【完結】テニスこそはセクニス以上のコミュニケーションだ(魔法先生ネギま×テニスの王子様) 作:アニッキーブラッザー
第21話『テニスの進化の果て』
全ては、テニス界を震撼させる四人の男たちの合コンを見るため。
そのために彼らは、厳重な警備を掻い潜り、この麻帆良学園都市へと降り立った。
山吹中の壇太一からのソースによると、『皇帝』、『悪魔』、『怪物』、『殺し屋』の合コンは食堂塔。
他の魅力的な施設や都市の風景等には目もくれず、青学と氷帝のテニス部員たちは、現場へと走った。
「しっかし、随分とバカでかい学園やな。氷帝もそれなりやと自負しとったが、こら、どえらいもんや」
「そうだな、ユーシ。まっ、麻帆良中テニス部なんて関東でも聞いたこともねえから、あんま興味も無かったけどな」
「だがよ、これだけの施設を誇る学校だ。もしテニスに力を入れたら、一気に駆け上がってくるかもしれねえ。長太郎! 分かってると思うが……」
「分かってます、宍戸さん! たとえ、どこが出てこようとも、全国の頂点に立つのは氷帝です!」
「おい、こら、鳳。テメエ……全国を連覇するのは、青学だ!」
「おっ、珍しくいいこと言うじゃねえか、海堂!」
本来であれば、敵同士である彼ら。しかし今は同じ目的を果たすための同志として、いがみ合いながらも食堂塔を目指した。
だが、その時だった。
「ん? 野郎共、止まれッ!」
氷帝部長の跡部が先頭で止まり、一同を制した。その視線の先には、学園の名物とも言えるだだっ広い広場。世界樹の前であった。
まるで御伽噺に出てくるかのような世界樹の壮大さに圧倒されて、思わず足を止めた? いや、違う。鋭く睨む跡部の視線の先には……
「これは……テニスコート?」
明らかに不自然な景観。それは、噴水や屋外カフェテリア等の雰囲気溢れる空間の中に、明らかに異質な空間とも呼べる、一つのテニスコートが不自然に設置されていた。
そしてそのコートには二人の中学生らしき少女が、まるで待ち構えていたかのように、氷帝と青学を迎えた。
「何者だ?」
そう誰かが尋ねると、その声に二人の少女は答えた。
「私の名前は超鈴音。宜しくネ、全国屈指の名門校……青春学園及び氷帝学園テニス部の皆さん。歓迎するヨ」
「こんにちは。ザジ・レイニーデイです。以後お見知りおきを」
日本人ではない。しかし、ただの外国人という雰囲気でもない。
魔法とは無縁の世界に住む青学と氷帝のものたちにとって、彼女らの正体など、本来であれば想像もつかぬ無縁の世界の住人。
しかし、それでも、スポーツとはいえ、一流という世界に身を置く者たちならではの独特の勘のようなものが、彼らに訴えていた。
この二人は、只者ではないと。
そんな風に考える彼らに、超はニッコリと笑った。
「今、私たちのクラスメートが、あなたたちの戦友でもある、立海大付属との団体戦の最中ネ。まあ、既に団体戦そのものの結果は出ているガ……」
その発言に彼らは驚愕の表情を浮かべた。
今年は、全国王座を逃したものの、日本でテニスをやる者にたちにとって、立海の名を知らぬものなど居ない。
「ちょっ、何言ってんすか? あんたらのクラスが立海と団体戦? それ、ほんとすか!」
「本当ネ。……桃城武くん?」
「ッ! なんで、俺の名前を……」
「本来……男子テニス部と試合の予定だったようだが、立海に恐れをなして全員ボイコット……それに対する謝罪と配慮として麻帆良女子中の私のクラスメートたちが代理となって試合をしているネ」
「……えっ、じょじょ、じょ、女子中ッ!」
立海と練習試合をする。それは今後のテニス人生を左右させるほどのダメージを受けるかもしれぬほど、危険の伴うもの。
ゆえに、立海と練習試合をするのは、同じく全国屈指の名門校や高校生ぐらいしか居ない。
そんな立海と女子中が練習試合? それはもはや、驚くというよりも、呆れた茶番だと誰もが思った。
「なるほどな。あの真田が合コンとか、おかしいと思ったが、そういう経緯か。あ~ん? 亜久津と木手が居るのは気になるが、まあ、想像していたものと違うようだな。興ざめだぜ」
女子中の娘たちとテニスをしている。恐らくそれを山吹中の壇は合コンと勘違いしたのかもしれない。
跡部たちの脳裏には、キャぴキャぴしたか弱い娘たちに優しくテニスを教える立海の姿が想像できた。
