【完結】ハリー・ポッターと供犠の子ども 作:ようぐそうとほうとふ
何かが解決したらまた何かトラブル。ここのところそれの連続だ。
しかし脱獄犯がホグワーツへ侵入したというのはトラブルの中で一番深刻で、全校生徒は大至急大広間に集められて今日はその場で寝ることになってしまった。
シリウス・ブラックの侵入によりみんな朝のことは忘れたかとおもったらやっぱりからかわれるしドラコは黙りこくって無反応だしで居た堪れなくなり、サキはハーマイオニーのもとへ逃げていた。
「シリウス・ブラックのふりしたスリザリン生かもよ?」
「そしたらピーブズがそういうさ。いくらなんでもあんな嘘はつかない」
「ホグワーツへの侵入なんて絶対に無理だわ」
「模倣犯に一票」
「じゃあ僕も」
「ふざけないで!」
シリウス・ブラック。彼のおかげで学校中恐怖におののきサキとドラコの痴話喧嘩は2日間くらい忘れられた。
しかし校内のどこにも彼の姿がないことがわかりまたいつも通りの日常が帰ってくるとすぐに噂が再燃して、いつの間にかサキがマルフォイにふられたことになってた。(失礼極まりない)
「そういうわけでまた家出したいのですが」
「退学になりたいのか?」
「はは…」
校舎をうろつくのすら厳しく言われるようになってからサキの逃げ場はもっぱら魔法薬学の教室だった。ここなら生徒は近寄らないしスネイプ先生は基本的に何も言わないし居心地がいい。なんならお茶だって入れられるし。
「学園生活を満喫してるようで何よりだサキ」
やたら嫌味っぽく言われサキもムッとする。
「先生にはわかんないでしょうね!恋なんてしたことないでしょ」
「…………」
無言。
踏んじゃいけない地雷でも踏んだんだろうか。スネイプ先生のオーラがチクチク刺さる。こういう時は黙ってやり過ごすのが一番だと学んでいる。
サキは読みかけの本を開いて黙々と読書を再開した。スネイプも課題の採点に戻って部屋の中にはページをめくる音と羽ペンの音、鍋が煮だつ音。篝火が爆ぜる音。何でもない日常音だけがした。
サキの読んでる本はマクリールの館から見つけた写本だった。とても古い本で今にも表紙が取れてしまいそうなのを大事に大事に使っている。内容は古の魔法について。何がなんだかさっぱりだが一応目を通してる。
内容が右から左に抜けてくせいで頭は別のことを考えていた。
ドラコがついに腕の封印を解いて次のクィディッチに出るらしいこと。いかれた絵画がグリフィンドール寮の入り口を担当すること。ロンのネズミがますます神経衰弱に陥り死ぬ寸前なこと。バックビークに処罰があるらしい…などなど。
新学期が始まっていろいろあったが珍しくサキに危機といった危機はない。
「…先生」
「…なんだ」
「クリスマスプレゼントは何がほしいですか?」
スネイプの教室から出て夕食を取りに大広間に向かった。ドラコたちはいない。多分クィディッチの練習だろう。雨の中よくやるもんだと感心する。
「あらサキ。愛しのドラコの応援に行かなくていいの?」
サキが席につくとさっそくミリセントがからかってきた。
「雨の日は外に出たくない」
ミリセントは隣のダフネとクスクス笑い合う。
「恥ずかしがらずにドラコといればいいじゃない」
「だから、誤解だってば。あれは単に仲直りしたくてね…」
無駄だとわかりつつもサキは何回もしてる弁明を繰り返す。わかってもらうのは諦めてるので一通り述べたらもう無視して食べるしかない。
黙々と飯を食ってるとクィディッチチームのメンバーがシャワー上がりの体でやってきた。
勿論ドラコも居る。
サキは慌ててジュースで食べ物を流し込んで転がるように広間から逃げた。逃げたところで談話室で鉢合わせるわけだが。
「…で。グリフィンドールに逃げてきたの?」
「そう…あのカドガン卿、ザルだよ。適当な罵声を浴びせたらどれかがアタリだもん」
ハーマイオニーがホグズミードのお土産に買ってきたバタービールを出してくれた。サキはありがたく頂戴し、一気に飲み干した。
