新約、とある提督の幻想殺し(本編完結) 作:榛猫(筆休め中)
前回、提督が先の作戦の褒美として元帥から昇格を告げる手紙をもらっていたことで提督をお祝いする私達でしたが、提督の思わぬ発言で事態は一変...。
『俺、呉鎮守府に移動することになっちまったんだ』
果たして提督の運命は如何に......。
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side上条
おっす、上条さんだ。
赤城姉たちに盛大に祝ってもらった翌日、俺は加賀姉を連れ立って大本営に来ていた。
今は元帥が来るまで別室で待機している所だ。
どうしてこんな所にいるかというと、前に移動の通達が来た時に一緒に元帥からの手紙も入ってたんだ。
内容は『移動先の詳しい内容は口頭で話すから後日、大本営まで来てほしい』とのことだった。
それで今俺達は大本営まで来ているって訳だ。
ここに来るのは間宮さんと伊良湖さんを建造しに来た時以来だな。
その時だよな、あの手紙をもらったのは......。
あの後なんだかんだと忙しくて中々確認できてなくてつい最近まで昇格してたことなんか知らなかったもんな......。
ちなみに加賀姉は座ったまま静かに迷走みたいなことをやってる。
やっぱ弓道をするにはそのくらいの集中力が必要になんのかな?
そんなことを考えていると扉が開き、初老の男性が入ってきた。元帥だ...。
「待たせてすまない、よく来てくれたね、上条当麻くん。その顔を見るに私の贈り物は気に入ってくれたようだね」
俺は慌てて慣れない口調で元帥に返す。
「は、はい!この上条当麻!元帥からの贈り物しかと受け取り光栄でありませう!」
その言葉を聞いた元帥は少し笑って話す。
「そう緊張しなくていい、話しやすいように話してくれ」
いいのか?目上の人なのに......。
「で、では、お言葉に甘えて...元帥からの贈り物は嬉しいというか驚きましたよ......」
なにせ、海軍の二番手だからな。そりゃ驚きもするだろう。
「ははは、喜んでもらえた様で何よりだよ...それに、その子を連れて行くことにしたようだね」
「はい、加賀姉はというより俺は艦娘のことを仲間、いえ、家族同然に思ってますから」
俺のその言葉に元帥は一瞬ポカンとした顔をするが、すぐに笑顔に変え、言った。
「やっぱり君にあの鎮守府を任せて正解だったようだ江ノ島の艦娘たちは幸せ者だな」
と、その後、元帥と他愛もない雑談をした後に俺は今回の目的をそれとなく聞いてみた。
「そう言えば元帥、今日のお話についてなんですが......」
俺の言葉に元帥の顔が一瞬のうちに真面目な者へと変わる。
「そうだったね、これは今度君が行く呉鎮守府についてなのだが......」
俺はその厳格な雰囲気に少し身構える。
チラとみると加賀姉も真剣な顔で元帥の話に耳を傾けていた。
「実はこの鎮守府には黒い噂が絶えない所でね。つい先日、そこの前任の提督が謎の死を遂げたと報告があったんだ。
それでこちらでスパイを送り、極秘に調査を進めていたらとんでもないことが分かってね......」
「とんでもないこと...ですか?」
俺の質問に元帥は頷いてから再度話し出す。
「詳しいことは私の口からは言えないがただ一つ言えることはあそこはブラック鎮守府になっていたんだ」
ブラック鎮守府?聞いたことのない単語に俺は首を傾げる。
「よく分からないかい?例に例えるならブラック企業の鎮守府版だと思ってくれたらいい」
あぁ、そういうことなのか。
元帥の説明でようやく理解できた。
「君達にはそこの鎮守府を立て直して欲しいんだ」
「えっと、立て直すって...何をすればいいんでせう?」
「なに、難しく考えなくてもいい。君は江ノ島にいた時と同じように過ごしてくれればいい。
その中で艦娘にこうなってほしい、こうしてあげたいと思うことがあればそれをやっていけばいいんだ」
なるほど、とりあえずはいつも通りでいい訳か。
「分かりました。上条当麻!この任、謹んでお受けします」
それを聞いた元帥は嬉しそうに笑って言った。
「あぁ、任せたよ、上条大将。呉の艦娘たちを救ってあげてくれ」
