【完結】テニスこそはセクニス以上のコミュニケーションだ(魔法先生ネギま×テニスの王子様)   作:アニッキーブラッザー

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特別アフター:ボウリングの王子様ー3

「よう、こんなに早く再戦できるとは思わなかったぜ」

「そんな喧嘩腰に来るのは勘弁しろし」

 

 中学生グループの連敗がストップしたとはいえ、死闘は終わらない。

 最恐不良の亜久津が、高校生相手にメンチ切っている。

 相手の男は、ダボダボジャージでヒッピー風の容貌をし、どこか気だるげな雰囲気を漂わせる、大曲竜次。

 かつて、亜久津とは図書館で色々あったとかなかったとか……

 

「ひいいい、な、なんか既に一触即発っていうか……ほ、本当にボーリングだよね?」

「亜久津くん、い、今にも、な、殴りかかりそうな……」

 

 女子校ゆえに、不良というものに馴染みのない女生徒たち。これまで何度かのイベントで亜久津を見てはいるものの、未だに慣れない様子。

 しかも今日は、普通の高校生とは違う連中がズラリと集結しているため、いつもより緊張感が漂っていた。

 

「ちょっと、亜久津くん! 喧嘩はそれまでですわ! それに、相手は高校日本代表の方ということは、あなたの先輩でもあるのでしょう? 目上の方にその態度は失礼ですわ!」

 

 そんな亜久津に強く言えるのは、この中で何故か一番亜久津と関わりのある雪広あやかがチョップで亜久津の頭を叩く。

 そんなことができる女がこの世に何人居るだろうか?

 

「「「「「い、いいんちょおおおおおおお!?」」」」」

 

 心臓に悪いあやかの行動に一同がビクビクして叫ぶ中、亜久津は般若のような顔をして振り返る。

 

「誰に指図してんだこのブルジョワ女が。ドタマかち割るぞ!」

「口汚く言うのはおやめなさい! あなたはスポーツ選手! 暴力ではなくスポーツで相手を黙らせなさいな!」

 

 この二人の喧嘩も実はかなりの回数を重ねている。

 会えば喧嘩ばかり。罵りあう。しかし何故か行動を共にしている。

 そんな良く分からない関係性だった。

 

 

「おい、デキた彼女が言ってんだ。言うとおりに、さっさと投げるし」

 

「「っ、彼女じゃねえ(ないですわ)!!」」

 

「……はあ、分かった分かった、いいからやるし」

 

 

 大曲竜次がアクビしながら二人を促す。

 結局亜久津は今にも殴りかかりそうな様子だったものの、舌打ちしながら結局ボーリングのボールが並ぶ場所まで行ってボールの重さを選び出した。

 

「ちっ、くそが……」

「…………」

 

 並ぶボーリングのボールの列をガサゴソと雑に漁る。綺麗に並んでいたボールが漁られていると、次第に大曲がウズウズしだし、そして……

 

「……」

「あん?」

「……ちゃんと並べなおせし」

「……ふん」

「並べなおせし……」

 

 大曲竜次。特徴は、意外と几帳面……

 

「コラアアアアア、ぶち殺すぞ!」

「並べなおせし」

 

 亜久津がボーリングのボールを指にはめて、なんとそのまま大曲に殴りかかった。

それどころか、その場にあったボールを一斉に大曲に投げる。

 

「勘弁しろし」

「上等だコラァ!」

「仕方ねえ。俺の二刀流……二球流で相手してやるよ」

 

 すると大曲は、亜久津のボーリグパンチ、ボーリングの雨を軽やかに回避しながら、投げられたボーリングのうちの二つを持ち上げて、どんどん投げられてくるボールを弾いていく。

 

「キャアアアアア、ちょ、ボーリングのボールで喧嘩とかしゃ、シャレにならない!」

「やめるんや、亜久津くん! 女の子もおるんやで!」

「しかし……あの野生的な動きの亜久津殿の動きを軽やかに回避するとは、あの高校生……やるでござるな」

「なんや、喧嘩なんか? ワイも混ざるわー!」

 

 一斉に悲鳴が上がるボーリング場。

 もはや誰も手が付けられない。

 

 

「ふう……殺意は認めるが、目障りだな……滅ぼすか……」

 

「やめろ、平等院。奴の力は世界で戦うには必要だ。あいつの死に場所は世界の舞台だ。まだ滅ぼすな」

 

「ほう、随分と奴を買っているようだな、鬼」

 