「サキ…はっきり言って。マルフォイのことどう思ってるの?」
「そんなの……わからないよ。っていうかドラコだってそういう意味で言ったんじゃないと思うよ?」
「そうなの?でもマルフォイってどう見ても…」
ねえ?と言いたげにハーマイオニーがサキの隣に座るジニーに視線をやった。ジニーはコクコクと頷く。
「そういうのを踏まえてもう一回聞くわ。マルフォイのことどう思ってるの?」
「うーん…ジニー。好きってどんな気持ち?」
「えっ…なんで私に振るの?」
「だってジニーは恋する乙女代表だろ?」
「やめてよ!」
ジニーはすぐに顔を真っ赤にしてクッションで顔を隠してしまう。恋ってこういう状態のこと?かわいいけどサキにはきっと出来ない。
「なんでみんな恋愛にそんなに熱心なの?いい迷惑だよ!決心して話しかけたのに茶化されちゃさ…」
「まあ普通は、他人の恋愛ほど面白い話題はないから」
「人の噂もなんとやら、よ。サキ」
「二ヶ月以上も待てないよ!」
サキはガンっと頭をテーブルに叩きつけて唸り始めた。ハーマイオニーとジニーは顔を見合わせて肩をすくめた。
そこにタイミングよくフレッド、ジョージが通りすがりにからかってく。
「あれっ。サキ!マルフォイはいいの?」
「こんなとこにいたらまた乱闘だぜ」
サキは突っ伏したまま動かなくなってしまった。消灯時間も過ぎてるしもうスリザリン寮に帰れないだろう。
ハーマイオニーは毛布を取ってきてくれて、二人は暖炉の前でゴロゴロしながら話し合った。
話す話題もつきかけてきたころ、ハーマイオニーがふと意外な名前をとりあげた。
「ねえ…ルーピン先生のこと、どう思う?」
「ルーピン先生?ああ、いい先生だよね」
「そういう事じゃなくて…ううん」
「何?」
「なんでもないわ。まだ確証がないから」
ハーマイオニーのそばにクルックシャンクスが擦り寄ってきたのでサキは思う存分撫でさせてもらった。気位の高い猫なので簡単に頬ずりなんかはさせてもらえないがお腹を撫でるくらいは気を許してくれた。
「クルックシャンクス、ネズミなんか食べちゃだめだぞ。病気になっちゃうよ〜」
クルックシャンクスはにゃお、とあくび混じりに返事した。
そしてドラコとサキが磁石みたいに避けあってるうちにグリフィンドール対スリザリンの試合の日になった。その日は大雨なのにみんな競技場へ行くんだから信じられない。
サキはいったらからかわれるので図書館でおとなしく本を読んでいた。
しかし夕食になっても観客は戻ってこない。おかしいなと思い、何故かずぶ濡れで飯をかっこんでるディーンを捕まえて聞いた。
「すっげえ試合だよ。夜までもつれるんじゃないかな?」
「え…この天気で?」
「スニッチがまだ捕まってないからね…今日のマルフォイは粘り強いよ」
「ホント意味不明なスポーツだよね」
「何言ってんだよ、最高さ。サキも見に来いよ!マルフォイが余所見してくれるかも」
「お前までそんなこと言うのかー!」
机においてあった日刊予言者新聞で叩くとディーンは慌てて逃げていった。
ハリーやドラコには申し訳ないが、わざわざ濡れに行くのはゴメンだった。おとなしくほとんど人がいない談話室で読書を続けた。
もう完全に日が沈んだ頃、雷が鳴り響いて湖のそこの方まで照らされた。
箒に雷が落ちたらどうするんだろう。とか考えていると、ゴイルが慌てて談話室に駆け込んできた。
「どうしたの?」
「ドラコが…地面にぶつかって…」
「だからクィディッチはやなんだよ…医務室だね?」
ゴイルはドラコの着替えやらを取りに来たらしい。サキも手伝い、着替えやタオルをカバンに詰めてゴイルと一緒に医務室のそばまで来た。
ちょうど泥まみれのクィディッチ選手たちが病室を去るタイミングでサキは内心ほっとした。
「……ハリー、残念だけど…」
ドラコのベッドから離れたところからハーマイオニーのヒソヒソ声が聞こえてくる。ハリーまで怪我したらしい。シーカー両方怪我をしたってことはどっちが勝ったんだろう?
