アイシールド21 強くてニューゲーム   作:ちあっさ

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8th down 小早川セナ VS 進清十郎

紅白戦をすることになった。

僕はランニングバックとして出場する。

この頃すでに僕は、攻撃側の一軍スタメンになっていた。

ちなみに同級生で同じポジションの猫山君は一軍の控えだった。

組み分けを大まかに説明すると。

 

赤組。

クォーターバック:高見

ラインバッカー:進

ワイドレシーバー:桜庭

 

白組。

クォーターバック:金剛

ランニングバック:小早川

ライン:大田原

 

となっている。

 

僕のいる白組の攻撃時には、守備に進さんがいる。

昔からたまに一緒に練習はしていたが、こうやって直接対決するのは実は初めてだった。

 

監督の指示で完全非公開の紅白戦となっている。

手の内を曝け出すのを恐れずに全力を出せということか。

 

試合前、いつもなら進さんと二言三言話すのだが、今日は全く話さなかった。

それどころか、目も合わせなかった。

僕もそうだが、進さんも気合が入っているようだ。

 

「小早川」

同じ白組の雲水さんが話しかけてくる。

 

「大田原さんがいる以上、中央はこちらが有利だ、

なので(ラン)を中心にして攻撃する、

最初のプレーで小早川、お前がボールを持って中央突破だ、いいな」

 

「はい」

 

大田原さんがいるので相手の(ライン)の隙間を抜けるのは容易いだろう。

問題はやはり、その後ろに控えるラインバッカー、進さんだ。

 

 

試合が始まり、白組の攻撃となる。

雲水さんからボールを受け取り、中央へ走る。

大田原さんは流石で、二人を相手に押し勝っている。

中央に空いた大穴を簡単に抜ける、と、当然のように正面に彼がいた。

 

 

進さん・・・泥門時代、僕は実はこの人に勝ったことがほとんどない。

最初に戦った春大会の2回戦、散々潰されて、最後に一回だけ抜くことができた。

一回だけだ。負けた回数は数え切れない。

 

二回目の対戦の関東大会の準決勝、これも同じ、最後の一回だけ勝てた。

それ以外は止められている。

 

周りの人は僕を、実力があるのに謙虚だとか言うけれど、

1勝99敗で、勝率1%で、どうして増長できよう、傲慢になれよう。

 

僕は挑戦者だ。故に、今僕の持っているモノを全てぶつける、それだけを考えて・・・・

 

走ろう。

 

(行くよ、進さん)

 

 

小早川セナ、俺の目標としている人物。

最初に会った時のことは昨日の事のように思い出せる。

その見事な動きと、素晴らしいスピートに、生まれて初めて見惚れた。

その後、セナがやっているというアメリカンフットボールを始め、

努力を重ねても、常に先を走っている人物。

この日を一日千秋の思いで待った。

相手にとって不足などあろうはずがない。

 

(行くぞ、セナ)

 

 

進さんと一対一、勝負は一瞬で決まる。

確か今の進さんの40ヤード走のタイムは4秒36、

このスピードとベンチプレス140キロという凄まじい怪力から繰り出されるタックルが、

スピアータックルと言われて恐れられている。

 

まともに食らえば勝ち目はない、しかし、今の僕なら、今の進さんになら勝てる。

先に動いてしまうとその移動先にタックルがくるが、スピアータックルを先に撃たせ、

それを見てからクロスオーバーステップでよければそのまま抜けるはずだ。

今の僕ならそれが出来るはずだ。

 

よく動きを見て、間合いを見計らってから動けば・・・・って、え?

 

もう目の前にいる!

 

スピードに極端な緩急がついててタックルが来るタイミングを取りそこなった。

・・・・この動きは・・・・グースステップ!

 

ということは、これは、スピアータックルじゃない・・・・これは、

 

トライデントタックル!!!!

 

いつの間にマスターしてたんだ進さん・・・わ・・・もうステップじゃ避けきれない!

 

驚いている場合じゃない、槍を、進さんの腕を逸らせるしかない。

 

進さんは右手を目一杯伸ばしてタックルにきている。

僕は右手にボールを抱えているので左手が空いている。

左手で進さんの伸ばした右手の外側をフックのような軌道で掌打を当てれば、

槍の軌道は僕の身体からズレるはずだ。

 

実行!

