【完結】テニスこそはセクニス以上のコミュニケーションだ(魔法先生ネギま×テニスの王子様)   作:アニッキーブラッザー

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特別アフター:ボウリングの王子様―2

「さあ、突如始まったボウリング対決! 第一投目は、日本代表No2の種子島修二! その神がかり的なラケットさばきはあらゆる衝撃を無にするとか! しかし、ボウリングでは使い道ないぞ? 果たしてどうする!」

 

 お決まりの朝倉のアナウンスと同時に、種子島が一投目を放る。それは、何の変哲もない普通の素人ボール。

 特にうまいわけでも、コースがいいわけでもなく、取れたのは五本。スプリットとなった二投目も一本しか倒せず、一レーン目は六本。

 

「難しいやないか、ボウリング。ピンが倒せへんわ」

 

 特に何か仕掛けてくるわけでもなく、普通にやって六本。

 

「やった! これなら仮に次にあいつがストライク出しても何とかなるかも! ゲンイチロー、ボウリングは大丈夫?」

「無論だ」

 

 種子島はボウリングは大したことない。安堵の笑みを浮かべるアスナと真田。

 

「俺はあらゆるボウリングの修羅場を潜り抜けてきた。ピンたちは俺の前に全て平伏してきた。このレーンも例外ではない。きええええええ!」

 

 気合を入れた真田が放る。そのボールは勢いをつけて、ストライクとまでは行かなくてもピンを八本倒す。

 

「やった、八本!」

「ふ、まだまだあ! 全部倒れんか―ッ!」

 

 しかし、真田はそこで終わらない。

 

「あれは、黒色のオーラ!」

「黒色のオーラでボールを包み込み、一度ピンを通過したボールの軌道を曲げて、残っているピンも倒した!」

「出たァ! 真田副部長の必殺、黒龍無限の斬だ!」

 

 真田弦一郎がストライクを出した。その快挙にアスナは飛び跳ねて喜ぶ。

 

「やりました、アスナの彼氏! 恋の風林火山を掲げし真田くん! 見事ストライクです! これで種子島さんが次にストライクを出しても、アスナが七本以上倒せば勝利が決まります! しかも、アスナは運動神経抜群でボウリングの腕前もあります! これは勝負が決まったか?」

 

 そう、これで種子島にプレッシャーになったはずと盛り上がる会場。

 しかし、そんな中、フェイトだけは目が点になっている。

 

「いや、待ちたまえ……あれ、魔法じゃないよね? なに? 黒色のオーラがボールの軌道を曲げるって……なんで誰も大騒ぎしないんだい?」

「ほう、やるな、あの帽子め。腕を上げたな」

「待て、普通に感心してるけど、いいのかい? エヴァンジェリン」

 

 そんなフェイトの疑問に誰も反応せず、続いて二レーン目に挑む種子島だが、七本しか倒せず、合計で十三本。

 これで、アスナが四本倒せば真田たちの勝利になる。

 

「勝負ありましたな、種子島先輩」

 

 真田が不敵な笑みを浮かべる。だが、追い詰められたというのに種子島は……

 

「う~ん、難しいな~。せやけど……ピンは倒せへんけど俺は負けへんよ?」

 

 既にゲームを終えたというのに、余裕を崩さなかった。

 

「ふっ、何を今更! 行け、神楽坂アスナ! お前の一投で引導を渡してやれ!」

「勿論よ! いくわよー」

 

 アスナが助走を着けて振りかぶる。しかし、その時だった。

 

「彼女ちゃん」

「ん?」

「アッチ向いてほい」

「へっ? あ……」

 

 急に声をかけられて余所見をしたアスナは、更に種子島のアッチ向いてほいの指につられてまた顔を背ける。

 その結果、既に体の動きを止められないアスナは、よそ見したままボールを投げてしまった。

 

「あっ……あああああああああああああああああああああああっ!」

「ガターやな」

「たわけえええええええ!」

「「「「「ひきょおおおおおおおおおお!?」」」」」

 

