【完結】テニスこそはセクニス以上のコミュニケーションだ(魔法先生ネギま×テニスの王子様) 作:アニッキーブラッザー
第18話『息も詰まるような世界』
データは『絶対』ではないのは当たり前だ。あくまでそれは確率の話。
99%ありえないことでも、僅か1%の確率で大きく結果を左右されることもある。
そもそも、百回飛んで一回墜落する飛行機を安全と呼ぶことが出来るか?
しかし、この二人の確率に対するこだわりは常軌を逸していた。
「柳さんがポーチに出る確率92.467%」
「茶々丸が強打と見せて左ドロップを落とす確率99.28%」
「柳さんが私のドロップを読んで中ロブ気味のボールを上げる確率94.573%」
「茶々丸が俺の思考を読んで中ロブを警戒する確率98.735%」
「柳さんの計算で私が中ロブを読んでスマッシュをコーナーに落とすことを95.73%まで読み、残る数%はスマッシュフェイントのドロップを警戒。しかし、ワンテンポ遅らせたドライブボレーならば、無警戒」
「ッ!?」
「私のドライブボレーの決まる確率100%」
僅かワンポイント。しかし、そのワンポイントに、思わず誰もが息を止めて呼吸をすることすら忘れていた。
「ゲ、ゲーム。絡繰・早乙女ペア。1ゲームスオール」
審判のコールが終わった瞬間、誰もがどっと息を吐いて声を上げた。
「な、なんなのよ、このゲームは! てか、この二人は!」
「ぜ、全然とんでもショットを打ったりしていないのに、何で目を離せないのよ!」
「信じられないほどの攻防でござる。まるで、将棋を見ているかのようなお互いの思考の探り合い」
今までの試合に比べて特殊な攻防だった。
ボールが雷みたいだったり、コートが破壊されたり、ラケットが粉々になったり、翼が生えたり、変身するわけでもない。
やっていることは普通のテニス。ハイレベルなラリーの応酬だ。
しかし、見ている者たちにはボールを打ち合う別の競技に見えた。
テニスなのに、どこか互いの思考を読み、戦略を駆使したゲームを見ているような心地だった。
一方で、立海メンバーの心境も穏やかではなかった。
「おいおい、あの女、参謀の一手先まで読み切りやがった」
「信じられないだろい」
「パワー女や超人女にモンスター女に続いて、何もんだよ。コンピューターみたいな正確性だぜ」
「まさか柳のデータテニスと真っ向から戦える相手が、青学の乾以外にも居たとはね」
相手のプレーや心理や傾向を分析して相手を摘み取るデータテニス。
そのプレースタイルは全国屈指、いや、全国トップと言っても過言ではないだろう。
しかし、それが通じない相手がこんなところに居た。
今日何度目だろうか。戦慄せずには居られない、立海メンバーであった。
「すまない、柳生」
「ノープロブレムですよ、柳くん。これまでの試合を見ていれば、彼女たちがこちらの想定を上回ることは想定内です。問題はどうやって修正していくかです」
とは言うものの、立海一の冷静沈着な二人でも、心境は穏やかではなかった。
なぜなら、今彼らが戦っている展開は、正に自分たちの土俵のテニスでもある。
つまり、自分たちの得意なやり方でポイントを取られているという現実。
それは、ゲームの流れ的にも良くない傾向である。
「まずは、流れを断ち切りましょう」
「そうだな」
こういう状況を断ち切るには、一撃必殺の大技に限る。
「では、頼むぞ、柳生。念のため、まだプレーらしいプレーをしていない、あの早乙女という彼女を狙うべきだろう」
「承知しました」
そして、その一撃必殺の大技が、このペアには、柳生という男には備わっている。
「いきますよ」
ストローク中に、柳生のメガネがキラリと光る。その瞬間、茶々丸はデータではなく直感で何かを感じ取った。
「ハルナさん、来ますよ!」
「おう、まかせろい! じゃあ、見せちゃうよん。私の落書帝国の真骨頂!」
その時、ハルナがゲーム中だというのに何かをし始めた。ノート? のようなものに何かを書いている。
それが一体何の意味かは分からない。だが、この男の技の前には、どんな動作も一瞬で無意味と化す。
「レーザービーム!」
レーザー光線のようなパッシングショット。
速いと感じた瞬間にはポイントを取られている、高速のボール。
だが、
「熱岡シューゾー召喚! もっと、熱くなれよー!」
それは、テニスの道を志す者たちの見た幻覚だったのか?
