新約、とある提督の幻想殺し(本編完結)   作:榛猫(筆休め中)

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我輩が利根じゃ!

前回までのあらすじを説明するぞ!

大将金城の案内で雑談をしながら案内された先は執務室じゃった。
呆ける上条達を他所に金城大将の執務室は瞬く間に小洒落たBarへと様変わりしておるのじゃった……。


Barの幻想殺し

side上条

 

 

 

「『Bar Admiral』へようこそ、お客様。私は当店の助手を務めております、バーテンダーの早霜です……どうぞよろしく」

 

早霜と名乗った少女はペコリと頭を下げる。

 

 

「さて、今宵は皆様への店長からのお詫びも兼ねておりますので皆様の飲食代は無料とさせて頂きます」

 

 早霜がそう告げた直後、大将のとここ艦娘達が大歓声を挙げていた。

 

いったいなんなんだ…?

 

 

「あ、ウチの連中は有料だぞ?」

 

すると、大将の消えていった奥の部屋から大将の声が聞こえてくると、途端に歓声は物凄いブーイングの嵐に様変わりした。

 

っつか、大将は部下相手に金取ってんだ……。

 

ってか、俺達は無料ってそっちの方がすごく不安なんだけど……。

 

そんなことを考えて身構えつつも、俺は金城大将の艦娘達を見る。

 

未だにブーブーと文句たらたらの艦娘達。

 

しかし、そんな光景を見ていると、あの頃の事が思い出されて来る……。

 

江ノ島にいた頃、まだ右も左も分からなくて、手探りでやっていたときにあいつらに料理作ってやったりしたっけか……。

 

赤城姉達、元気にしてんのかな……。

 

大将達の関係を見ていると、あの頃のことを思い出してなんだか少し寂しく感じてしまう……。

 

そんな風に、少し感傷に浸っていると、早霜が声を掛けてくる…が…

 

 

「さて、店長が着替えしている間にウェルカムドリンク等如何でしょう?」

 

 

「………」

 

 

「…?お客様?」

 

 

『テイトク(ツンツン)』

 

川内にコソッとつつかれてハッと我に返る。

 

 

「っ…!あぁ、すいません…。なんでした?」

 

 

「ですから、ウェルカムドリンクなどいかがですか?」

 

あぁ、そういう話か、けどなぁ……

 

 

「あ~……俺未成年なんスけど」

 

 

「大丈夫です、当店では下戸の方でも楽しまれるようにノンアルコールのカクテル等もご用意してございますので」

 

へぇ、まあ今時の店ならそういうのも当たり前…なのか?

 

 

「あぁ…じゃあお願いしていいっすか?姉ちゃん達も飲むだろ?」

 

 

「そうね、折角だから…」

 

 

「飲ませてくれるっていうんだからそのご厚意に甘えようかしらね」

 

 

「久しぶりのお酒…比叡!気合い!入れて!飲みます!」

 

 

「私はあまり強くないのでノンアルコールをお願いします!」

 

 

「我輩も久しぶりに飲みたいぞ!」

 

 

「利根さん、あまり飲みすぎないでよ?」

 

上からそれぞれ…加賀姉、陸奥姉、比叡姉、青葉姉、利根姉、川内が話す。

 

 

「らしいです。種類は任せるんでお願いできますか?」

 

正直、カクテルだの酒については全くと言っていいほど知識がないので早霜に任せることにする。

 

 

「畏まりました。では、少々お待ちください」

 

そう言ってドリンクを作り始める早霜。

 

その姿はとても様になっていて、見ていて関心する

 

そしてものの五分もしないうちに全員分のドリンクが渡される。

 

 

「どうぞ、お待たせ致しました」

 

 

「お、おぉ…ありがとう」

 

カクテルを、受け取り飲もうとしたとき、奥の部屋から大将が出てきた。

 

Tシャツにズボン、そしてサンダルという、何処にでもいそうなおっさんの格好をして、だ……。

 

提督がそんな格好してていいのか!?しかも大将だぞ……

 

俺が色々と突っ込みたくなるのを我慢していると、大将がそんな俺達を見て声をかけてくる。

 

 

「よぅ、お待たせ……って、どうした?鳩が豆鉄砲喰らったみたいな顔してるぞ」

 

いや、いきなりそんな格好で出てきたらそりゃ固まるだろ!

