【完結】ハリー・ポッターと供犠の子ども 作:ようぐそうとほうとふ
「ハリー!…マルフォイ?なんで二人で…」
二人はハーマイオニーと図書館の出口でばったりであった。
前代未聞のツーショットに面食らったハーマイオニーだが、すぐ本の山を抱えなおして体勢を整える。
「まあ成り行きで。そっちは何かわかった?」
「ええ。すぐに話すわ。……マルフォイも?」
「悪いか」
ハーマイオニーはちょっと黙り込み、じっとマルフォイを見た。
「…しょうがないわ。時間がないから。」
三人は大急ぎで人気の少ない場所を探した。トロフィールームまで来てやっと腰を下ろし、ハーマイオニーも抱えた本の山を床に広げる。
「いい?まず犠牲者がどんな魔法をかけられたか、だけど」
ハーマイオニーは図鑑のような本をめくる。
闇の魔術により造られた生き物図鑑。
ニッチな図鑑なのにこんなに厚さがあるというのが恐ろしい。
「これ、見て。バジリスク」
ハーマイオニーが開いたページには大きな蛇の絵が載っていた。美しい鱗の模様と長い牙を持つ大蛇が鎌首を擡げている。
「この生き物の目を見た人は死ぬの。」
「まてよ、まずどうしてこのバジリスクにたどり着いたか教えてくれよ」
マルフォイの横槍にハーマイオニーが苛立たしげに答える。
「いい?まず熟練した闇の魔法使いでもなければあんな魔法はかけられないわ。けれどそんな魔法使い、ダンブルドアが侵入を許すはずがない。じゃあ簡単よね。ずっとここに住んでるんだわ」
マルフォイはきょとんとする。ハリーも同じくだ。
「第二に、犠牲者はある共通点を持ってるわ。ミセス・ノリスは水浸しの廊下で。コリンはカメラを構えたまま。ジャスティンはニックといっしょに。ジニーが倒れてたのも水浸しの廊下よ」
「あ、わかった。みんな何か越しにバジリスクを見たんだね?」
「そう!」
次にハーマイオニーはホグワーツの歴史、建築図面という大判の本をめくり始める。
「でも決定的だったのはハリーが聞いたっていう不気味な声だったわ。私たちには聞こえない声…貴方、パーセルタングでしょう?その声の主は蛇なんじゃないかって思ったの」
ハーマイオニーはハリーがその声を聞いた廊下の図面を出す。
「みて。ここと…」
そして次に犠牲者たちが見つかった場所を示す。
「ここと、ここにも。すべてパイプが走ってる」
「バジリスクはパイプを使って移動してるのか?」
「そうに違いないわ。ホグワーツの下水管は無尽蔵に増改築されてるみたいで古い図面と、地下の調べられない部分は喪失してるの。秘密の部屋はおそらくその失われた部分にある」
冷たくて、ぬめぬめしてる。そして背中が痛い。何処かにぶつけたんだろうか?そもそも床が硬い。
サキはゆっくりと上体を起こした。
ここはどこだ?
まるで怪物が住むような洞窟の中だ。真っ暗でよく見えないが、上の方からかすかに明かりが見えた。サキの真上にまん丸の穴が空いていて、そこから月明かりに似たぼんやりとした光が見える。
サキは手を伸ばしてみる。苔だかカビだかわからないヌルヌルとザラザラが混ざった不快な感触。曲がりくねりながら上に続いているらしい穴は、鉄の管?やけに大きいが人工物だ。
ここから落とされたんだろうか。そりゃ怪我もするだろう。
「破傷風になっちゃうよ…」
サキはぼそっと不平を漏らし、慣れてきた目で今の自分を確認する。
ヒリヒリ痛い足は擦り傷だらけ。ローブはところどころひきつれができている。
持ってたカバンは近くに落ちていて、中のインクが割れてしまって教科書は台無しだった。さらに杖がなくなっていた。抜かれたんだろう。
カバンをさらに漁ると忌々しい黒い日記がでてきた。
「なんで…」
意味がないと知りつつサキはページをめくる。相変わらず真っ白だ。
トムの目的がなんにせよ、日記を私に持たせておく理由なんてないはずじゃないか。だって私はここで死ねってことで落とされたんだから。
日記に聞くのが手っ取り早いが、そんなのムカつく。罠にはめた本人に真意を聞くなんて負けじゃないか。
サキはゲジゲジと日記を踏みつけてからカバンにしまい、恐る恐る洞窟のさきに一歩踏み出した。
肉を引きずる嫌な音がする。
