【完結】テニスこそはセクニス以上のコミュニケーションだ(魔法先生ネギま×テニスの王子様)   作:アニッキーブラッザー

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第30話『命懸け』

 テニスコートでホワイトアウトが起きていた。

 

「も、もうやめてください、マスターッ! ゆ、幸村くんが死んじゃいますからーっ!」

「だめです、結界が張られて中に入れません!」

「ちょ、エヴァちゃんのアホ―――ッ! やりすぎにも限度があるじゃないのよーっ!」

 

 まるで大規模なドライアイスのごとく、冷気の白い靄がテニスコート全域を覆いつくしていた。

 

 

「ブリザードアクセルスピンショットッ!」

 

 

 視界が完全にゼロとなったテニスコートにおいて、聞こえてくるのは激しい打ち合いの打球音のみ。

 

「だ、ダメだ! もうコートの中が全然見えない!」

「何が起こってるか全然分かんないよー!」

 

 一般の人間には既についていけない領域の戦いへとこの死闘は引き上げられていた。

 

「くくくくく、これで40-0だな」

 

 そんな異次元の死闘の冷気の中から、エヴァンジェリンの声が聞こえてきた。

 打球の音が消え、徐々に冷気が晴れたその世界では、左腕と左足が凍結した状態で激しく疲労した幸村の姿が出てきた。

 

「幸村ーッ!」

「ばかな、ほ、ほ、本当に凍り付いている!」

「そんな! 幸村部長ッ! 一体、何が起こってるっていうんだよ!」

 

 誰もが抱いている感情。今、自分たちは何を見ているのか? これは本当にテニスなのか?

 しかしそれでもゲームは止まらない。

 

「どうした? せっかく至高のテニスをしているのだ。もう少し楽しそうにしたらどうだ?」

 

 テクニックとか、パワーとか、スピードとか、そもそもそういう次元の話ではない。

 文字通り、テニスの次元そのものが違いすぎる。

 凍り付いて使い物にならないテニスラッケットを手から離すことも出来ず、ただ、意識を保つだけで精一杯だった。

 

「はあ、はあ、はあ…………」

 

 もはや、どうしてこんなことがありえるのかなど、幸村は今さら問わない。

 ただ、今の彼の頭の中にあるのは、相手が「強い」という想いだけだった。

 

「なんということじゃ……ワシの想像を遥かに超えておる……麻帆良学園は、こんなとんでもない怪物を学園内で封印していたのか……」

 

 完全に見入っていた学園長は震えあがっていた。

 

「魔法の極みと、人の持つ潜在能力の融合……今のエヴァンジェリンは……ナギをも超えるぞ」

 

 世界最強の中の世界最強。今のエヴァンジェリンはその頂に居ると確信した。

 そして、それを否定するものなど、もはやこの場にはいなかった。

 

「そら、まだまだゲームは終わっていないぞ、幸村! それとも、テニスが嫌になってやめるか?」

 

 ゲームは終わっていない。しかし、どうしろというのだ?

 

(息も音すらも凍り付くような、凍てつく絶対零度の世界……さらに、青学のボーヤを遥かに凌駕する人智を超えた力……これが、テニスの果ての世界……)

 

 体も呼吸もうまく動かない。この凍てつく世界に心身を切り刻まれて、自分の五感が正常に動かなくなっている。

 そんな状況下でもボールは飛んでくる。いや、飛んできていると思われる。

 なぜなら、もう幸村にはボールが飛んできても飛んでこなくても、もうどっちなのかも分からない。

 これまで数多のプレーヤーの五感を奪ってきた幸村自身が、全身が凍り付いて身動きも取れなくなっていた。

 

「ば、ばかな……あの幸村が……五感どころではない……五体すらも……」

 

 全国に名を轟かせ、中学テニス界の頂点にまで上り詰めた幸村精市は、学校を問わずに、中学でテニスをやるものたちにとっては最高峰の存在。

 その男が、光り輝く金髪の幼女に手も足も出ない。

 誰も言葉が出なかった。

 