「う、うそ、だろい!」
「バカな! げ、幻覚か!」
「俺のイリュージョンとも違うぜよ!」
「日本人で、グランドスラム本戦を勝ち抜いた元トッププロ……シューゾー選手?」
知らないはずがない。中には、彼の影響を受けてテニスを始めた者だって居るだろう。
しかし、それは幻覚などではない。
「あ、あああ! あの人、知ってる! よくテレビに出てる煩い人!」
「ハルナの奴、あんなタレントの人を出してどーすんのよ!」
「つ、つか、あのタレントテニスうまいんだな」
「って、それは反則だろうがー、早乙女!」
タレント? こいつらは何を言ってるんだ?
いくら現役を引退して長いとはいえ、日本でテニスをする者に知らない者は居ないのだぞ?
だが、そんなツッコミすら失せるほど、立海メンバーは唖然としていた。
「見ましたか? 柳くん」
「ふっ、これは流石にデータで読みとることはできないな。あの、早乙女という女。仁王のイリュージョンに近い能力を所有しているということか?」
「しかし、仁王くんは体格や筋力からも同世代の選手以外のイリュージョンはできません。しかし、彼女はトッププロの力を僅かワンプレーとはいえ…… あのノートから、まるでゴーレムのようなものを召喚しました」
一見表情はクールに見えるこの二人も、内心では否定したい気持ちでいっぱいだった。
「あってはならないことだ」
そう、あってはならないことである。
それは、超常現象があるかないかではなく、テニスラケットも数えるほどしか持ったことのない女生徒が、世界のトッププロの力を一瞬とはいえ使ったことである。
テニスの道を志す者たちの頂点に位置する選手たち。
数多くの苦難、ライバル、怪我、才能、あらゆる現実の壁全てを乗り越えた者たちのほんの一握りの選手たちだけがたどり着き、手に入れることのできる力。
生涯をテニスに捧げても手に入れられるかどうかも分からないその力を、こんな簡単に?
そう、それは、テニスというスポーツに対する侮辱。
だからこそ、あってはならないことであった。
「どんなトリックがあるかは分からないが、その力の化けの皮を剥いでみせよう!」
「さあ、いきますよ!」
二人のテニスプレイヤーに火を点けた。
「うっひょー、こわ、こわいじゃん! どーしよ、なんか怒ってるよ?」
「問題ありません、ハルナさん。彼らの筋力、スピード、反応速度、全てを既に把握しました。ハルナさんの能力の前に、彼らでは太刀打ちできません」
「ひゃ〜、そうなんだ。んじゃ、イケメン兄ちゃんたちには悪いんだけど、サクッといきますか!」
これまでは、ほとんど茶々丸メインで攻めた。だが、ハルナの攻撃が有効であると分かった以上、調子に乗ったハルナは能力をおしみなく発動させた。
「カマイタチ!」
柳の必殺ショット。風を切り裂くスライスショット。その風圧に触れただけで、皮膚を簡単に裂く。
「柳の奴、女相手に容赦ねえ!」
「いや、こいつらはもう、女とかどうとかそういうレベルじゃねえ。ガチでやらねえと、こっちがやられる!」
たとえ、相手を傷つけることになったとしても、テニスで負けるわけにはいかない。
柳の覚悟を決めたショットだ。
だが、
「いっくよーん! 落書帝国! 現役最強の日本人! ニシキオリ・ジェイのエアーJ!」
「なっ、こ、今度はニシキオリだと!」
シューゾーが、ただのタレントだとか一応元プロという程度の認識しかないギャラリーたちにも、この選手のことだけは分かった。
たとえテニスに興味がなくても、その選手の存在は日本全国にテニスブームを巻き起こす一旦となった選手でもあった。
世界に通用する日本人?
