変態が来た。
繰り返す、変態が来た。
(きゃあああああーーーーーー!?)
魔女の妹が悲鳴を上げた。
過去最大。サナトリウムの危機が訪れた。
変態の王が、施設内を闊歩しているではないか!
端的に言うとこれだ。そう、これ以外に何をいえと。
変態の王が、施設内を視察中。でっぷり太った中年のおっさんが。
王冠を被り、パンツ一丁の裸マント状態で偉そうにふんぞり返って、臣下達に何か説明させている。
その後ろで恐縮しまくっているライムや、どうやらお偉いさんも総出でお迎えしている様子。
……何が起きているっていうのだ。
子供達や職員は実に堂々としている威厳ある露出狂に怯えて、部屋に閉じこもってしまった。
活気の失せたサナトリウム。静まり返る中、変態の道は開かれた。
実はあの裸王は、何時ぞや雅堂が半殺しにした親衛隊の女の子が護っている王族。
親衛隊の女の子が、サナトリウムの話を軽くしたら王様も視察しに来ちゃったのだ。
いい迷惑である。臣下達は、王の迷走がまた始まったが諦観の境地にて、案内している次第。
つまり、一国の王様。変態だけど。繰り返す、変態だけど。
「殺す、変態コロスッ!」
そんでもって喩え相手が王族だろうが神様だろうが、妹を泣かせる奴は絶対ぶち殺すを信条とする魔女がいきり立って本当に殺そうと突撃するのを皆で阻止していた。
「お、落ち着いて亜夜!! あたしは大丈夫、大丈夫だからッ!! あんたちょっと冷静になって!」
「処刑されちゃうよ! 姉さん、部屋に閉じこもっていれば平気だから! ね!?」
「亜夜、さん……。ラプンツェルは、寝ちゃってるから……。わたしも、我慢……する……」
既に魔女化しており、鼻息が荒かった。っていうか目が血走ってる。
車椅子をフルブーストさせて突撃、死なば諸共上等だと言わんばかりに殺気立つ。
相手は本物の王様。権力も当然あるし、魔女だとバレたら速攻で殺されてしまう。
三人がかりで宥めている。というか、最早取り押さえている。
「変態は、駆逐するべきですッ! 見つけましたよ世界の歪みッ!! 性犯罪幇助と断定して、私が駆逐するんですぅー!!」
駄々っ子のように暴れだす亜夜。珍しく我侭だった。
そこまであの中年の変態がおぞましいようで、その比は雅堂が児戯に等しいレベル。
車椅子をパージして、テケテケのように移動してまで進もうとする。
「いや、世界の歪みは多分あたし達の方じゃないの……?」
「絶対こっちだよね」
「うん……」
室内の意識ある三人は、割と落ち着いていた。
ラプンツェルが変態を最初に目撃し、理解の範疇を越えショックを受け、脳が精神を守るため失神。
そのままあまりのことで、睡眠している。魘されているようだが。
無菌培養で性教育もまともに出来ていない彼女に、あの次元の変態はレベルが高すぎた。
アリスは変態を殺したいのは同じだが、相手は王様。
タリーアの時と違い現存するものなので、下手なことはできない。
グレーテルは何も考えないことにした。思考放棄してしまえば、大体がどうでもいい。
変態に関わるとこっちまで変態の発芽をしそうで怖い。可能性がないと言い切れない姉なので。
マーチは……何というか、世の中広いので変態はいるものだと受け入れた。
一つ、大人になった、つもりでいる。一応。
魔女と苦楽を共にすることを選んだ二人としては、世界の歪みは自分たちだと自覚しているのであまりあの手の相手をして欲しくない。
関わるとろくなことにはならないだろうから。
「くっ! 貞操観念の法則が乱れているのに、私は何も出来ないんですか……!」
「ちょっと亜夜、あんた本当に錯乱してない……?」
ぐったりして沈静化した亜夜は悔しそうに意味不明なことを言っていた。
アリスの言うとおり、亜夜は少々混乱しているようだった。
見たことのない変質者を見つけて、動揺している。
あの歪みすぎてぶれなかった亜夜が、暴走しない程度に精神的に追い詰められている。
非常に稀なことだった。見ていて、凄く新鮮な気分になる。
害はあまりなさそうだし、少し見てみたいと思う不謹慎な妹達。
普段は無敵にして絶対悪のような利己的な姉が、一人の変態に惑わされるなんて意外だった。
妹達の奮闘のおかげで、こちらはまだ大丈夫だった。
で、一方その頃違うところでは。
ドスっ!!
