【完結】テニスこそはセクニス以上のコミュニケーションだ(魔法先生ネギま×テニスの王子様)   作:アニッキーブラッザー

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ナンパの王子様-アフター3

 一人の紳士が見せ場もなく散った。

 

 

「それでは、アデューイートゥイートゥイー!?」

 

「なんとおおおおおおおおおおお、まさかの紳士・柳生くんの敗退! 紳士が鶏になったーっ! これは立海、まさかの大誤算ッ! ちなみに、紳士の国のイギリスでは鶏の鳴き声は『トゥイートゥイートゥイー』だそうです。鶏になっても紳士の柳生くんですが、お相手のザジさんはとても爽やかにお断り! なんでーっ!」

 

「ふふふふ、確かにあなたは紳士な方です。ですが、心のどこかに若干の黒いものを感じます。私に近づけばその黒いものが大きくなり、あなたはきっと変わってしまうでしょう。だから、ごめんなさい。あなたと親睦を深めることは出来ません♪」

 

 

 立海の誇るイケメンの一人。紳士・柳生。声をかければかなりの確率でナンパは成功するだろうと誰もが思っていた。

 そんな彼の選んだ女性は、魔界のプリンセス、ザジ・レイニーデイ。

 清らかな女性がタイプの柳生にとっては、姫の品格漂う彼女は相応しかった。

 しかし、ザジは微笑みながら、申し出を受けなかった。

 それは、真の紳士たるには、どこか柳生の中にある微妙な腹黒い何かに気づいたからかもしれない。

 まあ、それが本当かどうかは別にして、これで立海はジャッカルに続いて二連敗したのであった。

 

 

「さあ、全チームが二敗と勝負の行方が分からなくなってきました! さて、ここで本来の順番は青学なのですが、先ほど青学は菊丸くんが『ちょっと待ったー』を使ったので、一回多くやっておりますので、ここはお休みです。ですので、次は氷帝学園です! さあ、どうされますか!?」

 

 

 その時、氷帝からあの男が立ち上がった。

 

「ふ、ようやく俺様の番か」

 

 その男は、かつて六万個のバレンタインチョコをもらったという伝説がある。

 試合中に頭をバリカンで剃られただけで、大暴動が起こったことだってある。

 都大会五位。関東大会一回戦敗退。全国大会ベスト8の学校の主将。

 しかし、順位や実績のみでは決して語りつくせぬ伝説がこの男にはある。

 

「メスネコ共。俺様のナンパに酔いな」

 

 彼が立ち上がるだけで、その空間は、跡部様の跡部様による跡部様のための空間になる。

 

「ついにきたあああああああああああ! 存在こそが既に社会現象! その自信に裏付けられた実力があることは誰もが認める! 時飛ばしも空間転移も彼にかかればマルスケだぜ! 氷帝学園がここに来て勝負をしかけてきました! いいんちょの、雪広財閥と双璧を成す、世界的に有名な跡部財閥の御曹司! キ~~~~~~ング、跡部さま――――ッ!」

 

 そう、跡部が立ち上がったのだった。

 そして、彼が立ち上がり、戦場に赴こうとすれば、必ず声が聞こえてくる。

 既に、何名かの氷帝軍団はペナルティキンスープで意識を失っている。

 しかし、それでも聞こえる。

 幻聴なのかもしれない。

 だが、彼を称えよと世界が叫ぶ。

 

「ナンパは跡部! ナンパは跡部! ナンパは跡部! ナンパは跡部! ナンパは跡部! ナンパは跡部! ナンパは跡部! ナンパは跡部! ナンパは跡部! ナンパは跡部! ナンパは跡部! ナンパは跡部! ナンパは跡部! ナンパは跡部! ナンパは跡部! ナンパは跡部! ナンパは跡部! ナンパは跡部! ナンパは跡部! ナンパは跡部! ナンパは跡部! ナンパは跡部! ナンパは跡部! ナンパは跡部! ナンパは跡部! ナンパは跡部! ナンパは跡部! ナンパは跡部! ナンパは跡部! ナンパは跡部! ナンパは跡部! ナンパは跡部! ナンパは跡部! ナンパは跡部! ナンパは跡部! ナンパは跡部! ナンパは跡部! ナンパは跡部! ナンパは跡部! ナンパは跡部! ナンパは跡部! ナンパは跡部! ナンパは跡部! ナンパは跡部! ナンパは跡部! ナンパは跡部! ナンパは跡部! ナンパは跡部! ナンパは跡部! ナンパは跡部! ナンパは跡部! ナンパは跡部! ナンパは跡部! ナンパは跡部! ナンパは跡部! ナンパは跡部! ナンパは跡部! ナンパは跡部! ナンパは跡部! ナンパは跡部! ナンパは跡部! ナンパは跡部! ナンパは跡部! ナンパは跡部! ナンパは跡部! ナンパは跡部! ナンパは跡部! ナンパは跡部! ナンパは跡部! ナンパは跡部! ナンパは跡部! ナンパは跡部!」

