新約、とある提督の幻想殺し(本編完結) 作:榛猫(筆休め中)
前回は提督が戦闘技術を二人の姫と鬼級の深海棲艦から教わるお話でした...。
今回は提督のお話ではなく大阪鎮守府側のお話となります...。
side大阪鎮守府
ここは大阪鎮守府、いつも何かと騒がしく個性的な提督と艦娘達が日夜動き回っている...。
ここの司令長官である吉野三郎中将はある案件に頭を悩ませていた。
「うーん...」
「まだ考えてるの?提督」
「うん、ちょっとねぇ...どうしたらいいのかよく分からない状況なんだよね...」
そんな風に吉野が頭を悩ませることになったのは先日の事...。
___________回想__________
「提督、ちょっといいかしら?」
そう言って入ってきたのは大阪鎮守府職場環境保全課...。通称艦娘お助け課に所属する重巡洋艦の足柄であった。
「足柄君か、どうかしたのかい?」
吉野がそう尋ねると、足柄は少しだけ言いづらそうにしながらも口を開いた。
「実はちょっと...というよりかなり厄介な案件が舞い込んできたのよ...。ほら、これ見て」
そう言って足柄が差し出してきたのは案件のモノらしき書類だった。
「これは?」
「呉の艦娘からの依頼なんだけど、どうにも今呉ではかなり大きめのトラブルが起きているみたいなの」
「へぇ、かなり大きめの...それで、その内容というのは?」
再度吉野が訪ねると足柄は苦い表情を浮かべながら言った。
「...呉の提督である上条大将の行方を探るのを手伝って欲しいそうよ」
その言葉に吉野は自身の耳を疑う。
「えっと...足柄君、今なんて言ったのかもう一度お願いできる?」
「なによ、聞いてなかったの?だから『失踪中の上条大将の捜索の応援をお願いしたい』だそうよ」
「ん?んんんんんんん...?」
どうやら吉野は初耳のようで何とも言えない表情で固まっている。
それを見て足柄もやはりかとため息を吐く...。
「そうなるだろうと思ったわ、私の初めにこれを聞いた時固まったもの...」
「え?というよりなんで上条君行方不明なの?」
「さぁ?聞いた話だと一人で海にマリンバイクで出ていったのをある艦娘が目撃したのが最後だそうよ?」
「海に?というかマリンバイクで??」
訳が分からないと言った表情をする吉野。
「向こうもかなり切羽詰まってたみたいで詳しいことは聞けなかったんだけど、これは私達のだけじゃ流石に手に負えそうにないのよ...」
「それで自分に相談に来たと...。」
「えぇ、私の方でも調べてみるから提督の方でも調べてみてくれないかしら?そういうの、得意だったんでしょ?」
そう部下に頼めれてしまえば断るわけにもいかないのが吉野である。
以前足柄に『助けを求めてきた子達を何をしてでも助けたいなら自分を頼れ』と...。
「話は分かった、自分の方でも上条君について調べてみる。何か分かり次第、そっちに知らせるけど、それでいいかな?」
「えぇ、それで大丈夫よ、じゃあ後はお願いね」
そう言って出ていく足柄を見送り、吉野は再び書類に目を移す。
「上条君が失踪...ねぇ」
「気になるのかい?提督」
隣で話を聞いていた時雨が声をかけてくる。
「うん、どうにも何か引っかかるんだよねぇ、以前の事も含めてね...」
そう話す吉野は何かを考え込むように
sideout
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side吉野
最初から妙だったのだ...。
上条君が初めてここに来るのを知り、彼の事を調べさせた時からずっと感じていた違和感があった。
そう、彼の情報が極端に少なすぎるのだ、以前彼本人にも言ったように調べて分かったことは呉で提督をしていることと、対象という階級についていることのみ...。
それまでの経歴が全くと言っていいほど見つからないのだ、まるで
その後、彼の口から直接以前の事は聞けた。
かの全面戦争のこと、江ノ島鎮守府に所属していた時の事、学園都市で生活していた時の事...。
そのどれも後から調べ直してみたが一つとして見つかることはなかった。
「これは一度、江ノ島鎮守府に尋ねてみる必要があるかもしれないねぇ」
恐らく今回の事の真相を掴む何かがあるはずだ...。
そう考え、自分は江ノ島鎮守府へと向かう準備を進めるのだった。
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あれから数日後、自分は第一秘書である時雨君を連れて江ノ島鎮守府へとやって来ていた。
「吉野三郎中将様ですね?お待ちしておりました。江ノ島鎮守府の秘書艦兼提督代理の赤城です」
そう言って出迎えてくれたのは赤城という艦娘であった...。
「えぇ、自分が吉野です。そしてこっちが秘書の...」
「時雨だよ、よろしくね赤城さん」
「時雨さんね、よろしくお願いしますね」
にこやかに自己紹介を交わす二人、特に問題はなさそうである。
「外で話しているのもなんですのでどうぞ中へ」
「あぁ、それもそうですね、ではお邪魔します」
赤城さんの先導で中へと入っていく。
「こちらです...どうぞおかけになってください」
「では失礼して...」
案内された先は応接室であった。
赤城さんに言わるがまま、置いてあるソファーセットに腰掛ける。
その後に赤城さんも対するように反対側に腰掛けた。
「それで、お話というのは?」
「えぇ、実は呉の上条大将について聞きたいことがありまして」
すると赤城さんがピクリと反応する...。
「......提督の事ですか?構いませんけど、何をお聞きになりたいのですか?」
今、話し出すまでに間があった、という事はやはり何かあるとみて間違いなさそうだ...。
