【完結】テニスこそはセクニス以上のコミュニケーションだ(魔法先生ネギま×テニスの王子様)   作:アニッキーブラッザー

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第14話『地獄の死合』

 誰が一番強いのか? 

 プライドの高すぎる彼らに対しては、実にまずい質問であった。

 彼らにとって、大会での実績など関係なかった。

 ただ、自分が最強と信じた負けず嫌いどもたちは、一歩も引かなかった。

 

「井の中の蛙の一番争いに興味はない。だが、あえて挙げるとしたら、より強い者としか言えんがな」

「こればっかしは、副部長といえど譲れないっす! 俺はもう、誰にも負けられねえ!」

「おやおや、子供ですね。君たちは、世界の広さをなにも知らないのですから」

「んなもんに興味はねえが、俺をナメた奴は潰す」

 

 誰か譲り合えよとアスナたちは心の中で呟いた。

目の前の女性たちなどお構いなしに己の強さを主張する4人。

 いつ、言葉と同時に拳が飛んでもおかしくない状況だった。

 

「いいんちょ、私、早くみんなのところに帰りたいんだけど」

「妥協することを知らないのでしょうか、この方たちは・・・」

「あらあら、赤也くん、やんちゃね〜」

「ふう・・・くだらん」

 

 同世代にしては全員大人びて、かと思えば子供のように負けず嫌い。

 

「へへ、真田副部長。あの全国大会で新しい力を手に入れた俺は、もう副部長より上かもしれないっすよ?」

「たわけ! 十年早いわ! 返り討ちにしてくれる!」

「まあ、幸村クンが居る以上、君たちは校内でもトップになれるか微妙な身。それでナンバーワンとは笑わせてくれますね〜」

「おい、そこのオールバック。さっきから見下したような敬語使ってんじゃねえよ。ドタマカチ割るぞ?」

「木手さーん。あんた、全国大会で手塚さんにコテンパンにやられたっしょ?」

「おやおや、噂では君は名古屋の留学生に勝ったものの、ボコボコにされたと聞いてますが?」

「そーいやー、亜久津さんてタバコ吸ってたんでしたっけ? へっ、呆れたもんすね〜」

「亜久津仁! 貴様もスポーツマンの端くれなら、喫煙などもっての他だ!」

「真田、お前誰にイチャもんつけてんの?」

 

 どうか最悪の事態だけは避けてくれとアスナとあやかが切に願うが、その願いは届かず。

 この緊迫した事態は、簡単に爆発した。

 

「さっきからテメェも誰に調子こいてんの? このワカメ野郎が」

「あ゛? ・・・あんた、今俺に何つった?」

「ナメた口きいてんじゃねえって言ったんだよ、ワカメ野郎」

 

 亜久津が切原に告げた禁断の言葉が、事態を最悪に変えた。

 

「・・・むっ?」

 

 龍宮真名が何かを察知した。

 

「よさんかー、赤也! 公衆の面前だぞ!」

 

 真田が急に立ち上がって叫ぶ。だが、既に時すでに遅し。

 切原の肌が赤黒く染まっていく。

 

「ちょっ、切原くん!?」

「どうしましたの!? きゅ、急に・・・」

「赤也くん!?」

 

 アスナ、あやか、千鶴もその変化が目で確認できるほどだ。

 そして、切原の髪の色が、急に黒から白へと変わった瞬間、先程までそこに居た切原赤也は消え失せ、代わりに赤い悪魔が現れたのだった。

 

「ぶっ殺すぞコラアアアアアアアアアアアア!!」

 

 切原は憤怒し、テーブルをひっくり返した。

 

「いかん! 女ども、下がらんかー!」

「これは、噂のデビル化ですか!?」

「ちょっ、何なのよー!?」

 

 食器の割れた音。テーブル、椅子が倒れる音。

 ホールに響き渡る悲鳴。

 その中央には、悪魔が雄叫びを上げていた。

 

「このガキ・・・上等じゃねえの!」

 

 椅子から後方へジャンプした亜久津。

 飛び散る皿を二〜三枚空中でキャッチして、そのまま切原に向かって投げる。

 