 

 そう、跡部コールだ。

 

「……これは……どこから?」

「ど、どういうことじゃ? なにやら、大勢の人々の声が聞こえてくる……ネギくん、知っておるか?」

「はははは、タカミチ、学園長先生……なんか、これがあの跡部さんって人の力みたいなんです」

 

 魔法でも術でもない。跡部が立ち上がれば跡部コールが聞こえるのは、世界の決まり。いわゆる自然現象なのである。

 魔法という非常識の世界に生きるタカミチや学園長ですら信じられない表情で驚いているが、それが真実。

 

「ナンパは……俺様だ!」

 

 そう、たとえそれが意味不明なコールだとしても、これが跡部の力なのである。

 指を鳴らしてドヤ顔をキメる跡部。

 テニスの試合であれば、これだけで黄色い声援が野球場規模で湧き上がる。

 しかし、普段あまり男子生徒と接する機会の少ない女子校の生徒たちからすれば……

 

 

「「「「「(かっこいいけど、やっぱりなんだか想像以上にヤバイ人だッ!?)」」」」」

 

 

 ドン引きものなのであった。

 

「え~、跡部くん……その、満足されましたかね~?」

「ああ、十分だ。さて、光栄に思いな。この俺様に口説かれるなんて、明日の朝刊の一面は決まったようなものだ。ただし、嫉妬に狂う俺様のファンには気をつけな! フハハハハハハハハハ!」

 

 朝倉が恐る恐る尋ね、跡部も頷いて女たちを見る。

 その視線に女たちは色々な意味でドキドキ。

 

「(う~ん、確かに濃いけどイケメン。しかも大金持ちのお坊ちゃま。テニスも強い)」

「(それに、確か東京の私立の中でも、氷帝学園って凄い頭がいいところだよね?)」

「(文武両道パーフェクト……すごい……)」

「(でも、なんか恐い……)」

「(確かにカッコいいかもだけど……ちょっと、チャラいよ。男はやっぱゲンイチローみたいに……)」

「(アスナ、心の声がダダ漏れやん。さり気に、自分で気絶させた真田君を膝枕しとるし……)」

 

 正直言って、文句の付け所がない完璧なる男。

 声をかけられるだけで、普通に女として誇らしいと思えるぐらいの相手だ。

 でも、何だか、普通じゃなさ過ぎて恐い。なんとも微妙な緊張感が少女たちの中で流れた。

 そんな中で……

 

「つか、テニスしてなくても非現実的な奴とか勘弁しろよ……まあ、私には関係ないけど……」

 

 一人ボソッと舌打ちしながら呟く長谷川千雨。

 正直、立海も、青学も、氷帝も、今のところテニスをしていなければ、そこまで変な奴らは居ない。

 むしろ、話だけをすれば、普通の中学生だとすら思える。

 だが、跡部はハッキリ言って違う。テニスコート内でもテニスコート外でも変わらぬ非常識ぶりに、千雨は頭が痛くなったのだった。

 しかし、「自分には関係ない」そう思っていたはずの彼女だが、この後、更なるカオスに巻き込まれる。

 

 

「フハハハハハハ! おい、そこの女。試合の時から、デカイ声で、俺様たちのテニスにイチャもんつけてやがったな。『テメエらいいかげんにしろ』……とかな」

 

「ふへっ?」

 

 

 その時、なんと跡部は千雨の目の前に立ち、声をかけたのだった。

 完全に予想外の不意打ちくらってビビる千雨。

 今の独り言か聞かれて怒られるのだと、「ヤベ」っと思った。

 だが、

 