ポタポタとどこかしこから水が垂れる。下水だろうか?やけに臭い。
こんなところで死ぬのはゴメンだ。
一度来た道がわかるように、サキは教科書をビリビリに破って通った道に紙片を撒いていく。
幸いどの地面も湿ってるし風で飛ぶことはないだろう。
教科書もロックハートの本だし、ちぎるたびに彼の写真たちが悲鳴を上げるので賑やかだ。こう不気味な場所でたった一人進んでいくとなると、バカの悲鳴でもないよりマシだ。
こつこつと革靴の音が響く。電灯や松明があるわけではないが、天井の亀裂からなんの光ともつかない明かりが漏れてるおかげで完全な暗闇ではない。それでも壁につけた右手の感触だけが頼りだった。
もう何年も人が通ってなさそうな道をとにかく進む。とりあえず今は曲がり角を無視して進んでいるが道は曲がりくねっていま自分がどっちに向かっているのかだんだんわからなくなっていく。
ふいに右手が触れる壁の感触が変わった。目を凝らすと扉のようなものが見える。大きな丸い石の扉だ。彫刻がほどこされているが細かい図案はよく見えない。苔の浸食が激しいようだ。だが入念に触るとすべてが苔に覆われてるわけじゃないらしく、円形の溝の部分はこそげていた。
「怪しいな…」
ノブも鍵穴も見つからないので仕方なく蹴ってみた。当然何も起きない。
サキはため息をついてしゃがみ込んだ。頭が痛い。早起きしたせいで寝不足だし、擦り傷はずっとヒリヒリ痛む。
こんな不気味なところで死ぬなんて嫌だ…。
不意にこみ上げてくる不安に押し潰されるようにサキは床に寝っ転がった。
ジニーは無事だろうか。
操られて私を落としたこと、覚えてるんだろうか。
罪悪感でいっぱいになって自殺しちゃったりヤケを起こしちゃってたらやだな。
そもそも今何時くらいなんだろう。
朝ごはんくらい食べてくればよかった。
置き手紙くらいしておけばよかった。
床に突っ伏したままサキはゆっくり目を閉じた。とにかく疲れた。もう寝てしまおう。
「50年前の新聞だ」
マルフォイが茶色くて今にも崩れそうな新聞を持ち出してテーブルにおいた。
ロン、ハーマイオニー、ハリー、そしてマルフォイは人気のない図書館に集まっていた。
「名前が出てるわ…マートル…50年前死んだのは嘆きのマートルだったのね。早速行きましょう」
「おいおい正気かよ。もうじき外出禁止時間だ。先生たちが血眼で警備してるんだぜ」
「全くもう。ハリーの透明マントがあるでしょう」
「あのマートルのところに行くのか?」
マルフォイはゴメンだと言いたげだった。
「いいよ君は来なくて。どうせマントには4人も入れない」
「そうさせてもらうね。だいたい今更なんで話を聞きに行くんだ?」
「話を聞きに行くんじゃないわ。探しに行くのよ、入り口を」
「まさか秘密の部屋の入り口が女子トイレにあるなんて言うんじゃ」
「そのとおり」
げーっとロンが顔をしかめる。
「偶然の一致にしては出来すぎてる」
ハリーの一言で決まったようなものだ。三人は急いで荷物をまとめる。マルフォイはなにか悩んでいるようだ。
「お前たちだけで行くつもりなのか?」
「ああ、だって急がないと…」
「まず先生に知らせるべきだろう」
マルフォイが珍しく正論を言った。ハーマイオニーも今思い出したらしく、小さく唸って自分の焦りっぷりに赤面した。
「ああ、もうわかったよ。じゃあ君は先生たちに知らせてくれ。僕は行くから」
「生徒だけで行くなんて無茶よ!相手はバジリスクなのよ?」
「ああもう、わかったよ!じゃあとにかくマートルのトイレにまず行く。そこに秘密の部屋の入り口が本当にあったらすぐにマクゴナガルのところへ行く、いいね?」
4人は大慌てで図書館から出て大広間に向かった。急がないと夜間外出扱いで罰則ということもあり全速力で走っていく。
嘆きのマートルのトイレに来た。また水浸しになっている。
「妙な気配がしたら目をつぶるのよ」
ぴしゃ、と革靴が水に浸かった。水たまりに波紋がトイレのはしまで広がっていく。ちょっと遅れて
「だれ…?」
と湿っぽい声がした。
「なんで男子がいるの?…あんたたち、また何か変な薬を作りに来たわけ?」
