【完結】ハリー・ポッターと供犠の子ども 作:ようぐそうとほうとふ
腐敗する前の花が一番美しい。
「ぬ…」
サキは水道から流れる水の匂いに顔を顰めた。鼻が曲がりそうな匂いがする。なにやらやたら生臭い。
花瓶に水を注ぎ足そうとしたのにこれじゃあ花が枯れてしまう。それどころかこんな臭いのする水じゃ食器だって洗いたくない。
「先生、水が臭いんですが」
珍しく在宅している先生の部屋に花瓶を持って報告しに行った。
スネイプ先生はさも面倒くさそうに水道を点検して何か魔法をかけて臭いを消した。
「でも、臭いだけ消しても汚れは残るんじゃないですか?」
スネイプいわく問題ないそうだがサキは魔法をいまいち信用できず、結局花はドライフラワーにするためにまとめて自分の部屋に吊るすことにした。
サキの日々の努力により家の中はそこそこきれいになった。しかし夏休みが終わればまたカビが生えてホコリが積もっていく。そう考えると無駄な努力に思えてくる。
「…今日は」
スネイプがパンを食べながら口を開いた。
「君も出掛けなければならない。夕暮れ時までに準備をしておくように」
5年間のうち初めての事だったのでサキは驚いた。言われた通り日が傾く頃にはきちんとよそ行きの服を着た。
ナルシッサの買ってくれた深緑のワンピースだ。出かけるときはいつもこれにしてしまう。
夏休み中はマルフォイ邸に行けないので手紙でやり取りしているけど会えないのをひどく残念がってくれている。ドラコもしょっちゅうフクロウをよこすけどサキが筆無精なせいもあり寂しがっているのが文面でわかった。
サキも会いたいのは山々だが、死喰い人のルシウスと会うなんてとてもじゃないけどスネイプが許してくれない。
「支度できました」
スネイプは心底嫌そうにソファーから立ち上がった。いつも通りの神父みたいな格好だったがあの裾の長いローブは着ていなかった。
「…暑くないですか?」
夜とはいえ蒸すというのに彼はいつだってこんな格好だった。感心する。
てっきり車か何かで行くのかと思ったがどうやら『姿くらまし』していくらしい。
「慣れないだろうがこれが一番早い。コツは何も見ないことだ」
「姿くらまし!未成年なのにやっていいんですか?」
「付き添いだ。付き添いなら何もしなくていい」
「わーい」
楽しそうなサキを見てスネイプは哀れみの目をやった。サキは一体どうしてわくわくに水をさすような顔をするんだと文句をたれたが、その理由はすぐにわかった。
五感すべてをミキサーにかけたみたいな気持ち悪さに脳味噌がどっぷり浸かってなおかつ外側から揺さぶられてるみたいだ。
「すみません…」
来て早々、サキはグリモールド・プレイス12番地のトイレで吐いた。
「気にしないで。まあわたしの家じゃないけどさ」
トンクスがやや乱暴に背中をさすってくれた。
「私、二度とやりたくない」
「でも便利だよ」
ここは不死鳥の騎士団の本部として使われてる住宅で、煙突ネットワークも通ってないし普段は魔法で隠されている。全体的に古びたアパートだが中の調度品はとても高級感溢れるアンティークだった。ただし窓がほとんどなくて屋敷の中はどんよりと沈んだ雰囲気で、掃除も行き届いておらず棚にはうっすらホコリが積もっている。
トイレに駆け込んでろくに見てなかったがよく見ると照明一つとってしても古くて上品だ。ただし蛇の紋様がいたるところに彫られてるあたりで屋敷の主の趣味が知れるが。
「もう大丈夫?」
居間の入り口に黒髪の痩身の男性が立っていてサキに声をかける。無精髭が生えたワイルドな雰囲気の男だ。他の人よりラフな服装をしているしスリッパなんて履いている。彼が家主だろうか。
「ええ、全部出ましたから」
「クリーチャーに掃除させておいてよかったよ。私が誰だかわかるかい?」
「ええと…」
「おや。記憶力が悪いんだな。…母親譲りか」