「……ふん、この世に存在する女で……この俺様にイチャモンつける奴が居るとはな。なかなか度胸があるじゃねえの」

 

 跡部は怒っている様子はない。むしろ機嫌よさそうだった。

 

「えっ? あの、いや、ドキョーないんで。私はただの引きこもりネガティブ女なんで。クラスメートのこいつらと比べても地味で日陰の女なんで。さーせん」

「フハハハハハ、そうか? だか、俺様のインサイトは誤魔化せねえ」

「ちょっ!?」

 

 その時だった。跡部が一瞬の隙をついて、千雨のメガネを取り上げたのだった。

 あまりに突然の出来事で、場が一瞬で凍りつく。

 すると……

 

「やはりな。なかなか良いツラしてるじゃねーの。アーン?」

「ちょっ!?」

 

 メガネを外した千雨。それを褒める跡部に、驚きながらもいきなりメガネを取られて千雨も反応。

 

「ちょ、て、テメエ、なにすんだよ! 返しやがれ、この!」

 

 顔を真っ赤にし、メガネを取り返そうとする千雨。だが、跡部はひょいっと上に上げて返さない。

 

「ふん、そういう気の強いところも、かわいーじゃねえの」

「ッ!?」

 

 この瞬間、誰もが理解した。

 そう、跡部が選んだ女とは……

 

「この俺様が相手してやる。光栄に思え」

「は……はああああああ!?」

 

 長谷川千雨だったのである。

 

 

「「「「「ち、ちさめちゃんがきたあああああああああああああああああ!?」」」」」

 

「ぶべほっ!? ちょ、ごほっ、ごほっ!?」

 

「ネギ君、どうしたんだい、急に噴出して! ちょ、むせてるじゃないか。お水お水……」

 

「ちょ、まさかの千雨ちゃん!? どーすんのよ、受けんの? つか、断れないだろし……」

 

「は~、千雨ちゃんモテモテや~ん」

 

「ほほう、これはこれで面白いではないか」

 

「マスター、物凄く良い顔されてますね」

 

 

 キング跡部が長谷川千雨をナンパ。

 誰を選んでも驚くのだが、その中でも予想外の中の予想外だったのか、驚きの声が隠せない。

 

「いや、冗談やめて欲しいんで。つか、冷やかし勘弁。メガネ返せよ!」

「ふん、俺様が戯れでこんなことしてると思ってるのか? アーン?」

「ちょなっ!? ん、な、んなわけあるかーっ!? これが現実なはずねーだろうが! きっと、幸村くんあたりが何かしたんだ! そうに決まってる! つか、メガネ返せよ!」

 

 これは一体どうなるのだ?

 メガネを取り上げたままの跡部に、千雨はパニクって何もできない。

 するとその時だった。

 それは、救いの手ではない。

 更なる地獄に叩き落す手が、跡部の背後から、跡部が取り上げた千雨のメガネを取り戻したのだ。

 

「待て。それまでにしろ、跡部」

「アーン? ……おい、何のつもりだ? …………手塚」

 

 なんとここで予想外の中の予想外の中の、更なる予想外の男が出てきたのだった。

 それは、手塚国光。

 

「手塚!?」

「なんで、手塚部長が!?」

 

 何で手塚が? そう思ってどよめきが走る空気の中で、手塚は取り戻したメガネを千雨に差し出した。

 

「これを……」

「あ……ど、ども……」

 

 助けてくれたのか? 一瞬、千雨も何が起こったか分からなかった。

 すると、鋭い目をした跡部が手塚に尋ねる。

 

「今、俺が女を口説いているところだ。貴様との決着は、次に貴様が誰かを口説く時だ。違うか?」

「お前は何も分かっていないようだな? 俺は、『待て』と言ったのだ」

「ッ、手塚ァ、貴様!」

 

 手塚が『待て』と言った。それはどういう意味か?

