~猫山君から見たセナ~
クラスメイトになった小早川セナ。
彼のことは中学のころから雑誌やテレビで知っていた。
中学MVPで日本最高のランニングバック、
同じポジションとしてライバル心もあったが、それ以上に、憧れた。
高校に進学して、彼がチームメイトになると知ったときには嬉しかった。
クラスメイトで、席が隣になった時は、最初は緊張した。
テレビや雑誌によく載っている人物が隣にいるのだから当然だろう。
芸能人が隣にいてもここまでは緊張しない。
モデルの桜庭さんと最初に会ったときは「ほ~」で終わったし。
しかし、言った通り、緊張したのは会うまでだった。
彼があまりにも、普通だったからだ。
試合中のセナは、活き活きしていて、かっこいい印象が強かった。
なんというのか、目が生きているというのか、小柄な体格なのに大きく力強く感じた。
だけど、教室で会ったセナは、のほほんとしているというのか、気が抜けているようだった。
フィールドにいる時とは別人のように、目立たない。
こうして見ると、小柄で細身で童顔だ。
これで男子の制服でなく、髪の毛が長かったら女の子にしか見えない。
一度、クラスの女子がどこから持ってきたのか、ロングヘヤーのヅラ、ウィッグって言うのかを、
セナに被せてみたことがあった。
さらに膝下まである長めの白いエプロンを着させられていた。
……どこからどうみても美少女にしか見えなかった。
不思議の国のアリスを連想する白いワンピースを着た女の子。
女子はもちろん、男子ですら呆然と見蕩れていた。
俺も冗談抜きでマジで惚れそうになった。可愛いすぎだろ!
セナは女子が写メを撮ろうとすると慌ててウィッグもエプロンも脱いでしまったが、
その前に俺が一枚こっそり撮った。
憧れの姉崎マネージャーと会話をするネタにその話をしたら、めちゃくちゃ食いついてきて、
その写真を転送してあげるかわりに彼女のメルアドをゲットすることができた、なんてラッキー。
姉崎さんはほとんど鼻血をださんばかりにセナの女装写真に見入っていた。
女装少年が好きなのだろうか、俺もやってみようかな?
・
~最近のまもり~
最近、まもり姉ちゃんは綺麗になったと思う。
元々綺麗な人だとは知っていたけど、
ちょっとした仕草にドキッとするようになった。
なんて言うか、色恋沙汰を全然わかっていない僕がいうのもおかしいが、
大人の色気が出てきているというか。
クラスメイトになった猫山君は明らかにまもり姉ちゃんを意識していると思う。
「お、女の人って、恋をすると美しくなるって言うけど、あ、姉崎さんはひょっとして、
誰か好きな人が出来たんじゃ?」
そんなことを猫山君が何故か焦って言っていたことがあった。
わからないなら聞いてみようと思い、今度一緒に帰る時に聞いてみることにした。
・
ある日、セナとまもりが二人で帰宅している時、セナが尋ねた。
「まもり姉ちゃんは、最近好きな人とか出来たの?」
「はにゃ!!!」
無警戒時にど直球の質問に、猫のような素っ頓狂な声を上げてまもりは驚いた。
「ど、どうしてそんなこと聞くの?」
「いやね、猫山君とかが最近まもり姉ちゃんが綺麗になったのは恋をしているからでは、
なんて話してたからそうかなって」
「…そうかな…綺麗になったって言われても、よくわかんないな」
照れて俯いたまま答えるまもり。
「せ、セナは…どう思う?」
俯いたまま、目だけ動かしてセナの顔色を窺うように尋ねるまもり。
「僕も猫山君と同じ意見かな、まもり姉ちゃんは綺麗になったと思うよ」
至極あっさりとまもりの期待していた答えをセナは言った。
「ほ、ホント!!!」
ガバっと顔を上げてセナを見るまもり。
「うん」
にっこりと笑って答えるセナ。
「………ありがとう、嬉しい」
嬉しさにどうかなりそうだったまもりは、何とかそれだけ返事できた。
そして、この場でセナに抱きつかなかった自分を褒めてあげたいと思ったという。
しかし、セナから見れば、褒め言葉に対する冷静な返事に、
大人の女性の対応だなあ、さすがまもり姉ちゃん。
と、思ったという。
・
「………ふう」
セナと別れ、家に入って玄関で溜息をつく。
まもりは、最近の自分のセナに対する「好き度」がメーターを振り切っていることを自覚する。
今日のことも、もし言われてたのが、
下校中でなかったら?