そう言って男は笑った。トンクスもくすっと笑っている。何が言いたいのかよくわからず男の顔をじっと見たが少なくともあった事はない。見覚えはあるのだけれどどこで見たんだろう。
「さ…みんなお待ちかねだ。入って」
居間には長いテーブルがあり、そこに何人もの魔法使いが並んでいた。上座にはなんとダンブルドアがいた。学校外でみるダンブルドアはまるで間違って貼り付けたシールみたいな違和感がある。サキは会釈して末席にいるスネイプの隣に座った。
「久しぶりね。元気そうで良かったわ」
向かいの席にいるウィーズリー夫人がやさしく微笑みかけてくれてちょっと緊張がほぐれた。他にいるのはキングズリーと居眠りしている薄汚いおっさん。トンクスと家主、ルーピン先生とムーディ先生だけだった。
騎士団のフルメンバーというわけではなさそうだ。
「さて…ご機嫌よう諸君よ」
ダンブルドアが学校で話すときと同じようにニコッと笑いながら口を開いた。
「さて、今日お呼びしたのは不死鳥の騎士団の中でも最も信頼の置けるメンバーだと思っておる」
スネイプ先生の眉が、居眠りから飛び上がるようにして目覚めた薄汚いおっさんを見てピクッと動く。
「サキ・シンガーの保護について共有すべき事柄がでてきたので集まってもらったわけじゃ。まず、彼女の所有財産である館について」
ダンブルドアの言葉を引き継ぐようにしてウィーズリー氏が続けた。
「彼女の家系は代々神秘部に協力していましたが全容は不明です。例のあの人が滞在している可能性もありますので令状が取れ次第家宅捜索に踏み入りたいと思っています」
「か、家宅捜索?!」
「いやなに、口実だけれどもね。あの人に君の館に踏み入ってほしくないだろう?」
「まあ嫌ですけど」
サキは庭に生えてるグレーゾーンの草花たちが魔法使いの目を逃れるように祈った。
「あー、ダンブルドア?」
ふいに薄汚いおっさんが口を開いた。
「あんたに信用されてて嬉しいけどよ。俺は一体何すりゃいいんだ?」
「おお、マンダンガス。ちょうど次は君に任務を与えようと思っていたところじゃった」
マンダンガスは勘弁してくれ、と言いたげに空を仰いだ。傍から見ればチンピラにしか見えないこの男が騎士団のメンバーというのは意外だった。
「マクリール家から放出されたありとあらゆる技術と道具の入手じゃ」
「はあ。盗品集めは確かに俺の得意ですが…どうやってその、まくりれる?のモンだと判断すればいいんです?」
「彼女ら手製の品はサインが入っておる。アーサーの家宅捜索後にはもう少し絞れると思うのじゃが…」
「ああ、母親の作った手鏡があるので今度参考にお見せしましょうか?」
「ありがてえ。…お嬢ちゃん、他に屋敷でいらねえもんがあったら…」
「マンダンガス。商売の話はあとにしろ」
スネイプがピシャリと言って、マンダンガスはべっと舌を出して黙った。
「マクリール家の魔法はわかっているだけでもホグワーツの危機管理に多大な影響を与えるじゃろう」
ダンブルドアはサキを真っ直ぐ見つめていた。自分の血についてこんなに意識したのは秘密の部屋以降初めてかもしれない。そして同時にダンブルドアが血に対して非常に警戒しているのがわかった。
「クラウチJrの採取した血液がまだあった場合再度死喰い人が入ってくるやもわからぬ。魔法省による警備は期待できぬ故、トンクス、リーマス共々ホグワーツ周辺の警備はくれぐれも慎重に」
「幸い私は血の匂いには敏感だからね」
ルーピンは投げやり気味に言った。満月が近いせいか随分ナーバスになってるらしい。
「しかし罠を事前に察知することは可能なのだろうか?つまり察知不可能呪文などはそもそも魔法がかかってるとわからなければ有効では?」
「最もな意見じゃなキングズリー。しかしすでにサキは感知しておるじゃろうな」
「…なに?」
サキはぽかんとした。いつの間に呪文を突破していたんだろうか?