違う。世界で勝てる日本人。
「30—0」
またもや反応できないほどの強烈ショット。
確かにトリックがあるのかもしれないが、この一撃は紛れもなく本物だった。
「信じられません。こんなことが……」
「いずれにせよ、データを収集する必要がある」
ベールを脱いだ早乙女ハルナの力。その力をこのまま相手にするのは危険すぎる。
僅かな情報でも集めて対策を練らなければ一瞬でやられる。
それが、未知の世界が持つ危険だ。
そして、同時刻。その未知の世界に、ついに彼らまで足を踏み入れることになるのだった。
呼吸すらままならぬほどの別世界。
気圧、風圧、そしてこれまで体感したこともないほどの落下。
全身の自由など既に感じられず、ただ男たちは空から落ちるだけだった。
「ぎゃあああ、お、落ちる、落ちるっすよ、跡部さん! おい、マムシぃ、テメェ失神してんじゃねえだろうな?」
「ああ? だ、だだだだ、誰が、ししし、しん、失神してるだ、桃城!」
「時速200km越え・・・ふふふ、やはり・・・・理屈じゃない」
「おい、乾! 寝るな! 寝たら死ぬぞ! おい、エージ、手を貸してく・・・なにやってんだ、エージ!」
「おーいし! 見てみて、おれ、飛んでるよ! やっほーい、やっほーい!」
パニック、失神、中には堪能している者も居る青学メンバー。
それは、スカイダイビング初体験となる氷帝メンバーも同じ。
「うお、俺も菊丸に負けてらんねえ、空中アクロバティックを見せてやるぜ!」
「うは、マジマジ、楽C〜!」
「敵わんな〜、お前らこんなとこでもハシャギおって」
「長太郎! 俺の手を離すんじゃねえ!」
「はい、宍戸さん! この手を絶対に離しません!」
「落ちてたまるか! 下克上をする俺が、上から落ちるなんてありえねえ!」
簡単な講義は受けても、実際にプロの帯同なしでスカイダイビングなどありえない。
良い子じゃなくても真似してはいけないぐらい過酷で危険な状況に、両校メンバーはただの中学生らしい反応を見せる。
一方で落ち着いている者たちも居た。
「跡部、このままじゃみんなバラバラだ。体が風に流されて、みんな離れてるよ」
「非常に危険な状態だ。誰一人欠けることなくたどり着かねば」
「ちっ、これだから愚民どもは落ち着きが足りねえ。なあ、樺地」
「うす」
普段パニクらない、不二、手塚、跡部、そして樺地がこの状況に頭を抱えていた。
このままではみんながバラバラになって落ちてしまう。
しかし、考えている時間もない。
ここは、危険かもしれないが、取るべき手段は一つ。
「あん? 手塚ァ、貴様は何をする気だ!」
突如、落下しながらラケットを取り出した手塚。
その様子を見て、不二はゾッとした。
「手塚、君は!」
その叫びに、手塚は小さく頷いた。
「不二、俺にもしものことがあった場合、皆を頼む」
危険かもしれない。だが、部員を、友を、仲間を救うために、手塚国光のやるべきことは一つだった。
「はっ!」
手塚は何と、高速で落下しながら、その場でフォア、バックのスイングを交互にした。
それは傍から見れば、ただの素振りにしか見えない。
だが、手塚という男が行えば、それはただのスイングにはならない。
「あ、お、あれ? どーなってんだ? 俺の体が!」
「ひ、引き寄せられてやがる!」
「手塚、お前は何を・・・・」
それは、青学、氷帝問わず、空中でバラけた男たちが徐々に引き寄せられるという現象が起こった。
偶然ではない。それは意図的に起こされたもの。
「やめろ、手塚! 貴様、また自分の腕を犠牲にする気か!」
跡部が叫ぶ。だが、手塚はスイングをやめない。
その普段はクールな表情が、僅かに苦悶の表情を浮かべながら。
「どうなっとんや、跡部!」
「手塚ゾーンだ!」
「なんやて!?」
「ボールの回転を自在に操り、どこへ打たれようとも自分の下へと吸い寄せちまう手塚の得意技。あの野郎、この空中で・・・・・空気を打つことで、気流の流れを変えやがった!」
手塚ゾーンの応用技。
普段はテニスの試合でボールに回転をかけることにより、ボールの軌道を自在に操る手塚の奥義。
それを、この状況下で、空気を打つという荒業で仲間たちを引き寄せるという偉業をやってのけた。
だが、
「しかし、この空気抵抗の中、さらには人間を何人も引き寄せるなんてことは、貴様の腕に手塚ゾーンの何倍も負担をかける! やめろ、手塚! その、『エア手塚ゾーン』は貴様の寿命を確実に縮める!」
跡部が叫んだ瞬間、手塚の身を削るような仲間の救出劇に誰もが涙を流した。
「手塚ッ! どうしてお前はいつもそうなんだ!」
戦友の大石が涙とともに叫ぶ。
「手塚・・・君はこんなときまで・・・・・・」
手塚の陰に隠れてその実力をしばらくベールに隠していた不二が心を打たれる。
「部長だからだ」
ただ、当たり前のようにその言葉を告げる、手塚。
このまま手塚を犠牲にしていいのか?
