おばさんは薬学教授の娘に転生しました。   作:angle

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賢者の石18

ハリーが寝てる間に行われたクィディッチ第3戦では、原作どおりレイブンクローが勝利をおさめて。

その1週間前にハッフルパフとの試合に勝利したスリザリンとの間で得点が計算されて、スリザリンは見事優勝杯を手にすることができていた。

 

 

そんなこんなで、学年末パーティーの直前に総合得点を見に行けば、なんと原作と同じ点数が並んでいたんだ。

なんのことはない、私が稼いだ30点は、夜間徘徊したドラコの減点が20点から50点に引き上げられたことで相殺されていたらしいです。

 

 

(なんか、ドラコにはほんと、悪いことをしたというか)

 

 

このパラレルワールドは原作の力が強いのか、ある一定の法則でなのか、変えられない部分というのが存在するのかもしれない。

それとも、これも予定調和のうちの一つで、私がいて変わった部分も本来そうあるべきだった出来事として既に決められてることなのだろうか。

 

 

 

 

来年こそは下手に点をもらわないようにしようと誓って、グリフィンドール色に染められた大広間を、卒業していく先輩たちを見送りながらあとにする。

と、なぜか私のところへ向かって、例のグリフィンドール三人組が駆け寄ってきたんだ。

大広間の前の廊下はただでさえ混乱していたから、私は同室のみんなとも離されて容易に連れだされてしまう。

両手を引かれてしばらく走ると、ようやくあたりに人がいないことが確認できたのか、息を切らせた3人にほとんど同時に迫られていた。

 

 

「ミューゼ!」

「スネイプ先生はどちらにいらっしゃるかしら!?」

「僕たち今すぐ会いたいんだけど!」

「先生の部屋へ連れて行ってくれる?」

 

 

……なんなんだいったい。

訳も判らず歩きだすと、3人はせかすように私の背中を押して、あれよあれよという間に教授の部屋へと案内させられてしまった。

 

 

「教授、ミューゼ・スネイプです」

「入りたまえ」

 

 

学年末パーティーの直後でいないかとも思ったけれど幸い部屋に帰ってたらしい。

私が「失礼します」と声をかけてドアを開けると、うしろから様子を見ていた三人組が、私の前に躍り出て次々と話し始めたんだ。

 

 

「グリフィンドールのハリー・ポッターです!」

「同じくロナルド・ウィーズリーです!」

「ハーマイオニー・グレンジャーです!」

 

「僕たち、先生に謝らなければいけないことがあります!」

「僕たちずっと、賢者の石を盗もうとしているのが、スネイプ先生だと疑っていました!」

「それと、ハリーの箒に呪いをかけたのも、先生だと思い込んでいました!」

 

「誤解していてすみませんでした!」

「すみませんでした!」

「すみませんでした!」

 

 

まるで小学校の卒業式でやった呼びかけみたいに声を合わせて。

3人が代わる代わる教授に謝罪の言葉を述べて、頭を下げたんだ。

 

 

……侮ってた、と言わざるを得ない、かも。

確かにグリフィンドール生の勇気は称賛に値する。

 

 

以前、私が言ったんだ。

面と向かって教授に謝らない限り、私はあなたたちを許さない、って。

 

 

教授は少しの間あっけに取られていたようだったけど。

やがて我を取り戻したのか、私に向かって言ったんだ、私の名前を。

 

 

「ミューゼ!」

「っ、はい!」

「今すぐこいつらを追い出せ!!」

「はいっ!!」

 

 

最初の“はい”は驚きで。

2度目の“はい”は喜びで。

 

 

声を上ずらせながら返事をしたあと、私は「失礼しました!」と叫んで教授の部屋を飛び出した。

速足でずんずん歩いていけばすぐに教授の部屋が遠くなる。

ほどなくして3人も教授の部屋を飛び出したようで、駆け足で私に追いついてきたんだ。

そして、歩きながら私の顔を覗き込むように見て、少し驚いたように言ったのはハーマイオニーだった。

 

 

「ミューゼ! あなたいったいどうしてそんなに嬉しそうなの!?」

「もしかしたら初めてかもしれない。教授が私の名前を呼んでくれたの」

「へ?」

「私の名前、ミューゼ、って。だから今すごく幸せなんだ、私」

 

「じゃあ今までなんて呼ばれてたの?」

「おまえとか、教室ではMs.スネイプとか」

「どうして? 嫌われてたとか?」

「ううん、簡単な話だった。今までは教授と2人だけで話してたから、名前を呼ぶ必要がなかったの。でも、今はほかに3人も人間がいたから」

 

 

嬉しかったから、私は思ったことをほとんどぜんぶ垂れ流すように話していて。

一気に話したらさすがに息が切れてきたから、私が立ち止まるとほかの3人も私を囲むように廊下に立ち止まった。

 

 

「それより、僕達ちゃんと謝ったよ。ミューゼ、前に言ったよね。謝ったら許してくれる、って」

「言ってないよ。謝らない限り許さない、って言っただけ」

「同じことだよ! 僕達ちゃんと謝ったんだから許してくれたっていいじゃないか!」

「私、ミューゼとずっと友達でいたいの。だからお願い、私達と友達になって」

 

 

いやだから、なんでそんなに私に懐いてるんだよ。

べつに私、君らにそんな親切にした記憶ないんだけど?

