おばさんは薬学教授の娘に転生しました。   作:angle

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賢者の石5

 

「ミューゼ・スネイプ。おまえはどうして僕に挨拶にこないんだ」

 

 

朝食の席で呼ばれて振り向くと、背後に取り巻き2人を引き連れて仁王立ちしたドラコ君に思いっきり睨まれました。

 

 

 

どうやら知らず知らずのうちにプライドを傷つけちゃったみたいだね。

私も立ち上がって、ドラコ少年に笑顔を見せる。

 

 

「それはごめんなさい。今ここで挨拶すればいいかな?」

「あ、ああ。仕方がない」

「初めまして、ミューゼ・スネイプです。Mr.マルフォイ、同じスリザリン同士、仲良くしてくれると嬉しいです」

「ドラコ・マルフォイだ。おまえの父親は僕の父の後輩で今でも懇意にしてるんだ。だから本当だったらおまえの方から僕に挨拶にくるべきだったんだ」

 

「そうだったんだ。知らぬこととはいえ、たいへん失礼しました。Mr.マルフォイ、父がいつもお世話になってます。お父様にもよろしくお伝えください」

「判ればいい。……クラップ、ゴイル、行くぞ」

 

 

踵を返して去っていく3人を、あるていど離れるまで立ったままで見送る。

そのあと椅子に座ると、同室の3人が私を見てさっそく話し始めた。

 

 

「なによあれ。失礼なのはあっちじゃない」

「さすがは純血の一族、マルフォイ家の直系男子、って感じね」

「ミューゼも黙って言うこと聞いてることないのに」

「あれはあれでよかったんじゃない? 下手に絡まれてもいいことないし」

 

 

うん、アスリンはよく判ってるね。

プライド? そんなもの、社会に出たら何の役にも立たないことは、52年も生きてる私には常識以上のものだから。

 

 

 

プリプリ怒ってるミリーを私とアスリンとでなだめつつ、ふと視線を移動させると、グリフィンドールのテーブルでドラコがネビルに絡んでる姿が見えた。

そういえば今日は飛行訓練の初日だから、例の思い出し玉の騒ぎだったりするのかな?

声までは聞こえないけどたぶん間違いないだろう。

ほら、マクゴナガル先生が仲裁に入って、ドラコがテーブルを離れていったし。

 

 

こうしてスリザリンの立場になると、ドラコがネビルに絡むのも判る気がする。

だって、ネビルっていわゆる授業クラッシャーで、グリフィンドールとの合同授業になる魔法薬学では毎回なにかしらスリザリンの生徒は被害を被っているんだ。

この間の鍋爆発の時だって、せっかくドラコが教授に褒められてたところだった訳だし。

もちろんネビルが全面的に悪いとは思わないけど、この場合のドラコの心情はあるていど察してあげていいと思う。

 

 

 

 

私にとって飛行訓練は、マグルで言うところの体育の時間、箒は自転車くらいの認識だった。

前世で体育の授業はめちゃくちゃ苦手だったけど、自転車は小学校上がる頃には補助輪が外れたし、あまり心配はしてなかったんだよね。

まあ、確かに地面がないのはちょっと怖いと思うけどさ。

要は習うより慣れろというヤツで、転びながら覚えるのが一番の早道だと思ってたりする。

 

 

いかにも体育教師なマダム・フーチの指導のもと、箒の左側に立って上がれと言う。

落ち着いて何度か言えば、箒は私を認識してくれたのか、すーっと手の中におさまってくれた。

夢小説で読んでるときにはなんでこんな儀式が必要なのか判らなかったんだけどね。

(ふつうにいきなり跨っちゃえばいいじゃんと思ってました)

さすがにこれだけの人数がいっせいに練習する訳だから、最初に自分の箒とコミュニケーションを取るのは必要なんだと理解したよ。

 

 

上がった人も上がらなかった人も、箒に跨って握り方のチェックを受けて。

いよいよ飛び上がるという時だった。

あらかじめ知ってたこととはいえ、またしてもネビルがやらかしてくれたのだ。

合図の前に飛びあがったネビルは、見る間に箒から落ちて手首を骨折、マダム・フーチに保健室へ連れて行かれてしまった。

 

