新約、とある提督の幻想殺し(本編完結) 作:榛猫(筆休め中)
前回は加賀さんがようやく呉鎮守府に帰ってきたお話でした。
大阪鎮守府色に染まりかけてましたけど、大丈夫なのかしら...。
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前回の次回予告でスペルミスしていたので一部タイトルが変わっています。
side上条
大阪から加賀姉が帰って来てから二週間が経とうという頃...。
俺はいつもの書類整理をしていた。
「はいこれで終わりっと、大淀、後頼むわ」
処理し終えた数枚の書類を大淀に手渡す。
「はい、お任せください」
クイッと眼鏡の位置を元に戻して大淀は執務室を後にする。
俺はそれを見送りながらぼんやりと考えていた...。
(最近料理してねえな...)と...。
久しぶりに料理をしてみるか、と浮かぶが下手に艦娘達に見つかればまたあの地獄が再来することは確定的だ...。
時間を確認すると、昼食時間まではまだかなりあった。
「......やるなら今しかねえな」
一人呟くとすぐさま執務室を後にした。
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「よし、誰もいないな」
食堂へとやって来た俺は厨房に立ち調理器具を手に取る。
「なんだか懐かしいな...前に料理したのは俺が呉に来たばっかの時だったからな」
良くここまで変われたと思う...。
あれだけ提督という存在に脅え、心を閉ざしていた艦娘達が今ではとても幸せそうに笑っている...
「本当に、助けられてよかったよな...」
思わず感傷に浸る。だがここに来たのは懐かしむためではないという事をすぐさま思い出す。
「そんなことしてる場合じゃねえや、早いとこ作っちまわねえと!」
冷蔵庫から適当な材料を取り出し包丁で刻んでいく。
作るのは簡単にできて腹持ちも中々いい野菜炒めだ。
手軽にできるので学園都市にいた頃は何かとよく作っていた。というか、あの
今日一日分くらいは足りるくらいに量を調整し野菜を刻む...。
「ま、こんなもんだろ、さて次は...」
刻んだ野菜をフライパンに入れ味付けをしながら炒めていく。
味はシンプルに醤油と塩だけだ。それなりに味が付いて中々イケるのだ。
さして時間もかからずに調理が終了する。
さて、後はこれを部屋に持って行くだけという時に事件は起きた...。
「よし!完成!」
「ねえねえ!なにが完成なの?」
そんな声が背後からする、ギョッとして後ろを振り向くが誰もいない。
「って皐月は皐月は...」
今度は右後ろから声がして振り向くが誰もいない...。
なんだ?どうもすごく嫌な予感がするのでせうが......
「興味津々で提督の背中に張り付いてみたり!」
その声と共にガバッと誰かが背中に飛びついてきたのが分かった。
「ちょっ...!?誰だ?」
慌てて背中に手を回し元凶を探る。
原因は直ぐに分かった。背中に誰かが張り付いているのだ。
そいつの身体を掴み、俺は頭上を通るようにしてそいつを引っ張り出す。
「おぉー司令官てちっから持ちぃ!」
「えーと...何やってんだ?皐月...」
そう、背中に張り付いて来ていたのは睦月型五番艦の皐月であった。
「んーとね、なんとなくお散歩してたら食堂から良い香りがしたから覗きに来たんだ!」
「なるほど、そこで俺を見つけたと...」
「うん!それより...美味しそぉ~...」
目をキラキラさせて物欲しそうにする皐月。
やめろ!そんな目で俺を見るんじゃない!