 神楽坂アスナ。痛恨のガター。

 種子島修二の突然の卑怯なおちょくりに、アスナはギッと睨みつける。

 

「ちょ、あんた卑怯よ!」

「ん? そうかそうかスマンスマン。ほれ、もう一投や。気張り」

「っ~~~~!」

 

 飄々とされてアスナのイライラは頂点に。

 

「えーい、落ち着かんか、神楽坂アスナ。この程度の揺さぶりで揺らす精神力では話にならんぞ!」

「わ、分かってるわよ! ふしゅー、もう引っかからないんだから! 次こそ終わらせてやるんだから!」

 

 種子島のペースに惑わされ、この最後に一投までミスるわけにはいかない。

 アスナは深呼吸して落ち着くように精神を集中させる。が……

 

(くっそ~、こんな奴に負けてたまるかってのよ! これで負けたら、あのジュースをゲンイチローとあの枝分かれストローで……枝分かれストローで……ラブラブに飲まないと……いけな……)

 

 その時、アスナの頭の中に煩悩が埋め尽くされた。

 なぜなら、同じジュースを二本のストローでラブラブに飲む等というのは、硬派の真田は絶対にやってくれないだろう。それは恋人同士になった今でもそう。

 しかし、今なら? 罰ゲームという理由さえあれば……

 

「逆にこれで動画放映されたら世界公認カップルやな」

「っ!?」

 

 種子島の何気ない一言。その悪魔の誘惑の言葉が、最後のギリギリでアスナの手元を狂わせた。

 

「ぬあああああああああああああ!?」

「たわけええええ、何をやっているかーっ!」

「こ、これは予想外! アスナの連続ガターにより、勝者は高校生チームの種子島さんっ!」

 

 まさかの逆転負け。アスナは頭を抱えて叫び、真田は怒り狂う。だが、敗北は敗北。そして敗者は連帯責任。

 

「さあ、敗者の二人はラブラブデッドブルにいってもらいます。さあ、どうぞー!」

 

 専用のテーブルに用意された一杯のグラスに注がれたデッドブル。二本のストローを、真田とアスナは真っ赤になりながら対面に座って口をつける。

 

「おい、もっと離れんか、たわけ……額が付くであろう」

「だっ、だって、このストロー短いから……もっと近づかないと……」

 

 恥ずかしがりながら、付き合いたてカップル伝説のイベントを行おうとする二人。

 この照れた二人に、女子生徒たちはイライラ。

 だが……

 

「まったく。では、いくぞ……っ! たわけンモオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」

「うん、吸っちゃう! ンモオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」

 

 その数秒後に、皇帝とお姫様は牛になったのだった。

 

「な、ど、どういう成分が混ざっていればあんなことに!」

「恐ろしいものを開発したものだ」

「アスナァ! 真田君っ! なんや百年の恋も冷めるぐらい凄いことになっとるえ!」

「いい気味……と思ってたけど、これが世界同時放映?」

「お姫様……」

「アスナさん……魔法無効化できても、デッドブルは無効化できないんですね……」

 

 牛になった二人に哀れむ一同。そんな二人に平等院鳳凰は失望の顔を浮かべる。

 

「半端な愛では世界は獲れんと言ったであろう。これがその末路だ。教訓にしてその目に刻み込んでおけ、貴様ら」

 

 あくまで厳しい言葉をぶつける平等院。そんなアスナたちの犠牲を合図に、ゲームはどんどん進んでいく。

 

「さあ、続いての高校生は、で……デカっ! に、226cmの超長身が武器の青メッシュ! 越知月光さん! 繰り出される『マッハ』と呼ばれるサーブは、目にも映ら――――」

 

 高校生組みの中でも最大身長の越知。彼が現れた瞬間、誰もが「デカイ」と口にしようとしたのだが、ボールを片手に持っていた越知の手には既にボールはなかった。

 

「「「「「えっ?」」」」」

 

 誰かが何かを反応する前に、既にピンは倒れている。つまり……

 