「ウェニアント・スピリトゥス・グラキアーレス・エクステンダントゥル・アーエーリ・トゥンドラーム・エト・グラキエーム・ロキー・ノクティス・アルバエ・・・クリュスタリザティオー・テルストリス・凍る大地(クリュスタリザティオー・テルストリス)

 

 またもや繰り出される詠唱。そして真っ白い靄で包まれたテニスコートから巨大な氷柱が出現した。

 足を地面に凍結された幸村は身動きが取れなくなり、打たれたボールが真横を通り過ぎるのを見過ごすだけだった。

 

 

「ゲーム……4-2で私がリードだ。次は貴様のサーブだぞ? さっさと打ったらどうだ?」

 

 

 冷気の世界が晴れるも、もはやその瞳にまるで生気の籠っていない幸村は、エヴァの言葉や周りの声もまるで聞こえていなかった。

 

(ボール……打たなければ……確か、カウントでは……俺からのサーブ……だったっけ?)

 

 ただ、無意識のうちに、凍り付いた足を引きずりながら、凍り付いた瞼で目も開けられない状況の中で、凍り付いたテニスコートの上に転がっているであろうボールを手探りで探していた。

 

(知らなかった……俺はこれまで多くの対戦相手の五感を奪ってきたけど……その世界は……これほど恐ろしく不気味で暗い世界だったのか……)

 

 冷え切った肌にはもはや触覚がない。

 見えない。

 聞こえない。

 感じない。

 それが怖くてたまらなかった……

 

(あのボーヤも……お嬢ちゃんも……この世界を克服したのか? テニスどころの騒ぎではない……もう何もかもが嫌になって楽になりたくなるこの世界から……立ち上がったのか?)

 

 その時、幸村の脳裏に浮かんだのは、越前リョーマとエヴァンジェリンがイップスから立ち上がった時に見せた表情と言葉。

 

―――楽しい

 

 その時の言葉と笑顔が幸村の心を締め付けた。

 楽しむ心が覚醒のきっかけとなった。

 それは、分かっている。だが、分かってはいるが、自分はその通りにできなかった。

 

「つか、もうテニスどころじゃねーだろうが! 誰か止めろよ! 先生! 学園長先生でもいいからよ、幸村くん死ぬだろうが!」

「そ、そうだよ! もう、何が起こってるのか全然分からないけど、これがまずいってのは分かるよ!」

「幸村君が死んじゃうって、もうやめたほうがいいよ!」

「ネギ君、アスナ、高畑先生たちも止めてよッ!」

 

 そう、もう止めた方がいい。このままでは不幸な事故が起こるかもしれない。

 最悪な事態になると千雨を始め、お気楽なクラスメートたちも一斉に言う。

 

「そうよ! もう我慢できない! エヴァちゃん、この結界、私ぶった切るから! 私の魔法無効化なら―――」

 

 だが……

 

「誰も入ってくるんじゃなーいっ! この死闘を邪魔するものは次の瞬間に刻んで氷漬けにしてやるッ!」

 

 殺気の嵐を剥き出しにして、エヴァは一喝した。

 

 

「マスター……で、でも!」

 

「武道大会でもそうであったろうが! 止めた方がいいとか、やめたほうがいいなどと、舞台に上がらぬ他人が決めるものではないッ! 例えその身が朽ち果てようとも戦う意思を持つのなら、だれにも止める権限などない!」

 

 

 氷漬けがどうした。五感が奪われたがどうした。

 自分たちはテニスコートという戦場で命を懸けているのだ。

 

「そうであろう? 幸村精市。必要なのは、テニスコートで命を懸けられるかどうかだと言ったのはお前だろう? 命を懸けるという言葉を、あまり安売りするなよな?」

 

 それともお前はこの程度で終わりか? エヴァの挑発的な視線と言葉にはそんな想いが込められていた。

 だが、幸村は……

 

「………………」

 