だが……
「ちなみに、試合についてだが……一試合目のシングルス……真田くんは相手が棄権により勝利……二試合目のダブルスの丸井くんジャッカルくんペアはも6-4で勝利」
「あん? 6-4?」
真田が相手の棄権により勝利というのは不思議ではない。
しかし、次のダブルスの結果は思わず声を出して驚いてしまった。
何故なら、全国でも屈指のダブルスとも言われている、丸井とジャッカルのペアが、6-4とスコア的に接戦しているからである。
さらに……
「続く仁王くんは、タイブレークの末に6-7で負け」
「ま、負けた? 仁王が! あの仁王が負けた……女子に? そんなバカな!」
「しかし、立海の敗北はそれだけネ。ダブルスの柳くん、柳生くんは、6-3で勝ち。ちなみに、切原くんも場外乱闘テニスで試合は途中で中断されたものの、ほとんど勝利といえる内容ヨ。……そう、結果的には麻帆良の完敗ネ」
団体戦そのものは立海の勝利。それはおかしくないだろう。問題なのは、その内容だ。
仁王の負け以外でも、スコアがかなり競っている。
「なあ、手塚ァ~。女共との親睦のために手を抜いたり花を持たせたり……あの、幸村や真田がやると思うか?」
相手は同じ中学生の女子。
全国トップクラスの立海が本気を出して潰すような真似をする相手ではないかもしれない。
しかしだからと言って、このスコアや勝敗はどう思う? そんな跡部の疑問に手塚も迷わず答える。
「やらんだろうな。あの二人……いや、それが立海大の精神だ。たとえ相手が誰であれ、同じテニスコートに立つのなら全力で叩き潰す。それが彼らだ」
そう、勝敗やスコアなど気にせずエンジョイテニスをするような連中ではない。
そんなことは同じ関東で死闘を繰り広げてきた彼らだからこそ分かる。
すると、超鈴音はニコリと微笑んだ。
「しかし、このまま負けっぱなしではつまらないヨ。だからこそ、私も一枚かむ事にしたネ」
そう言って、超鈴音はラケットを男たちに向ける。
「さあ、かかってくるネ。ここを通りたくば、私とザジさんのダブルスを倒してみるネ」
それは、女たちからの挑戦状だった。
ここを通りたければ、自分たちを倒せと。
「アーン? 本気か? テメエは」
「君たちと試合をしろと……そう言っているのか?」
その挑戦状も、本来の跡部であれば、鼻で笑って歯牙にもかけぬだろう。
しかし、今は違った。
「時空王とテニスのお姫様。このペアに勝ってみるネ」
あの、立海大が苦戦を強いられる麻帆良の者たち。
そして目の前の二人もまた、ただの中学生の女子には見えない。
ニコニコとした微笑みの裏に、目に見えない、底すら見えない何かが溢れている。
だからこそ、跡部は笑みを浮かべた。
「ふん、立海が苦戦していることも含めて、貴様らに興味が出たぜ。おもしろい、この俺様がメスネコどもを相手してやる。そして、瞬殺してやる」
ジャージの上着を投げ捨てて、ラケットを取り出してコートに足を踏み入れる跡部。
そして、その跡部に一歩遅れるように……
「来年以降……麻帆良学園がテニス界に革命をもたらすなら……その力の一端をここで明らかにするのが、部長としての最後の勤め。だから、俺が出よう」
名乗りを上げたのは、手塚国光。
コートに並ぶ、跡部と手塚。その絶対にありえるはずのない光景に、青学、氷帝の選手たちからどよめきの声が上がった。
「す、すげえ! 跡部さんと、手塚部長のダブルス!」
「決して実現しないと思われた、夢のダブルスの完成だ!」
「ひょえ~、ダブルスなら俺と大石って思ってたけど、これじゃあ譲らないとダメだよね~」
「あ、ああ……それにこのダブルスは……」
青学、氷帝、共にダブルス専用の選手や組み合わせが揃っている。
そしてそのどちらのダブルスも、間違いなく全国トップクラスのダブルスの力を持っている。
対して、手塚と跡部は、共にシングルス専用プレーヤーであると同時に、二人でダブルスを組んだことなどこれまで一度もない。
しかし、それでも尚、誰もがこの二人のダブルスを見て、同じ思いを抱いた。
「こ、このダブルスは……日本の中学生……最強のダブルスだ……」
全国大会でもその名を轟かせた、ダブルス専用プレーヤーでもある大石すら断言した。