「持ってきた」
ドラコはバックビークにやられた場所と同じ場所に前回より分厚いギプスをはめて横たわってた。
「うわ、なんで居るんだ?!」
「ゴイルの道案内」
「おれはそんなに頭悪くないぞ」
「冗談だよ」
ゴイルは着替えを置くなりドラコに追い払われてしまった。サキはちょっと顎を触って思案した。
「えっと…仲直りの続きを…したくて……その。前は周りがうるさかったでしょ」
「どっちが勝ったか気にならないのか?」
ドラコはやっぱりそっぽを向いてていじけてる。けど前より怒ってる感じはしない。
「うーん。ドラコ嬉しそうだし、スリザリン?」
「そう。僕が勝ったんだ」
ドラコは折れた方の手を、もう一度スニッチの感触を思い出そうとしてるかのように握った。
「やつは気絶して落っこちたのさ。でも勝ちは勝ちだ」
「おめでとう。名誉の負傷だね」
「…」
ドラコはちょっと変だった。嬉しそうにも見えるし何かに怯えているようにも見える。2つの感情が一緒に在るみたいだ。
「どうしたの?」
「やつが…」
ドラコはふーっと長く息を吐いた。
「吸魂鬼が、そばを通った。それで上昇しそこねたんだ」
「そんなに怖いの?先生も言ってたけど…」
「怖いなんてものじゃなかった。…ああ、思い出したくもない」
サキはチョコレートを探した。あいにく持ち合わせてなかったので苦し紛れにずっと食べずにポケットのそこに眠らせておいた胡椒飴を取り出してサイドテーブルにおいた。
「…また日を改めるよ」
「いや、待ってくれ」
ドラコはサキが立ち上がろうとするのを止めた。ドラコはえらく真剣な顔をしている。
「まず…僕は君に告白をしたつもりなんて一切ない。それはいいな?」
「ああ、やっぱりそうだよね!みんなほんとに恋愛脳なんだから…」
「でも僕が君のことを好きなのは事実だ。だからポッターと仲良くしてるのを見るとムカつく。それはいいな?」
「うん。…えっ?」
「だから、ポッターと仲良くする君は嫌いだって話だ」
「え、待ってよ。好きなのに嫌い?」
「そうだよ」
「わけがわからないよ」
「君、人を好きになったことないのか?」
「恋愛的な意味で?ないよそんなの」
「だろうな」
ドラコはため息をついて寝返りを打ってしまった。呆れられたらしい。でもサキには全然ピンとこなかった。
「ドラコは私のことが好きなの?」
「そうだって言ってるじゃないか」
「わーお…」
「なんだよ他人事みたいに!」
「いやだって…こういうこと身近でなかったから…」
「そうやって君はいつも茶化して有耶無耶にするんだ」
「そんなつもりはないよ…」
こういう時どうすればいいんだろう。孤児院でよく流れてたメロドラマは過激すぎて参考にならないしラブストーリーなんて読まない。
「こういう時どうすればいいかわからないんだ。キスすればいいの?」
「君…ほんとに根本的なものがかけてる!いいか、普通は好きだって言われたら喜ぶだろ」
「私は嬉しいよ」
「…ああ、そう…そうなのか?いつも通りじゃないか?」
「そんなこと無いよ。なんかドキドキしてるし。あ、これはさっきちょっと走ったからかな…?」
「そう…」
ドラコは呆れ気味だ。
「いや、そうじゃなくて。サキ、その後はイエスかノーだろ」
「ん?つまり君は今私に告白してるの?」
「いい加減にしろ!そうだよ!」
ドラコがついにブチ切れたところでカーテンがシャッとひかれて、呆れ顔のポンフリーが入ってきた。二人を交互に見てから咳払いをしてピシャリと言った。
「若い二人の邪魔はしたくはないんですけどね…他の患者もいるんですよ」
「す、すみません」
サキはお尻をひっぱたかれて追い出された。(常連ということあってか仲がいいらしい)ドラコは同じ医務室にハリーがいることを思い出して今更気まずくなり布団に潜った。
そして返事を結局もらってないことを思い出してため息をついた。
そしてサキはその足で禁じられた森の中にある車の巣(家、またはガレージという方が適当か?)へ向かった。なんだか今日は帰りたくない気分だった。
人に好きだなんて言われたのは初めてだった。
フォード・アングリアは大きな岩の影に頭を突っ込んで停まっていた。ドアを開けて中に入る。
雨で濡れたローブを絞って後ろに干して寝転ぶ。
目を閉じてさっき言われたことを反芻した。そして返事をしてないことに気付いて苦笑いして寝返りを打った。狭い車内は13歳のサキにはちょうどいいけど、これから大きくなったら狭くて寝れなくなるだろう。
あの荒んだ孤児院で過ごしたときと比べて、自分のなんと恵まれたことか。ホグワーツに来てから何もかも変わった。こんな自分が好きと言われる日が来るとは思いもしなかった。
嬉しい。
そして嬉しさの裏に罪悪感が湧く。自分が幸せでいてはいけない気がする。そういう呪いをかけられたような…。
ううん、いいじゃないか。今晩くらい幸せな気持ちになったって。
サキは自分の肩を抱いて眠った。
炎の夢を見た気がした。