こうして俺達は大本営を後にするのだった。
sideout
side加賀
今、私達は呉に向かう電車の中にいる。
電車に乗っている間、提督は難しい顔で何かを考え込んでいるようでした。
私は電車に乗ることが新鮮だったのもあって外の変わりゆく景色を堪能していた時でした。
『まもなくぅ~呉駅ィ~お降りの方はドアの方にお進みください』
もう直に目的駅に着くのね。
提督の方を見ると、先程の放送が聞こえていなかったのかいまだに何かを考え込んでいる。
「提督、もうすぐ到着よ?」
「............」
声をかけるが返事がない。どうやら聞こえていないみたい。
仕方ないので少し揺すってみる。
「ッ!な、なんだ加賀姉か、どうしたんだ?」
一瞬、驚いた顔をすると我に返ったように私に問いかけてくる。
「もうすぐ到着よ?降りるのではないの?」
そう言うと提督は慌てて外を見回す。
窓を見ると、呉駅のホームが見え始めている。
提督は慌てて立ち上がり話す。
「加賀姉、降りるぞ!忘れ物だけ気を付けてくれ」
「えぇ、分かったわ」
私も荷物を持ち、立ち上がると電車から降りるのだった。
「ぐっ...ん~......ッッ!流石に何時間も電車に乗ってるとキツイな......」
勢いよく伸びをする提督。
そこに近づいてくる一人の者がいました。
「よお!カミヤン待ってたぜい!」
そう声をかけられた提督が振り返るとそこには、金髪のぼさぼさ頭にサングラス。それにアロハシャツを着こんだ少年が立っていた。
「土御門!?なんでこんなところにいるんだよ!」
「なんでってそりゃお前...スパイしたからに決まってるにゃ~」
スパイ?ということはこの方が元帥の言っていた?
しかも提督のお知り合いのようだけど....。
と、そこで提督を見ると呆れたような顔をして土御門と呼ばれた人を見ていた。
「お前、いったい幾つスパイやれば気が済むんだよ?それ何個目だ?」
「それは秘密だぜい」
こんなおちゃらけた人が本当にスパイなのかしら?
「まあいいか、それじゃ土御門。呉鎮守府はどんな感じなんだ?」
「あぁ、相当不味いことになってる。前任の馬鹿がやり過ぎたせいでな......」
その後、土御門さんが話した内容はこういったものだった。
以前の呉鎮守府の前任の提督は艦娘達に非人道的な扱いをしていたという。
セクハラやパワハラは当たり前。
気に入らなければすぐに暴力。
補給も最低限、入渠すらさせず出撃ではS勝利以外は全て罵倒や暴力の嵐...。
艦娘が稼いだ資源を自身が着服して売りさばいていたり。
挙句の果てには姉妹を人質に取って無理やり言うことを聞かせていたらしい......。
「ってのが、呉鎮守府での出来事だ ......」
私はその前任の提督が許せなかった。
私の同期達に酷い仕打ちをしたことに......。
しかし提督は少し笑って言った。
「分かった。色々調べておいてくれてありがとな土御門。行こう、加賀姉」
私は提督の態度に戸惑いながらも歩き出した。
土御門さんを通り過ぎた時、後ろから声が聞こえてきた。
「カミヤン!呉の艦娘たちは全員が提督という種を嫌っている。殺されることだってあるかもしれない。
慎重に行動しろよ!」
その言葉を背に私達は駅を後にしたのでした。
sideout
side陸奥
あのクズがいなくなって数日......。
私達の間には平和な時間を過ごしていた。
けれど、アイツが私達に付けた傷は深い......。
少ない時間で解決するほど浅くはない。
そこに一人の少女が声をかけてくる...重巡洋艦の利根だ。
「のぉ、陸奥よ」
「なに?利根」
「先程大本営から通達が来ての。どうやら新しい提督がここに着任するらしいのじゃ」
「そう......」
「どうするのじゃ?」
「私達の平穏を壊される訳にはいかないわ、消しましょうかその提督...」
「じゃが、大本営に知れたら大問題じゃぞ?」
「大丈夫よ、利根。その提督はここに来る最中に謎の爆発に巻き込まれて死ぬの...前任と同じ方法でね...」
呉鎮守府に向かう最中、謎の襲撃を受ける俺と加賀姉。
俺は単身、その襲撃者の元に向かう......。
幻想殺しと艦娘が交差する時。物語は始まる。