 

・・・・・うまく横から掌打を当てたのに、槍の軌道はこれっぽっちも動かない。

公園の鉄棒を横から殴ったみたいな感触だ、単純に腕力が違いすぎるんだ。

 

ならば作戦修正、槍を逸らすのではなく、こっちから避けるしかない。

僕の左の手のひらは、まだ進さんの右手の外側に触れている状態だ。

ここを支点にして、自分の身体を左へ押す。

同時に、身体を時計回りに半回転して横向きになり、槍を少しでもよける。

 

チッ

 

っと音がして、右を向いている僕の腹部を進さんの右手がかすめていった。

 

 

一見、セナが長考していたように見えるが、実際には刹那の時間しか経過していなかった。

子供の頃から鍛えた脳が思考を圧縮させ、一瞬で流れるような判断力を完成させていた。

端から見れば進のタックルに対して、瞬時に手を使って横っ飛びしたようにしか見えなかったろう。

 

 

やった!

 

回避成功した。

このまま方向転換して前を向いて、そのままタッチダウンだ。

 

喜んでいた僕はこの時、たまたま進さんの目を見た。

 

ゾクッ!!!

 

寒気がした。

彼の目は、タックルを避けられて驚いている目ではなかった。

獲物を狩る、虎の目だった。

 

 

セナと初めて会った時、彼がやっていた走法を聞いた、ロデオドライブという。

少しずつ練習し、タックルに取り入れることに成功した。

グースステップを取り入れることで、タックルの成功率は飛躍的に上がった。

グースステップとは、脚を伸ばしたまま上体を揺らすことで、スピードが上がるわけではない。

元々避けられたことはほとんどなかったが、

これを使ってからは、相手が逃げる前に捕まえられるようになった。

QBがボールを投げ捨てる前に、ランナーが膝を着く前に、タックルが決まるようになった。

いつの間にか、トライデントタックル、と呼ばれるようになっていた。

 

このタックルを、セナに使えばどうなるのか?

そしてこの紅白戦でセナと対戦した際、最高のタイミングでトライデントタックルを繰り出した。

しかし、セナは尋常ではない反射速度と超スピードで俺の手を弾いて横っ飛びでかわした。

 

だが

 

(信じていたぞ、セナ、お前がこれをよけることができると!)

 

 

進さんの次の動きは信じられないものだった。

ダイビングに近いくらい上体が前に伸びきったタックルなのに、

左足を無理矢理に前に出して強引に踏みとどまった。

たった一歩で堪えただけでもすごいのに、進さんはなんとここで止まらなかった。

一瞬も停止せず、踏み込んだ足を軸に跳ねるように上体を起こし、

同時に腰を回転させて体をこっちへ向け、

もう一度、今度は左腕でトライデントタックルを撃って来た。

右で撃ち、かわせばすぐに追撃して左で撃つ。

トライデントタックルの・・・連撃。

 

 

進の伸ばされた左腕が、セナの腹部を・・・貫いた。

 

「やった! 進の勝ちだ・・・・・ってぇえええ、貫いたぁ?」

 

プレー中であることも忘れて二人の対決に見入っていた桜庭は、

あり得ない状況に叫びをあげた。

 

「いやいやいや、いくら進のタックルが槍を冠しているからって、貫くのはないだろ!」

 

「違う、よく見ろ桜庭・・・・小早川は・・・」

 

慌てる桜庭に冷静に指摘したのは雲水だった。

 

 

デビルバットゴースト。

 

つまり、後ろに下がりながらの超スピードでのクロスオーバーステップ。

あまりの速さに、周りの人間には進の腕がセナを貫いたように見えたのだった。

 

 

(あ・・・・危なかった・・・・進さんの目をみていなければ、2撃目はかわせなかった)

 

進を完全にかわしたセナは、そのままタッチダウンした。

 

セナ対進の対決は、セナに軍配が上がった。

 

 

紅白戦は全部員が出ることもあり、この後二人が対戦することはなかった。

 

 

自分の出番が終わり、ベンチに座ってドリンクを飲んでいるセナは、少しヘコんでいた。

 

(・・・増長してないと思っていたけど、今の進さんになら勝てると、

泥門時代のデータから推測してそう思うことがそもそも進さんに対して失礼だった)

 

目の前に誰かやってきた、進さんだった。

 

「進さん」

 

「セナ・・・・・・お前の勝ちだ・・・・お前が、王城のエースだ」

 

手を出す進。

 

セナは立ち上がると、その手をがっちりと握った。

そして思う。

 