 

「ど、どういうこと? ねえ、ま、待てって……それってひょっとして、『ちょっと待ってー』権のこと?」

「……はっ!? そ、そうか! つ、つまりだよ、跡部くんが他の女の子と仲良くなるのが許せない手塚くんの、『ちょっと待ってー』ってことなのだよ! そう、跡部&手塚カップリングのために! そう、『跡塚』だよ!」

「いや、パル……多分、それはそれで物凄い需要ありそうだけど……この状況を見る限り……」

「ま、まさか、……で、でも、つまり、そうなると、……手塚くんは、ち、千雨ちゃんを……」

「げぶほおっ! ぶはっぐ! がっ、はぐっ!?」

「ネギくん!? より容態が悪化している! ネギくん!?」

「し、しかしよ~、あの、手塚部長が誰を選ぶか気になってたけどさ……」

「前に手塚が……中学一年生の頃かな? 好きな女の子のタイプを言い合うことがあって、彼は『何事にも一生懸命な子』って言ってたけど……」

「うん、あの子、あんまりそういうタイプに見えないけど……」

「でもやっぱり、そういうことなんだよね?」

 

 麻帆良もテニス界も衝撃が走る。あの手塚国光がまさかの……

 

「おい、手塚。もう一度言うぜ。俺様は今、この女を口説いている。もし、貴様がこの女をナンパしようとしているわけじゃないのなら、下がってろ」

「俺が下がらないと何も出来ないのか? 跡部、お前の覚悟はその程度のものか?」

「ほう……言うじゃねーの、手塚ァ」

 

 手塚が跡部の隣を通り、千雨の目の前に。

 千雨はもう目がグルグル回って何が何だか……

 しかし、それでも手塚は言う。

 

「君はやる気を感じさせず、常に不機嫌な表情をしている反面……どこか、目の前のことに流されずに懸命に抗おうとする意思を感じさせる」

「ひゃ、あの? え、あ、いや、そんなんじゃ……」

「今回の企画では、君たちの中の誰かと二人で話をしなければならないという企画だ。ならば俺は……君と話ができないかと思っている」

「―――――――――――ッ!?」

 

 手塚の見立て、間違っていない。

 リアリスト。現実主義者の長谷川千雨。

 しかしそんな彼女だからこそ、目の前に起こる非現実的なことを「まっ、いっか」という風に流されたりなどしない。

 たとえ、クラスメートたちが「それでいいじゃん」と思うようなことも、彼女は自分がおかしいと思えば「ちょっと待て」と自分の意見を主張する。

 自分の現実を脅かす非現実が現れたら懸命に戦おうとする。

 その逞しき精神力は、戦闘能力ゼロでありながらも危険な魔法世界を生き抜いたほど。

 非現実的な世界に巻き込まれたからこそ、懸命に現実を大切にしようと戦うのが、千雨の今の生き方。

 

「……いや、あの、こ、……えっと……ひゃの、ふぁ、ふぁたしは……」

 

 しかし、この非現実だけはどうすればいい? まさか、自分がイケメン二人に声かけられる日が来るとは思わなかった千雨はもうどうしていいか分からない。

 

「なんじゃこりゃああああああああ! 手塚くんまでキタ―――! なんと、青学が誇る中学テニス界の至宝が!? 引きこもりネット廃人路線を歩む千雨ちゃんになんちゅうことを!」

「うわあああ、あの千雨ちゃんが未だかつて見たことがないぐらいテンパってる!」

「こ、これは、なんだか、私たちも凄い光景を見せられてるんじゃ……」

 

 もはや見守ることしか出来ない。この状況に足を踏み入れるのはあまりにも恐すぎる。

 本来であれば羨ましい状況なのだが、何故か千雨に同情してしまう状況。

 しかし、事態はそれだけに留まらなかった。

 

「ふふふ、それまでだよ、手塚、跡部」

「「ッ!?」」

「ルールによれば……ちょっと待って……かな?」

 

 その時、更なる地獄がこの状況に足を踏み入れるのだった。

 ジャージを肩に羽織って、爽やかな微笑みを魅せながら現れたのは……

 

 

「その子を困らせるなら、二人とも五感をいくつか奪おうか?」

 

「「「「「神の子まできたあああああああああああああああああああ!?」」」」」

 

 

 そう、神の子・幸村までもが千雨争奪戦に参戦するという空前絶後のカオスになってしまったのだった。

 

 

「長谷川千雨さん……だったね?」

 

「(゚д゚lll)」

 

「俺がお嬢ちゃんと試合をしていたとき……とても大きな声で君は俺を応援してくれたよね?」

 

「ッ!?」

 

 

 千雨が幸村を応援……していたのだ。

 

 

―――頑張れ幸村くん! テニスと常識の世界をあんたが守ってくれ!