「は、速すぎる! ちょ、いつの間に投げてたんですか、越智さん! こ、これが噂のマッハ! 速すぎます! 投げた瞬間すら分かりませんでした!」

 

 越知のマッハボウリング。それは誰もが反応することも出来なかったのである。

 

「は、速い! いや、でも速く投げる意味があるのかは分からないが、それでも速いね。アレを気や魔力の強化無しで?」

「この私ですら、油断したら見失っていたな。……できるな……あの男」

 

 フェイトやエヴァたちですら「速い」と感じるほどのマッハ。そんなもの一般生徒たちに分かるはずがない。

 しかし、逆に目に見えないからこそ、あまり凄さが理解できずに良かったのかもしれない。

 

「よーし、次は僕がいくぞーっ! ブン太、見てろよー!」

「大丈夫か心配だろい、チミっ子」

「心配すんなって! 楓姉ェ直伝の忍者ボウリングで……っ!」

 

 すると、その時だった。

 意気揚々と飛び出した鳴滝姉。気合を入れて投げようとした瞬間、全身を硬直させて、青ざめているのだ。

 

「は、あ、あれ? え、ふ、震えがとまらな……」

「おい、チミっ子! ……あーあ、これはやられただろい……」

 

 震えが止まらぬ鳴滝姉を見て、「あちゃー」と丸井は顔を抑える。

 それは、今、自分たちと対峙している越知月光が起こしたこと。

 

「ちょ、鳴滝さん、どうされましたの?」

「お姉ちゃん!」

「ちょ、なんで? いつも元気な風香ちゃんが、あんなに恐怖に怯えてる!」

 

 普段は見ない、鳴滝姉の尋常ではない様子に動揺が走る。

 その答えを、中学生テニスチームは悔しそうに呟く。

 

「出た、メンタルアサシンっすよ!」

「アサシン? どういうこと、赤也くん?」

「何事にも動じない佇まいからのひと睨みによるプレッシャーで、油断した相手の精神を容赦なく破壊する。それがあの人の能力なんすよ!」

 

 その説明で……理解できた奴が何人いたかは分からない……

 しかし、目の前で起こっている状況が全て真実だと物語っていた。

 

 

「ちょ、越知さんまるで容赦なし! 身長128cmの風香ちゃん相手に、226cmの男が容赦なし! ちょ、少しぐらい手加減しないんですか!?」

 

「さして興味ない」

 

 

 こうして、ブン太も奮闘するのだが、結果的にこのペアも負けたのだった。

 

「いや、メンタルアサシンって……そういうの可能なのかい?」

「アレをテニスに応用されたらミスの連発だな。更に、あの身長から繰り出されるマッハのサーブ……ふ、流石は高校日本代表と言ったところか」

「……流石ですませていいの?」

 

 フェイトの疑問は募るばかりだったが、結果は結果。中学生チームの二連敗だった。

 

「うう、ゴメンよ~、ブン太~」

「……んま、チミっ子にしては頑張った方だろい」

「ブン太……」

 

 デッドブルを前にして向かい合い、頭をなでて慰めるブン太。涙を流しながら謝る風香は頬を赤くそめる。

 しかし……

 

「次こそ勝つだろい。天才的なブモオオオオオオオオオオオオ!」

「んもーーー! んもーーーー!」

 

 容赦なく二人は牛にされたのだった。

 

「さあ、流石は高校生チーム! 中学生男女チームは連敗が続いております! この流れを断ち切れるか? さあ、中学生チーム御願いします! 聖書テニスの白石くんと、プリンセス・ザジさんです!」

 

 このまま黙って負けるわけにはいかない。覚悟を決めた二人が前へ出る。

 この二人、決してカップルというわけでも何かフラグ的なものがあるわけではない。

 しかし、想いは同じ。負けるわけにはいかないという想い。

 だが、対戦相手は……

 

 

「確信した。俺はボウリングが強くなりすぎた」

 