「ヒャーハハハハハハハハハハハ! あんた潰すよ!」

 

 しかし、切原は回避する。

 まるで残像がその場に残っているかと錯覚するような速度で、皿を回避。

 そして、脇に置いてあった自分のテニスラケットとボールを数個取り出して、亜久津に向かってサーブを放つ。

 

「ちょっ、おバカ! 何してますの!?」

「やめんか、赤也!」

「ほう・・・流石、悪魔化・・・大したスピードですね」

「確かに、普通の人間の速度を遥かに超越している」

「って、キテレツ君も龍宮さんも感心してないで止めなさいよ!」

 

 亜久津に向けられるサーブ。亜久津は空中で身動き取れないはず。

 だが、亜久津は強引に全身をひねり、空中で切原のサーブを全て回避した。

 

「避けましたわ!?」

「ほう、あれが怪物・亜久津の身体能力か」

「やりますねえ。素晴らしい柔軟性、反射神経、身のこなしですね〜」

「あっちのヤンキーもやるじゃないか」

「って、ゲンイチローまで感心してんじゃないわよ、止めなさい!」

 

 しかし、アスナがいくら言おうと、今更止まる二人ではない。

 

「君たち! なんの騒ぎだね! そんなところで何をやって・・・」

 

 食堂塔のコックが出てきた。

 急だったのか、その手には、フライパンを持ったままだった。

 それを見て亜久津は、

 

「よこせ」

「えっ、なん、なんだね君・・・うわあああああ!?」

 

 コックから無理やりフライパンを取り上げる亜久津。

 切原の打ったサーブは、亜久津に回避され、壁にぶつかって勢いそのまま跳ね返ってくる。

 そのボールを亜久津は、

 

「上等じゃねえの!」

 

 フライパンで全部打って、切原を狙う。

 

「ヒャハハハハハハ、潰しがいあるよ、アンタ!」

「けっ、こんなもんで俺を潰す気か? 笑わせるな!」

 

 ボール。その数は四球。

 切原も狂ったように笑いながら打ち返し、亜久津も打ち返す。

 

「やめんかー、赤也! ッ・・・ぐっ・・・体が・・・」

「ゲンイチロー! ゲンイチロー、私との試合で体が・・・」

「ちょっとー、しっかりしてくださいませ、真田さん! もはやあなただけが頼りなのですよ!」

「まったく君たち・・・オイタが過ぎると・・・ゴーヤ食わせるよ!」

「ッ、待ちな、永四郎!」

 

 体がうまく動かせない真田に代わり、木手が二人を止めに入ろうとする。

 どこから取り出したのか、二人に向けてゴーヤを投げる。

 しかし、

 

「邪魔すんじゃねえ!」

「テメェ、誰に指図してんの!?」

「っ!?」

 

 フライパンとテニスラケット。

 その二つで、まるで鋭利な刃物で切断したかのようにゴーヤが切り裂かれ、切原と亜久津の打球が二人揃って止めに入ろうとした木手に向けられる。

 木手は咄嗟に椅子の足を持ち上げて振り回し、飛んできたボールをなぎ払う。

 

「やりますねー。でも、いい加減にしないと・・・こーれーぐーすーのますよー!」

「ヒャーハハハハハ、オモシレえ! 全員まとめて赤く染まって下さいよー!」

「ドタマかち割るぞ!」

 

 切原、亜久津の攻防に木手も参戦。

 その暴力的でありながら洗練された動き、そして目にも止まらぬ超ハイスピードバトルは、目を見張るものがあった。

 

「なるほど。永四郎の縮地に素のスピードで対抗できるとはね。切原って子は、怒りで己のリミッターを解除して身体能力を向上させ、亜久津ってヤンキーは、恵まれたスピードのみでなく身体の使い方が異常なまでに優れている」

「「・・・龍宮さん・・・」」

「大したものだな」

「「だから、止めてってば(止めてくださいませ)!?」

 三人の攻防に、龍宮は椅子に座って冷静に分析と解説を初めてしまった。

 冷静にも程がある。

 

