新約、とある提督の幻想殺し(本編完結)   作:榛猫(筆休め中)

13 / 54
電です。

前回、元帥さんに呼び出されて今度向かう先はブラック鎮守府だと言うことを聞かされた上条司令官さんと加賀さん。

向かった先の駅で司令官さんのお友達のスパイさんの話を聞いて呉鎮守府の現状をきいたのでした。

今回はどうなってしまうのです?


襲撃者達……

side上条

 

 

土御門の警告を聞き、駅を後にした俺達は呉鎮守府へトボトボと向かっていた。

 

 

 

しばらく歩いていると前方にそれらしき建物が見えてきた。

 

 

「あそこが目的地か、長かったな……」

 

そう話す俺の耳には微かにだが聞き覚えのある音が聞こえていた。

 

俺は即座に加賀姉に指示を出す。

 

 

 

「加賀姉、砲撃が来る。俺の後ろに下がってくれ」

 

俺の言葉で加賀姉は察してくれたのか直ぐ様後ろに隠れてくれた。

 

その直後、俺達に砲弾が猛スピードで飛んできた。

 

俺は瞬時に右手をを、砲弾にむけて突き出す。

 

 

【パキイィィィィィンッ!!】

 

ガラスが割れるような音と共に砲弾が打ち消される。

 

その光景を見て俺を二つの感情が襲った。

 

一つは前任に対する怒り……。

 

もう一つは虐げられてきた艦娘達への悲しみ……。

 

それらの感情がない交ぜになり俺の中を包んでいた。

 

俺は加賀姉に再度指示を出す。

 

 

「加賀姉、俺は先に行くから悪いけどここで少し待っていてくれ。それと俺が行ってから五分程経ったら偵察機を飛ばして様子を見てから来てくれ」

 

 

「……分かったわ」

 

その言葉に加賀姉はなにか言いたそうだったが、頷いてくれた。

 

それを見届けてから俺は歩きだした。

 

砲撃をしてきたであろう者達のもとに向かって……。

 

 

sideout

 

 

 

 

side陸奥

 

 

私は驚愕していた。

 

つい今しがた新しく着任する筈の提督に向けて主砲を撃ったのだ、狙いもバッチリ。弾道も逸れてなかった……。

 

だが、砲弾が提督に当たる直前、提督が砲弾に向けて右手を突き出したと思ったら砲弾が元から無かったかのように消え去ってしまった。

 

私は目の前の光景が信じられなかった……。前の提督はこれで跡形もなく消し飛んだのにあの男は無傷で立っていた。

 

そして、怒りとも悲しみともつかぬ表情で私達の方に歩いてくる。

 

またあの地獄のような日々が戻ってくる……。

 

私はその恐怖から動けなくなっていた。

 

 

「ど、どうするのじゃ!?あの男こっちに来るぞ!早く逃げねば!」

 

私だって逃げたい、早くこの場から逃げ出したい。

 

だが、体が動いてくれない……。

 

そんなことをしている間に男は私達の目の前にやってきていた。

 

 

「……」

 

男が無言で手をあげる。

 

 

「ひっ…!」

 

殴られる…また拷問にも近い暴力がくる!

 

私は直に来るだろう痛みと恐怖に目を強く閉じる。

 

だが、待っていた痛みはいくら待っても来ず、かわりにポンと優しく頭を撫でられる。

 

頭を撫でながら男は話す。

 

 

「お前達の事情はある程度聞いて知ってる…。すぐに気づいてやれなくて悪かった……」

 

そう言って私から手を離すと少し離れて深々と頭を下げた。

 

私達は戸惑うしかない……。

 

今までの提督達は私達を兵器としてしか見ておらず、私達を欲望の捌け口にして非道な扱いをしてきた。

 

だが、目の前の男は何かが違う…。私達に暴力を振るうどころか私達の事情を知った上で謝罪してきた……。

 

まるで、私達を人間と同じように扱っているかのように……

 

男は頭を下げ続けながらこうも言った。

 

 

「お前達が提督を殺したいほど恨んでいることは知ってる…だから俺の命なんかで気が済むのなら殺してもいい……」

 

そう言って顔をあげた提督の顔は死を覚悟した者のそれだった。

 

こんなチャンスは二度と来ない…。今殺しておかないと私達はあの地獄に戻ることになる。

 

私達は主砲を男に向け構える。それでも男は表情を変えず当てやすいように両手を広げる。

 

折角逃げないで待っていてくれている。撃つなら今しかない!

 

そう思っているのに、撃つことが出来ない……。

 

男の真っ直ぐな表情の前に撃てなかった。

 

私は砲身を降ろす。どれだけ自身を納得させてもこの男を撃つことは出来なかった……。

 

そこに現れる者があった。

 

 

「そこまでにしなさい、あなた達…」

 

そう言って男の前に立ち塞がったのは私達と同じ艦娘の正規空母加賀だった。

 

 

sideout

 

 

 

side上条

 

 

 

「……加賀姉」

 

突然の加賀姉の登場に俺は思考が追い付かない。

 

 

「何を勝手なことをしているの?提督……あなたが死んだら私や江ノ島に残してきた皆さんはどうなるの?…また私達を、悲しませるつもり?」

 

 

「……けど」

 

こいつらが恨んでいるのは他でもない提督なんだ、そんな簡単に信じろって方が余程酷だ。

 

 

「提督が言いたいことも分かるわ、けど、敢えて言わせてもらう。あなた達、今だけでいい…この人を信じてあげて…きっとあなた達を救ってくれるから……」

 

そう話す加賀姉の顔はいつもの無表情ではなく、慈愛に満ちた女神の如き優しい顔をしていた。

 

 

「……本当にあのクズとは違うのね?」

 

 

「えぇ、天に誓って……」

 

 

「……分かったわ、あなた、名前は?」

 

加賀姉と話をしていた長門に似たお姉さんの艦娘が俺にそう声をかけてくる。

 

 

「俺は上条当麻だ」

 

 

「そう、じゃあ上条くん。今は撃たないでおいてあげる。けど、私達に何かしたらその時は撃ち殺すわ」

 

その瞳を見てこの女性が本気なのだと言うことを理解した俺は頷く。

 

 

「あぁ、それでいい。ありがとな!えっと…」

 

名前を呼ぼうとして言い淀んでしまう。

 

それを見て女性はクスリと笑うと教えてくれた。

 

 

「長門型戦艦の二番艦の陸奥よ、よろしくね、提督」

 

そう言ってニコリと微笑んでくれた。

 

 

「我輩は利根型の一番艦の利根じゃ!あまり信用はしておらんがよろしく頼むぞ提督……」

 

と、陸奥さんの横にいたツインテールも教えてくれた。

 

 

「陸奥さんに利根さんだな。あぁ、よろしくな」

 

にしても、似てるとは思ってたけどまさか姉妹艦だったとは…どうりで似たような格好してる訳だ。

 

 

「とりあえず、司令室に案内するわ。ついてらっしゃい」

 

 

「あぁ、ありがとな」

 

こうして俺と加賀姉は陸奥さんの案内で呉鎮守府の司令室に向かうのだった。

 




陸奥に司令室に案内された俺達…。

しかしそこはとんでもない悪趣味なものだった。

次回、新約、とある提督の幻想殺し

着任の幻想殺し提督…。

幻想殺しと艦娘が交差する時、物語は始まる。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。