「あたぼーよ。奴は才能の化け物だ。もし奴が自分の真の力を解放できたら、このボーリング場だって消し飛ぶさ。それだけの才能と力を奴は持っている」

 

 

 流石に止めるかと、平等院が立ち上がろうとするも、容赦しないであろう平等院を鬼が止める。

 しかし、そうしている内にも被害がどんどんと……

 

「おやめなさい、亜久津くん!」

 

 ボーリングのボールが飛び交う雨の中、勇敢にもそのど真ん中に身を投げ出して、その争いを止めようとする一人の女。

 

「ッ!?」

「あぶな……」

 

 咄嗟にボールの軌道を紙一重でズラした大曲と、寸止めでギリギリにパンチをあやかの眼前で止めた亜久津。

 その表情は突然の出来事に驚き、言葉を失っていた。

 すると、あやかは……

 

「あなたはスポーツ選手。同時に今のあなたはこの国を代表する選ばれし方なのですよ? そのような方が……競技が違うとはいえ、ボールは人を傷つけるためのものではないという常識が、どうして分かりませんの!」

 

 それはあまりにも真っ直ぐで、そして当たり前すぎることで、まるで母が子供を叱っているかの様子。

 ボールは人を傷つけるためのものではない。

 そんなことは誰もが……

 

 石田銀……108式まである。

 木手永四郎……殺し屋。

 遠山金太郎……108式より危険。

 切原赤也……真っ赤に染める。

 伊達男児……男児の春。

 袴田伊蔵……やれ恐ろしいことじゃ。

 遠野篤京……処刑大好き。

 鬼十次郎……ブラックジャックナイフ。

 デューク渡邊……ホームラン

 平等院鳳凰……言わずもがな。

 

 ……意外と、分かってなかったりもするのだが、とりあえずあやかのその言葉と真っ直ぐな瞳に、亜久津もアホらしくなってソッポ向いた。

 

「けっ……くだらねえな……」

 

 くだらない。だが、そういいつつも、散らばるボールの一つを拾い上げる亜久津はレーンの前に立ち、真っ直ぐピンを見据える。

 そして……

 

「オルァ!」

 

 通常のボーリングと違い、まるで円盤投げのようにボールをぶん投げる亜久津。

 その独特でダイナミックな動きに誰もが言葉を失うも……

 

「ちょっ、な、なにあのフォーム!? 円盤投げ!?」

「ちょーーーー、あ、あぶなああああ!?」

「す……ストラーイク! すげえええ!」

「ちょ、ボーリングのボールを転がさないで、ぶぶぶ、ぶん投げた!?」

「すげええ、なんなのあの人は相変わらず!」

「流石、十年に一人の天才、怪物亜久津!」

 

 何だかんだで、何でもやれば出来てしまう天才亜久津のストライクに、先ほどの悲鳴とは打って変わって歓声が上がる。

 大曲の表情に大きな変化は見られないものの、流石に驚いたのが、僅かに目元が動いた。

 そして……

 

「ふふふ、何だかんだで、結局結果を出しますのね、あなたは」

 

 文句なしにストライクを取った亜久津に笑顔で拍手を送るあやか。そしてあやかは自然に手を挙げ……

 

「けっ。テメエもエラそうなことをほざいたんだ。ミスるんじゃねえぞ……相棒」

「勿論ですわ。パートナーとして、あなたの足を引っ張るようなマネはしませんわ」

 

 パシンと乾いた音が響いた。それは、不良とお嬢様という異色の組み合わせが見せたハイタッチであった。

 だが、ただのハイタッチなのだが……

 

「むっ?! こ、これは……おんや~? ほのかなラブ臭が……」

「あれ? ……ねえ、なんか……いいんちょ……」

「は? え? いやいや、ないないないって。だっていんちょだよ?」

「そうそう。ショタコンいいんちょが……ねえ?」

 

 亜久津とあやかの二人の間に何かを感じ取った生徒たちだが、すぐに「そんなことあるはずがない」と首を横に振った。

 だが、二人の間に流れる爽やかな、青春の光景に何かを感じ取ったのは誰も否定できなかった。

 そんな二人の様子に、大曲も「やれやれ」と溜息。

 

「やれやれ。手強くなったみてーだな。勘弁しろし」

 

 面倒くさそうに溜息を吐きながら、大曲が落ちているボールを二球拾って構える。

 

「仕方ねえ。俺の二球流で改めて相手してやるよ」

 

 そして…………

 

「出た! ラケットもボーリングも二刀流大曲先輩!」

「おいおい、そんなことしていいのか!?」

「……いや……そもそもボーリングのルールでは」

 