「ひぃっ!?」
……何時もどおりの光景だった。
「正直に白状しなさい、眼鏡。あんた、この国の王様に何を吹き込んだの?」
「無実ですっ!!」
赤ずきんによる、容疑者尋問が行われていた。
手足を縛られ仰向けに床に転がされた雅堂の股間に包丁が突き刺さりそうになった。
慌てて横に回転して逃げる彼を追う、目元に陰りが堕ちた赤ずきん。
「さぁ、優しくしてるうちに言いなさい。国家転覆させるテロリストに慈悲をかけているのよ?」
「そんなだいそれたことできる根性僕にはないよ!?」
竦み上がる雅堂が王様に変な知識を吹き込んで国家を壊そうとするテロリストだと赤ずきんは思った。
こいつは良く出来た善人だが、同時に救い難い超変態でもある。
究極の理性と欲望が同居する危険な男。やりかねないと思う。
彼の扱いは上昇傾向にこそあるが、やっぱり変態だと思われている部分は変わらない。
以前なら問答無用で一撃だったが、今はこうして言い分を聞く程度には軟化していた。
「タリーア。『ごるふくらぶ』っての、持ってきておいて」
「……」
傍で且坐で助けを乞うている情けない職員を眺めているタリーア。
赤ずきんに処刑道具を要求されるが、まだ動かない。困惑の色が、少女の真紅の瞳には浮かんでいた。
「……あの。お兄さんは、そんなことしないとおもうけど……」
やんわりと味方するが、
「ダメよ。男は理性があろうが、器用に振る舞える便利な生き物なの。特に……シモの欲望には忠実に、ね」
「ひぃっ!?」
ギロリとゴミを見る目で下半身を睨まれて身を丸める雅堂。
狼の呪いは抜けても、上下関係に影響などなかった。勝てぬものは勝てぬ。
「ち、違います僕じゃありません……!」
必死に無実を説明する雅堂。なぜ赤ずきんがこんなことばかり普段しているか、だが。
先ず彼女、男はケダモノという前提で生きている。男とは、エロのみであらゆることをする。
エロとは男の数だけ存在し、多種多様な変態性を持っている。
真っ当な生き方をしている男でも、巧みに隠しながら社会に潜伏しているものだ。
そう、それは魔女のように。男は全てシモで始まり、シモで終わる。
女性に対するものだけじゃない。変態の同志を増やすこともまた、エロである。
そういう意味で、雅堂の嗜好はヤバイ次元に達している筆舌に尽くしがたい変態であると思われていた。
シモの事件の犯人はまず、この男のせいであると公言していた狼時代の赤ずきんの流布により、一部の女子から未だにこいつは蛇蝎のごとく嫌われていた。
善人であることはある程度、周知は分かっている。
が、油断してるとテイクアウトの兆しが見えたりすると、専らの噂だ。
良い奴だが、どうしようもないシモ野郎というのが現在の立ち位置である。
「根拠は?」
「あの王様はここにいる時点でパンツ一丁でした。僕に入れ知恵する手段はありません!」
当然の言い分である。だが然し、雅堂は甘い。
その程度で論破されるほど、この女は愚かではない。
「……ふぅん。ま、外部協力者って線もあるか。あんた、変態仲間とかいるんでしょ?」
「なんでさ……」
適当な可能性で言い分を潰してくる。
何を言っても信じてもらえない。本当に男やめないとダメなんだろうか。
「お兄さん……。わたくしは、その……信じてますから」
「タリーア……ありがとう」
一途に信じてくれている眠り姫は優しかった。この子だけが雅堂の女子の味方。
魔女は利害の一致の時以外は信用できない、アリスはちょっと微妙。他三人はマジで恨まれている。
「じゃあ、仕方ない。……優しくしても白状しないし、何時も通り尋問で問い質すか」
結局こうなる。赤ずきんによる尋問(物理)敢行。
「い、いやーーーーーーー!!」
人、それを拷問という。
執拗にシモを狙って攻撃してくる男性はみな内股になりそうな地獄の折檻フルコース。
一発でも直撃すると、恐らく一般人ならショック死する。
「……」