「ったく、仕方ないわね! こいつら、全員ぶっとばすわよ!」

 

 もう、口でダメだなら力尽くだ。というより、その方が手っ取り早い。

 アスナが腕まくりして暴れる三人を取り押さえようとした、その時だった。

 

「あ、亜久津せんぱーい! これは一体どうしたですか!」

「ッ・・・太一・・・」

 

 問題児たちの乱闘の中に、一人の天使が現れた。

 その出現に、亜久津は思わず手を止め、事態の変化に切原と木手も動きを止めた。

 

「ッ!!!!????」

 

そして、雪広あやかの全身が硬直した。

 

「ちっ、太一、テメエどこで道草食ってやがった」

「ごめんなさいです。あの、本当はもっと早く来てたですが、邪魔しては悪いかと・・・」

「ああ?」

 

 それは、何だ? 地獄に天使? それほどまでにこの殺伐とした男たちの中で、彼の存在は際立った。

 背も小さく細く、とても愛らしい表情の少年。

 何故か、亜久津と仲がよさそうだが、ハッキリ言って異色の組み合わせだ。

 

「ねえ、あんた誰?」

 

 アスナが尋ねる。すると少年は、慌ててビシッと気をつけをして頭を下げる。

 

「あっ、はいです! ぼぼ、僕は山吹中テニス部一年の壇太一です! あ、亜久津先輩の後輩です! よろしくお願いしますです!」

 

 照れながらも元気よく、そして可愛らしく挨拶をするフレッシュさ全開の太一。

 自然とアスナの頬も緩んだ。

 

「なになに〜? ちゃんとまともな子もテニス界にはいるんじゃない。よろしくねー、壇くん」

「は、はいです!」

「・・・・・・・・も〜〜〜、お姉さんは君みたいな子を待っていたわ!」

「あ、あうっです!?」

「そーなのよー、テニスよテニス! こーゆう子がテニスをするのよ!」

 

 アスナは嬉しくて思わず太一を抱きしめた。

 爽やかで、紳士的で、上品なスポーツ。それがテニス。

 断じて侍や悪魔やヤンキーなどがやるものではない。

 ようやく、まともな思考を持ったテニス少年に出会えたことにアスナは感動した。

 更に、

 

「ぶふううううううううううううううううううう!?」

「い、いいんちょが鼻血だした!?」

 

 あやかが大量の鼻血を出したのだった。

 

「こ、これは、なな、なんですの!? この、胸の動悸は・・・この、抑えきれぬ心は・・・まさか・・・これは・・・これは!?」

「あ、あの、大丈夫ですか!?」

「ストライクアアアアアはぐわああああああああああああ!? はあ、はあ、はあ、はあ、はあはあはあハアハアハアハアハアハアハアハアハア」

 

 あやかの瞳の焦点が合っていない。いや、瞳孔も開いている。

 どこか狂ったようなあやかがゆっくりと太一に近づく。

 

「たいちくんといいますの?」

「あ・・・あう・・・はいです・・・」

 

 太一、恐怖で後ずさり。

 肉食動物に出会った草食動物の心境だった。

 だが、怯えた様子が更にツボったのか、あやかは余計興奮。

 

(ああ・・・最近は凛々しく雄々しくなったネギ先生とは大違いですが・・・なんですのこれは・・・この・・・この子には私が傍にいてあげなければいけないと感じさせる・・・運命を感じさせる・・・って、いけませんわ! 私にはネギ先生が・・・ああ・・・しかし・・・)

 

 雪広あやか中学三年生。重度のショタコン。

 中学一年生の太一とはそれほど歳は離れていないのだが、太一の容姿はあやかのドストライクだった。

 誰かが止めなければ、本当に喰ってしまうのではないかと思われる状況。

 見かねた亜久津が、あやかの尻を軽く蹴った。

 

「いた!? な、なにしますの!?」

「何してんのはテメエだ。おい、老け顔女。気持ち悪い息で後輩に近づくんじゃねえよ」

「なな、なんてことを言うのですか、あなたは! そ・れ・を・言うなら、こんな太一くんのように素晴らしく穢れのない天使のような少年に、あなたのようなヤンキーが近づく方が問題ですわ! 今すぐ太一くんから離れなさい!」

「お前、誰に指図してんの?」

「まあ、お下品な。ネギ先生の爪の垢を煎じて飲ませて差し上げたいですわ」

 

 ――――あれ?