 

―――幸村くんはこの世の常識を守る最後の砦なんだよ! テニスの常識ってもんは彼に委ねられてるんだよ! 応援しねーわけにはいかねーだろうが! だから、頑張れ、幸村くん! トンデモテニスに負けんじゃねえ!

 

 

 物凄い力を込めて一生懸命、千雨は幸村を応援していた。その時の自分を千雨も思い出してハッとした。

 

「あれだけ応援してもらえて嬉しかったよ。とても力になったよ」

「いや……あの……応援してたのにはワケが……」

「そのお礼もかねて、君とは一度話をしたいと思っていたんだ」

「ッッッ!?」

「聞いているかい?」

「……はう、あ、いや……その、さーせん……ご、五感がちょっと狂ってて……」

「はははは、それは気のせいだよ。だって、俺はまだ何もしていないんだから」

 

 跡部、手塚に続き、なんと幸村まで千雨のナンパに乗り出した。

 

「ぎゃああああああああ! 何がどーなってんのォ!?」

「ちょ、ちょうぜつイケメン三人衆に同時ナンパァアアアア!?」

「カリスマ、キング、神の子の包囲網!?」

「ぶくぶくぶくぶく」

「ね、ネギくんが泡を!? しっかりするんだ、ネギくん!?」

「こ、これは、うらやましいを通り越してこの逆ハーレムはむしろ怖い!?」

「どうして! 普通は、キャー、なのに、ギャーって叫んじゃう!」

「ぷっくくくくくく、たまらんな、これは」

「マスター、笑いすぎです。嗚呼千雨さん……しかし、千雨さんにはネギ先生が……」

「フハハハハハ、モテモテネ、千雨さん」

「これが、完全なる世界を超える更なる世界……完全なる混沌ですかね?」

「手塚部長と……」

「跡部の争いに……」

「幸村が加わるとは……」

「こええええ! なんか、もうこええええ!? あの千雨ちゃんって子が、何だかすごい可哀想!?」

 

 それはもはや、今日の試合内容並みの非現実的すぎる状況であり、ようやく意識を取り戻した一同は、次の瞬間、その想いが言葉となって響いたのだった。

 

「お、おかしぞ、そうだ、アレだろ! テメエら、これ、ドッキリカメラだろ! 私をハメようとしているんだろうが! 残念だったな、私みたいなヒッキーにこんな幻想はウソに決まってる! つか、幻想であってくれ! 待て待て待て待て、上条当麻出て来い! この幻想を壊してくれ! やべえよ、つか、私、この光景見られたら、明日にでも殺されてるんじゃねえのか!? 現実世界どころかネット世界でも大炎上くらって生きていけないんじゃねえのか!?」

 

 必死にこれは「幻想」だと叫ぶ千雨。しかし残念ながら、これは現実なのである。

 

「カリスマも神の子も、それがどうした! 俺がキングだ!」

「お前にはまだ、見えていないようだな」

「二人とも、夢の続きは後で見るといいよ」

 

 テニス界にその名を轟かせながらも、正直、この三人が争ったら何が起こるかなど誰にも分からない。むしろ、誰も考えたくない。

 日本中学テニス界で五本の指に入る男が同時に並ぶ。

 この奇跡的なカオスにもはや救いの手は……

 

「だ、だめです……こ、このままじゃ、千雨さんが怯えて可哀想です……そ、そうだよ……魔法世界であれだけ助けてもらったんだ……今度は……僕が千雨さんを助けるんだ!」

 

 泡噴いて、意識が飛びかけていたネギ。その時、彼は何かを決意したかのように、コソコソ気付かれないようにその場から離れ、誰も見ていないのを確認してからポケットの中から丸薬を一つ取り出してそれを飲む。

 そして……

 

 

「そのナンパ、そこまでです! 彼女を怖がらせるような真似は、僕が許しません!」

 

「「「?」」」

 

「「「「「あっ…………………………」」」」」

 

「「「「「誰?」」」」」

 

 

 