タリーアはもうこうすると、止められないのを知っているのでそっと目線を逸らした。
言われたとおり、ゴルフクラブを処刑人に渡す。
「サンキュ、タリーア」
不敵に笑い、ギロチンのように降り下ろされるであろう金属の一撃。
涙を滝のように流して無様にのたうち回り悲鳴を上げる雅堂に、一言。
「強く、生きてね……。お兄さん」
それは事実上の離反だった。タリーアは彼を、今日も見捨てていく……。
裏返った男の断末魔が響き渡るサナトリウム。
そんな中、魔女にお呼びがかかった。理由は、その変態の王の一件だった。
血走った目で寝ているラプンツェルをおいて、お連れを引き連れ彼女が向かう。
そこには別室で困り果てる家臣達がいたのだった。
どうやら、亜夜の事をサナトリウムの上層部が内容を変えて話してしまったようだ。
彼女は、呪いを解除できる特別な魔法使いなのだとライムが説明あると小声で耳打ち。
行政に存在がバレたと青ざめる三人に事情を軽く言って、安心させる。
王様にかかった呪いを解除して欲しいと家臣たちは懇願してきた。
「……どういう意味です?」
怪訝そうに聞き返すと、王様は変な魔法使いに呪いらしきモノをかけられているのだとか。
本人は悦に浸ってあの様子だが、本人の感覚では本当に鎧を着こんでいると錯覚している。
つまり、本人の精神に異常をきたしている状態。
家臣は王様に畏れ多くて何も言えず、黙って従っているだけだったという。
指摘した身内や親衛隊も、王様と揉めてちょっとした痛い目をみて被害が出ている。
一国の王があれでは外交にも問題が出る。
変態がおさめる国など相手されなくなるかもしれない。
国民への世間体にも悪いし、早く何とかしてくれと泣きつかれた。
「……はぁ」
まさか、王様まで救うことになるとは。
本当にどいつもこいつも、魔女に頼りすぎる。
だが、この状態が本当ならばサナトリウムとしても大きな利益につながる。
顔を見たことがなかった上層部は亜夜を一瞥する。
――サナトリウムの為にやってくれるな? という意思。
利権が関わると大人は汚くなる。不敵に笑い返す一職員の彼女。
全く異界の者をまだこき使うつもりらしい。まぁ、いいだろう。
金回りが良くなれば給料も良くなるし、この子達にももっといい思いができる。
自分の為に王族に恩を売っておけば便利になる。
ライムが上の人に堂々と渡り歩く彼女を見て、引きつった顔をした。
「私は一国民に過ぎません。確証はしかねます。ですが、尽力いたします」
家臣たちは車椅子の少女に、泣いて感謝した。
このままでは国として成り立たなくなる可能性もあったのだ。
国家の危機に、女の子はこう言った。
「ただ。それを行う手前、私にもリスクがあります。ですので、条件があります」
まるで悪女のように、ニヤリと顔を歪めて嗤った少女。
その条件とは……。
「ぬっ? 何事であるか?」
満足気に姿見の前でポーズを決めていた王様。
なんだか、呪いを受けた影響か賢王だったこの人はナルシストのド変態に変貌していると嘆く家臣。
連れてこられた車椅子の少女を見て、何事かを問う。
畏まった臣下は、見えない服が見えるという少女を連れてきたという。
どうやら、魔法使いらしい。
「ほう?」
それには興味があるようで申してみよ、と亜夜は言われる。
今の王様には着ているモノの話題は禁句だ。
下手に言うと逆鱗に触れる。故に、一種のこれは博打だった。
何せ誰にも見えない、本人だけが認知できる虚無の服。
適当なことを言うと、国外追放される可能性だってあった。
王も周りが馬鹿なことばかり言っていて、なぜ見えないのか不信感があった。
だが目の前のこのか弱い子供の目は、とても自信に満ち溢れている。
試してみるのも一興と思うほどには。気紛れでどんな服を身に纏うか説明させる。
「それは服、じゃありませんね」
瞬間、その場にいた全ての人間が凍りつく。
王様ですら、一瞬怖気が走り素っ裸の上半身が鳥肌が立った。