この夢のダブルスこそが、現在の日本最強だと。
「ふ~ん、やはりそう来たネ。まあ、その方が都合がいいネ。試合したいと思っていた二人がいっぺんに相手をしてくれるなら、ラッキーヨ」
「こちらも、全力で頑張らせていただきます。よろしくお願いしますね」
対して、麻帆良側の、超鈴音とザジ・レイニーデイは涼しい顔のまま。
その反応に、青学や氷帝の部員たちは、「この二人のことを知らないのでは?」とすら思うようになっていた。
「アーン? 随分と威勢のいいメスネコだな。まあいい。5分ぐらいは持ってくれよな? わざわざ俺様たちが相手をしてやるんだ」
「こちらこそよろしく。いいゲームをしよう」
コートの中央で握手を交し合う四人。
そして、トスの結果、サーブ権は麻帆良側になったようだ。
「それじゃあ、ザジさん。最初は私からいかせてもらうヨ」
「分かりました。単純なサイン等を決めておきますか?」
「フフフフ、そうネ。……まあ、必要ないと思うガ……」
そして、最初にサーブを打つのは超鈴音。
手塚も跡部も、そのサーブで相手がどの程度かを見極めようとしていた。
「ふふふふ、心躍るネ。こういう戦いが出来るのが、タイムトラベルの醍醐味ヨ。過去の戦を未来の技術と力で無双する。私tueeeなイベントヨ」
この瞬間を待ちわびていたかのように、ワクワクとした表情を隠すことができない超鈴音。
ボールを何度か地面につきながらリズムを取り、そして顔を上げる。
「先手必勝ネ!」
スムーズで無駄のない洗練された動き。
繰り出された超鈴音の高速サーブ。
完璧なフォームから繰り出されたソレは、中学生女子が打つにはなかなかの剛球だった。
「いいサーブだ」
サイドの隅に打たれたサーブはコースも完璧。
しかし手塚は顔色一つ変えずに、相手のサーブを褒めながら、楽々とバックハンドでリターン。
「中学テニス界のカリスマにお褒め戴き光栄ネ! セイッ」
「ストロークも大したものだな」
手塚のリターンを超も打ち返す。
互いに相手のクロスでのラリーを続け、ベースラインに張り付いている。
そして、二人とも無理に攻め込もうとはしない。
「へえ、女子で、しかもあんま体も大きくないのに、けっこういい球打つっすね、あの子」
「ああ。なかなかのレベルだ。それなりに自信があったのも頷ける」
テニスの実力などは、相手のフォーム、そして球を一球見れば大体分かる。
それなりの速度で、さらにコースも的確である。「テニスがうまい」というレベルには達している。
だがしかし……
「でもまあ、手塚部長と跡部さん相手に、『自分たちに勝ってみろ』なんつーのは、スゲー度胸ありますけどね」
「確かに桃の言うとおりだ。彼女はそこそこうまい。だが、あのダブルスコンビに勝つのは99%不可能だ」
そう、超鈴音はうまい。それは認める。だが、所詮はそれまでである。
とてもではないが、手塚と跡部という日本最強とも言えるこのダブルスに勝つのは不可能だと、誰もが思っていた。
「ふふふ……ウォーミングアップラリーは、このぐらいでいいカ? 手塚さん」
「……?」
「では、そろそろ……こっちもいかせてもらうネ!」
その時、十球近く続いたラリーの途中で超鈴音の顔つきが変わった。
「おい、手塚、なんか来るぞ?」
前衛に出ている跡部が何かを察知した。
それは、相手を見抜く洞察力にかけては、全国屈指を誇る跡部の勘がそう告げていた。
無論、手塚も超鈴音が何かを企んでいることは空気を伝わって感じていた。
だが、手塚はそれでも動じない。
「ならば、来い」
正々堂々と待ち構えるのであった。
フォアサイドに走る超鈴音。待ち受けて構える手塚に対して笑みを浮かべながら、渾身のジャンピングフォアショットを叩き込む。
打球の音も一層高い。完璧なジャンピングショット。文句なしだった。
だが、
「ジャンピングショット……鋭い打球……見事だ。だが――――」
そう、その程度で手塚の後ろを抜くことは出来ない。
「大したショットだ。だが、あれで手塚からポイントを奪える確率はゼロパーセント」
「速い。流石は手塚部長、もう回り込んでる」
「いっけー、手塚! まずは、カウンターでポイントゲットだにゃー!」
手塚は簡単にボールの正面まで回りこみ、そしてカウンター気味にリターンを打ち返そうとした、その時だった!