 

「い、いいんちょ・・・」

「あうあうあう、亜久津先輩・・・」

「意外な組み合わせか・・・」

「赤也ー、貴様他校の食堂で暴れるなど何事かー!」

「いていていて、鉄拳制裁は勘弁してくださいっす!」

「ふう・・・気分が萎えましたね〜」

 

 今度は違う喧嘩が始まりそうになった。

 頼りの真田は正気を取り戻した切原に折檻中。

 アスナはどうすればいいのか分からずにオロオロ。

 やる気のない龍宮と落ち着きを取り戻した木手は二人でグシャグシャになったテーブルを起こしてコーヒーをこの状況で注文。

 

「あ、亜久津先輩の悪口を言うのはやめてくださいです! 亜久津先輩は、僕の憧れの、とっても強くてワイルドな人なんです!」

「いいえ、太一くんは騙されているのですわ! 男の子が身近な人に憧れを抱くのは宿命・・・ですが、それが道を誤るきっかけにもなるのですわ! やはり、あなたには間違った道を正してキチンと育てられる人が傍にいなければ・・・」

「おい、テメェ。後輩に余計なこと吹き込もうとしてんじゃねえ。太一もこんなバカを相手にするんじゃねえよ」

 

 もう・・・勝手にやればいいよ・・・

 

「あ〜・・・私・・・もう、戻ろっかな・・・」

 

 アスナはもう諦めて、この場から逃げ出そうとした。もう、いい加減疲れた。

 さっさとテニスコートに戻ってみんなの応援でも・・・

 

「なんや、せっかく血の匂いがしたと思ったんですけどー、もう終わりですかえ?」

「え・・・・・・・ッ!?」

 

  完全に油断していた。こんなに近づかれるまで気づかなかった。

 

「ちょっ、あんた!?」

「おっと、大人しゅうされたほうがええですよ〜、お姫様」

 

 アスナが振り返ろうとした瞬間、背中に何かを当てられた。これは、剣の柄?

 

「神楽坂!」

「そちらの鉄砲使いのお姉さんも大人しゅうしてくださいな〜、大事なお姫様がバラバラにされてまいますよ〜」

 

 実にユルく、そしてあっけらかんと言葉を口にする彼女だが、それが本気であることはアスナたちにはよく分かっていた。

 

「・・・あんた・・・逮捕されなかったの?」

「これは異な事を。戦争黒幕のフェイトはんたちはこの学園でのんびりしとるのに、雇われのウチが逮捕なんておかしなはなしですわ」

「・・・ッ・・・ここには一体何の用?」

「ん〜・・・テニスラケットでセンパイとお嬢様を犯したい思いまして〜」

 

 アスナは鳥肌が立った。この背後を取った少女の強さにではない。

 その瞳、言葉の一つ一つ、悪寒が走るほどの狂った感情にだ。

 

「はは・・・あんたがテニス? まあ、確かにテニスウェアの刹那さんは可愛いけど・・・」

「ん〜、そうですか。ほなら、さっそくテニスコートに案内してくれたら嬉しいんですけど〜」

「ちょ〜っと勘弁して欲しいのよね〜。今、魔法とは関係ない一般人の人たちとテニスしてるんだから。あんたも裏の世界の人間なら、それぐらいのルール守りなさいよ」

「それは困りましたな〜、今日のテニスの相手は男子とか。汚らわしい男共に、ウチのセンパイを汚されることだけはかなわんのです〜」

 

 ダメだ。この女には常識は通用しない。

 目的のためなら、本当に一般人すら斬りかねない。

 だが、ここで戦っても回りの人たちに危害が及ぶ。

 どうすれば・・・

 

「神楽坂よ、そこの娘はお前の知り合いか?」

「ゲンイチロー・・・何でもない・・・何でもないから・・・急いで、いいんちょたちと一緒にここから出ていってくんない?」

「何?」

 