(反省しよう。進さんに謝っても意味がないので、今の自分と、過去の自分に謝ろう。

それは、これからの自分の覚悟として表そう・・・・・・

そう、僕にとっての、時代の最強ランナーの称号としてのアレを・・・掲げよう)

 

セナの、全く慢心のない、自分に勝っても露ほども驕らないどころか、

更に何か決意のようなものを秘めた強い瞳を見て、進は思う。

 

(俺は、まだまだ甘い、修練が足りない・・・・この男に追いつくためには、

・・・・小早川セナを超えるためには・・・・)

 

 

「監督、お願いがあります」

 

セナは、次の日より、背番号を21とし、アイシールドをつけてグラウンドに立つようになった。

 

 

 

 

おまけ

 

「よし、名前をつけよう」

紅白戦後のミーティングで、高見はそう言った。

 

「・・・誰の?」

桜庭が聞く。

 

「人じゃなくて、技の名前だよ」

 

「進のスピアータックルやトライデントタックルみたいな?」

 

「その通り、名前をつけるという行為にはね、メリットが大きいんだよ」

 

「へぇ~」

 

「大技ほどメリットもデメリットも大きくなるので、それを自覚することで、

技の出し所を明確にすることができる、ここぞという時に出すのがいいね、

なにより・・・・相手を威圧することができる」

 

「あ、それわかる、名前がつくほどのタックルってそれだけでビビっちゃうもんね、

進のスピアータックルなんて、威力はすごいけど、実は普通のタックルなのにね」

 

「そうだ、なので、セナにも何か名前をつけようと思うんだ、

今回のセナには技の名前をつけていいのがある」

 

「紅白戦で進の二撃目のトライデントタックルをよけたあの動きだね」

 

「そう」

 

「あれはすごかったね~、一瞬、貫いたように見えたもの」

 

「何か名前の候補はあるかい?」

 

参加していた部員達から色々な名前の候補があげられた。

 

「忍法影分身の術」

「超反復横とび」

「デビルバットゴースト」

「スーパークロスオーバーステップ」

「六式紙絵」

「科学忍法竜巻ファイター」

 

 

「全部却下」

 

「なんでさ」

 

「優雅でないから。相手を威圧するのも目的だが、王城ホワイトナイツらしく、

名前にも品格がないと駄目だ」

 

「そんなこと言われてもな・・・・」

 

「実はもう考えてある」

 

「なら聞くなよ」

 

蜃気楼の騎士(ナイトオブミラージュ)というのはどうだろう?」

 

「へえ~、いいんじゃないか」

 

「うむ、これは決まりだ。次に、進のトライデントタックルの二連撃だが・・・」

 

「あれは、ダブルトライデントタックルくらいでいいじゃないの?」

 

「駄目だ、技名をちゃんとつけたほうがパワーアップ感が増す」

 

「そんなものか」

 

「そんなものだ、ではまた候補はあるか?」

 

「・・・・・もう考えてあるんだろう?」

 

「もちろんあるが」

 

「・・・・もうそれでいいよ」

 

「・・・・・なんだか消極的だな・・・まあいい・・・・この技は・・・

・・・「双剣の騎士(ホワイトベイリン)」と名付けようと思う」

 

「なんだかかっこよさげだからいいけど、ホワイトは王城ホワイトナイツから取ったとして、

ベイリンって何さ?」

 

「ふふ・・・・円卓の騎士に出てくる二刀流の騎士の名前さ」

 

「ふ~ん、じゃあそれで」

 

 

(・・・・・所変われば名前も変わるとはいえ・・・

一瞬で却下されたな、デビルバットゴースト・・・・)

 

三番目の案はセナだった。




アイシールドはルール違反で、眼精疲労の医師診断書があればとかいうのは全部なしで、
ここではアリということで、原作でもセナが本名名乗ってからでも付けてたし。

名前つけミーティングで喋っているのは高見と桜庭と部員沢山。
ミーティングは忌憚のない意見をということで敬語なしがルール。

ベイリンはアーサー王伝説で登場します。
ちなみに彼を聖杯戦争にサーヴァントとして召還した場合。
セイバーのクラスなら、宝具は、
「元々持っている普通の剣」と
「自分の最も愛するものを殺害する」という意味不明の呪いがかかっている剣。
なのであんまり強そうじゃないが、
ランサーのクラスで召還すると、
持っている宝具はロンギヌスの槍というバケモノ。

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