 そこに、麻帆良最終兵器のイケメンが現れた。

 

「お待たせしました、千雨さん。あなたを救いに来ました」

 

 彼はこの姿で人前に出る時は偽名を使っている。『ナギ』という名前で。

 そう、それは、年齢詐称薬によって十歳の少年が大人のイケメンになった、ネギ・スプリングフィールドなのである。

 ちなみに……

 

 

「「「「「(なにやってんのネギくううううううん!?)」」」」

 

「えっと……これはどういう……」

 

「一体、どうしたというのじゃ?」

 

 

 ちなみに、本当は内緒なのだが、彼の正体がネギだというのは、もうクラスメートのほとんど、そしてタカミチも学園長も知っている。

 しかし、跡部たちは別。突如現れた只ならぬ雰囲気の男に鋭い目つきを見せる。

 

「アーン? 何者だ?」

「只者ではないな」

「ふふ、面白そうじゃないか」

 

 千雨を救いに来たと、この怪物三人の前に現れたネギ……だったのだが……

 

「余計にややこしくすんじゃねええええええええええええええ!」

「へぶわあっ!?」

 

 千雨に、有難迷惑だとぶん殴られたのだった。

 

「えっと……なんかもうこれ……」

「ふふふふふ、なるほど、そういうことか……ぼーや……」

「まさか、ネギ……ふ~ん、そういうこと♪」

「はうっ!? まさか、ネギせんせー……」

「こここここ、これは、そそそ、そういうことですか?」

「ふむ、これは……ラブ臭…………ダメだ、いつもは冷やかすけど、私もこの状況は言葉が出ない」

「カリスマ……キング……神の子……英雄の子……なんなの、この四重奏は……」

 

 もう、ナンパ大会がどうとか、各校何勝何敗とか誰もがどうでもよくなってしまった。

 

「ふん、上等だ。まとめてかかってこい、雑兵ども!」

「ならば、油断せずに来るがいい」

「いいのかい? ならば、何から奪おうか?」

「ぼ、僕だって負けませんから!」

 

 司会者の朝倉すら、もうさっきからずっと言葉を失っているのである。

 

「ざけんなあああ! マジ勘弁しろお! 私はな~、直死の魔眼持ちも、パラドックス起こす奴も、黄金聖闘士も……ましてや~、こんなクソガキとかざけんなあ! つうか、極端しかいねえのかよ! もっと、丁度いいのは居ないのかよッ!」

 

 そう、もうこの状況を見れば、とりあず、千雨の優勝だと誰もが思ってしまったからだ。

 

「……なあ、もうナンパとかどうでもいいだろい。俺らはもう勝手に話をするってことでよ」

「おー! じゃあ、ブン太座れー! ケーキくわせろー!」

「あ、おねーちゃん、待ってよ~」

「フシュー……あの、よ、四葉さんっていいましたか? メシ、うまかったっす。麻帆良はトレーニングで走ってくるにはちょうどいい距離なんで、これからも食いに来ていいすか?」

「あ、ずるいぞ、海堂。あの、俺、家が寿司屋やってるから君の料理にすごい関心あってさ、俺も話にまぜてよ」

「ニッコリ! コックリ!」

「……………勝つのは跡部さんです……」

「ンゴ~、グゴ~」

「おーい、大変っすよー! なんか、ちょっとトイレいったら、向こうのテニスコートで、亜久津さんと、沖縄の木手さんがミックスダブルスしてるっすー!」

「なにいいっ! 怪物と殺し屋が……ミックスダブルス? なんで?」

「あれ? そういえば、いいんちょと龍宮さん、いなくない?」

 

 もう、あの四人のことは見なかったことにしよう。千雨は気の毒だが、自分たちは自分たちでワイワイやろう。

 丸井や海堂や河村とかはもう勝手に女子と話をし、ジローと樺地はマイペース。

 あと、何やら自分たちの知らないところで、変なことも起こっていると、もう皆は、千雨のことは見なかったことにしようとした。

 

「この勝負の行方はどう見る? 絡繰茶々丸」

「そうですね……では、小数点第二以下までの確率を出すとしたら……」

 

 そして、茶々丸と柳は遠く離れたところで見守っていた。

 