 アスナは顔を引きつらせながらも、心配を掛けないように笑顔で言う。

 しかし、明らかに不自然だったのか、真田も何かを察した。

 そして、他の者たちも争いの手を止め、急に現れた謎の少女に視線を向ける。

 

「太一くん、私の後に下がってくださいませ」

「あの、何ですか?」

「あらあら」

「何だ、そのメガネチビは」

「今度は誰ですか?」

「で、俺らはどうすりゃいいっすか?」

 

 少女の表情は笑顔なのに、妙な不気味さを孕んでいる。

 一体何事かと思ったとき・・・

 

「テニスウェア・・・そうですか、あんたらがセンパイやお姫様たちのテニス相手ですかえ?」

「お姫様とは誰を指しているのか分からんが、神楽坂たちと本日試合をしているのは、俺とここにいる後輩を含めた、我ら立海大附属中だ」

「ほ〜・・・・」

 

 少女は、真田と切原をチラっと見て、すぐに鼻で笑った。

 

「んふふふ〜、こないなおじさんと、ワカメの雑魚がセンパイたちとボールでヤリ合うなんて、ウチはヤですわ〜」

 

 見下して、小馬鹿にして、明らかに雑魚を見るような目を向ける。

 真田はまだ耐えられた。

 しかし、こいつは耐えられなかった。

 

「お、おい、あんた・・・誰がワカメの雑魚だって? わ、わらえねえなあ・・・」

 

 そう、切原に耐えきれるはずがない。

 

「んふふふ〜、あんたらではセンパイたちとヤリ合うには役不足ですえ〜、せやから今日はウチが本物のテニスでセンパイたちの純血を奪うことにします〜」

「テメ、女だからって!?」

「ほいっとな」

 

 それは一瞬だった。

 

「ぐはっ!?」

 

 少女はアスナの背後から出てきて、切原が足を踏み出そうとした瞬間、切原の腹部に何かを打ち込んだ。

 その威力に押されて、切原は後方に飛ばされ、食堂の床を二転三転して転がった。

 

「きゃ・・・キャーーー!?」

「こ、今度は何だよー!?」

 

 先ほどの乱闘に続き、また争いが起こった。

 再び悲鳴が響き渡り、巻き込まれたくない生徒たちが慌てて逃げ出す。

 

「赤也!? おのれ、貴様どういうつもりだ!」

「ふざけんじゃないわよ! そいつは、一般人よ! 私たちの世界とは何の関係もない人なのに!」

「赤也くん! しっかりしてください、赤也くん!」

「悪いが、容赦はできない。始末させてもらうよ」

「穏やかではありませんね〜」

「だだだだーん、き、緊急事態です」

「やってくれましたわね!」

「ナメたことしてくれんじゃねえの」

 

 いきなりの攻撃。アスナだけでなく、真田たちも鋭い眼光で少女を見る。

 だが、少女は何事もなかったようにニコリと笑った。

 いや、ニコリではない。持っていたウッドラケットを舌で舐めながら、発情した雌のように体をくねらせた。

 

「はふ・・・もう、耐えられへん、こないな男ばかりでウンザリですわ、あん・・・ウチの血肉沸き立つ衝動を満たしてくれるんはセンパイや・・・ああ・・・このグリップでセンパイの穴を犯して、ボールが入るぐらいガバガバにして・・・絶頂に達したセンパイの純血をナメまわして・・・」

 

 真田たちを雑魚を見るような目? 違う、もはや見てもいない。

 目の前の狂った変態少女は、ただこの場に居ない誰かに思いを馳せて、妄想で自慰にふけっている。

 すると、その時だった。

 

「潰れろ」

「あん・・・うん・・・はう」

「ウラア! お返しだ!」

 

 少女の頭部目がけて、強烈なショットが放たれる。

 

「いかん!」

「赤也くん!?」

 

自慰にふける少女はボールを見ていない。

 だが、

 

「はあ〜・・・センパイ・・・」

「ッ!?」

 

 少女は、ボールに見向きもしないで、ラケット面でボールを弾かずに受け止めた。

 

