イベントの配信は昼には終わった。花丸は観光をしてくるといっていたから――おそらく沼津に戻るのは早くても夕方だろう。
きっと花丸は帰ってきたら連絡してくれるはずだ。
午後からはバイトだった。バイトの予定を入れたときには、こんなにやきもきするとは思ってもいなかったから仕方がない。
それでもバイトのせいで多少は気がまぎれた。
夕方になり、俺は菊池さんたちに挨拶して帰宅した。
日が暮れても花丸からの連絡はなかった。
心配になり始めたころ、ようやくスマートフォンが鳴った。急いで電話に出る。
「はい、里見です」
「あ、遼さん、こんばんは」
花丸の声は明るかった。俺はすこし安心する。
「お疲れさま、花丸さん」
「はい、なんとか無事、帰ってきました」
しばらく沈黙が流れた。
ライブのことを話そうとした矢先、花丸が口を開く。
「あの、本、ありがとうございました。今度、取りに行きますね」
「いや、俺が持っていくよ。量もあるし、大変でしょ」
「ううん、マルが取りに行きます」
絵に描いたような押し問答だな。
俺はくすっと笑う。つられたように花丸も笑った。
「また今度、決めようか」
「そうですね」
また花丸は黙り込み、俺は決意する。どうせいつかは触れなくちゃ、だよな。
「あの、ライブだけど、ネットで見たよ」
「あ、見てくれたんですね」
花丸の声はすこし震えていた。
「うん、前回よりもよくなってたと思う」
「マルも、そう思います」
「……その、結果は、あれだけど」
「……はい」
「でも、結成してまだ三か月ちょっと、だよね。花丸さんたちは二か月だし。がんばったんじゃないかな」
気休めにしかすぎないとは思ったが、そういわざるを得なかった。
花丸は小さな声で話す。
「……オラたち、たしかに、がんばったずら。学校のみんなにも、すごいって、いってもらって。だから、やれる気がしていたんだ。でも、結果は……ぜんぜんダメだったずら」
「うん、その、残念だったね」
花丸はなにもいわなかった。
胸がどきりと痛む。花丸のそばにいてあげたい。無性にそう思った。
「花丸さん、いま、自宅かな」
「うん、千歌さんちの車で、送ってもらって……」
「わかった。じゃあ、すこし待っててよ。花丸さんが買った本、一冊だけ持っていくから」
「えっ」花丸は息を飲む。「もうバスは終わってますよ」
「もちろん、自転車で行くよ」
「そんな、夜だし、危ないずら」
心配そうな口調に俺は嬉しくなる。
「大丈夫。しっかりライト、
「でも……」
「……迷惑かな」
「そんなことはないずら!」
「それじゃ、決まり。すぐに行くから」
花丸がなにかいう前に、電話を切った。
・
神保町で花丸が最後に買った一冊をメッセンジャーバッグに入れ、自転車に乗った。ライトは兄が置いていったもので電池式のLEDライトだった。ママチャリとはくらべ物にならないほど明るい。予備の電池もしっかりと用意した。
花丸の家からの帰りに日が暮れてしまったことはあったが、最初からずっと暗闇を走るのは初めてだ。いつもの道も夜になると雰囲気が違った。俺は慎重に進んだ。
江の浦のあたりで、ちょうど満月がのぼってきた。湾内の静かな海面に月光がきらきらと輝いた。
無心にペダルを踏むうちに内浦に到着する。いつものように参道の下に自転車を止めて階段を上がった。
山門の外で呼吸を整えてから境内に足を踏み入れる。境内は月の光と外灯で照らされていた。
花丸の家に向かおうとして、本堂の縁側に花丸が腰かけているのが見えた。俺ははっと息を飲む。
月と外灯、ふたつの青白い光を浴びる花丸は、まるで内側から輝いているように見えて、幻想的で美しかった。
ぼーっと境内を眺める彼女を驚かせないようにゆっくりと近づいた。
「こんばんは、花丸さん」
花丸は顔を上げる。
「あ、遼さん。こんばんは。わざわざすみません」
「いや、まあ、運動不足だから」
花丸は微笑み、うなずいた。
俺は鞄から本を取り出し、花丸に渡す。
「ありがとうございます」
花丸は両手で受け取った。
「あの、座ってください。それから、これ、どうぞ」
花丸はわきに置いてあった四角い箱を示す。それは菓子箱のようで、饅頭が並んでいた。
「おみやげの、バック・トゥ・ザ・ぴよこ
「うん、いただきます」
そういえば夕飯を食べていない。俺は花丸の隣に座り、ひとつつまんだ。
しばらくふたりで饅頭を食べた。
饅頭はおいしかったが、いつまでも黙っているわけにもいかなかった。
「そういえば、初めてのライブだよね。どうだった?」
「うん、すごく広い会場で、お客さんもいっぱいで、マル、緊張したけど、なんとか歌えたかなぁ」
花丸は乾いた笑いを浮かべた。
「そっか。それならよかった」
「はい」
花丸はうなずいてから視線をそらし、つぶやく。
「結果はダメだったけど……」
「だけど、東京まで呼ばれたんだし、その、将来は期待されてる、ってことじゃないかな」
「そうなのかもしれません、でも……」
実力差を思い知らされた、ということだろう。
俺がなぐさめる言葉を懸命に探していると、花丸は前を向いたまま話し出した。
「今日、沼津に戻ってから、ダイヤさんに会ったんです。そして、聞かせてもらったんだ。ダイヤさんたちが一年生のとき、スクールアイドルをやってたこと」