 

残されたのは、箒に跨った格好のままぼうぜんと見送る生徒たちだった。

 

 

(ネビル……悪いけど私も君が嫌いになりそうだよ)

 

 

私は知ってたからまだマシなんだけど、ほかのみんなは箒で飛ぶのをワクワクドキドキしながら楽しみにしてた訳だからね。

特にドラコなんか、自分の雄姿をみんなに見せられるってすごく張り切ってたんだし、悔しさはひとしおなんじゃないかと思う。

ネビルの思い出し玉を拾って空高く舞い上がったドラコを、私は止める気にはならなかった。

 

 

「ねえ、危ないわ」

「大丈夫でしょ。ヘリコプターと遭遇して無事に戻ったんだから」

「ミューゼったら、まさかそれ本気にしてるの?」

「……」

 

 

信じてあげようよ、そのくらいの可愛い嘘。

ドラコを追っていったハリーが落とされた思い出し玉を追って急降下すると、周りからたくさんの悲鳴が上がって。

無事にキャッチしたハリーをマクゴナガル先生がすぐに連れ去ってしまった。

 

 

けっきょくマダム・フーチが戻ってくることはなく、私たちは箒をその場に置いたまま解散となった。

 

 

 

 

 

 

「 ―― と、こんなところです、教授」

「……」

 

 

その週の土曜日、私は教授の肩をもみながら、ことの次第を教授に話し終えていた。

教授の機嫌が悪いのは、守るべきハリーが一年生ながら危険なクィディッチのシーカーになったことなのか、それともそれまでシーカーが弱かったグリフィンドールに新たな戦力が追加されたからなのか。

両方なのかもしれないけれど。

 

 

「私としてはハリー・ポッターよりもネビル・ロングボトムの方をどうにかしてほしいところですけど」

「……毎年いるのだ。ああいうのは」

「たいへんなんですね。よければ魔法薬学の時間だけでも私が組みましょうか?」

「おまえが構うことはない」

 

 

一言で切り捨てられました。

まあ、私だって好き好んで劣等生の教育係をやる気はない。

 

 

「それはそうと、ドラコ・マルフォイのことを教えてもらってなかったんですが」

「なんのことだ」

「彼の父親と教授が懇意だということです。私が挨拶に行かなかったことをとがめられました」

「……別に言うほどの仲でもない。放っておいて構わん」

 

「マルフォイ家のクリスマスパーティーに行ってたことが私にバレるのが嫌だったんですか?」

「……!」

「黙っているということは行ったことがあるんですね?」

「……」

 

 

教授はクリスマスにはたいていホグワーツに残るため、私もマグルの教会のミサに出たりして過ごしてたのだけど。

何回か教授が違う匂いをさせて戻ってきたことがあったんだよね。

(まるで夫の浮気を悟る妻だよコレ)

まあ、教授がマルフォイ家と家族ぐるみのお付き合いなのは知ってたから、そんなことだろうとは思ってたさ。

 

 

「別に怒りませんよ。私、パーティーとか好きじゃないですから」

「……断り切れなかったのだ。我輩にも大人の付き合いというものが」

「だから怒ってないですって。次からは堂々と言ってから出かけてください。子供にも子供なりの付き合いがあるんです」

「……判った」

 

 

教授って、不意をつかれるとつい本音が出ちゃうタイプみたいだよね。

(こんなんで二重スパイとか大丈夫なのかと思うけど、仕事モードの時はたぶん違うんだろう)

実はこれまでもけっこうこのテクで教授の嘘を暴いてきたので、教授も私には嘘がつけないと思ってるのかもしれない。

 

 

 

 

翌週の飛行訓練ではマダム・フーチも学習したのか、ネビルを外して他のぜんいんにある程度の飛び方を教えたあと、ネビルだけを個人的に指導していた。

おかげで私は少なくともほかのみんなと同じくらいには箒で飛ぶことができるようになって。

あんがい箒で飛ぶのも悪くないな、と、教授がらみ以外で初めて魔女として生まれたことを嬉しく思った。

 

 

 


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