「えーと、一口食うか?」
「いいの!?」
物凄い食い付きようである...。
「あ、あぁ...ちょい作り過ぎちまって困ってたからな」
実際には一日分の目安で作ってたから多くて困ることはねえだろうけど...。
「じゃあ欲しいな!」
「分かった分かった、準備してやるから待ってろ」
「はーい」
嬉しそうな皐月の返事を聞きながら皿を出し盛り付けながら俺は小さくため息を吐く...。
『はぁ、不幸だ...』
しかしそんなことを言っていても仕方ないので適当に盛り付けて皐月の所に持って行ってやる。
「ほら、冷めないうちに食べろよ」
そう言って皿に盛った野菜炒めを皐月の前においてやる。
「おー、これが司令官の男の料理!いっただっきまーす!」
勢いよくがっつき始める皐月。
お前はどこの戦闘民族だと言わんばかりの食べっぷりである...。
内心でそうツッコんでいると、他の奴らが入ってくるのが見えた。
「なんだかおいしそうな匂いがするわね」
「食事時間じゃないけど...凄くお腹が空く...匂い...」
「いいの匂いっぴょーん!って皐月、何食べてるぴょん?」
「というか司令官までどうしてここにいるのさ?」
「まみやさんもほうしょうさんもいないみたいだし、もしかしてしれいかんがおりょうりしてたの?」
「そう言えば以前ここに来たばかりの時も料理をしていたな...」
「言われてみれば...その後のインパクトが強すぎてよく覚えていなかったが...」
「司令官は料理も出来たんですね!」
「んぁ?どーでもいいけどさ、それ、美味しそうだね」
「男だけどレディーだわ!」
「暁、その言い方はいろいろと誤解を招くからやめた方がいい」
「さっすが司令官!でも、もっと私を頼ってくれてもいいのよ?」
「司令官様はお料理も出来たのですね、なるほど、司令官様らしい男の料理でございますね」
上から睦月型の二~十一番艦と暁型の一~三番艦、そして神風型の三番艦の春風がそれぞれ話す。
何故か全員先程の皐月と同じような表情で、だ...。
「わ、分かった、分かった!お前達の分も作ってやるからそんな目で見ないでくれ...」
これは、あれだ...不幸だー...
内心で深くため息を吐きながらも再び厨房へと立つ。
今度は先程より多めに材料を取り出し調理し始める。
作業を始めてすぐの事、野菜を切っている俺に春風が声をかけてきた。
「司令官様、何かお手伝いすることはございますか?」
正直春風のその申し出はとてもありがたかった。
「そうだな、じゃあ俺が炒めていくから春風は野菜を刻んでもらえるか?」
「分かりました、お任せくださいませ」
その後、作業を分担しつつなんとか人数分の野菜炒めが出来上がった頃、更に艦娘が入ってきた。
「なにやらいい匂いがすると思ったら提督が何か作ってるクマ」
「いい匂いにゃ...お腹空いちゃったにゃ」
「この香りは中々...アリだな!」
「おー確かに美味しそうじゃん提督の料理」
「司令官!私達にも作ってもらえませんか?」
「五十鈴にも作ってくれてもいいのよ?」
「あの...私も...食べたい...です...。」
「提督の料理は久しぶりですから私も...。」
「私にもお願いできますか?」
そう話すのは上から球磨型一、二、三、五番艦と長良型の一~三番艦、そして
まさか
「分かった、すぐに作ってやるからちょっと待ってろ」
駆逐組用に盛り付けた皿を春風に持って行くよう指示を出し、俺は更に材料を取り出し調理を始める。
春風もすぐに戻って来たので再び材料を刻んでもらい、先程よりも多い量を炒めていく。
軽巡は駆逐より食べる量が多い故に自然と調理する量も増えてくるのだ。
軽巡組の分もなんとか作り終わり盛り付けたところでまたも別の艦娘達が入ってくる。
「なにやら食堂が騒がしいと思ってきてみたら珍しいことをしておるの、提督よ」
「提督のこの姿を見るのももう何カ月も前の事ですものね」
「最近は間宮さんや鳳翔さん達が張り切ってますからねー」
「私は初めて見ました!admiralさんの料理してる姿!」
「まだ食事時間でもないのに...提督お手伝いしましょうか?」
入ってきたのは利根型の姉妹に
「わ、分かったすぐ作ってやるから!悪い間宮、頼めるか?」
「はい!すぐお手伝いしますね!」
そう言って厨房に入ってくる間宮。
しかしその恰好は割烹着ではあるのだがスカートがやたら短くなり先程入ってくる時にチラッと見えたが背中がパックリと開いたオープンバックな割烹着なのだった...。
「いやなんて格好してんだ!」
「これですか?以前大阪から来ていた加賀さんが最近の
俺の知らないところで何してくれてんだ姉貴ィィッ!!
