【完結】ハリー・ポッターと供犠の子ども   作:ようぐそうとほうとふ

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02.闇の印

人、人、人!

魔法使いってこんなにいたんだ。

スタジアム入り口はまるでイギリス中の人が集まったみたいに混雑しててどこもかしこも人だらけ。

魔法省関係者用出入り口を使うので一般入場口より空いてるだろうと思いきや関係者だけでもこの有様。

本当にドラコ様々だ。

こんな人混みの中でいつまでも待っていたら発狂してしまうだろう。

「手、離すなよ」

ドラコはよっぽどサキが馬鹿だと思ってるらしく飼い犬のリードを握るかのようにしっかり手を握っている。確かにすでに花火や空飛ぶマスコットキャラクターに見とれて二、三回はぐれかけてはいるが…。

貴賓席へあがるとすでに何人か入場していた。コーネリウス・ファッジがルシウスと何か挨拶してるのを尻目に周りをざっと見回すという自分たちの席のすぐそばにハリーたちがいるのが見えた。

「あー!ハリー!ローン!ハーマイオニー!」

サキはすかさず声をかけた。

三人はビックリして振り返って、サキを見ると笑顔で手を振った。

「サキ!オペラグラス買った?」

「買えないから作ったー!」

ロンが嬉しそうに売店で売っていた観戦用オペラグラスを振った。サキは市販のオペラグラスに魔法をかけたクィディッチ観戦用のおっきな双眼鏡もどきを出して対抗するように振った。

「これ、すっごく重いんだー!」

大声で喋ってるとドラコに後ろからひっぱたかれた。

「全く、はしゃぎすぎるなよ…恥ずかしい」

「ここではしゃがないでいつはしゃぐのさ!」

サキはすぐにハリーたちの方へ振り返って手を振った。無理やりドラコにも手を振らせようとしたが振り払われてしまった。

「おや…アーサー・ウィーズリー。よくこの席が取れたな?家でも売り払ったのかい?それじゃあ足りなさそうだな…」

サキの挨拶に誘発されて、ロンのお父さんアーサー・ウィーズリーとルシウスの喧嘩(または挨拶)が始まってしまった。

ファッジはそういうごたごたに関してだけ聞こえないようになる便利な耳を持ってるのか、二人の嫌味合戦にニコニコして会話を続けてマルフォイ一行の席までエスコートしてくれた。

「ミス・シンガーも楽しんでくれたまえ!」

「はい!あ、クラウチ氏はこちらにはいらっしゃらないんですか?私の席、手配してくれたのでお礼を言いたかったんですが…」

「彼は責任者でね、あらゆるところに引っ張りだこなのさ。なんせアイルランド人のやつら言葉が通じなくて…」

ファッジはキョロキョロ周りを見回してから、ハリーの後ろの席を指差した。

「あそこのしもべ妖精は確か、クラウチ氏のものだね。席を取らせてるってことはそのうち来ると思うよ」

「ありがとうございます」

「それじゃあまた!」

サキは指さされた屋敷しもべをみた。前マルフォイ邸にいたドビーという妖精との違いがいまいちよくわからない。しかしまあしもべがいるって事はそのうち来るのだろう。

じっと見てると屋敷しもべもこちらに気づいたらしい。目があったので会釈してみた。

屋敷しもべはびくんと震えてすぐにうやうやしく頭を垂れた。しもべ妖精はみんなビクビクしててどうも接しにくい。

そうこうしてるうちにファッジが壇上に現れ演説を始めた。観客たちは早く試合を見たくてウズウズしてる。サキも自前の双眼鏡を構えた。

そしていよいよ試合が始まった。

 

 

 

 