少女の目は、血のように鮮やかな紅をしていた。その双眸が、王様を捉える。
少女は王様を見つめて、説明するように言葉をゆっくりと紡ぐ。
「……あの。それは、暑くないんですか? というか、動きにくいとは思いませんか?」
無礼ととも取れる態度。別のことで、彼女は大変困惑している。
臣下達が口をはさむが、王様がそれをかき消すように一喝した。
その言葉に王様は目を見開て、静かに、王様は言った。
「……これは驚いたな。其方、確かにこの自慢の鎧が見えているようだな」
「はい。この目でしっかりと。ですが……君主たるお方が、そのような格好でよろしいのですか?」
「はっはっは。まあ、そう言うな。魔法使いよ、これでも一級の品なのだぞ?」
元来、この国の王は気さくな方であり、国民にも人気のある名君。
久々に君主は話の通じる人間に出会い、上機嫌で身に纏うそれを自慢する。
「ご立派なフルプレートアーマーです。けれど、煌びやかな白銀では、戦場では目立つのではないのですか?」
「余はこう見えて、騎士団の団長を務めていたのだ。腕は衰えてはいないつもりである」
「重装備を敢えて身に付けているのは、鍛錬……ということですか?」
「その通り。日々常に変化する国を動かすとは、玉座に座って命じていれば良いわけでもないのだよ」
「感服いたしました……」
ぎこちない口調にハラハラしている周囲。
国王相手には、流石に亜夜も緊張しているようだが、上機嫌の国王は気にしないと言った。
どうやら今、君主が着ているつもりなのはフルプレートのアーマーらしい。
見えていない彼らには素っ裸にしか見えない。
然し彼女の目には……しっかりと重厚な鈍い銀色の甲冑が見えている。
国旗を左胸にあしらえた、とても立派な甲冑だ。
兜の開閉部分からこちらを見て、満足げに王は笑っている。
「家臣達は皆、余が裸だと言うのだ。だが見てみろ。若き魔法使いには見えているではないか!」
自分が正しいというように、家臣たちに言う国王。
ここからが問題だ。
取り敢えず、信用は勝ちとった。見えるということは証明したわけだが。
次の手は、どう出る。
家臣と国王が軽く言い合いをしている間、亜夜は思考を巡らせる。
荒っぽい手だが、強引に行くことにした。
下手なことをすると処刑されそうだが、やるしかない。
亜夜は言葉巧みに騙すことはできなさそうだ。
呪いで言うことを聞かせるわけにもいかない。
なので、周りに先んじて言っていたとおり荒っぽく行く。
「…………国王様」
そう切り出した亜夜は、国王に恐縮ながら握手をしたいと命知らずなことをお願いした。
家臣がまたも顔色が悪くなる。アリスもグレーテルも、不安でたまらない。
マーチに至ってはふらっと倒れて気絶した。
「構わぬよ」
気前良く王様は何かの仕草をして、片膝を付いて右手を差し出した。
亜夜にはガントレットを外しているように見える。
亜夜はゆっくりと、その手を両手で掴ませてもらい、
「国王、本当に申し訳ございません」
一言、詫びを入れてから魔法を使った。
「ぬぉぉっ!?」
国王は失神するほどの強さの電撃を浴びて、気絶した。
倒れる国王を慌てて側近が介抱した。
「すみません、やはり話は通じないようです。ですので、かなり荒いやり方をしてしまいました」
周囲に謝って、案の定呪いらしきものが見えると説明。
どうすればいいとパニックを家臣達は一斉に起こす。
魔法使いお墨付きにされている以上、この国の信用が窮地に陥っている。
「私がこの場で今すぐ、呪いを迅速に解除します。ただ、人がいると失敗する確率が高くなります。国王と私の指定した人物以外、退出願います」
人払いをしないと集中できない。というか、呪いを解除しているのを見られたら不味い。
国王に何かあったらすぐに知らせるように、サナトリウム側がライムに監視するように命じた。
家臣達は信じて、ぞろぞろと隣の部屋で終わるまで待つ。