 凍り付いた腕で何とかサーブのトスを上げるものの、もはや見当違いの所に上げてしまい、更にはラケットを振り上げることも、今の幸村にはできなかった。

 

「ゆ……幸村部長ッ!」

 

 もはや見ているだけで痛々しい。これほどまでボロボロになった幸村を誰もが初めて見た。

 

「もはや……自力でどうにかできる相手でもないのか……」

 

 それは、幼いころからずっと幸村を見続けた真田すら絶望に染まった表情で、思わずそう口にしてしまうほど。

 

「…………恐ろしいプレーヤーが居たものだ……」

「エヴァンジェリン……つったか、あの小娘」

 

 手塚と跡部も鋭い瞳でエヴァンジェリンの姿を見続ける。

 自分たちの知らない領域のテニス。

 天衣無縫の更なる先の境地に居るプレーヤー。

 これまで、立海のメンバーがどれだけ麻帆良勢にテニスで勝ったところで、手塚と跡部のダブルスで中学テニス界の威信を守ったところで、この一戦で全てが打ち壊された。

 幸村精市の無残な姿は、日本中学テニス界の惨敗を意味するのである。

 それが悔しくて、でもどうすべきかの打開策も思いつくはずもなく、この場に集ったテニスプレーヤーたちは皆、口を閉ざしていた。

 

(負けるのか…………俺は……)

 

 もはやどうすることもできない状況下、幸村の心の中についにその感情が芽生えた。

 敗北の想いが過った。

 

(ボーヤ……君はこんな状況でも楽しいと思えるかい? こんなテニスを……テニスなのか? ……いや、状況など関係ない……そもそも、俺にテニスを楽しむことなんてできないのだから……)

 

 幸村は分かっていた。覚醒のきっかけは、「楽しむ心」。

 いつしか「勝つため」にテニスをすることで忘れてしまった「楽しむ心」を思い出すことで、越前は自分を超えた。

 しかし、勝利だけを追い求めてきた幸村には、もはやその心を思い出すことは出来ない。

 

(テニスを楽しむことのできない俺は……これ以上先の境地へは……)

 

 だから、自分はもうここまでなのかもしれない。

 そう思った幸村がついにその手からラケットを手放しそうになった。

 しかし――――

 

―――まだまだだな。やはり、俺にはテニスしかない。だからこそ、とことんテニスに身をゆだね、俺は更なる高みへと行く。

 

 その時、幸村の脳裏に過ったのは、友の姿だった。

 

「ッ!? 真田……」

 

 今日、アスナとの試合で、テニスの常識が通じずにヤケになりかけたときに、それでも自分にはテニスしかないと自分の心を奮い立たせて戦った真田。

 さらに……

 

 

―――この夏の高い授業料で教えてもらったのさ。絶望からも足掻き続けて這い上がることを。

 

―――テニスだけは負けねえ!

 

 

 ジャッカル。丸井。

 

 

―――個人戦なら・・・一人ならここまで無茶せんぜよ・・・、絶対。ただ、今は、どんなに体が重くても、激痛が走っても、今なら指先さえ動ければ、何度でも戦ってやるぜよ。

 

 

 仁王。

 

 

―――彼女たちがこちらの想定を上回ることは想定内です。問題はどうやって修正していくかです

 

―――時には、無心となりてガムシャラにボールを追いかけて活路を見出す。例え信じるものがなくとも、勝機を見出そうとせぬ者に、過去を凌駕できん

 

 

 柳。柳生。

 

「……みんな……」

 

 その時、幸村の脳裏に過ったのは、今日、自分たちの常識や想定を遥かに上回った麻帆良のテニスに相対し、追い詰められながらも最後まで諦めずに抗い続けた仲間。

 立海に入って三年間を過ごしてきた仲間たち。

 彼らは今日、戦った。

 ならば、自分は?

 

(そうだ……何をやっているんだ、俺は……)

 

 自分はまだ……戦い抜いていない。

 

(みんなだけじゃない……手塚も……跡部も……どれほど追い込まれても最後まで抗った……命がけで……)

 

 ましてや無二のライバルたちまで今日は自分の目の前で戦い抜いたのに、自分だけ諦めていいはずがない。

 

(目も見えない。音も聞こえない。体の感覚も失われている……でも、まだ俺は生きている!)