「高校生チームも来ましたー! 徳川カズヤさん! 幼少時より海外でテニスをしてきたというエリート街道まっしぐらの選手! その冷たい目の奥に燃える闘志は日本チームのエース!」

 

 

 高校生チームは徳川カズヤ。彼の登場には、エヴァンジェリンたちも身を乗り出した。

 

「奴か……阿修羅のオーラが見えるな……阿修羅の神童か……底知れなさは、幸村に近いものがあるな」

「身にまとう雰囲気が既に尋常ではないな」

「ええ、高校生チームの中でもかなり異端な実力者だと思います」

「お手並み拝見でござるな」

 

 そこに居るだけで感じる徳川の底知れぬ何かに、エヴァを筆頭に、戦いの世界に生きる者たちは各々顔つきを変える。

 この男は一体何者か? その正体を見極めようとしていた。

 

「でもさ、やっぱ超カッコいいよね」

「でも、美砂。なんか恐そうじゃない?」

「そこも含めてだよー」

 

 能天気に徳川にキャッキャする女子たちも一部居るが、ここから始まるのは異次元の戦いなのである。

 それは、すぐに分かること。

 

「なら、先にやらせてもらおか」

 

 先に投げるのは、白石だった。

 

 

「特に無駄なことはせえへん。完璧なコースに完璧なタイミングと力加減で投げる。それでストライクを取れる。そう、ボウリングはピンを倒したもん勝ちや!」

 

「出たー! エクスタシーな白石くんの完璧なボウリング! 聖書です! バイブルです! バイブルボウリングです!」

 

 

 自分で宣言したとおり、白石は基本に忠実、完璧なフォームと力加減でボールを放る。

 完璧なストライクゾーン。これは行ったと誰もが思った。

 しかし……

 

「っ!? ちょ、ほ、ほんまかいな!」

 

 なんと次の瞬間、レーンの上を転がっていた白石のボールが途中で見えない壁に弾かれて止まってしまったのである。

 ボウリングのボールがレーンの上で停止すること。それは滅多にありえないこと。

 その光景に誰もが言葉を失う。

 だが、白石はすぐにハッとなる。

 

 

「せや、ブラックホールや!」

 

「「「「「はい?」」」」」

 

「徳川さん、いつの間にかレーンの空間を削ってボールを止めたんや!」

 

 

 そう、徳川の必殺技。空間を削ってどんなボールすらも停止させる技。ブラックホールだ。

 

 

「「「「「ちょ、そんなのありかあああああああああああああああ!?」」」」」

 

「コラァ! メンタルアサシンまではギリギリ許した! だが、流石にこれには私でも限界だぞゴラァ! なんで、ザ・ハンド使える能力者が居るんだよ!」

 

 

 勿論、ここまでくれば、幸村や真田たちのおかげでテニスに対する耐性が出来ていた生徒たちも、そして千雨も勿論叫ばずには居られなかった。

 

「ほう! あの小僧……高校生で既にアレができるのか! それをボウリングに使用するとは巧いな。発想もいい」

「いや、待ってくれ、エヴァンジェリン。く、空間を削るって……く、空間かい?」

「おい、フェイト。先ほどから驚いているが、貴様、テニスをあまり知らんのではないか?」

「……て……テニスならOKなのかい?」

 

 徳川が勝利のためにと張った防衛策を見抜けなかった白石はガックリと項垂れる。

 だが、白石は頭を振って切り替える。

 

「アカンアカン。こないなことでビビッとったら、世界じゃ戦えへん。それに……」

 

 そう、世界で戦うためにも、身内の技に驚いているようでは話にならない。

 そしてその他にも奮い立たねばならぬ理由がある。

 白石は、跡部の隣で頭を抱えて項垂れている千雨を見て、気持ちを盛り上げる。

 

(千雨ちゃんの前で、あんま無様なところも見せられへんしな)

 

 その時、決意した白石は己の左腕に巻かれた包帯に手を置く。

 

「しゃーないな」

 

 その巻かれた包帯を外していく姿に、女生徒たちは驚きの声を上げる。

 

