【完結】テニスこそはセクニス以上のコミュニケーションだ(魔法先生ネギま×テニスの王子様)   作:アニッキーブラッザー

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第二試合:ボレーのスペシャリスト・丸井&鉄壁の守護神ジャッカルVS甲賀中忍・長瀬&拳闘の求道者・古菲
第5話『未知の領域』


「うらあ! せい! うっし!」

 

 テニスボールを打つ音と、ボールが壁にぶつかって跳ね返る音が響く。

 

「どらあ!」

 

 テニスコートから少し離れた場所で、校舎に向かって汗を流しながら壁打ちをしている一人の選手。

 立海大附属中二年・切原赤也。

 二年生にして唯一超強豪立海のレギュラーを勝ち取り、様々な試合を経て大きく実力を増した彼だが、今は少し心の中で焦りが出ていた。

 

「ちっ・・・まさか、あんな女共がいやがるとはな。それに勝っちまった真田副部長もすげえが、俺はどうするよ・・・さすがに、女にボールぶつけんのもな・・・」

 

 切原赤也。プレースタイルは超攻撃型。

 いくつもの大会最短記録試合を持ち、たまに激しいラフプレーで相手を容赦なく叩きのめして試合続行不可能にすることもある。

 そんな彼についた異名は・『悪魔(デビル)』。

 しかし、その悪魔も想像を遥かに超える力を持った女たちに、言いようのない緊張感を持っていた。

 

「くそっ、ちげえ! ビビってるわけじゃねえ。それに、女だろうが容赦はしねえ! 俺の野望は立海ナンバーワンになり、そして全国ナンバーワンになって、この切原赤也の名を全国に轟かせることだ! こんなところで、あんな女どもに負けてたまるかよォ!」

 

 壁を破壊する勢いでボールを強く打ち込む切原。

 しかし、渾身の力で打ったボールは校舎の壁の僅かな傷にあたって、ボールの返ってくる方向が変わった。

 

「いい!?」

 

 その先には・・・

 

「ちょっ、あぶねえ!」

「ん? ったあ!? いった、なんやねん、いきなり」

 

 赤也の打ったボールが不運にも道を歩いていた子供に当たってしまった。

 

「やべっ、ワリーワリー、ちょっとミスちまった。大丈夫か、ボーズ」

「ん、まあ、俺も油断しとっただけやし、別に大したことないで。・・・ん? テニスボールか」

 

 慌てて駆け寄るが、大した怪我もなさそうでホッとした。

 子供は少し頭を抑えているが、とても元気そうな様子だった。

 すると、

 

「小太郎くんがよそ見してるからだよ〜」

「修行が足りないのかしら?」

「なっ、ちょ、今のは油断しただけや、夏美姉ちゃん、千鶴姉ちゃん!」

 

 ボールにぶつかった少年に寄り添う二人の女が居た。

 一人は切原から見ても同級生ぐらい。もう一人は大学生かそれ以上。

 

「あっ、すんませんっす。この子のお姉さんっすか?」

「お姉さん? ん〜、私はそんなところですけど、夏美ちゃんは違うかしら? ・・・恋人?」

「ちょっ、ちづねえ!?」

「千鶴姉ちゃん、初対面の奴に何言うとんねん!?」

 

 ・・・恋人・・・? 小太郎という子は小学生ぐらいにしか見えない。

 対する夏美と呼ばれた女の子は自分と同じ歳ぐらい。

 一瞬冗談かと思ったが、何だか反応が怪しい。

 

(うわ・・・あんま関わんね〜ほうがよさそーだな)

 

 なんだか微妙な予感がしたので、切原はさっさと謝ってその場から立ち去ろうとした。

 すると、

 

「なあ、兄ちゃん。テニスボールとラケット持っとるゆうことは、兄ちゃんが今日、ネギたちとテニスする学校なんか?」

「あっ? ネギって・・・あのちっこいガキか?」

「そや、あいつは俺のライバルや」

 

 呼び止められて振り返る切原に小太郎が言う。すると、夏美も千鶴も反応が変わった。

 

「あっ、じゃあ、今日クラスのみんなが試合するのって、あなたなんですか?」

「あら、そうだったのですか? でしたら、私たちも今から応援に行くところだったのです」

「うちのクラスって・・・じゃあ、あんたらのあの人たちのクラスメートっすか」

 

 あの化物女のクラスメート? 立ち去ろうとする切原の興味を示すには十分だった。

 それどころか、

 