「すごいね!やっぱり直で見ると迫力があるね」

「やっぱりクラムだったろ!あんな華麗な動き、彼じゃなきゃできない」

ドラコとサキは興奮状態でドラコの録画したクラムの箒さばきを何度もリプレイした。観客はだんだんスタジアムから出て行って、ハリーたちもいつの間にかいなくなっていた。

「我々も行こうか」

「あっ…父上。僕達露店が見たいんですけど」

「露店?」

ナルシッサは眉を釣り上げた。彼女は息子を溺愛するあまり過保護なのでできればそんないかがわしい所に行ってほしくないのだろう。

しかしドラコにはどうやら別の目的があるようだ。

「見たらすぐに魔法省の本部へ行きます。な、サキ」

「私が見張ってます。任せてください」

サキはとりあえず乗っかっておいて信頼してもらえそうな笑顔を作っておく。

心配そうなナルシッサだったがルシウスはにやりと笑ってドラコの肩に手を置いた。

「せっかくの祭りの夜だ。好きにしなさい」

「ありがとう、父上」

「くれぐれも逸れないようにね」

ナルシッサがサキの手をぎゅと握った。今生の別れじゃあるまいし。過保護っていうのも大変だなと他人事のように思った。

ドラコとサキはごちゃごちゃしたテント村へ向かった。

「あっ!ドラコみて。綿飴だって。爆竹も安売りしてる!」

「本当に露店巡りしてどうするんだよ?」

「えっ?」

事情が飲み込めてないサキにドラコは呆れ気味にいった。

「もっと小高いところへ行こう。直に始まる」

サキはドラコに手を引かれ、テント村から少し離れた丘を目指した。

しかしその途中、背後で爆発音が響いた。爆風で体勢が崩れて手が離れてしまう。膝をついて後ろを見ると、数十メートル後ろで小屋が轟々と燃えていた。

 

爆発事故…?

 

その炎の上を白い閃光が瞬いた。魔法だ。誰かが魔法で爆発させたんだ。

人々は悲鳴を上げててんでバラバラの方向へ一斉に駆け出した。サキも慌てて立ち上がってドラコを探す。しかし暗闇と次々と上がる爆音とで誰が誰だかわからない。とにかくはじめ向かっていた丘に向かって走り出そうとした。

しかしなにかにひっかかってまた転んでしまう。

後ろから走ってきた人たちに危うく踏みつけられそうになり思わず蹲った。

しかし予想していた衝撃は来ず、サキはゆっくり顔を上げた。

どん、どんと爆音が響いていた。あちこちにランプが転がって割れたガラスが火の粉を反射してきらめいている。

そこに暗い影が落ちていた。サキの真横に、人混みからかばうように誰か立ってる。

 

「……る」

 

火が周りを囲んでいた。嫌な記憶が蓋を開けそうになる。悲鳴とテントが燃える音に混じって、横に立ってる誰かが何かを呟いていた。

サキは男を見上げた。

ボロボロの黒いコートを着た、頬のこけた男。死んだ目をしていてこんな騒ぎに気づいていないかのように茫然としている。

 

「く、……」

「だ、いじょうぶ。ですか?」

 

サキはその明らかにイッちゃってる男に恐る恐る声をかけた。

男は手を差し伸べてきた。

握り返そうか迷うサキの腕をむんずと掴み、力任せに立ち上がらせた。

そしてそのままその手に口づけをした。

「ひっ!」

思わず手を引っ込める。変態か?すぐに杖を構えようとポケットに手を伸ばす。

しかし男は動じない。虚ろな目でサキを見つめると、にやりと笑って騒ぎの中心へ頼りない足取りで一歩一歩向かっていった。

「へ、変質者…?」

思わず追いかけそうになった。しかしまた聞こえてきた悲鳴で我に返った。

サキはさっきの意味不明な状況を忘れようと頭を振って丘へと駆け出す。

丘の上の木の枝にドラコが座ってるのが見えた。人混みに必死に目を凝らしている。ドラコはサキを見つけるやいなや枝から飛び降りて駆け寄って肩をつかみ、揺さぶりながら矢継ぎ早に質問してきた。

