春の東京大会決勝。
順調に勝ち進んだ僕達王城ホワイトナイツは、決勝戦まで駒を進めた。
相手は西部ワイルドガンマンズ、
これに勝ては関東大会に出場が決定する。
ワイルドガンマンズには、陸がいたはずなのだが、何故かスタメンにも控えにもいない。
泥門時代にはどうだったのか、あまり憶えていないが、いなかった気がする。
憶えているのは、王城が勝ったということだけだった。
陸とは、僕がこの記憶みたいなのに目覚める前に出会っている。
短い間だったが、その時に走り方を教わったのだった。
この記憶を思い出してすぐにクロスオーバーステップが出来たのはそのおかげだろう。
でなければ筋力が足りなくて出来るわけがない。
・
「たは~~~、参ったね、こりゃ、王城相手に20点か、良すぎる日はたいていロクなことがねぇ」
西部ワイルドガンマンズのQB、キッドさんが謙遜しているのか自慢しているのかよくわからないことを言っていた。
前半が終わって20-13。
この決勝戦まで、王城は対戦相手に1点も取られていなかった。
しかしこの試合で初めて失点し、しかもリードまでされてしまっている。
攻撃に関しては、僕の2タッチダウンのみで抑えられていた。
トライフォーポイントはキックが一回成功のみ、
デビルバットダイブ…じゃない、ホワイトアローは怪我の危険性のある技だということで、
終盤以外は使用禁止という命令が出ているので使っていない。
進さんのいる中央へのパスは避けているようだが、そこ以外がガンガン通る。
西部のパス特化フォーメーションであるショットガンと、
QBのキッドさんのパスを王城の守備が止められないのだ。
特にレシーバーの鉄馬さんとの連携がすごい。
鉄馬さんが、決められたルートを数センチとズレずに走れる上、
走るスピードも一定なので、キッドさんは投げたい時に彼がどこを走っているのかわかるので、
投げる前にレシーバーの位置の確認を必要としないという早撃ちを実現させていた。
進さんがブリッツに行った場合でも、なんとキッドさんのパスはそれより速い。
両手を交差させるような投げ方で、腕のバックスイングもないのでよく遠くまで投げられるなと思うが、とにかく速いのだ。
進さんのトライデントタックルは、スピード自体は元々のスピアータックルと変わらない、
グースステップを織り交ぜたフェイントが重要なのだ、かく言う僕も引っかかった。
しかし、キッドさんにはそれも通用しなかった。
冷静に、進さんの手が届く前にパスを出していた。
さすが、泥門時代にヒル魔さんが認めただけはある。
分の悪い王城は、状況打破の手として、僕が守備に出ることになった。
守備で試合に出るのは初めてだが、練習はしている。
以前も言ったように、僕では守備のフォーメーションやゾーンディフェンスの邪魔にしかならないので、やることは決まっていた、それは…。
・
守備に出てくるセナを見て、キッドが一人ごちた。
「……セナ君が出てきたねえ、彼が守備に出てくるのは初めてじゃないかな、
…ポジションは…鉄馬のマークか……
…なるほど、鉄馬がボールに触る前に彼のスピードで先回りしてボールを叩き落そうって所かな?
いくら鉄馬が最強のレシーバーでも、ボールに触れなければどうしようもないからねえ…さて」
キッドはチームメイトに指示を出す。
「王城は鉄馬をセナ君に任せてディフェンスは他のレシーバーに集中している、
ここは、鉄馬へのヒッチで行こう、いくらセナ君が速くても、ショートパスなら競り合いになる、
そうなれば、鉄馬が勝つ」
ヒッチとは、走行ルートの名前で、少し前進後、左斜め後ろに戻るルートのことである。
今まで防がれたことが一度もない、キッドー鉄馬の鉄板のプレーだった。
・
作戦会議が終わり、プレーが開始される。
そして、ボールを持った瞬間、キッドは、自分に向かって来る選手がいることに気付いた。
(誰だ、ど真ん中から突っ込んできた、…進氏か…いや、彼はポジションを離れていない、
残っているのは……金剛雲水か…いや、冷静に対処するんだ、誰であろうと関係ない、
このタイミングなら間に合う、いつも通りリリースすれば、このまま鉄馬に投げられ……!)
