【完結】ハリー・ポッターと供犠の子ども   作:ようぐそうとほうとふ

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03.ドラコ・マルフォイの戸惑

パリッとした白いシャツにオーダーメイドの深緑のワンピース。美容院でセットしたらしい編み込みとアクセサリーで飾られた頭。

母、ナルシッサにトータルコーディネートされてすっかり垢抜けたサキは居心地悪そうに足をもじもじしていた。

「言った通りでしょう?とても素敵よ」

「よく似合う」

満足げな母上と褒める父上に挟まれてサキは唸り声のような返事をしていた。

ドラコはそれを見てくすりと笑った。

普段はボサボサの髪の毛によれよれでつんつこてんのシャツを着てるサキだが、きちんとした格好をすれば良家の娘さんにも見える。こういうの馬子にも衣装って言うんだっけ。

新学期が始まるまで一週間、サキを預かることになった。スネイプ先生が後見人だとは手紙で聞いていたが実際連れ立って歩いてる姿を見ると罰則に連れて行かれるように見えた。

アンバランスな組み合わせ。

でもきっと今のサキなら大臣と並んだって見劣りないだろう。普段からちゃんとした格好をしておけばいいのに。

「足がすーすーする」

とお決まりのセリフをブツブツつぶやいていた。マルフォイ一家とサキは新学期の準備のために公用車に乗ってダイアゴン横丁へ向かった。

母上はサキが来るときはいつも楽しそうだ。娘ができた気分なのかもしれない。今日も服を買うつもりらしいが、サキはちょっと困ってるみたいだった。

確かに彼女の休日の過ごし方を考えれば高くて上品な服よりもツナギや作業着のようなもののほうがいいのかもしれない。2年生の後半からサキはやたらと森や林に入り浸ってるようだったから。

それでも女という生き物はおしゃれをすると自然と楽しくなるらしい。照れてはいるもののたまにガラスに映る自分を見てニコニコしていた。

まず服飾店で採寸をし、そこから子どもと大人で別れて回ることになった。というのもサキが堆肥臭い魔法植物及び薬剤専門店に行きたがって聞かなかったからだ。

ドラコは辛抱強く待ったが耐え切れなくなって箒専門店へ逃げた。

暫くしてサキが手ぶらで帰ってきたのでフローリシュ・アンド・ブロッツ書店へ教科書を買いに行く。

怪物的な怪物の本を探してると、店の一角が見世物小屋のようになっていた。恐る恐る近づくと、本の形をした獣が檻の中でお互いの背表紙を食い千切ろうとしていた。

「うお、カワイイ」

「気が狂ってるのか?」

店員がうんざりした様子で本と本を引き剥がす。こんなの絶対に家に持ち帰りたくない。

「配達サービスはあったかな」

ドラコが店員に尋ねると店員はうんざりした顔で料金表を指差した。

「こいつらは檻とセットじゃないと他の荷物を食い荒らしちまうから、これに5ガリオン追加で承ってます」

「じゃあ…それで二冊。マルフォイ邸宛に」

「私は普通に持って帰れるけど」

「頼むからやめてくれ」

それ以外の教科書を買い揃えると父上たちとの集合時間まで少し間があった。お茶でも飲もうかと提案するとサキは嬉々として漏れ鍋に行こうとした。

「そんな所、ろくなものが無いぞ」

「いいからいいから!ドラコみたいなおぼっちゃまくんはさあ、一度ジャンクなもの食べたほうがいいんだよ」

「おぼっちゃまくんって…」

言われるがまま、小汚いドアをくぐって店内に入る。薄暗くてどこか埃っぽいというか、くすんだ印象の店内だ。新鮮といえば新鮮だが、別にいい意味で言ってるんじゃない。しかしまあ、正直興味はあった。