「なっ・・・俺のショットをいなしやがった!?」

 

 少女に向けてショットを打った切原が驚愕する。

 当然、真田や亜久津たちもだ。

 

「我が求むるはただ血と戦い・・・そして、愛のみ・・・センパイと剣でもテニスでも何でもええ・・・交えたい・・・それだけです〜」

 

 そして、達したのか、恍惚な笑みを浮かべて少女は笑った。

 

「なるほど・・・あの世界の関係者ですか」

「木手、この娘が何者か分かるのか?」

「ええ。そして相手が悪いです。どんなテニスをするかは分かりませんが、君たちで手におえる相手じゃないですよ」

 

 手に負える相手ではない。本来なら、ふざけるなと言いたいところだが、何故か真田も言葉がうまくでなかった。

 それは、反逆の塊の亜久津も同じ。

 気圧されているのか、拳に汗をかくだけで、うまく動くことが出来なかった。

 

「ゲンイチロー、みんな・・・私がここを何とかする。だから・・・」

 

 アスナが前で出る。

 自分が食い止めるから逃げろと言おうとしている。

 果たして目の前の少女は何者か。それを食い止めようと言うアスナは何者か?

 事態は真田たちの常識を遙かに越えたものに発展しようとしていた。

 すると、その時だった。

 

「お、・・・おもしれえじゃねえか・・・」

 

 それは、若干上擦った声だった。

 恐れの中で、精一杯の強がりを言っているようにも聞こえた。

 だが、男は言う。

 

「興奮する戦いがそんなにしてえなら、俺があんたの相手をしてやるぜ?」

 

 切原赤也だ。

 

「ん〜、ワカメお兄さん、かっこつけなくてええですよ〜」

 

 訳すと、雑魚が粋がるなと言っている。

 だが、いかに相手が得体の知れない者とはいえ、腰抜けにはなりたくない。

 ナンバーワンを目指す者として、立海の誇りに賭けて、そして男として。

 

「へへ、何だよ、ただ頭がおかしいだけか? むしろ、アンタの方がビビってんじゃねえの?」

「ん〜・・・震えてますよ〜、ワカメお兄さん」

「こーゆうのを武者震いって言うんだよ。まっ、女なんかにゃ分かんねーだろうけどな」

 

 切原は一歩も引かなかった。

 

「ちょっ、やめなさいよ、切原くん!?」

「赤也、下がらんか!」

 

 そして少女もまた、相手が道ばたに転がる小石程度の存在といえど、ここまで無礼に挑発されて素通りも面白くなかった。 

 

「ん〜」

 

 そんな彼女の出した結論。テニスをする?

 違う。

 

「ほいっとな」

 

 答えは、またぶっ飛ばす。

 ノーモーションから再び赤也の腹部目がけてショットを放つ。

 だが、

 

「ウラア!」

「ッ!?」

 

 少女は瞳を大きく開く。

 自分の頬に僅かな痛みを感じたからだ。

 

「・・・・・・血・・・・」

 

 頬をさすってみると、パックリ切られて血がにじみ出ていた。

 目の前を見ると、ラケットを大きく振り抜いた構えの赤也が挑戦的な表情で立っていた。

 

「へへ、ショートスネイク・・・名づけて『レッド・ショート・スネイク』結構使えるじゃねえか、コレ」

 

 そこで、少女はようやく気づいた。

 

「さあ、もっと、真っ赤に染めてやるよ」

 

 切原は打球をダイレクトで打ち返したのだ。

 しかも、ただ打ち返したのではない。

 孤を描くような鋭い回転をかけて、相手の頬を切り裂いたのだ。

 

「さっきより打球の速度とキレが・・・は〜・・・少しはお上手でしたか〜」

 

 リターンをまったく予想していなかったために、完全に油断していた。

 いや、相手を侮りすぎていた。

 だが、どちらにせよこれで、少女・月詠は切原赤也を初めてまともに見て、興味を持った。

 

「ほな、やりましょか? 真剣テニス」

 

 そして、凄惨な戦いが始まるのだった。

 


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