新約、とある提督の幻想殺し(本編完結) 作:榛猫(筆休め中)
前回までの新訳、とある提督の幻想殺し……。
金城大将と激闘を繰り広げる上条提督。
金城大将のとてつもない実力に自身も本気を出し、棲艦鬼拳を使うまでに至ります……。
ですが、それでも金城大将を倒すには至らず、気絶させられてしまうのでした。
というより、姿が見えないと思ったらこんなところにいたのね…これは頭にきました……。
side上条
「本当に大丈夫なの…?当麻…」
大将の店に向かいながら、加賀姉が心配そうに聞いてくる。
「加賀姉、本当に大丈夫だからそんな心配いらねえって」
「じゃが、かなり勢いよく殴られとったように見えたぞ?」
「そうよ、あのまま死んでしまうんじゃないかってすごく心配だったんだから…」
加賀姉にそう返すと他の利根姉や陸奥姉ちゃんも心配そうに声を掛けてくる。
「姉ちゃん達まで…。
いやホント、そんなに心配することじゃねえって、殴られて気絶してたのだって何時もの事だろ?姉ちゃん達が俺をボコボコにする時と対して変わんねえよ」
「それとこれとは話が違うと思うんだけど…」
俺の言葉に川内が苦笑しつつも答える。
いや、殴られるってことは変わらねえと思うんだけど……。
というより、艦載機とか艤装で砲爆撃されるよりよっぽどマシだと思うのですが……
そんな事を考えていると、金城大将が声をかけてきた。
「なんだ、上条大佐はそんな常日頃からボコられてんのか?」
「ボコられると言いますか…何と言いますか…」
右手の所為で不幸に愛された結果だなんて言えねえし……。
「提督が覗きをしたり、制服を弾き飛ばしたりするからですよー」
「違っげぇよ!っていうか、あれはしたくてやってるんじゃねえからな!?!?」
「なんだ、覗きしてるのか?というか、その力、部下にまで使ってんのかよ…」
大佐もスキモノだねぇ…と、納得したように頷く金城大将。
「いやいやいやいや!何か盛大に勘違いをしてらっしゃいませんか大将さん!?」
「まあ、いいんじゃねえか?大佐も男だしな」
「違いますから!本当に誤解なんですって!話を聞いてください大将!!」
「なに、恥じることねえ。女の身体に目が行くのは仕方ねえよ、俺もここで三十年以上提督続けちゃいるが、未だにあいつらの身体には魅力を感じるしな」
「駄目だ全く話聞いてくれねぇ!不幸だぁぁぁぁっ!!」
俺は理不尽さに叫ぶしかなかった……。
――――――――――――
「へぇ……じゃあもう三十年近く提督やってんですか」
「まぁな。長くいたお陰でこんな地位に座っているがな」
「いやいや、それどんな皮肉っスか」
俺も前は大将をやらせてもらってたけど、そんな長くやってた訳じゃなかったし……。
「そう聞こえるか?」
「えぇ、端から聞くと大将の座にいるのが嫌みたいな言い方だったわよ?」
陸奥姉ちゃんの言葉に金城大将は『そんなことねえんだけどな…』と苦笑する。
「話は変わるんだが、上条大佐。大佐の艦娘達は今回戦わなかったが、練度はどの程度なんだ?」
「え?練度っすか?そうですね…多分、二十五~三十くらいじゃないすかね…」
「なんだ、意外と低いんだな。あまり出撃してないのか?」
「あはは…まあ、そんな感じです……」
本当は殆んどなんだが…まあ、言わなくてもいいよな?
「そうか、おっと、着いたな」
そんな会話をしている間に、目的地へと辿り着いたらしい。
「あのぅ…金城さん?」
「なんだ?上条大佐」
金城大将が不思議そうに聞いてくる。
「ここ、執務室ですよね?」
「あぁ、執務室だな」
普通に返してくる…。ん?え?
「いやいやいやいや!何の冗談すか!?」
どう考えたって冗談にしか見えねえぞ!?
店に招待するっていって執務室に連れてくるか普通!
「まぁまぁ、とりあえず中に入った入った」
と、金城大将に急かされ俺達は渋々中へと入っていく。
後から金城大将や大将のところの艦娘も入ってきた。
中は至って普通の執務室だった。
特に変わった所のない、なんの変哲もない執務室だ。
まさかとは思うけど、ここで飯食べるって訳じゃないよな?
疑わしげに俺達は辺りを見回す。
しかし金城大将は気にした風もなく執務机に向かって歩いていく。
「そのまま動かないで立っててくれよ?今から店に『する』から」
「え?そりゃ一体どういう……」
『意味ですか?』そう言おうとした時にそれは起きた。
何と部屋の中が大掛かりな変化を始めたのだ。
ガシャコンガシャコンと音を立てながら、執務室の家具がピストンのようなもので入れ替わっていく。
変形とも呼べるそれを見て俺はある感想を抱いていた。
いったい何処のロボットアニメだよ!?!?
「おぉー!なんですかなんですか!」
青葉姉なんか大興奮でシャカシャカと写真を撮りまくっている。
他の姉ちゃん達は呆気に取られて唖然としている。
その間にも完全に姿を変えた大将の執務室。
そこは先程とは打って代わり、大人の雰囲気が溢れるBarへと様変わりしていた。
「じゃあ、俺は着替えてくるからどこか好きに座っててくれ」
大将はそういうと奥へと引っ込んでいく。
「は、はは…これはすげぇや」
驚きのあまり言葉が出てこない。
上手く状況を呑み込めず、キョロキョロと辺りを見回していると、声を掛けてくる者があった。
「『Bar Admiral』へようこそ、お客様方。私は当店の助手を務めております、バーテンダーの早霜です……どうぞよろしく」
少女、自身のことを早霜と名乗ったその少女はそうして穏やかに微笑みを浮かべるのだった。
『Bar Admiral』で待っていたのは早霜という名の艦娘であった。
早霜は今日の分のお代はタダにしてくれるという……。
俺はそれに若干の不安を覚えるが……。
次回、新訳とある提督の幻想殺し…。
Barの幻想殺し
幻想殺しと艦娘が交差する時、物語は始まる……。