「ええ。初めまして。私は麻帆良女子中三年の那波千鶴ですわ。そしてこちらが村上夏美ちゃんで、この子が夏美ちゃんと将来結婚する小太郎くんですわ」

「だからちづねえええええええええええ!?」

「えっ・・・ちゅ、中学!? あんたも、中学生っすか!? 俺の一個上!?  いやいやいや、んな馬鹿な」

「・・・・・・・・・・・・なにか?」

「ッ!?」

 

 なんと、大学生以上だと思っていたら同じ中学生だった。

 その時、切原は突如千鶴から溢れた真っ黒いオーラと笑みに恐怖し、大きくのけぞった。

 

(なっ、なんなんだよ、この女。幸村部長とは違うが・・・ハンパじゃねえオーラが・・・なんなんだよ、この学校は)

 

 コートに集まった連中以外にも、まだこんな化物がいたのか?

 どこまで自分を馬鹿にすれば気が済むのか。

 切原は舌打ちしてその場を立ち去ろうとする。

 

「おっ、行くんか? なあ、兄ちゃん。試合はどうなっとるんや?」

「まだ1-0だ。一応俺たちが勝ってるが、次の試合はまだ一時間先だ」

「えっ? 何で?」

「ウチの副部長とあんたらんとこの神楽坂って女との試合で、テニスコートがブッ壊れたんだよ。今、その修理中だ。俺は時間があるからここでアップしてるだけだ」

「あらあら」

「ちょっ、神楽坂ってアスナ姉ちゃんか!? 今、兄ちゃん達が勝ってる言うとったが、アスナ姉ちゃんが負けたんか!?」

「ああ。確かにあの女もすごかったけどよ、真田副部長は鬼人だ。勝てるわけがねえ」

 

 そうだ、自分たちを誰だと思っている。

 自分たちは最強立海の最強メンバーだ。女なんかに負けるはずがない。

 だから、自分も負けることは許されない。

 例え、どんな手を使おうとも・・・

 

「信じられんわ〜、テニスなんてナヨいスポーツしとる奴らにアスナ姉ちゃんが負けるやなんて」

 

 その時、小太郎の不意の一言が、イラついていた切原の琴線に触れた。

 

「おい、テメエ、今、なんつった!」

「はっ?」

「テニスがナヨいとか言ったか!? 潰すぞ!」

 

 切原は突如振り返り、まだ幼い小太郎の胸ぐらを掴みあげようとした。

 小太郎も急なことで一瞬、体を反応させようとしたら・・・

 

「待ちなさい」

「「ッ!?」」

 

 切原の手を、千鶴が抑えた。

 そして、

 

「えい」

「はぶ!?」

 

 千鶴の手刀が小太郎の頭部に炸裂した。

 いきなり何すんだ!?

 そう言おうとしたが、千鶴の黒いオーラを纏った笑みに小太郎は恐怖して言葉が出なかった。

 

「小太郎くん、彼に謝りなさい」

「はあ? 俺は別に・・・」

「・・・別に?」

「うっ!? あ、謝るて! なんやしらんけど、兄ちゃん、堪忍な!」

「・・・ごめんなさいね。子供だから自分が何を言ったか分かっていないの。許してくれるかしら?」

「・・・あっ・・・いや・・・別にいいっすよ」

 

 一瞬テニスをバカにされたことを怒ろうとした切原だが、千鶴の対処と妙なオーラに切原も調子が狂った。

 確かに子供の言ったことだし、大人気ないので、水に流すことにした。

 

「まっ、邪魔だからさっさと行ってくんねーすか? 俺は、あんたらのクラスメートを血祭りにするための準備中なんすよ」

「あらあら、物騒ねえ。テニスをするのでしょう?」

「関係ねえ。俺の野望を妨げるやつは、全員潰す!」

 

 そうだ、それが自分だ。切原赤也だ。

 相手が誰でも関係ない。

 一度テニスコートに経てば、相手を二度と立ち上がれぬほど痛めつけて潰す。

 そうやって、ずっと勝ってきた。相手が女子でも関係ない。

 潰す・・・

 

「潰すなんて言ってはいけませんわ」

 

 その時、千鶴の軽いチョップが切原の頭を叩いた。

 

「テニスを馬鹿にされて怒ろうとしたあなたが、そんなプレーをしてはいけませんわ」

「ッ、何しやがッ!?」

「テニスはスポーツ。スポーツを憎しみの生み出す道具にしてはいけませんわ」

「はあ!? あんたには関係ないじゃないっすか! 大体、初対面でなんなんすか!」

 

 ふざけんな。女だからって容赦・・・

 

「関係ないとか言ってはいけませんわ。たとえ、素人でも、あなたのテニスに対する考えが間違っていることはわかりますわ」

「なっ!? ・・・なら、教えてやりますよ。俺のテニスは最強を目指すテニスだ。邪魔する奴は、全部真っ赤な血に染めて潰す! それが俺のテニスだ!」

 