「ちょ、白石くんが包帯を!」

「アレって毒手って言ってなかった?」

「毒手解禁!?」

 

 白石の左手の包帯の下。毒手だとか冗談交じりの噂が色々あった。

 しかし、その包帯の下に何が隠されているか、色々な予想があったものの、「これ」を予想できた奴はまずいない。

 

「……なんで……やねん……」

 

 千雨が思わず関西弁で突っ込んでしまうもの。

 

「「「「「なんじゃそりゃあああああああああああ!?」」」」」

 

 そこにあったのは、金色に輝くガントレット。

 

「なんや白石、あれー! 毒手やないんかー! めっちゃピカピカ光っとるやないかー!」

「ああ、そういや金太郎たちは知らなかったんだな。白石の左手の封印……純金製のガントレット」

 

 テニス勢も一部は知らない白石の左腕の秘密。

 実際は、白石が中学一年生の頃、顧問が競馬で当てた金を純金に変えて、その隠し場所として白石を使っただけのこと。

 しかし、そうは言っても、純金のガントレットという重いものを抱えたままテニスをするのは尋常ではない。

 ゆえに、全てを解放した白石は、完全に本気モードである。

 

「白石さん」

「もう、大丈夫や、ザジさん。ほな、二投目行ってくるわ」

 

 身軽になった白石は、重いボールを軽やかに持ち上げる。

 そして、これまでのように、完璧なフォーム、完璧なタイミングに加えて、身体のスムーズな動きやボールの勢いが上乗せされ、さらにコントロールも格段に上がった。

 しかし、その行く手にはブラックホールが……

 

「徳川さん。ブラックホール、テニスの時と違って、穴が少し大きいわ」

「……ふっ」

 

 徳川のブラックホールはテニスでの応用だが、ボウリングで使ったのは初めてである。

 完璧にコースを遮っているように見えて、ところどころに隙間があるのだ。

 その隙間を白石は完璧に抜いた。

 

「んー、エクスタシー!」

 

 完璧なコース。完璧なストライク。白石のお決まりのキメ台詞で、ボウリング場に熱気が走る。

 

「すごい、白石くん! あのブラックホールを破った!」

「これは流石にエクスタってもいいよ!」

 

 見事なストライクに歓声が上がり、白石とザジはハイタッチ。

 すると、ブラックホールを破られた徳川は、特に悔しそうな表情も見せず、むしろ小さく笑みを浮かべた。

 

「いい閃きだ、白石くん」

「徳川さん!」

「世界でも、その気持ちを忘れないように」

「はいっ!」

 

 徳川は白石を素直に褒めたのだった。白石もこれには嬉しそうに頭を下げる。

 そして、続くは徳川。

 白石のストライクに、少しはプレッシャーが? いや、この男には微塵も乱れはない。

 

「さあ、では、次は徳川さん行っちゃってください!」

 

 朝倉のアナウンスと共に徳川が助走をつけてボールを放る。

 自信満々なだけあって、完璧なストライクコースだ。

 だが、その時だった!

 

「目には目を。歯には歯をです♪」

 

 魔界のプリンセスが微笑んだ。 

 そして……

 

「っ!?」

「ナイトメアゾーンです。あなたの放ったボールは全てガターへと転移します」

 

 ザジもまた空間転移の魔法を披露。これには徳川は目を見開き、平等院たちの目じりも少し動いた。

 

 

「ほう。小癪な力を使う娘が居るな」

 

「あの小娘、べらぼーに面白いじゃねえか」

 

 

 高校生たちすらも、流石にザジの力には驚いたようだ。

 ガターになった徳川はザジと互いに睨み合う。

 

「……ねえ、旧世界って、いつから魔法の秘匿がなくなったんだい?」

「あれは、テニスの技術の応用だから問題ない」

「エヴァンジェリン、君、性格変わってるよ? ネギくんは……」

「流石です、ザジさん! 見事な応用と発想です!」

「ダメだ……早くなんとかしないと……っ……彼らも気の毒に」

 

