アイシールド21 強くてニューゲーム   作:ちあっさ

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16th down 神龍寺ナーガ 其の壱

春の関東大会の一回戦、王城ホワイトナイツの対戦相手は神龍寺ナーガ。

まだ一度も勝ったことのない強敵、王城にとっての大一番。

試合が始まるまで後少し、試合会場の観客席はほぼ満員に埋まり、会場の周りには露店が多く立ち並んで、雰囲気は祭りの前のような熱気に覆われていた。

 

東京大会とは桁外れの客の多さ、客の種類も多く、にわかファンやスカウトの数も今までよりもずっと多い。もっとも、その中での最大勢力が桜庭春人ファンクラブの面々であることには変わりは無いが。

 

テレビ中継も今までの録画放送ではなく、生中継のようで、カメラや機材の数が違う。

マスコミの取材陣も、他の試合よりここが一番多かった。

百年に一人の天才「金剛阿含」を擁する大会無敗の神龍寺ナーガに、

高校最強のラインバッカー「進清十郎」と、

史上最高のランニングバック「小早川セナ」のいる王城ホワイトナイツの対戦は、

どこよりも注目されていた。

 

 

まだ試合には時間があり、それぞれのベンチが荷物整理をしている時、

王城サイドのベンチに、金剛阿含がフラフラとやってきた。

どうやら姉崎まもりをナンパしにきたようだった。

両チームの選手はまだバスか控え室でベンチにはいない。

 

「あれ~、どうしたの神龍寺の人?」

対応したのは、応援の準備でたまたま近くにいた鈴音だった。

 

「あ”~~」

ジロリと鈴音を見、女だと判るや、瞬時に自分の好みに合うか査定を始める阿含。

 

(…ガキ…じゃねえな、チアのユニ着てるから高校生か…この体型で高校生…迷子の子供かと思ったぜ。

…カオは悪くねえ、いや寧ろ整ってていい方だが、チビすぎて俺の守備範囲外だな、だから…)

 

「失せろ」

 

一瞬で判断し、一言で結論した阿含。相手チームのベンチで言うセリフではない。

 

「ねえ、どうしてそんなニョロニョロした髪してるの?」

 

だが、鈴音は全く頓着無く阿含に聞いた。彼女には見た目が不良な阿含に対する恐れとかいう感情はこれっぽっちもなかった。

 

「…………」

 

相手をする気もなかったので、阿含は無視してまもりを探していた。

しかし、鈴音に回り込まれた。

 

「ねえねえ、どうして?」

 

阿含は鈴音の周りにはいないタイプだったのか、興味があるのか珍獣でも見つけたかのように目をキラキラさせて詰め寄る鈴音。

 

「…これはドレッドヘアーっていう立派なファッションなんだよ、わかったらどっかへ行け」

 

子供に懐かれたことがないのであしらい方がわからないし、流石に殴るといういつもの選択肢も子供には使えない、そもそもここは人目が多い、よって仕方なく普通に答える阿含だった。

心底嫌そうな顔で手をシッシッと振って追い払おうとする阿含。

 

「ふ~ん」

 

興味深げに阿含の周りをグルグル回りながらジロジロ見回す鈴音。

 

「ねえねえ、ちょっと引っ張ってもいい?」

 

「あ”?」

 

「いや~、なんかバネみたいにビヨ~ンって伸びるかな~って」

 

「……」

 

ここまで来ると怒りを通り越して呆れてしまう阿含だった。

 

(男なら100%殴ってるな、いや、ヤローならこの俺にこんなこと絶対言わねえ、なんだコイツ)

 

珍獣でも見るような目でマジマジと鈴音を見る阿含。

数瞬の間、二人は見つめ合っていたが、それを破ったのはまもりだった。

 

「どうしたの、鈴音ちゃん、あれ…そこにいるのは、金剛…阿含君?」

 

トレイに乗せたスポーツドリンクの束を持って来たまもりが、二人に気付いて声をかけた。

まもりの声を聴いた阿含は瞬時に反応した。

 

(来た!姉崎まもり、おおっ、近くで見るとマジ美人じゃねえか、流石アメリカ人とのクォーター、スタイルもいい、俺が今まで付き合ってきたどの女よりいい女じゃねえの?こいつは絶対落としてやる…って、この女、俺のこと知ってたな、名前呼んでいたし、俺が有名だからじゃなく、雲水から聞いていたな、ならばちょっとマズイかもしれんな、俺の武勇伝を雲水から聞いていたのだとすれば、雲水からの情報によればコイツは真面目な性格、俺の第一印象は最悪となってしまう。そこから挽回するのはかなり骨だ…とりあえず、現状を確認しねえとな)

 

「え~と、君は?」

 

しらばっくれて名前を聞く阿含、まもりが声をかけてから、このセリフまで1秒足らず、阿含の思考と反応は、神速のインパルスの名に恥じないものだった。

 

「王城ホワイトナイツのマネージャーをしている、姉崎といいます、金剛さんのことは雲水君からいつも聞いていました」

 

礼儀正しく答えてペコリと軽く礼をするまもり。

 

「そうなんだ、よろしくね、姉崎さん、俺のことは名前で呼んでくれよ、金剛じゃ雲水と被ってしまうしね、ところで、雲水から俺のことをどんな風に聞いてたの?興味あるな、教えてくれないかな」

 

ナンパ専用のサワヤカ笑顔で話している阿含だが、内容によってはナンパはぶち壊しになるので内心ヒヤヒヤしていた。

 

「えっとですね…」

 

まもりは、雲水から聞いた情報以外にも、マネージャーとして集めた情報から、阿含のロクでもない本性を知ってはいたが、それを初対面の相手に言うのは憚られたので適当に濁した。

 

「天才の弟だと…」

 

「はっはっは、雲水の奴、照れるなあ天才だなんて」

 

と、照れたフリをして頭を掻いている阿含だが、

 

(でかしたぞ雲水ィ!)