「こんばんはマートル。違うわ、今日は探しものをしにきたの」
「探しもの?ふぅん…お間抜けなスリザリンの子じゃないでしょうね?」
「サキを見たのか?!」
マルフォイの怒鳴り声にマートルは驚いたらしい。泣きじゃくりながら奥の個室へ逃げてしまった。
「バカ!」
「ごめん、マートル。聞かせてほしいんだ。お間抜けなスリザリンの子って?」
少し気に入られてるらしいハリーが慌てて個室に近寄ってなるべく優しい声色で尋ねる。マートルは便座からちょっと顔を覗かせて恥じらう乙女のような感じで答える。
「名前は覚えてないわ…でも、お友達に落とされちゃってたわよ。そこの穴に…」
「穴?どこにあるの?」
「鏡台よ。どういう仕組みかわからないけど、何かを言うと開くみたい。…私、思い出しちゃったわ。生きてるときオリーブにいたずらされて、落とし穴に落とされたの。とっても怖かったし、痛かったわ」
マートルの恨みつらみが始まる前にハリーは慌ててお礼を言って鏡台の前に立った。
洗面台も兼ねた鏡台は古めかしく、蛇口やパイプは錆びていて鏡は曇っていた。なんの変哲もないように見えたが
「おい、ここに蛇が彫られてる」
マルフォイが指差すところを見ると銅製の蛇口の部分に引っ掻いたような蛇が彫られていた。ちょうどスリザリンのワッペンに刺繍されてるような蛇だった。
ひねっても水は出ない。
「ハリー、蛇語で喋ってみろよ」
「え…なんて?」
「開けゴマとか、そういうやつ」
「あー…うーん。ちょっと待って…」
ハリーは咳払いをしてなんとか蛇語を喋ろうとした。
「開け」
「人語じゃないか」
「黙ってろマルフォイ!ゴホン」
目の前に蛇をイメージした。そして意識を蛇に集中して口を開く。
『開け』
口の隙間から空気がシューッと抜けてくような音がした。頭ではきちんと開けと言ってるのに違うことを喋ってる。変な感じだ。
ハリーがそう言うと、鏡台は音を立てて変形し始めた。
ゴロゴロと音を立てて鏡台が奈落のように降りていく。そして大きな太いパイプがポッカリと口を開けた。
「これが…」
ロンが息を呑んだ。
パイプの中から漏れ出る不気味な気配に四人とも一歩後ずさる。
「知らせに行かないと…」
ハリーはハーマイオニーの声でやっと我に返った。
「それじゃあ…僕はここで見張ってる。」
「僕も残るよ」
ハリーの言葉にロンが続く。
「じゃあ私はマクゴナガル、マルフォイはスネイプに報告しましょう。すぐに校長に来てもらうように言うのよ。二人は間違っても先走って行動しないで」
「わかってるよ」
ハーマイオニーはそう言うとトイレからかけて行った。人選に不服があった様子のマルフォイもすぐにトイレから出ていった。
ハリーとロンはぽっかり空いた暗闇へと続くパイプを覗き込み二人して顔を見合わせた。
「ハッハッハーッ!ビンゴ!」
背後から底抜けに明るい陽気な声が聞こえた。
振り返るとロックハートがいつもの笑みを少し強張らせながらそこに立っていた。
マルフォイとハーマイオニーは大広間に慌てて飛び込んだ。
大広間には大勢の生徒が不安そうな顔で座っていた。夕食のメニューもこころなしか貧相だ。みんなはささやき声で噂している。
私達これからどうなるの?
もしシンガーが継承者なら…
ポッター、あいつが一番危ない
継承者避けのおまじない
ハーマイオニーは急いでマクゴナガルのいる職員テーブルのそばにより、なるべく目立たないように大広間の隅に呼び出した。
「何事ですか?」
「先生…秘密の部屋を見つけました」
「なんですって?」
「すぐにダンブルドアを呼んでください!」
「ダンブルドア校長は今…」
マクゴナガルがいいかけたその時、白髪の魔法使いが壇上に上がった。
「オホン、ホグワーツの皆さん…」
高そうなローブを着た男は拡声呪文を調整しながら呼びかけた。
「本日付でダンブルドア校長は停職となりまして…仮の校長として副校長のマクゴナガル先生の指示に…」
「嘘…!」
生徒たちがざわめく。ハーマイオニーのショックはそれでは収まらなかった。
「校長にはすぐに手紙を出しましょう。それで、秘密の部屋はどこにあるのですグレンジャー」
「こっちです」