「なんか、もう、すごいことになってますね……学園長……」

「う~む……他校とコミュニケーションにしては……なんじゃか、ものすごいカオスじゃがのう」

 

 そんな彼らのやり取りを温かい眼差し……? いや、微妙な眼差しで半笑いしているタカミチと学園長。

 テニスだけでなく、このナンパでもエネルギッシュ過ぎるテニス界の面々に圧倒されていた。

 

「くくくく、すごいだろう? テニスというものは、あらゆるものを変える力があるのだ」

 

 そんな隅で静かにしているタカミチと学園長のテーブルに、エヴァがケラケラと笑いながら座った。

 

「エヴァ……君も今日は本当に……やりたい放題したものだね」

「まあ、許せ。そもそも、この私に本気を出させながらも勝ってしまう奴の方が異常なのだ」

「確かに、すごかったの~。魔力剥奪とか、何じゃアレは」

「テニスの時限定……なんだよね? 彼の力は」

「どうだろうな……なんだか、幸村なら通常時でも相手の魔力を剥奪できる気がするがな」

「何それ、怖すぎじゃろ。しかも、実際彼の力を見ていたワシも、何だか本当にそんな気がするから困るわい」

 

 一部修羅場、あとはキャッキャと交流している中学生たちを眺めながら、大人たちはしっぽりと飲んでいる。

 

「そういえば、君はナンパされなかったね」

「ふん、別に構わんさ。それに、今日は気分がいい。……大切な……懐かしい奴のことも思い出せたからな」

「ほっ? なんじゃ? ナギのことではなさそうじゃな、誰のことじゃ?」

 

 とりあえず、カオスの風景だけは意地でも見ないようにして、彼らは彼らで落ち着こうとしていた。

 しかし、その時だった。

 

「ん?」

 

 タカミチは、足元に落ちている何かに気付いた。それは一冊のノートのようなもの。

 

「これはいつ……誰の? えっと……」

 

 思わず拾い上げると、その表紙にはデカデカと書かれていた。

 

「……㊙……十年後のクラスメートたち………………超鈴音?」

 

 そこには、何やらよく分からんことが書かれていた。

 タカミチが思わず超を見るが、超は機嫌良さそうに不二と話をしている。

 

「ん? どうした、タカミチ?」

「なんじゃ、それは」

 

 向かい合うエヴァからは見えない。

 隣に居た学園長はチラッと覗き見れる。

 

「超くんの落とし物かな? でも、これっていったいどういう意味……」

 

 思わずノートを開いて見るタカミチ。学園長も首を伸ばす。何やってるか分からないエヴァは首を傾げる。

 すると……

 

 

「ん? これはクラスの子たちの……名前? な、なんだこれは? 地縛霊から解放……こっちはジャーナリスト……魔法世界の新たなる大戦……邪神化? 体育教師……アレ? この子、苗字が変わって……こっちの子も苗字が……旧姓……和泉……大河内……他の子もッ!? えっ、あれ? これって、あそこに居る彼の苗字! こっちは彼の! それにこの苗字も……真田明日……ッ!?」

 

「ふぉっ!?」

 

 

 その時、タカミチは滝のような汗を流しながら慌ててそのノートを閉じた。

 

「ん? なんだ? なんだ? おい、タカミチ? ジジイ? どうした? なんだ、そのノートは。何が書いてあるのだ?」

 

 エヴァの問いにタカミチも学園長も答えられない。

 今、自分が読んだのは何だったのか?

 

「こここ、これは……学園長……」

「なななな、なんか、も、ものすごくいけないものを見てしまったような気が……」

「おい、なんだ? 気になるぞ、見せろ!」

 

 タカミチと学園長が見てしまったのは、「もしも」の未来の姿である。

 

 しかし、本来の未来は白紙。

 

 この禁断のノートに書かれた未来の通りになるかどうかは……テニス次第である。

 




ナンパ大戦は以上にします。流石に疲れました。千雨ちゃん争奪戦がどうなったかのなんて、怖くて書けません。

ちなみに、最後にタカミチと学園長が見てしまったノートの中身は、次投稿します。会話文なしのクラスメートの行く末のみが羅列されたものですので、読まなくても何の問題もありませんし、読んだらまずいものかと思います。

「何であいつとこいつが!?」

という内容になっております。

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