の術!」

「せい!」

 

 とりあえず、本物がどれか分からないので、分身したボールを一つ打ってみた。

 すると、ラケットにボールを打つ振動が伝わった。

 だが、打とうとした瞬間、ボールは跡形もなく消え、本物のボールがエースを取った。

 

「くそ、偽物かよ・・・いや、しかし打った感覚が残る分身ボールってどういうことだよ」

「だが、ポイントを取った瞬間はもとの一つに戻る。わけわからんだろい」

「幸村・・・ボールは決して増えたりしないんじゃなかったのかよ」

 

 一体、どうやってあんなボールを打ったのか。そもそもどうやって返せばいいのか。

 ジャッカルと丸井は頭を悩ませる。だが、試合は待ってくれない。

 

「0—40。・・・・・・・・・・・・・・・サーバー」

「ちっ、わーってるよい」

 

 とにかく、本物が分からなければ打ち返しようがなかった。

 

「驚いたな。俺の目にも、全部本物に見えたよ」

「あのジャッカルがいとも簡単にエースを取られるとは・・・」

「何かネタがあるのでしょうか? しかし、一見、ただの素人のスイングにしか見えませんでしたが」

「忍者テニスか・・・もはや、本当に忍術だと思ったほうが納得できるぜよ」

 

人の業とは思えない。多くの魔球とこれまで出会ってきたが、これは異質だった。

 テニスを根底から覆しかねない未知の力。

 こんなところで自分たちの知らない世界が見られるとは思わなかった。

 

「球影分身の術!」

「ちっ、こうなったら、全部片っ端から打ってやる!」

「俺も協力すればいいだろい」

「んー、しかし、ヌシらの反射神経では一度に打てるのは四球が限界でござるな。二人合わせて八球。拙者が16分身させれば、確率は二分の一でござるが・・・仮に運良く返球できても、こやつがいるでござる」

 

 さらに・・・

 

「チャイナピローショット!!」

「ッ!? なんてショットだろい」

「ふっふっふ、楓ばかりで私を無視するのはダメアル!」

 

 クーフェのアクロバットショット。

 拳法の達人である柔軟な体とバネから繰り出す強烈なショットは、ボレーのスペシャリストと呼ばれている丸井のラケットを軽々吹っ飛ばした。

 

「いいじゃんいいじゃん、さすが、楓とクーフェのダブルス!」

「息もピッタリ、正に最強!」

「もはや、ここまで来ると相手が気の毒ですね」

「な〜、ジャッカル君とぶん太君、まだ一ポイントも取れとらんで」

 

 楓がとにかくボールを拾いまくって、更に返球不可能な分身球でジャッカルの守備を破壊し、前衛の攻めを任される丸井のボレーを、クーフェは相手の武器であるラケットごと吹っ飛ばす。

 

「ゲーム・長瀬・クーペア・3—0チェンジコート」

 

 二人の圧倒的な個々の力に、丸井とジャッカルは攻めることもできず、結果3ゲーム終わってまだ一ポイントも奪えなかったのだった。

 言い訳すら思い浮かばず、チェンジコートの際のブレークで、二人は汗を拭いて水を飲みながら、率直な感想を口にした。

 

「やっぱ、化けもんだったな、あの女ども」

「どんなに思いっきりリターンをしても、軽々追いついて返球してくる。分身球も厄介すぎるだろい。それに、あの、クーフェとかいう女。拳法の達人どころじゃねえ。ありゃあ、マスターって感じだろい」

「ああ。そのくせ、青学の菊丸以上のアクロバットとパワー。正直、真っ向勝負で決められる気がしねえ」

 

 そう、正直なところ、どれだけ打っても決まらない。そして、相手のショットはリターンできない。

 ハッキリ言って、お手上げといっても良かった。

 だが・・・

 

「丸井、ジャッカル」

 

 ベンチコーチの幸村は、それほど慌てた様子はなかった。

 いや、それは丸井とジャッカルも同じだった。

 二人も驚いたり、相手の強さにまいってはいるものの、取り乱している様子はまったくなかった。

 

「二人共、あの彼女の分身ショットは俺もよく分からない。確かに、あれを返球するのは難しそうだ。でも・・・それで勝てないと言う気かい?」

 

 幸村は、当たり前のように告げた。

 これまでの試合展開を見ても、両者の力の差は明らかだった。

 現に、丸井もジャッカルも、相手の強さの前に一ポイントも未だに奪えていないのである。

 それでも、幸村はまるで二人が負けるとは思っていない様子だった。

 すると、丸井とジャッカルは小さく笑った。

 

「ジャッカルも言っただろい。真っ向勝負では『決められる気』がしないとはい言ったが、『勝てる気』がしないとは言ってないだろい」

「ああ。正直、女相手にこういうやり方は恥ずかしいが、そうも言ってられねえな」

 

 ブレークタイムが終わり、二人は立ち上がった。その表情は何かを決意した顔だった。

 何をする気か? それを理解している幸村は、何も言わずに頷いて二人を送り出した。

 

「クー・・・」

「分かってるアル。何か、仕掛けてくるアル」

 