スネイプが渋々口を開いた。
「サキ、君が夏休みに入ってから様々な呪文を身辺にかけた。例えばあの街の小路だとか公園だとか、近づいて欲しくない場所すべてに入れないように呪文をかけた。しかし君はその道を見つけてしまった」
「なんと。じゃあ私のさんぽルートは把握されていたんですね」
「…厄介だな」
キングズリーは考えるように黙り込んでしまう。サキは我が身の事とは言え自分が無自覚に魔法を無視して行動してたことに驚いた。そして改めてその危険性を考えるとキングズリーの危惧もうなずける。
「私には、我々のセキュリティを難なく突破できる血、それだけで君の魔法が受け継がれてく意義を感じるが」
キングズリーは闇祓い局で交わした会話を踏まえてサキに言う。サキも慎重に考えながら答えた。
「そうですね…たしかにすごいことな気がしてきました」
けれどもやはり違和感は拭いきれない。杖の魔法は洗練されていき行き着いた様式だ。だとしたら太古から血の魔法ももっと洗練されて然るべきなのだ。
「でもやはり結論は出せません。私は母のことも家のことも何も知りませんので」
サキがそう言い切ると場の空気が停滞した。それを察知してか、ウィーズリー夫人が立ち上がりお茶を入れましょうと明るく提案した。スネイプはさっさと帰りたがったがサキが無理やり引き止めた。
ダンブルドアはお茶を飲む暇もないらしい。ウィーズリー夫人に丁重に詫びを入れて誰かに話しかけられる隙もみせずに退室していった。
ウィーズリー夫人はサキのカップにたっぷり紅茶を注いでくれた。家で飲む紅茶と違う他所の味がする。
「明日だったらロンたちがいたのに、残念だわ」
「え、ロンたちがここに来るんですか?」
「そうよ。家に子どもたちだけにさせてられないわ」
サキは頭の中に例の双子を思い浮かべた。
「セブルス、あなたは?」
ウィーズリー夫人はにっこり笑ってポットを掲げた。スネイプはいつも通り不機嫌そうな顔で「もう結構」と言った。慣れてるらしいウィーズリー夫人は嫌な顔もせず会話を続けた。
「びっくりしたわ。あなたまでハリーと同じように例のあの人に狙われてるだなんて。でも安心してね、騎士団は絶対にあなたを守るわ。ねえ」
ウィーズリー夫人はセブルスに視線をやりながらニッコリ微笑んだ。サキはスネイプが感情的同意を求められた時にする困った顔を見るのが好きだ。
「ああ、ホントにありがたい事です。…そういえばハリーから手紙がきました。退屈だって。ハリーはここに来ないんですか?」
「ダンブルドアがお許しにならないの」
「ああ、ひどいお人だよ」
二人の会話に例の家主が割り込んできた。
「私は彼の名付け親だっていうのに全然会えない。寂しいものさ」
「名付け親?貴方が?」
「そうだよ。名乗っていなかったね。私はシリウス・ブラック。ハリーの名付け親だ」
サキはついつい習慣でシリウスが差し出してきた手を握り返す。しかし彼の名前を聞いてやっと頭の中のピースが埋まった。
「シリウス・ブラック!小綺麗になっててわかりませんでしたよ」
「やっと気付いたね。あの時は助けてくれてありがとう」
「いやあ、当然のことをしたまでで…」
スネイプが忌々しいと言いたげな顔をしてるのを尻目にサキはシリウスとがっつり握手を交わした。
「バックビークは?」
「ああ。いるよ。会っていくかい」
「駄目だ。もう帰らねば」
ウキウキしてるサキと裏腹にスネイプは叩きつけるように言い切った。よっぽどシリウスが嫌いらしい。一秒でも早くここから立ち去りたそうだった。シリウスもカチンときたらしくなにか言い返そうと口を開いた。
「なんだ、そんなに早くベッドに入りたいのか」
なんかすごい大喧嘩になりそうな予感がしてサキは慌てて二人の間に入って話題を反らせる。
「あーでも今日は鍋をかけっぱなしでした。また今度来たときにじっくり遊びましょうかね!ねえ先生?」
スネイプは返事もせず立ち上がり玄関に向かってしまった。
「それではまた…」
スネイプが玄関の扉を乱暴に閉めてから無礼な態度にはすぐに苦言を呈したがスネイプはろくすっぽ返事もせずにサキの手を掴んで姿くらましした。
「鬼畜!」
サキはまたゲーゲー吐いた。
それからは週一回くらいグリモールド・プレイスに顔を見せに行くことになった。(つまり週一で姿くらましさせられる)
「歯が溶けそうですよ」
スネイプが「週イチ姿くらまし」を告げた日の夕食は粥にしてやった。物足りなさそうなスネイプを無視してサキはウィーズリー兄弟から預かった欲しい薬品のリストを整理した。ちょっとしたいたずら用の薬なら意外とマグル製で事足りるため、区別がつくサキが買い出しを頼まれているのだ。
そして姿くらましを3回ほどこなし、いい加減吐くことはなくなった頃、事件が起きた。
「サキ、出かけるから支度をしろ」
スネイプは受け取ったふくろう便を見るやいなやクシャクシャにしてポッケにしまってそう言った。
サキは滅多に部屋まで来ないスネイプに驚きつつ、読んでた本を閉じてパーカーを羽織った。ほぼ部屋着だがなんだか急いでるようだったのでそのまま家を出た。
バシッと言う音がしたらあっという間にグリモールド・プレイスだ。
「一体全体なんの騒ぎです?」
「ポッターが吸魂鬼に襲われた」
「はあ?」
吸魂鬼がハリーを襲う?魔法界から離れたマグルの家庭にいるハリーを?