 

 その想いに至った時、手放しそうだったラケットを今一度強く握り絞め、幸村の瞳に光が戻った。

 

 

「俺は生きている! 生きている限りテニスができるッ! 生きてテニスが出来る限り、諦めるわけにはいかないんだッ!」

 

 

 腕にまとわりつく氷を無理やり引き剥がす。

 皮膚が裂けて血がにじみ出る。

 しかし、それでも生きているのなら、まだテニスができる。

 よみがえった幸村は、全身の力を振り絞って力強いフラットサーブを放った。

 

 

「ほうっ! 自力で取り戻したかッ!」

 

 

 再び戦う意思を見せる幸村に、エヴァは嬉しそうに笑みを浮かべ、同時にギャラリーからは歓声が上がった。

 

「幸村ぶちょーーーーッ!」

「自力でなんとか立ち直ったかッ!」

「すごい! あんなになっても戦うなんて……ッ、が、頑張れ、幸村くんッ!」

「ほっ! 驚いたわい! あの青年……エヴァンジェリン相手にまだ……なんという精神力じゃ!」

 

 まだ戦う。魔法使いでもないただの中学生が。

 無駄なあがきと言えばそれかもしれないが、それでも今の幸村の姿は多くの者の心を打った。

 

「平和な世界で生きるも、命懸けで戦う男よ……その意思は褒めてやるぞ、幸村精市」

 

 しかし、立ち直ったところで、力が増したわけではない。エヴァの圧倒的優位なのは変わらない。

 エヴァの余裕の笑みは変わらない。

 そして……

 

「もう、お前の打球はネットを超えることもない。氷盾(レフレクシオー)

 

 エヴァも心を打たれたとはいえ、手は緩めない。

 ネット際に魔法障壁の壁を張り、幸村の打球の全てを跳ね返す障壁を構築した。

 

「うぎゃあ、エヴァちゃんのKYすぎッ!」

「つか、あの人、あんなんでテニス楽しいのか? つかテニスじゃないし!」

「あれじゃあ、幸村君可哀想すぎや!」

 

 無慈悲な氷の壁に悲鳴を上げる麻帆良勢。

 その障壁を幸村もテニス部員たちも肉眼では見ることは出来ない。跡部は見えるが……

 しかし、それでも「何かがそこにある」ことは幸村も察していた。

 

(何か見えない壁がある……まるで、万物に宿るエネルギーが凝縮されたかのように……あれをあのお嬢ちゃんが作り出したのか?)

 

 このまま打っても返されるかもしれない。ロブで逃げてもスマッシュを叩きつけられる。

 なら、どうする? 

 

「……ネットを超えることもできない……か……あのボーヤなら、意地になってその壁を砕こうとするだろうね……そうだ……」

 

 幸村の辿り着いた答え。それはあまりにも単純なこと。

 力づくで打ち抜く。

 

「砕いてみせる! 絶対に越せない壁なんてあるはずがないのだからッ!」

 

 渾身の力を込めたフラットショット。

 投げやりになったわけではない。自分の力を信じて幸村はショットを放った。

 

「ふん、残念だが……」

 

 しかし、そのショットは障壁に跳ね返されるだろうと、エヴァが邪悪な笑みを浮かべようとした、その時だった!