 

と、内心ではガッツポーズをしていた。

 

「それで、王城側のベンチに何か御用ですか?」

 

「ああ…ちょっと雲水と話をしにね…」

 

そんな阿含とまもりの会話をさりげなく近くから見ている選手がいた。

 

細川一休だった。

 

王城のビデオに映っていた彼女を見て、彼はまもりに一目惚れしており、わざわざ見に来たのだった。

 

(うっわ、近くで見たらやっぱ鬼カワイイ)

 

まもりに見蕩れる一休に、神龍寺側のベンチ方向から彼を呼ぶ声がした。

 

「お~い一休」

「一休」

「一休!」

 

呼んだのはチームメイトの、八浄、斉天、河籐の三人だった。

それぞれのあだ名がハッカイ、ゴクウ、サゴジョーという、これにサンゾーというあだ名を持つ釜田を加えて彼ら四人は西遊記カルテットと呼ばれていた。

それを見て一休、

 

「は~い、慌てない慌てない」

 

と言って、肩に担いだ荷物を背負い直し、

 

「今行きますよ」

 

と言った。

 

「いや、そこは「ひとやすみ、ひとやすみ」だろぉ~!」

 

直後、三人にツッコまれた。

 

「えっ! な…何が?」

 

驚く一休に、三人はやれやれと肩をすくめ、わざとらしく呆れて見せた。

 

「ふぅ~、一休さんは空気読まないなあ」

「俺達なんかと絡んでられないってな」

「やっぱ天才さんはちがうなあ」

 

三人は明らかに一休をからかっているのだが、

 

「な、何言ってんすか三人とも」

 

一休は弄られ体質でもあるのか、気付かずに慌てていた。

このような、普段は気のいい一面がある一休だが、アメフトに関しては全く違った。

一休は王城の偵察には一度も来なかった。

他の高校への偵察に行っていた為だ。

監督に頼めば王城へ行くことも出来たが、

彼のマッチアップの相手が桜庭と聞いていたので、興味がなかったのだ。

桜庭のこれまでのプレーは、一休にとってなんら注目に値しなかったのだ。

一度、一休は桜庭のプレーをビデオで見いる。その時に言ったのは。

 

「なんだ、こんなもんか」

 

と言い、それ以降、一休から桜庭の話は一度も出ていない。

 

そうこうしている間に、監督や選手が入ってきて、阿含のナンパは失敗に終わる。

 

 

ベンチにやってきた石丸は、いつものセリフを言っていた。

 

「試合前のこの感じはいいよな、なんだかこう、血が冷たくなるっていうか・・・」

 

実は初戦の恋ヶ浜戦から全試合で言うという快挙だったが、そんなこと誰も気付いていなかった。

 

 

「金剛阿含がいるな」

 

両選手がそれぞれのベンチに集まった際、高見さんが気付いて言った。

そうなのだ、阿含さんが試合の最初からいるのは予選では一度もなかったらしい。

試合の最初から出場するのはそれだけ気合が入っているからなのだろうか。

 

「あ、あのニョロニョロヘヤーね、みんなが来る前からウロチョロしてたよ」

 

と、怖いもの知らずな発言をしたのは鈴音だった。

 

「瀧、本人の前でそんなこと言うなよ、その…にょろにょろとか」

 

と、危険な発言を控えるよう諭したのは雲水だったが、

「もう言っちゃった」とあっさりのたまう鈴音にため息を吐いた、全員。

 

「阿含さんか…」

 

セナは阿含を見て思う。

セナが泥門時代に神龍寺ナーガと対戦した時、阿含に一度勝っている。叩きのめされた方が多いので一度しか勝っていないというべきか。1試合のうちのたった1プレーの話だ。進の時と同様だ。

 

(…僕は挑戦者なんだ)

 

そう思ったセナは、心の中で少し笑った。

王城のエースとして自覚を持ってプレーし、最強のランナーの称号であるアイシールドをつけているのに、自分は挑戦者なんだという思いも持っている、そんなちょっと矛盾した自分の心が楽しくてセナは笑った。

 

 

試合開始直前、フィールドに入った選手は円陣を組み、大田原さんが声を掛ける。

 

「騎士の誇りにかけて勝利を誓う、

そう我々は敵と戦いに来たのではない、

倒しに来たんだ!」

 

全員が握った拳を突き出し、ガチガチと合わせあう。

 

王国に栄光あれ!(Glory On The Kingdom!)

 

一方、神龍寺側でも円陣が組まれていた。

声を掛けているのはヒル魔。

 

「俺らは敵を倒しに来たんじゃねえ、殺しに来たんだ!」

 

全員が腰を低く落とし、腹の底から響くように叫んだ。

 

「ぶっ殺す! Yeah!」

 

それを聞いたセナは、泥門時代にいつも自分もしていた掛け声に懐かしさを感じていた。

 

(やっぱりヒル魔さんだなあ、神龍寺にいても変わらないや)

 

そう思っていると、隣にいる猫山君が誰にもと無く呟いた。

 

「神龍寺って書いて字の通り「寺」だよね、ならそこの生徒は寺の坊主ってわけになるよね、

お寺の関係者が「ぶっ殺す」って…シャレにならないよなあ」

 

(まあ、そう言われればそうだけど、ヒル魔さんならそんなのお構いなしだろうし、

…ヒル魔さんらしいや)

 

試合が始まる。




阿含と鈴音、原作にはなかった二人の絡みだけど、この二人は噛み合わない気がする。

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