 大曲のパフォーマンスに歓声が上がり、噂の二刀流が解禁される……と誰もが思ったのだが……

 

「は、反則です!」

 

 宮崎のどかがルールブック片手に抗議の声を上げた。

 

 

「あの、ボーリングは二球同時に投げるのは禁止されてますし、ボーリング場の注意書きにも玉詰まりがするからダメって書いてあります!」

 

「……………」

 

 

 だが、大曲は既にボールを投げた後であった。一応十本倒れたのだが、それはもはや何の関係もなく……

 

「かんべんモオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」

 

 失格で牛になった……

 

「……わ、わたくし……投げる前に終わってしまいましたわ……な、なんですの? この不完全燃焼な気持ちは」

 

 既にマイグローブとマイボールを準備して待機していたあやかは、顔を引きつらせて、行き場の無くした想いを抱いたままモヤモヤした状態で立ち尽くしていた。

 

「けっ、スッキリしねえぜ」

 

 同じく亜久津もまた、合宿所で大曲に敗れたため、そのリベンジも兼ねていたこの対戦の不本意な結末に不満気であった。

 すると、そんな亜久津に高校生の鬼が声をかける。

 

 

「つまり、お前の大願を晴らす場はここにはないってことだ。そして死に場所もな」

 

「あ゛?」

 

「大曲はもう敵ではない。お前の倒すべき相手は世界だ。それまでその心の牙を研ぎ続け、駆け上がって来い、亜久津仁」

 

 

 晴れなかった気持ちは世界で晴らせ。鬼のメッセージに、亜久津は食いかかるでも拒否するでもなく、ただ黙って聞いていた。

 そして鬼はその傍らに居るあやかに……

 

「へい、そこのガールよ」

「えっ? わ、わたくし……ですの?」

「そいつを頼んだぞ」

「……えっ?」

 

 突如亜久津を委ねられたことに困惑するあやかに、鬼は続ける。

 

 

「そいつはテニスセンスや気迫、野生や殺意も一級品だが、ココ……ハートが……情熱がまだまだ不安定だ。何故なら、そいつはここに居る奴らと違い、団体戦でも自分のためだけに戦ってきた。学校の看板を、国を、誇りを……誰かのために戦ったことがない。そういう奴は、とてつもない巨大な壁が立ちふさがった時、簡単に投げ出しちまう。だから……お前がそいつを奮い立たせてやれ」

 

 

 怪物亜久津。天才的なテニスセンスを持ちながらも、情熱の無さゆえに燻り続けた。

 一度、越前リョーマの存在で心に火を付けるも、敗北と同時に燃え尽きてテニスを捨てた。

 やがて、もう一度テニスへの情熱を取り戻すも、それもまたいつその思いを失うかは分からない。

 だからこそ、鬼はこれからの日本のため、亜久津にもし何かがあったら、あやかが尻を叩いてでも立ち上がらせろと告げているのである。

 あやかからすれば、「何故自分が?」という話ではあるが、しかし……

 

 

「……分かりましたわ」

 

「あ゛? おい、こら、テメエら何を勝手に―――」

 

「これからの日本のため、太一くんのためにも、わたくしが彼の責任を持ちますわ!」

 

 

 あやかは、胸を強く叩いて宣言したのであった。

 

「ざけんな、コラァ! 殺されてーのか、貴様ァ!」

「日本代表がそのような言葉遣いはダメだと言ったではありませんの! あなたは――くどくど――あーでもないこーでもない!」

「テメエ、ドタマ―――」

 

 ちなみにこの二人は将来結婚することになるのだが、そのことはまだ誰も知らない……

 

「ふん、甘いな鬼よ。愛だけでは世界は獲れんのだ」

「平等院……」

「腑抜けた愛に現を抜かし、牙と刃を失った野生と殺意で、大海原で生存できると思っているのか?」

 

 一方で、そんな状況に対して厳しい瞳で発言する平等院。

 たとえ、鬼や亜久津の実力を認めても、鬼の意見には否定的であった。

 

「野生と殺意は奴の武器だ。それを失えば、奴に脅威も感じぬ。まあ……野生という意味では、あっちの小僧は大したものだがな」

 

 あやかの愛で失うかもしれない、亜久津の殺意や野生に対し、平等院の瞳には……

 

 

「大車輪山嵐ストライクやアアアアアアアアアアアアア!」

 

 