「ッ!」
リターンをしようと、ラケットをテイクバックしたその瞬間、手塚はボールを見失った。
それは、決して油断したわけではない。
「……15-0ヨ……」
だが、ボールを見失い、気づけばボールは既に自分の背後にあった。
コートには、ボールがバウンドしたと思われる跡がくっきりと残っている。
「な……手塚部長がポイント取られた!」
思わぬ事態に青学桃城から声が上がる。
だが、問題はそんなことではない。
「お、おい……今、そのよく分からなかったんだけど……ボールを見失っちゃって……」
「えええ? 大石も? 俺も俺もー! まばたきなんてしなかったのに、手塚がボールを打ち返そうとした瞬間、ボールが消えたよ!」
「は、はは、英ニ……な、なにを言ってるんだよ。ボールが消えるはずなんてないじゃないか。きっと、不二の消えるサーブや、千歳の神隠しみたいな技なんじゃ……」
「いいや、タカさん。僕のカットサーブや千歳の神隠しは、ただの急激なボールの変化でそう見えるだけ。でも、彼女のショットは、まるでボールそのものが消えたように見えたけど……」
ボールが消えた。急激な変化? それとも目にも見えないスピード? いや、そういうレベルではない。
まるでボールの存在が一瞬、この世から消えたかのような現象であった。
「……ああん? おい、手塚……」
「………」
「今……何が起こった?」
表情こそ変えないものの、手塚も今の現象をどういうことなのか理解できないでいた。
そんな中で、超鈴音は笑みを浮かべながら、サーブを構える。
「ねえ、さっさと打っていいカ?」
余裕の笑み。起こった事象は説明できなくとも、舐められているのは分かる。
「ああん? 上等だ。俺様のインサイトで見極めてやる」
次は跡部のリターンの番。跡部は腰を落とし、目を見開き、超鈴音の全てを凝視する。
「ハッハッハッハ、キングにそんなに見つめられると照れるネ。でも……見極められるカ? ソレッ!」
超は、跡部のインサイトなどお構いなしとばかりに再びトスして、今度はジャンピングサーブを放つ。
フラット系の威力のあるショット。
だが、逆を言えば余計な回転などはかかっていない。ここから急激に変化することはありえない。
ならば、打ち返せる。
「捉えた!」
サービスラインに叩き込まれたボールを、素早いフットワークで正面に回りこんで、跡部は完璧なリターンを―――――
「ッ!」
「……30-0ネ」
「な、にい?」
また同じことが起こった。
目の前まで来たボールを打ち返そうとした瞬間にボールが消失して、気づけばポイントを取られている。
跡部のインサイトでも見抜けない。それはボールの変化云々は関係なく、本当にボールが消えたことを意味するのである。
「おいおい、跡部がサービスエースを取られたぞ!」
「いや、そこちゃうやろ。問題なんは、ボールが消えた……ほんまに消えとるで」
全国屈指の強豪校、氷帝学園のキング跡部すらも反応できぬ事態。
中学テニス界のカリスマとキングを嘲笑うかのようなショットを繰り出した超鈴音は、いやらしい笑みを浮かべながら口を開く。
「ラケットとボールと運動能力。ただそれだけのテニス等、なんと原始的で時代遅れなことカ。魔法や科学を巻き込んだ『スーパーテニス』の世界で太陽系を制覇した私が相手では、いかにキングとカリスマといえども、役不足ネ」
役不足。この二人を相手に堂々と告げる存在が同じ中学生で、しかも女子で存在するとは誰もが思わなかった。
「魔法……だと?」
「科学? メスネコ……どういうことだ、ああん?」
それは、まだまだ世界を、そして進化した未来のテニスを知らない彼らにとっては仕方の無いこと。
「テニスの時代の一つの転換期とも呼ばれし、この時代。百年に一度の群雄割拠のテニス界に生きる者たちに、そのさらに百年以上先の、未来のテニスを見せてあげるネ」
超の言葉の意味をまるで理解できていない二人に、超は再びサーブを構える。
「さあ、いくヨ! 必殺・時飛ばしサーブッ!」
そして、手塚と跡部はこの後、知ることになる。
二人がまだ知らぬ、テニスという一つのスポーツの進化の果ての世界を。