「その前に確認させてほしいのですが、赤城さんは今上条大将がどうしているかご存知ですか?」
「...?いえ、以前呉の文化祭で会ったきりですので詳しくは知りませんが、呉鎮守府で提督をなさっているのでは?」
この様子だと、ここの艦娘達は知らないようだね...。
「実は今上条大将が失踪しているそうで呉は大騒ぎになっているんですよ」
「っ!?......そうでしたか」
予想より反応が薄い?どういうことだろうか...。
「あまり驚かないんだね、さっきの口ぶりからすると上条大将の事をいまだに提督と信じているように聞こえたんだけど」
自分の思っていたことを時雨君が聞いてくれる。
「そうですね、私達の提督はいつまでもあの人だけですから...」
「その割には失踪の単語に対して反応がなかったみたいだけど、上条さんの事心配にはならないの?」
「心配していないわけではありません、ですが...」
「ですが?何か心当たりでも?」
赤城さんの事名を一言一句聞き逃さないよう聞いていると引っかかる物言いをしだした...。
自分はすかさずそこに食いつく。
「え、えぇ...でもこれは提督に他言無用と言われているので...」
うーん...そう簡単には教えてもらえないか、さて、ここはどうするべきか...。
自分がどうすべきかを考えていると、時雨君が再度口を開く。
「赤城さん、上条さんの為なんだ、何か知っているなら僕達に教えてくれないかな?」
「...........」
時雨君の言葉に赤城さんはしばらく黙ったまま何かを考え込んでいる...。
そうしてしばらく考え込んだ後、そっと口を開いた。
「...分かりました、話すことで提督の為になるのでしたら...お話します」
そう言って赤城さんが話してくれたのは嘗ての大戦の時の事であった。
「私達は
ですがそこで待ち受けていたのは通常ではあり得ない編成の深海棲艦の一群がいたのです。
私達も必死に応戦しましたがそこまで練度が高くなかったために手も足も出ませんでした...。
もう打つ手がなくなり壊滅寸前まで追いやられた時に颯爽と現れたのです...提督が、それもマリンバイクに乗って...」
「んんんん?」
おかしい、途中まで至極真面目な話だったはず、なのにどうして急に現実味のない話になるのだろうか...。
自分がそんなことを考えているのとは裏腹に赤城さんは話を続ける。
「マリンバイクに乗って颯爽と現れた提督は右手で次々と深海棲艦の一群を消滅させていきました。
ですが、種族の壁は大きすぎました...。
善戦していた提督でしたが、戦艦の砲撃を喰らって右腕が消し飛んでしまったのです。
けれど、おかしいのはここからでした、捥げたはずの提督の右腕から透明な龍のようなものが複数飛び出して、周りにいる深海棲艦を全て消滅させてしまったのです。」
赤城さんが至極真面目な顔で話しているから真実ではあるのだろうけど、少し信じがたいものばかりだ...。上条君の腕から龍が飛び出すなんて...。
「提督の活躍によって戦いは幕を降ろしました、これで深海棲艦との戦いは終わりを告げました...。ですが、これにはまだ続きがあるのです」
「続き?」
時雨君の問いに赤城さんは頷いてまた話し出す...。
「戦いが終わった後、私達は喜びから気が緩んでいました、そこに制御を失った敵爆撃機が提督に近づいていたのです。敵機は提督に爆撃をして墜落しました。私達は急いで助けに向かいましたがそこにあったのは爆撃され燃え盛る提督の乗っていたマリンバイクだけでした...」
まさか...いや、後田と上条君が呉にいることが分からない...。
「私達の誰もが提督は死んだと思っていました。
それから三か月が経とうという時、この鎮守府にレ級が攻めてきたのです」
「レ級が!?大丈夫だったの?」
「えぇ、なんとか...。
それで、その報告を受けた私は神通さんを伴ってレ級の迎撃に向かいました。
先に見つけた迎え撃っていた龍田さんと共に三人で迎撃に当たりましたが手も足も出ませんでした...。
それぞれ大破させられ、沈められると思った時に現れたのが死んだと思われていた提督だったのです...」
死んだはずの人間があられる...常識的に考えるとするならばどこかで助けられたとしか考えられない...。
「どうして生きているのか聞いてみたところ、提督はこう言っていました『深海の奴らに助けてもらった』...と...。」
「っ!?深海棲艦が上条さんを?」
「えぇ、そこで治療と共に鍛えてもらったと言っていましたし、今回も海で消えたのであればまたその深海棲艦のところに行っているのではないかと...」
なるほど、それは確かに口止めをしておかないとならない話だ...。
「お話を聞かせてくださってありがとうございます。おかげでヒントが見つかりそうですよ」
「それならよかったです。事情を知った以上私達も協力しないわけにはいきませんね、私達も提督の捜索をお手伝いします」
「それは心強いです。呉の艦娘達にもそう伝えておきますね、では自分たちはこれで失礼します」
「はい、またいらしてくださいね」
赤城さんの見送りを背に自分たちは江ノ島鎮守府を後にするのであった。
しかし上条君まで深海棲艦と関わりがあったとは...世界には変わり者が一人入るという事か...。
そんなことを考えながら大阪鎮守府への帰路につくのであった。
提督が居なくなって半年以上が経とうという頃、心配から遂に加賀さんが倒れてしまう。
他の子達も次々に倒れていくなかある二人組がやってくる...。
次回、新約、とある提督の幻想殺し
悪ノリ医学者と小さな三十路
幻想殺しと艦娘が交差する時、物語は始まる...。