 その様子に、何か仕掛けてくるかもしれぬことを、楓とクーフェも空気で感じ取った。

 お祭り騒ぎの自軍ベンチだが、試合をしている張本人は冷静そのもの。

 

「面白いアル。あの、真田という男みたいに、何かしてくれなければつまらないアル。さあ、いくアルよ!」

 

 相手が何をする気かは分からないが、上等。受けて立つと、クーは自己流のスイングでサーブを打つ。

 クーのバネとパワーで繰り出したサーブは、それなりの威力ではあるが、反応できないジャッカルではない。

 

「さあ、何をするアル? 決められものなら決めてみるアル!」

 

 クーフェと楓は、ジャッカルのリターンに腰を低くして構える。油断など微塵もなかった。

 するとジャッカルは・・・

 

「ふっ、ワリーな。闘争本能剥き出しなところワリーが、もう、決める気はねえ」

「・・・えっ?」

「どうせ決まらねえなら、こっちが決めさせなきゃいい」

 

 何をする気か? 強烈なリターン? 鋭い変化のするショット? 違う。ジャッカルと丸井が仕掛けたのは・・・

 

「それ」

 

 何の変哲もないクロスのリターン・・・

 

「・・・はっ?」

 

 に加えて、非常に緩く遅いボールだった。

 

「何アレ!? あんな簡単なボールでクーフェたちが決めさせるわけないじゃん!」

「やけになったのでしょうか?」

「逆にチャンスボールじゃん! いっけー!」

「まるで、テニスのコーチが初心者に球出しするぐらいのボールや」

 

 どうしてこんなボールを? 何かがしかけられているのか? 

 相手の考えは分からないが、どれだけ緩いボールだろうと、鋭いスイングで相手コートにボールを叩き込もうとした。

 だが・・・

 

「あれ?」

「アウト! 15—0」

 

 ボールはコートから大きく外れて、アウトになった。

 

「クー、どうしたでござる」

「あ・・・いや〜、すまないアル。簡単なボールだと思ったら力んでしまったアル」

「やれやれ、脱力こそが力でござろう? おぬしにしては珍しいでござるな」

 

 クーフェのイージーミス。思わぬ形で、初めてポイントを奪われてしまった。

 だが、所詮は簡単なミス。自軍ベンチも「ドンマイ」の一言で、誰も重く捉えなかった。

 しかし・・・

 

「おい、忍者女」

「ん?」

「さっきの分身球、もう一度打ってみろい。今度はちゃんとポイント奪うからよ・・・ジャッカルが」

「って、俺かよ!」

「冗談だって」

 

 丸井のどこか余裕たっぷりの発言に、楓も少し表情が変わった。

 確かに初めてポイントを奪われたが、何か嫌な予感がした。

 

「今度はミスしないアル!」

「そうかい。じゃっ、気を付けろい」

 

 今度はリターンの丸井も、ジャッカル同様にゆるいリターンをする。

 

「楓、決めるアル!」

「長瀬さん、いっけー!」

「楓ちゃん、もう一本な!」

 

 ポイントは取られたら取り返すのが基本。

 これで先ほどのクーフェのミスはチャラになる。

 そう思って楓も分身球で打ち返した。

 だが、

 

「アウト・30—0!」

「これはっ!?」

「なっ? ちゃんとポイント奪っただろい」

 

 楓の分身球。もはや丸井もジャッカルも取ろうとすらしなかった。

 すると分身したボールは一つ残らずコート外まで飛び、単純なミスで楓とクーフェは連続でポイントを失った。

 

「おい、何やってんだよ、長瀬!」

「ドンマイドンマイ! そんなミスへっちゃらだって!」

「またさっきみたいにやれば、すぐ勝てるって!」

 

 連続でポイントを失ったが、ベンチはただ声を上げるだけで、誰も異変に感じていなかった。

 だが、楓とクーフェは、どこか違和感を覚えていた。

 

「楓・・・」

「おかしいでござる。あんなゆっくりした球を・・・簡単に決められると思ったが・・・」

「でも、あいつら、何か特別なことをしたとも思えないアル」

 

 首をかしげる、楓とクーフェの姿に、丸井とジャッカルは軽く拳をぶつけあって、小さく笑う。

 そう、二人は確かに仕掛けた。だが、それほど大それたことなどは何もやっていない。

 二人は、本当に緩いボールを打っただけなのである。

 しかし、それがテニス素人の楓とクーフェへの罠だった。

 

「やはり、素人だったね」

「こんな単純な方法で崩れるとは・・・」

「真田もこうすればもっと簡単に勝てたぜよ」

「まあ、真田くんは真っ向勝負にこだわりましたからね」

 

 麻帆良ベンチとは別に、声も上げずに余裕の表情で観戦している立海ベンチは静かだった。

 

「テニスは、速いボールを速いボールで打ち返すのは、実はそれほど難しいことじゃない。でも、緩いボールを速く返すことは、実はそれなりの技術が必要なんだ。テニスにとって緩いボール、イコール、チャンスボールじゃない。緩いボールを速く打ち返すには、打点の高さやラケットの角度、動き方やタイミングが揃わないと、強く打ちすぎて簡単にアウトになる。普通は、豊富な練習量でボールコントロールやトップスピンの技術を習得するが、フラットショットしか打てない彼女たちでは、ミスが増えるだけだ」