 

そう喉まで出かかった言葉をなんとか呑みこみ、別の言い方をする。

 

 

 

「いや、だってこんなデカい鎮守府の提督がそんな格好って……」

 

しかし、大将はなに言ってんだと言わんばかりの表情で……

 

 

「この店にいる内は俺ぁただの飲み屋の親父さ。そんな堅苦しく飲んでたら折角の酒が不味くなるぞ」

 

そもそと目上の人にこうして奢ってもらってる時点で申し訳なさがすごいのでせうが……

 

向こう(元世界)での元帥と話すだけでも緊張しまくってたってんだから飯なんか奢ってもらったりすりゃ緊張もする。

 

しかし、そんなこちらの事情などお構い無しに金城大将は続ける。

 

 

「さてと、気を取り直して行こう。早霜、ウチの店のシステムはもう説明したのか?」

 

 

「いえ、今からする予定でした」

 

 

「そっか、なら俺から説明さして貰うか。見てもらえば解る通り、ウチの店にはメニューがねぇ。食いたい物を注文して、材料が揃ってりゃあ出来る限り作って出すってのがウチのスタイルだ」

 

 

「何でもいいんですか?」

 

 

「あぁ、作れるモンなら何でも作るぜ?」

 

 恐る恐るといった風に訪ねる川内の言葉に、自信たっぷりに頷く金城大将。

 

けど、いきなり食いたいものを言えって言われても……

 

 

「そう言れても…(急になんか浮かばねえよ)…なぁ?」

 

 

「そうねぇ…(いきなり過ぎて)…パッと思い付かないわ」

 

陸奥姉ちゃんが俺のアイコンタクトで察したのか、話を合わせてくれた。

 

それを黙って聞いていた金城大将が、ふと、口を開いた。

 

 

「なら、とりあえずおまかせでいいか?丁度今日辺り頃合いになってるハズの物がある」

 

大将が何かをゴソゴソやりだす。

 

何かと思い見ていると、少しして甕を取り出した。

 

 

「大将、それは?」

 

なんか漬物っぽいけど……。

 

 

「これか?これはな……本場韓国のオモニから習って俺が漬けた、特製キムチだ」

 

 大将が蓋を開けると、漬け物独特の酸味の効いた匂いと、ニンニクや唐辛子なんかのキムチの味付けに使われている調味料の香りが混ざって辺りに舞う。

 

「くっ、くっさっ!キムチってこんなに臭かったか!?!?」

 

俺が軽く鼻を摘まんでいると、大丈夫そうにしている大将が説明をくれる。

 

 

「日本風のキムチに慣れてりゃそうなるだろうな。日本風キムチと韓国のキムチはほぼ別物だからな」

 

そ、そんなの初耳なんだけど…キムチなんかどこも一緒だ思ってたし……。

 

 

「た、大将の手作りなんですかソレ……」

 

 

「おう。他にも色々作ってるぞ?梅干し、糠漬け、魚の干物、醤油、味噌、果実酒に……」

 

 

「強面で偉い人なのに凄い家庭的だぞこの人!?!?」

 

いや、そもそも家庭的なんだとかそういう次元の話じゃない気がするけど……

 

 

「特にリクエストも無いようなら、このキムチで料理を作ろうと思うんだが?」

 

まあ、特に浮かぶわけでもねえし、その辺りは大将にお任せしますか。

 

 

「お願いします」

 

 

「あいよ、ちょっと待ってな」

 

そう言うと大将は手際よくキムチを甕から取り出して調理を始める。

 

その姿はまさにプロに見えた。コック服とコック帽が幻視されるほどに……

 

 

「あいよ、まずは軽くつまめる『アボカドキムチ』だ。そのまんま食ってもいいし、添えてある海苔で巻いて食っても美味いぞ」

 

 

『上条君には飲み物よりもこっちのがいいだろ』と白米をもらい、俺達は出された『アボカドキムチ』に手をつける。

 

 

「んじゃまとりあえず。堅苦しいのは抜きにして乾杯~!」

 

 カンパーイ!と騒ぐのは大将のとこの艦娘達。

 

良く見ると、姉ちゃん達のところに見知らぬ艦娘が割り込んで乾杯を誘っている。

 

姉ちゃん達もそのノリになんとか付き合ってるみたいだ。

 

そんな風に姉ちゃん達の様子を見てまた昔を思い出してしまう。

 

皆に会いたい、そんな気持ちが強くなる……。

 

今まで抑えてきたのに抑えるのも難しくなっている。

 

そんなときに声をかけてくるものがいた。

 

 

「HEYカミジョーサンどうしたネ?Lonely(寂しそう)なFACEしてるヨ?」

 

そう言って俺の横に腰掛けてきたのは金城大将の艦娘である金剛だった。

 

 

「え?そう見えますか?そんなことないっスよ?これでも楽しんでますから」

 

そう言って誤魔化すも、金剛はお見通しとばかりに続ける。

 

 

「Lieデスネ。他の皆さんにはそれで通じても私には通じマセンヨ?」

 

ずいっと顔を近づけてくる。近い近い!

 

金剛って艦娘はどうしてこう距離が近いんだ…?