 自分のプレースタイルを堂々と告げる切原。

 

「なあ、夏美姉ちゃん・・・俺もよう知らんのやけど、テニスってそういうスポーツやったか?」

「5000%違うよ・・・」

 

 小太郎と夏美も、切原の言葉に困った表情を見せる。

 だが、千鶴は、

 

「あらあら、困ったわねえ〜・・・う〜ん、あなた、お名前は」

「立海大附属中二年。切原赤也っすよ」

「では、赤也くん?」

「い、いきなり下の名前っすか!?」

「元気なのはいいけど、もうちょっとお利口さんになろうね、赤也くん」

 

 ぎゅっ・・・なでなでなで

 

「ッ!!??」

 

 一瞬何が起こったのか、切原は状況を確認する。

 何故か、初対面の女にメッされた。

 なんか抱きしめられた。胸元の弾力のあるものが顔にあたる。

 何故か抱きしめられながら、頭を撫でられてる。

 

「ちょっ、一体、何するんすか! ふざけんじゃねえ! 何で、俺をガキ扱いしてるんすか!」

「あらあら、なんだか赤也くんは、体の大きな困ったさんね」

「ちょっ・・・いい加減に・・・」

 

 何でこんなことになっているんだ?

 それに何でこんなことをしている千鶴を誰も止めない?

 

「アカンな〜、完全に千鶴姉ちゃんにロックオンされたんやないか?」

「はは、ちづねえは母性本能の塊で、基本は小さい子がターゲットだけど・・・母性本能をくすぐるワルガキにも反応しちゃうから・・・」

 

 千鶴の背後で夏美と小太郎は気の毒そうな顔で切原に苦笑していた。

 

「そうなの・・・そうだったの。あの手のかかるヤンチャボーズだった小太郎くんも、魔法世界の冒険を経て立派な男の子になった。そして、小太郎くんにはもう夏美ちゃんという人生のパートナーまで見つけて、私の役目なんてもう終わった。そう思っていましたわ。でも違った、私には今日出会った赤也くんを正しい道へ導くという使命があったの」

「なあ・・・この姉さん、頭大丈夫か?」

「諦めや。千鶴姉ちゃん最近、忙しすぎて保母のボランティアも行けてへんし、最近俺ともあんま絡んでへんから、母性本能を発散する場がないんや」

「えっと、切原くん? ご愁傷様・・・」

 

 悪魔が聖母に捕まった瞬間だった。

 

 

 一時間後。

 コートの整備は問題なく終わった。

 それどころか、破損したとは思えぬ状態で、新品のテニスコートが入ったのではないかというぐらいの整った状態だった。

 これほどの環境で一番に打てるのはラッキーだ。そして、ようやく出番が来た。

 立海の丸井ブン太とジャッカル桑原がコートに入る。

 二人を送り出す立海メンバー。

 だが、同時に幸村はある憂いを感じていた。

 

「やれやれ。真田だけでなく、赤也まで戻ってこないとは・・・何かあったかな?」

 

 そう、実は時間が来たにもかかわらず、モンブランを食べに行った真田と、アップをしに行ったはずの切原まで帰ってこないのだ。

 当然、一緒に行ったアスナやあやかも戻ってこない。

 もっとも、麻帆良生徒たちはそれほど心配している様子ではないが、流石にあの真田が戻ってこないことには幸村も少し不思議だった。

 

「まあいい。真田にはゆっくりしろと言ったんだし。赤也には・・・まあ、ペナルティかな?」

「赤也・・・お前は、精市の恐ろしさを忘れたか」

「しかし、切原くんならまだしも、まさか真田くんまでとは、少し心配ですね」

「ぷりっ・・・まさか、女ども連れてどこか・・・」

 

 だが、戻ってこないことには仕方がない。

 どちらにしろ、試合は始まるのだ。

 今はただ、目の前の試合に集中するしかない。

 

「では、これよりダブルスの試合を始めます! ワンセットマッチ・ジャッカル・丸井ペア・長瀬・クーペア。ジャッカル・トゥ・サーブ!」

 

 審判のコールとともに、四人が腰を落とす。

 対戦する、楓とクーフェは、余裕なのかどこか笑っているように見える。

 ならば、その笑みを一瞬で変えてやる。

 ジャッカル桑原はトスをあげて渾身のサーブを楓に打ち込む。

 

「ファイヤー!」

 

 強烈なファイヤーサーブ。たったこれだけで、素人にもジャッカルのレベルの高さが分かる。

 だが、

 