父上たちと一緒じゃとても入れないし、スリザリンの友達といても自分で入ろうと言い出すのは憚られた。

「とりあえずビール!」

「僕もそれで」

サキは天井に走る梁や蜘蛛の巣、天窓からモヤモヤと漂ってくる煙なんかを眺めてた。

「それにしても、あの教科書…一体なんであんなのを生徒に持たせようとしたんだ?ケトルバーンはボケちゃったのかな」

「どうだろう。何回か話したことあったけど頭はしっかりしてたよ」

サキは買ったばかりの教科書を取り出してパラパラとめくった。

「楽しみだね、新しい科目。占い学ってなにするんだろう?」

「水晶でも見るんじゃないか?…僕はむしろ退屈そうで憂鬱だ」

「魔法史よりはマシじゃない?」

「それは言えてる」

雑談してるうちにバタービールが運ばれてきた。乱暴に置かれたので泡が少しこぼれた。サキは全く気にせず「乾杯」と言ってごくごく飲む。

その後はだらだらと二人で今年のクィディッチの選抜選手について予想しあった。バタービールを飲み干した頃、ドラコは客の中から見知った顔を見つけた。

早速立ち上がりニヤニヤしながら近づいていく。

「おーや。イカレポンチのポッター、ポッティーじゃないか」

かぼちゃジュースを飲んでいたらしいポッターはその声に反応してすぐにこっちを睨み返してくる。

「マルフォイ、こんなとこに何の用だよ」

「僕がお茶してちゃおかしいか?まあ確かに、こんなボロい店趣味じゃないけど。お前にはお似合いだな」

「そう思うならすぐ出ていけばいいだろう。こっちだってお呼びじゃないね」

いつも通り、普段と変わらぬ口喧嘩。ポッターとは初めてあった時からずっと犬猿の仲だ。有名人のハリー・ポッター。ふん。

「普段なら間違ったって来ないさ。今日はサキの希望でね」

「サキ?」

ドラコがハリーに喧嘩をふっかけるのはいくつか理由があるが、その一つがサキだった。サキはハリーたちとも仲が良くっていつも肩を持つ。ドラコはそれが気に入らない。

しかも二人の喧嘩にはいつも彼女の仲裁が入り、なあなあで済まされる。

「やあ…」

今日のサキはちょっと様子が違った。気まずそうに視線を彷徨わせながらドラコの半歩後ろで突っ立っている。

いつもならどーんと隣に座って、「久しぶりじゃん!一緒に飲もうぜーカンパーイいえーい!」とアホ面でジョッキを掲げるはずなのに。

そう…。思えば秘密の部屋事件が解決してからサキはちょっと変なのだ。スリザリンの生徒とはもともとあまり交流がなかったが、ポッターたちともあまり喋らなくなった。ドラコはあまり気にしてなかったが、いざこうして現場に向き合ってみるとその奇妙さに戸惑う。

「ほら。他のお客さんに迷惑だし行こうよドラコ。邪魔してごめんね、ハリー」

「あ…いや…別にいいんだ」

まだ何か言いたそうなポッターを無視してサキに引っ張られるままに店を出た。

「ポッターと何かあったのか?」

「なんもないよ」

「嘘つけ。なんか様子が変だぞ」

「そんなこと無いよ。君こそすぐ喧嘩ふっかけるのやめなよね」

ドラコはもっとサキを問い詰めたかったが、父上たちとの約束の時間になってしまったので仕方なく待ち合わせ場所に向かった。

それからサキは母上とべったりでろくに突っ込んだ会話もできず、そのまま新学期の日が来てしまった。

駅についてようやく二人きりになれたと思ったらクラッブとゴイルが来て、吸い寄せられるようにパンジーやセオドールが集まってきてとてもじゃないけどポッターの話なんてできなかった。

 

 

「休暇はどうだった?ドラコ」

「ああ…今年はスイスの別荘に行ったんだ。サキが来てからはイギリスにある偉大な魔法使いの史跡とかを見に行った」

「私はそれ以外ずっと家にいた」

あはは、うふふ。とパンジーとサキは微笑み合う。

コンパートメントに膝を突き合わせてる二人は一見仲良さそうに見えるがサキ曰く「笑うしかない」らしい。ポッターと僕の関係とは違うが犬猿の仲なんだろうか?女の子の争いはいつも目には見えない。

「サキは家で何してるの?」

「今年はずーっと掃除してた」

「飽きないの?」

「飽き飽きしたよ。もう一生掃除したくないくらい」

そして、何故か普段はあまり絡んでこないザビニが同席していた。やたらとサキに話しかけているのが気にかかる。

「本棚の裏に積もったホコリってさ、生き物みたいにふわふわしてて可愛いんだよね。思わず掴んだらでっかい虫の繭でさ…」

「やめて!それ以上話さないで!!」

パンジーが本気で悲鳴を上げてサキの話を遮った。すると同時に列車が急に止まってしまう。何もない湖の辺りで一体どうしたんだろう?他のコンパートメントからも悲鳴や荷物が散乱する音が聞こえた。

そしてふいに照明が全て消えてあたりが真っ暗になる。パンジーが悲鳴を上げた。

雨が激しく窓に打ち付けられている。

「まさか虫の祟りかな…」

「今ふざけるなよ!」

「マジメだよ!」

やけに空気が冷たく感じて、吐く息が白くなる。窓の表面がうっすら曇って外が見えなくなった。廊下から何かが動く気配がして、ドラコは反射的に口をふさいだ。

うなじがチリチリする。サキの方からぽうっと優しい光が灯った。魔法の明かりをかざしながらしがみついているパンジーの肩をだいてやっている。

「明るくしてたら寄ってくるかな」

「寄ってくるって、何が?」

「何かが」

息を呑む音が聞こえた。耳を澄まして神経を研ぎ澄まし、ドラコも杖を構えた。緊張感が高まるなか、ふいに車内の電気が全て戻って列車が動き出した。

「一体何だったんだ?」

あんなに緊張したのに肩透かしを食らった。こういうことに敏感なパンジーは「ダフネの様子を見て来る」と言ってコンパートメントから飛び出していった。

「今年もなんかありそうだなあー」

サキがうんざりしたようにため息をついて俯いた。確かに毎年巻き込まれてる身としてはたまったもんじゃないだろう。

「絶対何かあるね。シリウス・ブラックが脱獄しただろう?」

ザビニがここぞとばかりに語りだした。

「ああ、それよく聞くね。一体誰なの?」

「大悪人さ。マグルを殺しまくってアズカバンに投獄されたんだ」

「へえ…でも別に学校にいれば安全じゃない?」

「そうとは限らないぜ。だってブラックは例のあの人の熱狂的な信者だったんだ。…そのあの人を倒したやつが学校にいるだろ?」

サキはまるで百味ビーンズ消し炭味を口いっぱい頬張ったような渋い顔をした。

「ああ…そりゃ……やべえや」

「今回ばかりはポッターもやられちゃうかもね」

「ハリーはしぶといよ。ね」

僕に同意を求められても困る。ドラコはとりあえず同意して窓の外に目をやった。雨雲は分厚くて今が何時かもわからない。

 

 

 


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