 既に毒されているネギやエヴァは何かが変わってしまっていると心配になるフェイト。そして、徳川に同情する。

 だが、そんなフェイトの同情など関係ないとばかりに、徳川は大して動じることもなく、もう一投放ろうとしている。

 しかし、今のザジの魔法をもう一度発動されたら、ストライクはまず取れない。

 

「このまま行ったら、徳川のあんちゃんが牛になるんやないかー! ごっつ見てみたいわー!」

 

 金太郎がケラケラと笑いながら言った言葉に、皆がピクリと反応する。

 この鉄仮面のような男が牛になる……? 

 

「「「「「(イケメン崩壊は見たくないけど……でも、見てみたい気も……)」」」」」

 

 

 女生徒たちがソワソワとしだした。

 このまま徳川が牛になる?

 ザジはザジでニコリと笑っていて、明らかに意地悪でナイトメアゾーンを再度発動させる気満々だ。

 そんな状況下で、意外にも追い詰められた徳川は……

 

「ふっ……ザジ・レイニーデイか……少しは面白い奴が居たものだな」

「ッ!?」

 

 徳川は追い詰められたこの状況で小さく笑った。

 そして……

 

「はあああっ!」

 

 ボールをレーンに投げた。

 ど真ん中のストライクコース。

 しかし、ザジは容赦しない。

 

「させません、ナイトメアゾーン!」

「ブラックホール」

「ッ!?」

 

 その時だった。

 いつの間にかテニスラケットを持っていた徳川。

 ボールを転がした後に力強く素振りして、ブラックホールを作って前に飛ばした。

 そして、そのブラックホールは、ザジのナイトメアゾーンを設置した空間を削り取った。

 

「ッ!? な、そんな手が!?」

「なんちゅう人や徳川さん! ブラックホールを飛ばすことができるんかい!」

 

 魔界のプリンセスが驚愕の表情を浮かべる。

 それは、数か月前のダブルスで、手塚と跡部と戦ったとき以来の驚愕。

 ネギやエヴァ、フェイトも思わず立ち上がる。

 

「ザジさんの魔法が!?」

「バカな! 魔法を設置した空間ごと削り取って、魔法を消滅させた! なんという発想!」

「魔法を……て、テニスの技で消滅させた……?」

 

 ナイトメアゾーンが不発となり、そうなればもはや遮るものはない。

 徳川の放ったボールは見事ストライクを取った。

 

「ストライイイイイイク! 徳川さん意地のストライクゲットです!」

 

 徳川がザジの上を行った。

 これにはザジも目をパチクリさせている。

 

「これは驚きましたね……」

 

 その瞬間、徳川とザジの間に火花が生じた。

 ザジも表情こそは笑顔なものの、身に纏う魔力に微妙な変化が生じているのが感じられる。それは、どこか荒々しいものだった。

 

「ですが、白石さんが十本を倒した以上、私も十本倒せば負けはありませんよ?」

 

 続いて、ザジがボールを取る。正直、ザジのボウリングの腕前は誰も知らないが、誰もその実力を疑っていない。

 

「では、次は私の番ですね。いきます!」

 

 ザジがボールを放る。しかし、その先には……

 

「ダメや、ザジさん! ブラックホールや!」

「問題ありません」

 

 ザジのボールの行く手に立ちふさがるブラックホール。

 しかしザジのボールは、ブラックホールに直撃する寸前に空間から消えた。

 

「ザジさん! そうか、空間転移でブラックホールを避けたんだ!」

「ザジさん、あったまいい!」

 

 これは完全にザジが上を行った。

 

「ストライーーーーク! ザジさんこの人、こういう時はまるで容赦なし! ルールがどうとか考えるのがアホらしくなります!」

 

 相手の裏の裏をかいた、ザジの技あり。

 色々ツッコミあるものの、ニコリと笑ったザジが白石とハイタッチした。

 

「やったな、ザジさん。エゲつないけど、ピンを倒したもん勝ちや」

「ええ。これで我々の負けは無くなりました」

 