 

 そう、楓とクーフェは素人。

 速くて強いボールを打ったり、ボールに追いついたりのパワーとスピードと身体能力は持っている。

 しかし、これは格闘技ではない。テニスなのである。

 テニスの技術がなければ打てないショットは、彼女たちに打つことはできないのである。

 

「ゲーム・丸井・ジャッカル・1—3」

 

 ついに、自分たちのミスだけでゲームを取られてしまった。

 一本も打ち込まれて決められたボールなどないというのに。

 流石にここまでくれば、麻帆良ベンチもざわつき出す。

 

「ぬ〜、やりづらいでござる。相手がスピードとパワーのあるボールを打ってくれれば、拙者らもアバウトなスイングで相手に合わす形で決められたでござるが、こうもゆっくりなボールを打たれると、どの程度のコントロールと強さで打てば良いのか分からぬでござる」

「う〜、苛々するアル! 男らしく強く打ってくるアル!」

 

 ミスだけでゲームを失い、最初の勢いが徐々になくなってきた楓とクーフェ。

 そんな二人に丸井はボールを拾いながら、二人に告げる。

 

「お前ら、テニスの本質ってのを教えてやるよ」

「ん?」

「本質・・・アルか?」

「ああ。テニスってのは、強烈なストロークや必殺ショットも、手段であって目的ではないってことだろい」

 

 丸井はそれだけを言って、ジャッカルにサーブのボールを渡す。

 言われた二人はハッキリ言って、それだけでは丸井が何を言いたいのか分からなかった。

 

「分からないなら、カンフー女。俺に強いボール打ってみそ。それで教えてやるよ」

「ぬっ、バカにしているアルか!」

 

 丸井のどこか上からな発言に、クーフェの肩の力が入る。

 それを見て、ジャッカルは口元に笑みを浮かべて、今度は強烈なサーブをクーに打った。

 

「そら! 悔しいが、これぐらいのスピードなら逆に打ちやすいんだろ! リクエスト通り、ブン太に打ってみな!」

 

 速く強烈なボール。だが、それでも自分たちにはこの方が打ちやすいのは事実。

 しかし、バカにされている・・・

 

「ッ、それなら容赦しないアル!」

 

 クーフェは自分が見下されていると思い、ならば容赦なく正面から打ち砕くことにした。

 ボレーで構える丸井に向かって、踏み込み、脱力、一瞬の解放という流れで、爆発的な打球を打った。

 それは、アスナのバズーカーのようなストロークと一切遜色ない。

 

「ッ!?」

 

 当然、丸井のラケットは軽々ふっとばされた。

 あまりの威力に、コート外から息を飲んだ音が聞こえた。

 だが、それでも丸井はどこか余裕で、口元から風船ガムをふくらませた。

 

「確かにスゲーショット。インパクトの瞬間にラケットを手放さなければ、手首がいかれてただろい」

 

 そう、ラケットを吹っ飛ばされたように見えたが、ただ単にボールと当たった刹那のタイミングで丸井はラケットから手を離したのだ。

 だから丸井にダメージは特にない。

 さらに・・・

 

「ボ・・・ボールは・・・あっ!?」

「なっ!?」

 

 そして、ラケットはふっとばしたものの、ボールの決まった音がしない。

 ならば一体どうなった? 一瞬の間をおいて、楓とクーフェが気づいたとき、ボールはネットの上に乗っていることに気づいた。

 ボールはそのままネットの上を転がって、最後は自分たちのコートに入ったのだった。

 

「妙技・綱渡り・・・どう、天才的?」

 

 一瞬のできごとに、反応することすらできなかった楓とクーフェ。今度ばかりは完全に決められた。

 ボールとラケットのインパクトの瞬間からラケットを手放すまでにこれだけの芸当をやった丸井。

 そして、それが偶然でなく、狙ってやったと誰の目にも明らかだったからこそ、このプレーには誰もが目を奪われ、そして、

 

「「「おおおおおおおおおお、なんだそれええええええええええええええええ!!」」」

 

 敵味方問わずに歓声が上がったのだった。

 

「・・・ま、まんまとやられたアルか?」

「見事でござるな」

 

 完全にデザインされたプレーで、相手の思惑通りにやられた。

 言葉も出ないクーフェと楓に今度はジャッカルが言う。

 

「ブン太も言ってただろ? これがテニスの本質だ」

 

 テニスの本質。この、綱渡りのボレーがか? いや、違う。

 

「ボールを一球多く相手コートに入れた方が勝つ。それがテニスだ」

「・・・・あ・・・」

「それが目的であるからこそ、分身球もカンフーショットも俺たちが打つ緩いボールと同じで手段でしかないってことさ」

 

 そう、それがテニスにおける絶対に揺らぐことのない大前提のルールである。

 丸井とジャッカルは相手に惑わされずに、単純にテニスで勝負することに決めた。

 


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