 

 

「前に言った通り、私はグリフィンドールの友達は作らないって、教授と約束してるの。だからみんなとは友達になれないよ」

 

 

言葉はそんなだったけれど、さっきの嬉しさが残ってて満面の笑顔のままだったから、その言葉に説得力なんてものはまるでなかった。

 

 

「なんで!? 僕、ミューゼと本当に友達になりたいんだ。ミューゼってなんだかお母さんみたいで……」

「……は?」

「ちょっとハリー! いくらなんでもお母さんは失礼すぎよ!」

「そうだよ。僕だって姉さんくらいだったのに」

 

 

いやロン君、それもちょっと失礼だ。

もっとも、私はロン君の母親よりもかなり年上なのは間違いないが。

 

 

「でも、みんながちゃんと謝ったから、許すのは許してあげる。それと教授に名前を呼ばれるきっかけも作ってくれたから」

「だったらついでに絶交もやめようよ」

「それはダメ。私には教授との約束がなにより大切なんだもん」

「そんなに教授教授って。君はこれからの人生ずっと教授の言う通りにするつもり?」

 

「そうだよ。私は教授が言う通りの人間になって、教授が言う通りの人生を歩んでいくの」

「そんなこと言ってたら恋人の1人も作れないじゃない」

「いらないもん。私は恋人もいらないし、結婚もしない。教授の老後の世話をするのが将来の夢なの」

「……ついていけないよ」

 

 

ロンがあきれ顔で言う。

まあ、たかが11、2歳の子供に、私の夢を判ってもらおうなんて最初から思ってないから。

 

 

私がロンと話してる間黙ってたハリーは、少し別のことを考えてたらしくて。

再び歩きだしたところで、ちょっと深刻そうに声をかけてきた。

 

 

「ねえ、ミューゼ。スネイプ先生に聞いてる? ……その、例の部屋でのこと」

「クィレル先生が亡くなった、ってことだけ。私、ハリーが来たところで気絶しちゃったから、そのあとのことは知らないんだ」

 

「うん。……あのあと、ミューゼが倒れてから、僕はみぞの鏡から賢者の石を手に入れたんだけど。そのすぐあとにスネイプ先生が来たんだ。それで、ミューゼのことを見つけて、何度もミューゼの名前を呼んでた。だからミューゼが名前を呼ばれたの、今日が初めてじゃないよ」

 

 

……やっぱり、あれは空耳とかじゃなかったんだ。

教授は確かに私の近くにいて、私の名前を呼んでくれたんだ。

 

 

「そっか。ありがとうハリー。すごく嬉しいよ」

「だったら絶交は解いてくれるよね?」

「それはダメ」

「じゃあどうしたら僕達はミューゼと友達になれるの?」

 

「べつに友達にならなくてもいいじゃない。私、みんながそんなに執着するほどの人間じゃないよ」

「そんなことないわ! ミューゼはほんとに違うの! ミューゼってね、私にとっては灯台みたい。いないと迷っちゃう。ミューゼがいてくれるからこの先どう進んでいいか判るの」

「僕のこと、あんな風に叱ってくれるのはミューゼだけなんだ。でもちゃんと僕のことも判ってくれる。ほんとにミューゼはお母さんみたいに思えるんだ」

「僕らだけでは気付かないことにミューゼは気付いてくれる。僕達にとってミューゼは必要な人だよ。……確かにちょっとついていけないところはあるけどね」

 

 

さて、困った。

なにが困ったって、聞いてて嬉しくなっちゃうのが困った。

でも、比べたらやっぱり、私はこの3人よりも教授がいちばんなんだよね。

 

 

「みんなの気持ちは判った。でも、私はやっぱり教授との約束を守るよ」

「……じゃあ、スネイプ先生が許してくれたら、友達になるんだね?」

「そういうことになるかな」

「だったら許してもらおう」

「そうね」

 

 

そう言ってきた道を戻ろうとした3人を私は慌てて制した。

 

 

「待った! 今日はやめた方がいいから! さっきので機嫌最悪だから!」

「でももう夏休みよ? 今日行かなかったら9月までお会いできないわ」

「ちょうどいいから少し頭を冷やそうよ。もしも9月まで同じことを思ってたら、ってことで。ね?」

「……そうしよう。さすがに今日の今日はやめた方がいいって僕も思うよ」

 

 

どうやら納得してくれたらしくて私は大きくため息をつく。

……まあ、どうせ2年の初っ端は空飛ぶ車事件で教授の機嫌は極悪になるし、そのうちに彼らも私のことなんか忘れてくれるだろう。

 

 

 

お母さん、か。

私の目か髪か、少しでもどこか似た特徴があればよかったのにね、ハリーのお母さんと。

そうすれば教授も、もう少しだけハリーより私のことを気にかけてくれたかもしれないのに。

 

 

 

みぞの鏡が見せてくれた幻を振り切るように一度だけ頭を振って。

 

 

私は、長い休みを教授と一緒に過ごすために、旅の荷物をまとめに部屋へと向かった。

 

 

 




お読みくださいましてありがとうございました。
いちおうこれで、ミューゼのお話は終わりになります。
執筆した当初はもちろんこの先も続けるつもりで書いてたんですけどね。
伏線やらなにやら何も回収できずに終わっていますが、おそらく今後続きを執筆することはないと思いますので、これにて完結とさせていただきます。

チラシの裏にもかかわらずおいでくださった皆様、お気に入り登録してくださった皆様、コメントくださった皆様、本当にありがとうございました!!

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