「と、とりあえずいつもの格好に着替えてきてください...。手伝うのはそれからで」
「分かりました、実を言うと少し、いえ、かなり恥ずかしかったんですよ?」
「それなら最初から着ないでくれよ!!」
「提督がどんな反応をするのか気になったので来てみたんですよ?お気に召しませんか?」
その場でクルリと軽く回る間宮...。
「い、いやー...大変よく似合っておりますが、年頃の男子高校生には目の毒と言いますか眼福と申しますか...」
そしてさっきから春風の視線が痛い...
やめてくれ...俺がやらせてる訳じゃないんだ...。
「と、とにかく着替えてきてくれ...」
春風の視線に耐えながらそう間宮にお願いする。
「仕方ないですね、それじゃあ着替えてきますのでも少しお待ちくださいね」
そう言って食堂を出ていく間宮を見送って大きくため息を吐く...。
「はぁ...不幸だ...」
「...司令官様、野菜が切り終わりましたわ」
何故か春風の機嫌も悪い...
「あ、あぁ...サンキュ」
材料を受け取り先程より大きめのフライパンを用意し野菜を炒めていく。
と、そこで更に艦娘達がぞろぞろと入ってきた。
「なんやいい匂いする思うて来てみたらなにやっとるん?キミィ?」
「提督殿、料理をしているでありますか?」
「admiralが料理して料理してる所、初めて見ました...。」
「お疲れ様です提督、お手伝いは必要ですか?」
そう言うのは龍驤、あきつ丸、
「見ての通りだっての駆逐軽空母、それと悪い鳳翔さん...手伝ってくれるとすげえ助ける」
正直そろそろ手が回らなくなってきた。
「ほうかほうか、キミがウチに喧嘩売っとる言うことがよぉ分かったわ、そっちがその気ならいつでも沈めてあげんで?」
「はい、すぐお手伝いいたしますね」
笑顔で物騒なことを言う龍驤をスルーして鳳翔は厨房へ入ってくる。
「それで私は何をすればよろしいですか?」
「じゃあ隣で材料炒めてくれ、この人数を一人で回すのは無理があるから」
「はい、任せてください」
「ちょっ!?私の事は無視かい!」
うるせえな、今色々ごたごたしてて手が離せねえんだよ...
ギャアギャア喚く龍驤をガン無視しつつ調理を進めていく俺達。
そこにまたしても艦娘達が現れる...。
「こんな時間によく賑わってるじゃない」
「食事時間でもないのに凄い混み様...」
「執務室にいないと思ったら、何をしているの?提督...。」
「提督、Cookingなんて出来たのですか?サラ、初耳です!」
「私も提督が料理しているところを見るのは初めての気がするわ...」
上から陸奥、比叡、加賀姉、サラトガ、大鳳の五人が厨房の俺達を見ながらそう話す。
そういや大鳳やサラはまだ
というかヤバいぞ...
ラ ス ボ ス 組 が 降 臨 し や が っ た
これは本腰入れていかねえとまずいな...。
俺は気合を入れ直し調理に取り掛かるのだった。
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あの後、すぐに合流した間宮と鳳翔、春風の協力もあり、なんとか
「司令官様、お代わりいただけますか?」
「提督、私ももう少しお代わりをお願いします...。」
「私もお願いしますね、なんだか凄くお腹空いちゃって...」
物凄い勢いでお代わりの催促をされまくっていた...。
「結局こうなるのかよ!不幸だぁぁぁ!!」
そしていつも通りに呉鎮守府に俺の絶叫が響き渡るのだった。
因みに俺が前もって作り置きしておいた分はこの時に来なかった天龍、川内、那珂の三人に食べられてしまった…。
どこまでいっても俺不幸に愛されているらしい…。
厨房での一件から翌日...。
最近建造をしてないと思った俺は気分転換に工廠に向かう。
適当に建造依頼を出して待つこと数日...。
出来たのは二隻の艦娘で...
次回 新約、とある提督の幻想殺し
とある重巡姉妹
幻想殺しと艦娘が交差する時、物語は始まる