 

 

「…えーとですね、なんだか、皆さんの姿を見てると昔を思い出すんですよ」

 

これ以上は誤魔化しきれそうもないので堪忍して話すことにした。

 

 

「昔…?」

 

金剛の言葉に俺は小さく頷く。

 

 

「俺には昔仲間がいました。今の姉ちゃん達と同等、いえ、それ以上の人達が…けど、その人達と突然別れないといけなくなったんです」

 

 

「どうして?why?」

 

その問いに俺は首を横に降る。

 

 

「理由は分かりません。気づいたら俺はその人達と違う場所にいたんです。最初はそんなことを考えなかったんです。そんなことを考える余裕なんてありませんでしたからね…」

 

けど、と、俺は続ける。

 

 

「大将やあなた達を見てたら思いだしちまったんすよ…今まで思い出さないようにしてたのってのに……」

 

 

「……寂しいデスか?」

 

 

「いえ、そんなこと……」

 

 

「私もネ、前に仲間と別れを経験したから良く分かりマス…。信頼していた仲間が、ふとした瞬間で急に居なくなる…。それほど悲しいことはありまセン。けど、今のあなたには彼女達がいます。彼女達はあなたの味方…デショ?」

 

 

「っ…」

 

 

「昔も大事デスけど、今はもっと大事ネ、だから、『今を生きて、テートク』」

 

そう話す金剛が江ノ島の金剛と重なって見えた。

 

 

「ははっ…金剛さんは俺の部下じゃないでしょ」

 

 

「ムッ…折角良い話してあげようと思ってのに…!」

 

プリプリと怒る金剛さんに軽く謝罪をいれる。

 

けど、そうだよな、金剛さんの言う通りだ。

 

今を生きなきゃ前には進めないもんな……。

 

そうじゃなきゃ、アイツラに会わせる顔がない。

 

今あいつらがどうしてるか分かんねえけど、俺は俺に出来ることをやるしかないんだから!

 

なら、今のこの状況も目一杯楽しまなきゃ損だよな!

 

 

「ありがとな金剛さん!お陰で俺のやるべきことが見えた気がする」

 

 

「Whats?どういうことネ?」

 

首を傾げている金剛を他所に俺は出されたアボカドキムチをかっ込んだ。うん、上手い!

 

赤城姉、加賀姉、それに、呉や江ノ島、大阪鎮守府の人達。俺、もうすこしこっちで頑張ってみるよ。やるべきことが終わるまで…だから、もう少しだけ待っててくれ。絶対にそっちに帰るから!

 

そう気持ちを切り替え、白米とアボカドキムチをかっ込む。

 

 

「ん!美味しい!」

 

 

「ほぅ、こいつは美味いのう」

 

見ると姉ちゃん達もガツガツとアボカドキムチを食べ進めていた。

 

 

「どうだい、中々のもんだろ?」

 

「はい、美味いっす!」

 

これなら普通に店を出せるとおもう、意外とレパートリーは少ないのか?

 

 

「しかし、何でまたこれだけ食糧の自給に力を入れているんです?金城大将」

 

 青葉姉が疑問を口にする。

 

 

「まぁ、ウチの連中が美味い物を食いたいってのもあるんだが……まぁ、籠城対策も兼ねてかな」

 

 

「ほうほう、籠城とはまた…」

 

 

「武器弾薬もそうだが、籠城で一番困るのは水と食糧だ。ウチの連中は最悪白兵戦でも戦えるからな、食い物さえあれば年単位で立て籠るぞ?」

 

 

「うわ、想像したくないですねぇ……」

 

と、青葉姉が苦笑いを浮かべる。

 

そもそも籠城するような事態に陥ったりすんのかな?

 

頭の良くない俺ではそんな状況は全く持って浮かばないが、金城大将はきっとそういうのも考えてやってんだろうな。

 

そう他人事ながら考えていると、陸奥姉ちゃんがキムチに興味を持ったのか金城大将に声をかけていた。

 

 

「……ねぇ、そのキムチって作るの難しいの?」

 

おいおい…そんなこと言ったら…

 

 

「あっ!それ私も気になってm…ムグッ」

 

 

「はいはい、比叡さんは黙っててね~」

 

川内が即座にその口を塞ぐ。

 

ナイス川内!

 

川内にサムズアップを送ると、川内も気づいてサムズアップを返してきた。どうやら俺の意図を察したらしい。

 

そんな様子を気にせず、陸奥姉ちゃんと金城大将は話を続けている。

 

 

「そうでもねぇさ。一回覚えちまえば毎年白菜が採れるシーズンになれば漬けられるしな」

 

よし、とりあえずふたりが気づく前にこの馬鹿姉をどうにかしとくか。

 

俺は川内と二人、比叡沈黙作戦を開始するのだった。




比叡を黙らせ、料理を楽しんでいると、金城大将が不意にとんでもないことをぶっこんできた……。

その内容は艦娘達にとってはかなり気になる話で……


次回、新訳、とある提督の幻想殺し

結婚とケッコン(仮)

幻想殺しと艦娘が交差するとき、物語は始まる…。

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