 

 

「……………………………………………………………………へっ?」

 

 

 その瞬間、障壁がガラスのように粉々に砕け散り、ボールがエヴァの足元を抜いたのだった。

 

 

「「「「「「「—――――――――――――ッ!?」」」」」」

 

 

 一体何が起こったのか分からず、この場に居た誰もが目を大きく見開いている。

 そして……

 

「……なっ……え? ……わ、私の……魔法が……マギアエレベアが……魔法が……」

 

 一瞬何が起こったか分からなかったエヴァは、更に自分の異変にも気づいた。

 それは、自分の身に纏っていた魔法が解除されて、ただのテニスウェアの姿に戻っていたこと。

 そして、テニスコートを覆いつくしていた氷の全てが消失していた。

 

「やった、幸村部長が取り返した!」

「何があったか分からないが、幸村がポイントを取った!」

「流石だ幸村! まだ、負けてねえ!」

「すごい、幸村君! エヴァちゃん相手に負けてない!」

 

 魔法の知識がないテニス部員とクラスメートたちには、復活した幸村がショットを決めたという認識だ。

 しかし、その他の者たちにとっては違う。

 幸村のショットよりも、エヴァの魔法が消えたことの方が衝撃だった。

 

「ど、どうして、エヴァちゃん……魔法を……解除したの?」

「い、いや、そういう風には……むしろ、魔法がマスターの意志に関係なく消えたような……」

「タカミチ……い、今の見たかのう?」

「…………魔法が解除されたというより……一瞬、エヴァの魔力が……」

 

 一体何が起こったのだ? 正直、その答えを今すぐには誰も分からなかった。

 実際、エヴァ本人だって分からないのだから。

 しかし、何かが起きたのは事実だった。

 

「……体内の魔力に変化はない……ならば、なぜ? ……よく分からんが、貴様、何をした? 幸村精市」

 

 何かが起きたのだとしたら、幸村が何かをしたのだ。

 しかし、エヴァが問いかけるも、幸村は答えない。

 

「……ふん……まあいい。何をしたかは分からぬが……今度こそ見極めてくれよう!」

 

 エヴァがもう一度、マギアエレベアと天衣無縫の極みを発動させ、その二つの力を融合させて身に纏う。

 目を見開き、今、何かをしたであろう幸村を見極めてやろうと、ワクワクした表情だ。

 しかし……

 

「いくよ……15-0」

 

 幸村がサーブを放つ。再び最強モードになったエヴァに死角はなく、余裕で追いついてボールを――――

 

「なにっ!」

 

 その瞬間、エヴァの身に纏っていた魔法が消えた。

 その事態に驚くあまり、サーブのリターンが頭から抜け、サービスエースを許してしまった。

 しかしエヴァも、魔法の世界を知る者たちも、幸村のサービスエースよりも、突如魔法が解除されたエヴァの異変に驚いていた。

 

「やった、サービスエース!」

「なんだ~、幸村君元気じゃん!」

「よっしゃー、追い上げ頑張れーっ!」

 

 能天気な応援が響く中、魔法を知る者たちは皆が思っていた。「今、テニスコートで何が起こっているのだ?」と。

 そして……

 

「……今……一瞬だけ……ほんの一瞬だけですが、エヴァンジェリンさんの肉体の中にある魔力がゼロになったかのような錯覚が……」

 

 その言葉を口にしたのは、魔界の姫、ザジだった。

 

「ざ、ザジさんどういう……」

「魔法が解除されたのではありません。エヴァンジェリンさんの体が、まるで自分の体内にある魔力が一瞬だけゼロになったかのように陥り、発動中の魔法が消失したのです……」

「で、でも、なんで……急に……」

 

 魔法が解除されたのではなく、エヴァンジェリンの魔力がゼロになる。

 その違いと意味を正直なところ、皆理解することは出来なかった。 

 ただ、張本人のエヴァンジェリンは何かの答えに辿り着いたかのように、引きつった笑みを浮かべている。

 

「おい……幸村……貴様……まさか……」

 

 ワナワナと震えるエヴァの視線の先に居る幸村は、ようやく顔を上げて口を開く。

 

「正直、君の使っている力の詳細までは分からないが……恐らく五感を超越した……第六感……第七感のような力なのだろうけど……それでも……肉体の感覚を通じて発動させているなら……それを奪わせてもらうまでだよ」

 

 その説明は、この場に居たほとんどの者たちには意味不明のもの。

 ネギたちすらも顔をキョトンとさせている。

 だが、エヴァには分かった。

 