 正に野生児とも言うべき遠山金太郎。使用したレーンはピンを十本倒すどころか、レーンそのものが破壊されて煙が上がる。

 遠山金太郎・長瀬楓VS伊達男児の対決が始まり、そして既にクライマックスであった。

 

「くっ、だ、男児の春!」

 

 金太郎のパワーに冷や汗をかきながら、負けじと己もパワーショットを繰り出す伊達男児。

 だが、レーンを破壊するまでには至らずピンも九本しか砕けなかった。

 

「いえ~い、ワイの方が倒したで~! 次、楓の姉ちゃんが十本倒せたら、ワイらの勝ちや~!」

「無論でござる。そして、拙者は先ほどの高校生のように二刀流しなくても……玉影分身の術!」

 

 続く楓が分身ボールを放ち、余裕で十本倒し。

 

 

「男児のンモオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!?」

 

 

 回りが亜久津とあやかのフラグのようなラブコメに目を奪われている裏で、ボーリング対決が普通に続行されていた。

 そして、本来は、高校生組が恋愛に浮かれている中学生たちに活を入れるために行ったはずのボーリング大会であったのだが、徐々に中学生組みの反撃が開始されるのであった。

 

 

「そんな……そんなー! ぼ、僕が、僕がストライクを取れないなんて嘘だー! ……なーんてね♪」

 

「入江さん。演技で騙して、ストライクが取れた夢でも見たのかな?」

 

「ッ!? そんな? こ、これは何も見えない!? 僕の五感が奪われたっていうのか!? ありえない! ボーリングで五感が奪われるなんて!」

 

「お望みなら他のものも奪いましょうか?」

 

「奪われてたまるかー! 女の子とイチャイチャしているリア充な君たちに、ボーリングまで負けるものか! 僕だって、僕だって彼女が欲しかったさ! でも、僕のテニスの実力では恋愛と両立させることなんてできなかったんだー! ……なーんてね♪」

 

「入江さん。五感を奪われたフリをしている幻でも見ていたのかな?」

 

 

 感覚剥奪合戦。

 レーンの上でうつ伏せになる、高校生・入江。

 

「夢の続きはゆっくり見るといいよ。一人でね」

 

 その傍らでは、ジャージを肩に羽織った幸村が冷たい目をしていた。

 

「あの、あ、えとっ、あの……」

「緊張しなくても大丈夫だよ、大河内さん。俺は味方から感覚を奪ったりしないから」

「え、は、はい、その、分かりました……」

「じゃあ、後は任せたよ」

 

 ボールを持ったまま呆然としてしまう、幸村とペアの大河内アキラ。

 そんなアキラを不憫に思いながらも、クラスメートたちからは歓声が上がる。

 

「やったー! 幸村くんの必殺、五感剥奪! やろうと思えば幸村くんは六感だって剥奪できるもんねー!」

「感覚剥奪戦なら、幸村くんの独壇場だよ! よっしゃ、アキラ、トドメをさせー!」

「これで中学生チームの連勝だー!」

 

 歓声を上げる女生徒たち。その、当たり前のように送る声援に、フェイト・アーウェルンクスは頭を抱えていた。

 

「ね、ねえ……エヴァンジェリン……これ、何の競技? 感覚剝奪戦? ナニソレ?」

「ふっ、さすがだ、幸村。この私の最強モードを倒しただけのことはある。神の子は健在だな。私の魔法を剥奪出来る男だ。いかに、高校生テニスプレーヤーといえども、抗えんだろう」

 

 フェイト・アーウェルンクスは思った。「ここは魔法世界じゃなくて、現実だよね?」と。

 だが、何だか恐くなって誰にも聞けなかった。

 そして、そんなときだった。

 

「おい、入江……いつまで寝てる……」

「……鬼……それは言いっこなしだよ」

 

 敗北してレーンで倒れていた入江を抱えながら、鬼がボソッと尋ねると、入江はペロッと舌を出して笑った。

 その笑顔は誰も気づかず、皆の視線はアキラとハイタッチしている幸村に釘付けだった。

 

「なんで、わざと感覚を奪われた?」

「いや~、本気を出しても奪われていただろうし……それに、彼の進化をもっと見たいと思ったからね」

 

 そう言って、入江は思わせぶりな呟きを遺して退場……

 

「しかし、罰は罰だ」

「そんなー! ぼくが、僕が牛になるなんて、うそんもおおおおおおおおおおおおおおお!」

 

 退場させるまえに、ちゃっかりと牛になったのだった。

 

 

 

 

 




ついに、テニプリがテニスコートどころか、会場を破壊する領域まで達したことに、テンション上がりました。

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