「ハリーは無事なんですか?」
「守護霊で追い払ったから無事だ。しかしマグルの面前で魔法を使ったせいで魔法省がここぞとばかりに騒いでいる」
12番地の入り口が見えて玄関に入ったところでルーピンが出迎えてくれた。
「すまないね。セブルス。ああ、シンガーは上に行ってなさい。ハーマイオニーもいるから」
「あ、はあ…」
今まではスネイプがすぐ帰るからと言って上に行くことはなかった。フレッドたちとも食堂の前でぺちゃくちゃおしゃべりする程度だったのに今日は上に行けときた。
内密の話でもするんだろうか?
階段を上がると慌てた様子のハーマイオニーがサキを見たとたん飛びついて抱きしめた。
「聞いた?」
「うん。ついさっき」
「とんでもない事だわ。魔法省が管轄している吸魂鬼が住宅地で人を襲うなんて。あの人が絡んでいると思う?」
「わ、わかんない」
ハーマイオニーはとにかく言葉にして頭を整理したいらしくてどんどんいろんな事を話すからサキは面食らってしまった。
「ハーマイオニー。とりあえずサキを休ませてやろうぜ。また吐いちゃうかも」
ハーマイオニーの後ろからロンがひょいと顔を出した。ロンはサキと握手を交わしながら伸び耳を耳に当てて会議の様子を盗み聞きしていた。
「ムーディたちがハリーを迎えに行くらしい」
「ほんと?じゃあここに来るのね」
「ハリーが?」
サキは今大変なはずのハリーには悪いがちょっと嬉しかった。
「スネイプ先生が帰らないように祈んなきゃ」
「君だけ残ってくれりゃいいのにな。むしろ泊まればいいのに」
「そうしたいのもやまやまだけどね…先生、シリウス・ブラックが嫌いみたいで」
「あの二人、いつもピリピリしてるわ」
ハーマイオニーが泊まってる部屋までいって三人で腰を下ろした。そうしてるうちにジニーも来て、まるでグリフィンドールの談話室にいるような気分になった。
4人で情報交換しているうちに一階が騒がしくなり、ハリーが到着したのだとわかった。
「サキ…」
久々にあったハリーは10センチくらい背が伸びた気がする。11歳のときはサキの方が背が高かったのに今ではもう上を向かなきゃ目を見られない。
ハリーはやけに苛立った顔をしていた。
「ハーマイオニーもロンも、みんなこうしてここにいたわけ?僕があんなところに4週間も缶詰になってるときに。手紙にもかけなかったの?」
「ダンブルドアがハリーに知らせないように言ったんだよ」
サキは言い訳がましいなと思いながらも真実を述べた。サキは手紙をやり取りしてて一度だってロンとハーマイオニーの名前は出さなかった。しかしそれが余計ハリーを苛立たせたらしい。
「ダンブルドアがなんで?」
「多分、君の安全を考えて…」
「何も知らずにあんな掃き溜めにいろって?安全?じゃあなんで僕は襲われたんだ?!」
ハリーは窓がビリビリするほどの大声を出した。
「ハリー!」
ハーマイオニーが宥めようとするが逆効果だ。ハリーはますます声を大きくして怒鳴り散らす。
「僕は当事者なのに騎士団から遠ざけられて、あの退屈な通りに閉じ込められてたんだぞ!少しでも何か情報を知るためにゴミ箱まであさって、なのに手紙にも何も書きやしない」
怒りはもちろんサキにも向いた。
「僕を除け者にして笑ってたんだ。そうだろ?ここで…」
ハリーの激情に揺さぶられてか、ハーマイオニーの目には涙が溜まっていた。ロンも申し訳なさそうな顔で肩を抱いていた。