 

「ふふふふふふふ、ふわーっはっはっはっはっはっは! なんということだ! 貴様、本当か! くくくくく、おいおいおいおいおい、だからって出来るものなのか? 全く、もうこれは笑うしかないぞ! ははははははははははは!」

 

 

 腹を抱えて大爆笑するエヴァ。笑いすぎて涙が出ているぐらいだ。

 

 

「くくくくくく、おい、ジジイ。タカミチ、ボーヤ……恐ろしいぞ、この男は……正直な話、私も信じられないぐらいだ……まさか、ただの中学生のテニス部員に、とんでもない奴が居たぞ!」

 

 

 あまりにも笑いすぎたエヴァは、その笑いの意味を、学園長たちに告げる。

 それは……

 

 

「この男。一瞬だけだが……テニスを通じて…………私の体内の魔力タンクを司る感覚を剥奪した!」

 

「「「「「「「………………………………………………………………はいっ?」」」」」」」

 

「神楽坂アスナのように、魔法を無効化するのではない……相手の魔力を剥奪することによって強制的に魔法を解除する……しかもこの私からだ! ふはははは、恐怖を通り越してもう笑うしかないぞ! ふはははははははは!」

 

 

 そう、それは、テニスを諦めずに抗い続けた幸村が目覚めた新たなる力。

 

 

「人の思いこみの力。悲しくもないのに涙が出るのと同じように、人は自分の意思とは関係なく、脳がそう思い込んでしまうことで肉体の機能が変わってしまうことがある。燃え尽き症候群の『バーンアウト』や『イップス』もその典型だ。しかし……それでここまでできるのか? 私の体内の魔力は確かにタンクの中にある……しかし、それが、『魔力がない』と錯覚してしまうほどの……」

 

 

 たとえ、「魔法」という認識や知識がなくとも、その異形の力と触れたことにより目覚めたもの。

 

 

「五感剥奪を超えた……魔力剥奪……すなわち、六感剥奪ッ!」

 

 

 それは、「普通のテニス」においてはまるで意味のない能力だ。

 

 

「全く、今日は本当に驚くべき日だ。魔眼のごとき目を持つ小僧も居るかと思えば、まさか魔力を剥奪する小僧まで現れるとはな……」

 

「ふふふふ、まりょく? よくわからないけど、とりあえず効果があってよかったよ。お望みなら……他のモノも奪おうか?」

 

「くくくくくくく、全く、とんだバケモノがテニス界には居たものだな……」

 

 

 今回のような「魔法テニス」でなければ役に立たない。

 しかし、相手が「魔法テニス」であるのならば、これ以上の能力はない。

 幸村は、「魔法」を知らない。しかし、「魔力」をテニスで剥奪したのだ。

 

 

「しかし……まだ、完全ではあるまい。剥奪したはずの力も、ワンプレーが終われば私に戻る」

 

「……そうみたいだね」

 

「ならば話しは早い。この勝負……貴様が私から力を奪い続けて逆転するか……その前に私が押し切るか……その勝負ということか!」

 

 

 一度は終わりかけたゲーム。しかし、まだ終わってはいなかった。

 それどころか、今また幸村はエヴァに対抗する力を手に、また挑んできた。

 それがたまらぬ高揚感となり、エヴァを纏うオーラは更に荒々しく猛った。

 一方で幸村は……

 

 

「お嬢ちゃん。これはテニスだよ?」

 

「ん?」

 

「ならば、勝負は……テニスが強いものが最後に勝つ。それだけだよ?」

 

 

 最初に戻ったかのように、底知れず、揺るがぬプレーヤーとしてエヴァを迎え打つ。

 未だ、学園長やネギたちが衝撃のあまり呆然とする中、二人はゲームを再開させる。

 

 

「ふはははは、その通りだ、幸村! そして最後に勝つのは当然――――」

 

「うん、勝つのは!」

 

「「俺(私)だッ!!」」

 

 

 そして、異次元の死闘に終幕が近づいていた。

 


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