人前でなかったら?
二人っきりだったら?
抱きしめていたと思う。
ほっぺたにキスしていたかもしれない。
押し倒すまではさすがにない・・・・と思いたい。
セナの成長を妨げたくないとは思うものの、自分の想いは募っていく。
どうすればいいのか悩みは尽きないまもりは、ふと思った。
(…セナの成長を妨げなければいいのかな…
……つまり、バレなきゃいいのかな)
我慢度が限界に達しているまもりは、思考が迷走しはじめていた。
セナの成長を見守ると決めたまもりではあったが、まだ17歳。
これが、恋煩いであることに気づいていなかった。
三回戦、三閣パンクス戦。
「王城の時代は終わりました、これからは我々の時代ですよ、
優秀なルーキーが一人入ったくらいでこの流れは止まりませんよ」
と、そこの監督が記者に豪語していたチームに、大勝した。
しかし、問題もあった。
まず、僕が試合途中にアクシデントで交代した。
僕がボールを持って走り、クロスオーバーステップで相手を抜こうとした時のことだ。
(…え~と、なんだっけ技の名前…確か、ナイトオブゴールド…だっけ?
いや、違う、全然違う…ナイトオブオーナー…いや、これも違う、
…しまった…忘れた!)
などど考え事をしていた僕は、相手と正面衝突してしまったのだ。
幸い、僕も相手も怪我がなかったのだが、調子が悪いのかと下げられてしまった。
監督にも、何をやっているんだと怒られながらも呆れられてしまった。
ふと観客席を見ると、ヒル魔さんが、腹を抱えて大笑いしていた。
激突した理由を理解されてしまったのだろうか、
恥かしいところを見られてしまった。
…言えない、恥かしくてとても言えない。
何をやってるんだ僕は。
そうして、ベンチで自分達のチームの攻撃を見ている時、気づいたことがあった。
気のせいならそれでいいのだが、そうでなければ問題だ。
うちのチームは、ひょっとしたら、オフェンスラインが脆いのかもしれない。
守備の際は進さんが相手の防御を早々に切り崩してしまうため、全く問題にならなかった。
しかし、進さんがいない攻撃時にはラインの力はより重要性を増す。
三閣パンクスとの試合。
万全の試合展開のように見えた。
大田原さんはオフェンス時にも相手をなぎ倒していた。
大田原さんは本当にすごいと思う、頼りになる。
しかし、大田原さん以外のラインは特に相手を倒したり抜いたりしていなかったのだ。
攻撃なのだから抜く必要はなく、QBに近づけさせなければよいので問題ないはずなのだが、
これは考えようによっては、ラインの力は互角だったと考えられるのではないだろうか。
三閣パンクスで互角では、それ以上のチームだと致命的となる。
攻撃時に相手からのブリッツがガンガン来れば、クォーターバックは何もできない。
ラインはレシーバーが上がるまでの時間は持ってくれなければ試合にならないのだ。
現時点では、問題にもなっていないが、大丈夫なのだろうか。
ラインは弱体化している?
だとすれば、その原因は先代の黄金世代と言われている先輩達が原因と思われる。
彼らは優秀であったがために、王城の悲願である、打倒神龍寺を果たせるかと期待された。
結果的に駄目であったが、それを成し遂げるために、常にベストメンバーで戦い続けた。
それ故に、次世代の人材を育てるということをおろそかにしてしまったのだった。
よく、黄金世代の言われる世代の次は谷間の世代と言われる原因がこれにあたる。
経験の無さと、先代の強さを見続けていたための自信のなさが拍車をかけているのか。
では、どうすればいいのか、明確な解決策が見当たらない。
合宿などで試練を与え、乗り越えさせる時間はない。
都合よくラインの出来る強力な選手が入部するはずもない。
春大会はもう始まっているのだ。
試合で経験を積ませ、自信をつけさせるくらいしか現状で打てる手はなかった。
決勝で当たるであろう、西部ワイルドガンマンズ戦に向けて、やることは沢山あった。
いや、そもそもラインの弱体化が僕の杞憂であれば一番いいのだが・・・