「ほうほう、なかなかの剛球でござるな。と、こうでござったかな」

「ッ!? 楽々返しやがった、こいつらもバケモンかよ! せいっ!」

「よっと」

 

 楓は楽々とジャッカルのサーブに反応して返球。

 ジャッカルも悔しがるものの、アスナの実力を見た後では想定の範囲内とばかりに、鋭いストロークで応戦する。

 ジャッカルと楓が互いにクロスのボールを打ち合うラリー。丸井は定位置から動かず、来るべき時が来るまで不動の構えだ。

 一方で、

 

「うー、楓ばかりズルいアル! 私も打つアル!」

 

 ジッとしているのがつまらなかったのか、クーフェが無理やり横に動いてポーチに出ようとした。

 その不用意な動きを逃すジャッカルではない。

 

「バカが、ガラ空きだぜ!」

 

 咄嗟にストレートに方向を変えて空いたスペースに打ち込む。

 完全に決まった。少なくともいつもの試合ではそうだった。

 しかし、

 

「これこれ、ペアを組む以上勝手は困るでござる。よっと」

「ぬぬ、すまんアル」

 

 楓がカバーに入ってボールに追いついた。

 

「ちっ、なんて足してやがる!? あれに追いつくか!? 横移動の縮地法かよ!」

「いやいや、瞬動でござる」

「なるほど、テメェもあの女と同じぐらいのスピードってか!」

「んー、残念ながら、単純な瞬動なら拙者の方がキレは上でござるがな。それに、全力を出せばこの程度ではござらんよ」

 

 再びラリーに戻ったジャッカルと楓。楓の守備範囲の広さからもポイントを奪うのは難しい。

 だが、それは相手も同じ。

 

「上等だ。どんなにテメエがリターンしようが、俺の守備も崩させねえ!」

「ほ〜、一般人のレベルにしてはなかなかの敏捷性でござるな」

「俺がいる限り打球は後ろへ通さねえYO! これぞ俺の反復守備(ターンディフェンス)・『ねずみ花火eat』!」

 

 コートの端から端を走り回ってディフェンスを続ける反復ディフェンス。

 ジャッカルは己が守備に徹した時の力に自信を持っていた。

 例えポイントが取れなくてもポイントを奪わせない。持久戦なら負けない。

 そう思っていたのだが・・・

 

「ふむ。確かに普通のボールを打っていては、『怪我』もさせずにその守備を断ち切るのは難しいでござるな。なら、忍打を一つ打たせてもらうでござる」

「何!?」

 

 忍打? 何が来る? 

 

「ジャッカル、何か来るぜい!」

「分かってる! 決して通さねえ!」

 

 ジャッカルが全神経を集中させて楓のボールを待つ。

 

「いくでござる!」

「ッ!? よく、そんな下手くそなスイングで、そんなボールを打てるな!」

 

楓がラケットを素早く振りぬく。速い。そして重いだろうと分かる。

 しかし、なんの変哲もないただの強烈なストロークならば、返せる。

 ジャッカルが腕に力を入れてリターンしようとした。

 すると、

 

「忍打・球影分身の術!」

「ッ!? ボ、ボールが増えた!?」

 

 何が起こった? 

 

「これは分裂・・・いや、違げえ! 本当に増えてるように見えるぞ、どうなってやがる!」

 

 これまで分裂球を打ってくる連中はいくらでも居た。

 だが、それは分裂しているように見えただけ。

 高速でボールが揺れ動いているだけでボールは一つだった。

 だが、これは違う。一瞬でボールが十球に増え、更に全てが本物に見えた。

 どれを返していいのかなど判断できず、十球のボールがジャッカルを抜いた瞬間、ボールは再び一つに戻った。

 何事も無かったかのように。

 

「0—15!」

「・・・・・・マジかよ・・・」

 

 審判のコールとともに、コートの周りで大歓声が起こった。

 

「出たー、楓の忍者テニス! 影分身ボールだー!」

「スゴ!?どうやって、あんなの打ったのよ!」

「ちょっと待てー、長瀬、テメエそれは卑怯すぎだぞ!」

「楓・・・それはさすがに・・・」

「は〜、こればっかしは千雨ちゃんとせっちゃんの言うとおりかもしれんな〜、楓ちゃん、意外と容赦なしやな〜」

 

 麻帆良生徒たちの歓声に、楓は恥ずかしそうに頭をかく。

 そして、自分ばっかりズルいとばかりにむくれるクーフェと軽くハイタッチ。

 

「ちなみに拙者の影分身は・・・16分身まであるでござる」

 

 ジャッカルと丸井のショックは大きかった。

 


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