いいはずがない!
「向日! 菊丸! 貴様ら、空中でも自在に動けるなら、手塚一人にやらせるな! バラバラになったやつらを集めろ!」
「まかせろ、跡部!」
「もちのろんだよ! 手塚一人にやらせたりしないよん!」
部長一人にやらせたりしない。
この時は、敵も味方も忘れて、男たちは動いた。
「樺地! エア手塚ゾーンをコピーしろ! お前もやって手塚の負担を減らせ!」
「うす!」
「不二! 貴様は風を読めるはずだ! 乾と協力して風の流れを計算して着陸地点まで誘導しろ!」
「言われるまでもないよ」
「データはすぐにまとめてみせる」
「大石! パニクってる馬鹿どもを落ち着かせろ!」
「ああ、俺にできることをやる!」
一人、また一人、バラけた仲間たちを捕まえて引き寄せて、気づけば巨大なサークルのような円を作って彼らは手を繋いでいた。
「いくぜ、野郎ども! 一人も欠けることなく無事にたどり着くぜ! 俺様たちのダイブに酔な!」
「「「「「おう!!!!」」」」」
そうだ、自分たちはあの百年に一度の群雄割拠と呼ばれた熾烈で過酷な全国大会を乗り越えてきた。
この程度の苦難苦境で欠けるわけにはいかない。
全員で必ず乗り越える。そう誓った。
すると、その時だった。
『世界樹魔力の異変発生。学園全体に結界を発動させます』
それは、突如として起こった。
偶然に偶然が重なって起こった、予期せぬ事態というものだ。
「あん?」
「どうしたんや、跡部」
最初に気づいたのは跡部だった。いや、跡部だけだった。
「俺様のインサイトは誤魔化せねえ。どういうことだ? 学園上空が、目に見えない壁に覆われてやがる!」
目に見えない。しかし、感じる。
魔法という異形の世界とは何ら無関係の彼らにとっては、決して存在の知らない力。
しかし、そこには確かに何かがある。
跡部はそれを察知し、そして舌打ちした。
「まずいぜ、このままじゃあの目に見えない壁に激突して、俺たちはどうなるか分からねえぜ、あ〜ん?」
目に見えない結界に衝突してしまったら?
だが、今更回避することも不可能。
ならば、どうする?
突破するしか、男達には選択肢はない。
すると、
「よくわかんねーっすけど、突破するしかないってことっすよね。ね? タカさん」
「オフコースだぜ、モンキーども! それがグレートだぜ!」
青学の誇るパワーコンビが、ラケットとボールを取り出していた。
唸る豪腕から繰り出される強力無比のショットを、真下の結界目掛けて放つ。
「うおおおおおおおおおお、『スーパーグレイト桃城スペシャルダーンクスマッシュ!』!」
「落下しながら放つ、俺の新技! この体が砕け散ろうとも、仲間を救うぜ! 『ロケット波動球』! バーーーーーーーーーニーーーーーーーーング!」
青学だけにはやらせない。
「俺も行きます! スピードと威力に落下速度を存分に加えた俺の新技! 『ネオ・スカイ・スカッドサーブ』! 一球入魂!」
「樺地! 河村の技をコピーしろ!」
「うす。ほわ!」
放たれた四つのボールが共に競い合うように突き進む。
やがて、その四つのボールは強力なエネルギーを纏い、一つの巨大な力となって束ねられた。
その力は、巨大な閃光とともに、異形の力すら打ち破るものであった。
この物語はテニプリ物理理論を使用しています。実際の物理法則と若干異なる描写がございます。