万が一ということもあるので、兵士が部屋の前で二人ほど待機している。
他は全員、退室だ。マーチは部屋に連れていってもらった。
亜夜が指定したのはアリス、グレーテルに、監視役のライム。
ぶっ倒れる国王はソファーに横たわって、目をぐるぐる回している。
バタンと閉まるドア。途端、緊張が抜けるアリスとグレーテル。
「あんた、危なっかしいにも程があるわよ?」
「みてて冷や冷やしたよ……」
まさか君主に魔法使って気絶させるなんて蛮行をするとは。
特例の場合除いて処刑されても文句は言えない。躊躇いなくそれをやったのだ。
心配している二人に微笑む亜夜。後悔なんてしていない顔だった。
「亜夜さん。それで、本当に国王様は……?」
「はい、間違いありません。これは呪いです。アリスのと同じ、五感操作に加えて幻惑効果。ま、今の私なら解除できますよ。アリスので慣れてますから」
国王に近づき、国家転覆を狙った魔女の仕業。危うく滅びかけていたようだった。
国王がこなければ、そのうち外交問題や不信感からのクーデターで破滅していたかもしれない。
事情を知る三人は、ホッとした。ライムは実態で何とかなることに。
二人は亜夜が殺されずに済む方向だということに。
呪いを解除するかわりに、国相手に一機関が要求したこと。
国王を救うかわりに、もっと沢山の税金を投入して金を寄越せ。
上層部の欲していた金だった。
即物的かもしれないが、連中がそう言う顔をしていたので要求したのだ。
上層部はしてやったりとほくそ笑み、苦い顔で然し背に腹はかえられない彼らは約束した。
予想外の収入アップだ。亜夜は本当によく働いてくれる。稀に見る逸材であった。
「サクっと解除しましょう。何時までも良い人とはいえ、君主が変態でいられても困りますから」
国王相手でも言いたい放題。アリスとグレーテルは苦笑い。
ライムは聞こえていないか周囲を慌てて見回している。
悪びれない罵倒にしながら、目を閉じて王様のでっぷりした腹に手をかざす。
固唾を呑んで見守る彼女たちの前で、国王と魔女から発せられる紅い光が部屋の中をゆっくりと照らしていった。
顛末から言うと、呪いは解除された。
意識の回復した国王は、なぜこんな格好をしているのかよくわかっていなかった。
その時の記憶は霞んで思い出せないようであった。
幻惑で遮断されていた素っ裸による寒さで風邪をひきそうになりながら、呪いを受けていた事を周りに教えられて、唖然としつつ恩人である少女のもとに来る。
今度はしっかりと国王らしい格好で。
「来度は、余は其方に救われたそうだな。礼を言う」
「英断をしたのは王様の側近の方々です。私は、微力に協力させていただいた程度ですので」
控えめに微笑み、彼女は連れを可愛がりながらそう言った。
褒美をとらせると言われても、個人的には亜夜は欲しいものはもう手の中にある。丁重にお断りした。
「みんな、何か欲しいものはありますか?」
家族と思われる少女たちに問うが、みんな一斉に首を振る。欲しいものは、何もない。
「……其方らは、無欲なのだな」
「いいえ。私達は、もう満たされているんです。今が幸せですから」
普通なら、王から賜ると聞けば、皆栄誉なり金品なりを求めるものだ。
だが、彼女達は何も求めずにいた、久方に見る人種だった。
「お金とか、そういうのはあまりこだわりがありません。名誉には、興味ありません。今は、みんながいるだけで幸福です」
「……そうか」
穏やかに笑う彼女の顔は満たされていた。答えは、そこにあった。
国王は最低限の礼儀として、サナトリウムに個人的な報酬を支払った。
静かに迫っていた国家の危機は回避された。
犯人探しをすると同時に、関係者たちは何度も頭を下げて帰っていった。
上層部は亜夜に特別手当を出して、みんなはそれぞれ、美味しいものを食べたりする。
そんな日々。亜夜は魔女と自分を言いながら何時の間にか、国すら救っていた……。