 そう、白石とザジが二人とも十本倒した以上、仮に徳川が次にストライクを取ったとしても、ザジたちに負けはない。

 それどころか、ザジは先ほどよりも容赦がなくなっている。

 

「彼が削れる空間の大きさは大体把握しました。今度は削り取れないぐらいの巨大な空間転移魔法陣を引きます。全て、ガターにします」

 

 悪魔だ……と誰かが呟こうとしたが、ザジは実際に魔族なので何の問題もなし。

 

「さあ、徳川カズヤさん、最後の一投をどうぞ♪」

 

 ニコニコと笑うザジ。

 しかしその時、徳川は……

 

「俺はストライクを取る。この確信に揺るぎはない」

 

 強がりでもない。確信を込めてそう宣言した。

 そして……

 

「いくぞ!」

 

 その時、徳川が手に持っていたボールが眩い光に包まれた。

 

「っ! なんだ、アレは!」

「ボールが光っている!」

 

 光る球。流石にこればかりは、女生徒たちも初めて見る。

 

「ほう! 傑物だな……アレを出来るか……」

「エヴァンジェリン……何アレ?」

「すごい力の波動です!」

 

 エヴァはゾクゾクとした笑みを浮かべ、フェイトは呆れ、ネギは目を輝かせている。

 

「……スタンド使いで……念能力者……もうやだ……ボウリングってなんだっけ?」

 

 長谷川千雨はもう立ち上がれなかった

 だが……

 

「素晴らしい力です。しかし、無駄です! どれほど威力があろうと、あなたの放ったボールは全てガターに転移します!」

 

 そう、どれほどの力が篭っていようと関係ない。ボールごと転移させてガターにする。そのことに何の変わりはない。

 

「ダメだ、徳川さんのボールが!」

「ガターだ!」

 

 光る球はザジの魔法に飲み込まれてガターのレールに乗ってしまった。

 これで勝負があった。誰もがそう思った。

 しかし、その時だった。

 

「っ!?」

「な、なにいいっ!?」

 

 光る玉の勢いは止まらず、ガターのレールを突き進んで、そのまま轟音立てて一番奥の壁へとめり込んだ。

 ボウリング場が地震になったかと思えるほどの振動で生徒たちのバランスが崩れそうになる。

 そしてその振動は、立っていたピンを全て倒してしまったのだった。

 

「言ったはずだ。俺はボウリングも強くなりすぎた」

 

 涼しい顔をする徳川。

 その視線の先には、「ボールが触れていない」のに「十本全部」ピンが倒れていたのだった。

 

 

「す……ストライク……で、いいのかこれはああああああああああ! ボールの振動でピンが倒れるとか、もうそれボウリング根底からぶち壊しじゃないかああ! でも、これで徳川さんも全部倒したので、この勝負は引き分けだァァァァ!」

 

「「「「そ、そんなん、アリイイイイイ!?」」」」

 

 

 もはや、これにはザジも呆れたように笑うしかなかった。

 

「これは……やられましたね」

 

 お手上げだと、ザジは降参のポーズをする。

 すると、徳川はザジを見て口を開く。

 

「お前とは、いずれテニスで戦う予感がする」

「そうですか。では、その時は是非お手柔らかに」

 

 結果、引き分けということになり、両者罰ゲーム回避。

 勝利こそ掴めなかったものの、中学生たちの連敗はストップした。




この物語はフィクションです。実際のボウリング場で、光る球やブラックホールの使用はゲームの楽しさを損なうことになりますので、絶対に真似をしないように御願いします。

さて、今回指摘を戴き気づきました。ボーリングではなくボウリングだと。
大変申し訳ありませんでした。

*意味
●ボウリング・bowling:
プレイヤーに対して頂点を向けて正三角形に並べられた、10本のピンと呼ばれる棒をめがけてボールを転がし、ピンを倒すスポーツ。


●ボーリング・boring:
………穴を開けること。


……あれ? 別に間違ってない……? 

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