「そうだな。僕がハリーだったら多分カンカンだ」
「ごめん」
ハーマイオニーの涙に勢いを削がれてハリーは黙った。ヘドウィグの爪がきちきちととまり木を削る音だけが響いた。
「それで…騎士団は何を話してるんだ」
ハリーがやっと口を開いたが、答えられる人はいない。会議中は誰もあの食堂に近づけないのだ。サキも入り口前にいたけど、ドアに耳を当てても内容はよく聞こえなかったし、ムーディの魔法の目がドア越しに見張ってる気がしてあまりドアに近づけなかった。
最初の会議っきり中で何を話してるかわからない。それはこの家で寝泊まりしてるロンたちも同様だった。
「じゃあ一体君たち何をしてたんだ?」
「私は3回しか来てないか、うわっ?!」
サキが言いかけた時、バシッと音がして突如背後に双子が現れた。
「もう!いい加減やめてよ」
ジニーがプンプンしながら二人に言うが、柳のごとく受け流しぺろっと舌を出して微笑む。
「急ぎの用があってね。…ハリー、ちょっとボリューム下げてくれないか?伸び耳がいいとこまで行ってるんだ」
「伸び耳?」
聞き覚えのない単語に不思議そうな顔をするハリーに双子はおっきな耳を掲げてみせた。
「まあ聞いてみろって」
ハリーは半信半疑で耳に耳を傾けた。ボソボソとした話し声が聞こえる。
双子に促されて階段の手摺から身を乗り出して下の方を見た。糸で対の耳がぶら下げられている。これで聞き耳をたてているらしい。
「あ、クソ!」
しかしクルックシャンクスがその耳に飛びつこうと柱の影から狙いをつけてた。
「追っ払ってくるよ」
飼い主のハーマイオニーの言葉も効きやしないのでしかたなくサキが音をたてずクルックシャンクスを捕まえに行った。
ずんぐりむっくりの毛玉ちゃんはやたらすばしっこくて、捕まえてもするりと手から抜け出していく。
「はやく!」
と上からウィーズリー兄弟が急かしてくる。
「ほら、おいで〜コワクナイヨ〜」
精一杯の猫なで声で四つん這いになりながら猫に微笑みかけた。すると
「いぎゃっ」
ガンッと硬い音を立ててサキの尻にドアが当たった。
「……何をしている」
「あー、小銭落としちゃって」
サキが尻をさすりながら見上げるとスネイプが呆れ顔で見下していた。サキは慌てて落ちてる伸び耳をポケットに押し込んでへらへら笑ってごまかそうとした。
スネイプはため息をついて「帰るぞ」とだけ告げた。有無を言わさぬ口調だったのでサキはしぶしぶ従う。
階段の上の五人に「ごめん!」と口パクで伝えた。みんなは残念そうな顔して手を振っていた。(ハリーも渋々手をふっていた)
「……それで」
姿くらましでスピナーズ・エンドに戻ってきてからサキはスネイプに尋ねた。
「あの人ですか?」
「…いいや」
スネイプはいつもの頭の中で何をいうか言わないか悩んでる顔をしてからサキの問に答えた。
「今回は違うようだ」
「昔、仲間だったんですよね?」
「少なくとも我輩の知るところではまだ手を組んでいない」
玄関は真っ暗で、家の中から闇が漏れ出しているみたいだった。一人暮らしだと毎日こんな家に帰らなきゃいけないのか。孤児院からホグワーツまで人生の大半を集団生活で暮らしてきたサキにとっては恐怖に等しい。いずれあの屋敷に一人で暮らすことになるんだろうか。
母は、どんな気持ちで一人で暮らしていたんだろうか。
母がいればどんな人生を送ったんだろうか。そんなことを考えながらサキはゆっくり眠りについた。