「サキ!無事か?怪我は?変な呪文に当たらなかったか?」

心配はありがたいがこんなんじゃ舌を噛む。

「転んだけど平気。ドラコこそ大丈夫だった?」

「僕は大丈夫。…無事で良かった」

「ど派手な騒ぎだね…フーリガンってやつ?」

「いいや、ほら。みてみろよ」

ドラコの指差す方には黒いローブと不気味な仮面をかぶった一団が杖からばしばしなにかを発射させていた。

「死喰い人さ」

サキはポケットから手製の双眼鏡を取り出してじっくり眺めた。趣味の悪いドクロの仮面をつけた集団はマグルの一家を宙吊りにして甚振ってる。

「悪趣味だな」

サキがつぶやくと、すぐそばから聞き慣れた声が聞こえた。

「こんなとこで何してるんだよ」

ロンの声だ。ハリーとハーマイオニーもいる。あの騒ぎから逃げてきたらしい。

「見物さ」

ドラコが悪っぽく答える。しかしハリーは横にいるサキが転んでドロドロなのを見て食ってかかろうとするロンを諌めた。

「フレッドたちは?」

「途中ではぐれちゃったんだ」

「そっか。まあ逃げた先できっと会えるよ。ここは…」

遠くで爆発音がした。思わずみんな頭を低くする。サキは爆音にかき消されながら付け足した。

「ちょっと危ないかも」

「早く逃げた方がいいぞ。うっかりそのボサボサ頭に呪文があたるかも」

「お前の頭にはあたらないとでも?」

ロンがすかさず言い返した。

「あたりまえだろ?」

ドラコも挑戦的に返す。

「そう、私が盾になるから大丈夫」

そこでサキが恭しくドラコのそばに跪いて胸の前で手を組んだ。

「違う、やめろ。茶化すなサキ」

「夫婦漫才を聞いてる暇なんてないのよ!行きましょハリー。…サキたちも気をつけてね!」

ハーマイオニーはえらく焦ってハリーとロンを引っ張って森の奥へ消えていった。ドラコは軽くため息をついて燃え広がるテント村をざっと眺めた。

「…母上が心配してるな」

「そろそろいこうか?」

「ああ」

「私、火って苦手なんだよね。孤児院燃えたから」

「あ、そうだった。ごめん。僕…」

「ううん。早く行こう」

二人は森を抜けていった。爆発音がしなくなってしばらく経つと人がたくさん集まってる平原に出た。全員が上空を見て悲鳴を上げている。

二人は振り返って空を見た。

そこには煙のように揺らめく、大きな髑髏と蛇の模様が浮かび上がっていた。

 

 

「闇の印だ……」

 

 

誰かが呟いた。

「あの人の印だ!」

 

 

 

 

 

「………サキ。おーい」

「フゴ…」

サキはコンパートメントを占領し、新聞紙を顔の上において居眠りしていた。

「場所ないから、ここいい?」

ザビニだった。ザビニはちょくちょくサキに声をかけてくるけど、ドラコとはちょっと反りが合わない。

「いいけど…ドラコくるよ」

「構わないよ。なあ、君結局ドラコとはどうなってるの?」

「あー?そりゃもう…仲良しだよ。おかげさまでね」

「へー。じゃあ勿論ダンスパーティーもドラコと?」

「ダンスパーティー?何それ」

「あれ、聞いてないのか?」

ザビニは向かいの席にさっと座って、長い足をこっちに向けた。長いから収まりきらないんだろうか。

「三大魔法学校対抗試合の伝統だよ」

「ああ」

サキはやっと思い出した。そういえば休み中ルシウスがよく話していたっけ。なんでも別の魔法学校と競い合う魔法界の一大イベントがあるとかなんとか。クラウチ氏はワールドカップと続けて大忙しだって言ってたな。

そういえばあの日、結局クラウチ氏とは会えなかった…。

「いや…別に誘われてないけど。でも君とはゴメンだよザビニ。ファンの子に刺されちゃうからね」

「そりゃ残念だ」

そこにドラコが戻ってきた。ドアを開けてザビニがいる事にちょっと驚いて、まあいいかという顔をして買ってきたお菓子をサキに渡して着席する。

「久しぶりだな。ワールドカップは行ったのか?」

「いや、行ってない。中継は見たよ。すごい試合だったな」

「この双眼鏡でリプレイ見れるよ。見る?」

「お、いいね…これ既製品?」

「いや、オリジナル」

「へえ。器用なんだな」

わいのわいのと過ごしてるうちにドラコを訪ねてノットが来たり、ザビニ目当てにダフネが来てしばらく話していったりした。

ドラコと公認カップルみたいになってからスリザリン生からの風当たりがこころなしか弱まった。パンジーは未だに話してくれないけど女子は挨拶すれば挨拶し返してくれるしもう教科書がなくなったりはしなくなった。

そういうときは心の中でドラコ様々とつぶやいている。

スリザリン生はだいたい三大魔法学校対抗試合について事前に親から聞いてきて、みんなで今からどんな課題が出るかとか、出場制限に関する噂の真偽を議論していた。

 

新学期の挨拶はダンブルドアの演説から始まる。少々のトラブルをはさみつつ宴会は無事終了した。

ドラコは年齢制限に文句をたれてたが死人がでるようなイベントらしいしサキは妥当な処置だなと思っていた。

そりゃできるもんならお金はほしいけどね。

 

それよりもあの、マッド・アイ・ムーディだ。

あのイカした元闇祓いのする授業はどんなものだろう?サキはベッドの周りを整えてワクワクしながら眠りについた。

今年も素敵な一年になりますように!

 




いつも誤字修正ありがとうございます。

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