その時、一筋の光のような速さで間合いを詰め、キッドの目の前まで来たのは、セナだった。
「なっ!!!」
キッドが驚愕に目を見開くが、その時にはもうセナはキッドのボールを持つ腕に両手でタックルしていた。
セナはそのままボールを弾き、宙に浮いたボールをキャッチした。
「何故、何故アイシールドがあんなとこに!」
「あいつ、鉄馬のマークをしてたんじゃ?」
「じゃあ、鉄馬のマークは…?」
鉄馬には、誰もマークしていなかった。
「…あの鉄馬を、完全なノーマークで、放置…」
驚く西部の面々に、高見がメガネをクイっと上げてニヤリと笑って言った。
「ここで、あのエースレシーバーの鉄馬をノーマークに出来るわけがない、
…だからこそ、無視するのさ、小早川の考えた作戦だよ」
これは、泥門時代に神龍寺の金剛兄弟からボールを奪ったヒル魔の奇策を、
セナが覚えていてそのまま応用していたのだった。
「タッチダウ~ン」
ディフェンスラインの崩れた状態でセナを止められるわけもなく、
セナはあっという間にタッチダウンした。
「は~あ、やるねえ、まさかこんな手で来るとは…やっぱ良すぎると…って、鉄馬?」
何とか建て直しを考えていたキッドの横を、鉄馬がすごい勢いで通り過ぎ、トイレに駆け込んでいった。
「どうしたんだ、鉄馬?」
「そーいや、さっき水分補給しとけって言ったら、アホみたいにガブ飲みしてたな」
キッドの疑問に監督が答えた。
「……やれやれ、やっぱ、良すぎるとロクなことがねぇってことだな」
テンガロンハットを深く被り直しながらキッドはごちた。
逆転され、鉄馬は使い物にならず、セナが両面で出場してくる今の状況を打破する策は、
今の西部にはなかった。
それ以降、西部に1点も許さず、王城は着実に追加点を重ねていった。
・
そのまま試合が終了し、結局、20点差をつけて王城が勝利した。
関東大会出場に沸き上がる選手と観客。
ハイタッチで勝利を祝う選手達。
進清十郎も流石に嬉しそうな表情を見せている。
満足そうに頷く庄司監督。
手を取り合って喜んでいる姉崎まもりと若菜小春のマネージャー。
飛び上がって喜んでいるチアガール、その中には瀧鈴音がいる。
そんな中で揉みくちゃにされ、一緒に喜びながらも、セナの心は静かだった。
感慨深いというべきか。
(……やっと、ここまできた、やっと、彼と戦える…ヒル魔さんと)
神奈川大会をあっさりと制した神龍寺ナーガ。
間違いなく最強の相手。
だが、こちらとて昨年黄金世代が敗れてそのリベンジに燃えている。
阿含さんと戦うために王城に来た雲水さんや、
進さん、高見さん、大田原さん、桜庭さんと、神龍寺に引けをとらない面子も揃っている。
これから戦うヒル魔さん達がいる強敵神龍寺ナーガ、王城ホワイトナイツの頼もしい仲間達、
そんな彼らに囲まれて、セナは思った。
(素晴らしい、僕はなんという幸運児なのだろう。
長い人生の中で、こんな檜舞台で、こんな人達との試合なんて、そう出会えるものじゃない。
その主役の一人として僕がいる、素晴らしい経験だ、ここで彼らを破らずしてどうするか?)
キッドさんはあんまし興味ないのです。
原作読み返した時、キッドさんが我王に殴られて骨折した場面に疑問がある。
この時この人どこ見てたの?
試合で唯一、たった一人、目を離してはいけない相手に横から殴られるって・・・・
油断してたってレベルじゃない。
ボクシングで試合中によそ見してたら相手に殴られて負けたっていうくらいのレベル。
野球でバッターが「行こう、甲子園に・・・」とか考えてる間にボール投げられて三振したってレベル。
違和感ありまくりです。
それを一瞬の油断が命取りに・・・って言われても納得できまへん。
キッドさん、虚夜毛沼。
セナの最後のセリフは「大甲子園」で犬飼知三郎がドカベンと勝負する際のセリフ。