「え……」
あのクールなダイヤが。正直、意外だった。でも、たしかにダイヤは秋葉原でも妙に詳しかった。そういうことなら納得できる。
「それで、やっぱり東京に呼ばれて……そのときには、プレッシャーで歌えなかったんだ、って」
「そんなことが、あったんだ」
「だから、
得票がゼロ――ネットで配信されたのは上位グループの順位だけだ。
そうか、そんなに厳しかったのか。それなら……花丸が落ち込むのもわかる。
ひとつの疑問がわいた。
「ダイヤさんたちは、そのあと、どうしたのかな」
「
やはり、そうか。だとすると、もしかしてAqoursも……。
「花丸さんは、これから、どうするのかな」
「マルは……」
そういったきり花丸は口を閉ざした。やはり思うところがあるらしい。
ふと連敗続きの新人賞が頭に浮かんだ。
どうして俺は、応募を
花丸の横顔を見ながら口を開く。
「アイドルは、楽しい?」
「えっ」
花丸はびっくりしたように俺を見つめた。ふっと表情を
「うん、楽しいです。マル、ずっと本の世界にいて、楽しかったけど……あ、もちろんいまでも楽しいけど、アイドルの世界も、飛び込んでみたら楽しかったずら」
花丸は笑みを深くする。
「ルビィちゃんや善子ちゃんたちと一緒に練習して、かわいい衣装も着られて……。それに、オラ、歌もそうだけど、踊りのほうもなんとかなるのかなぁって、思い始めたずら」
花丸の顔に曇りはなかった。
うん、本当に楽しそうだ。……でも、それだけで続けられるほど甘くないってことだよな。
「楽しいだけなら、自分たちだけで活動していればいいのに、どうして動画を配信したり、コンテストに出たりするんだろうね」
俺は思考の
「それは……」
花丸は視線を落として考え込む。
「……やっぱり、みんなに楽しんでもらいたいから、かなぁ」
「うん、そうだよね」
俺もやっぱりそれが一番大きいな。よかった。そこは同じか。
「俺もずっと作品を書いてて……発表とかもしてるけど、どうして続けてるのかな、って考えたんだ」
「それは趣味だから、じゃないんですか」
「うん、もちろんそうなんだけど、それだけじゃないと思う」
花丸は不思議そうに首をかしげた。
「花丸さんと同じで、小説を書くのは面白いし、みんなにも読んで楽しんでもらいたい。まあ、趣味ってことだよね。それが一番大きいかな」
うなずく花丸。きっと自分のことを重ねているのだろう。
「でも、それだけじゃない。小説って作者の分身みたいなところ、あると思うんだ。だからやっぱり、みんなに
「はい、わかります」
「もちろん、それだけじゃなくて批評や批判もある。ほかの人の作品と比べられたりとか。そういうときは、寂しいし、悲しい」
「それも、わかる気がするずら」
花丸は微笑みを浮かべた。
「だけど、そういうところからも、やる気は出てくるんだよね。なにくそ、ってね。あまり人のことを気にするのは、よくないんだろうけど……そのこと自体は、認めてもいいんじゃないかな」
「認める、ですか」
花丸は繰り返した。
「うん。花丸さんは、今回、楽しかったと思うし、みんなにも見てもらえた。でも、結果は、その、いまひとつだった。花丸さんは、どうなのかな、満足してる?」
「それは……」
花丸は目をそらす。そのまま静かにいった。
「正直にいえば、もうちょびっと、なんとかしたいと思うずら」
「そうだよね。それが普通だと思うよ」
その言葉に花丸は視線を戻した。彼女の目を見つめて続ける。
「楽しいだけじゃなくて、みんなに評価されたい。それは、きっと悪いことばかりじゃないと思うんだ」
「そう、なのかなぁ……」
「それでやる気が出れば、ね」
俺は花丸に笑いかけた。
花丸はしばらく言葉の意味を考えるように黙り込んだ。
「……ん、そうかもしれないずら」
やがてそういって静かにうなずいた。
俺はほっとして続ける。
「あまり評判を気にしすぎるのもあれだけど、健全にがんばれば、いいんじゃないかな」
「健全って、なんずら?」
面白そうに聞く花丸。
「えーと、その、無理しすぎない、とか?」
「よくわからないずら」
花丸はつーんと視線をそらした。その横顔には笑みが浮かんでいた。
なんとなく、俺のいいたいことは伝わったのかな。
「今度の曲、夢に出会えてよかった、っていう歌詞だよね」
「はい」
「ちょうどいまのAqoursに、ぴったりかもね」
「はい、そう思うずら」
花丸は大きくうなずいた。
いつものように穏やかな表情の花丸。視線が
そのとき花丸の隣で短いチャイム音が鳴った。スマートフォンが置いてあったらしい。花丸は手に取る。
「あ、ルビィちゃんからメールずら」
花丸は慣れた手つきでロックを解除してメールを開いた。
「……これから、ルビィちゃんが来るみたいずら。善子ちゃんも一緒だって」
「こんな夜に?」
「みんなと話したいことがあるから、って」
花丸はスマートフォンをふたたびロックして腰を上げる。
「マルも行かないと」
そう話す花丸に迷いはないようだった。
もうひとつ饅頭をつまんで口に入れてから、俺も立ち上がる。
「あの、わざわざありがとうございました」
手をそろえてお辞儀をする花丸に、口をもごもごさせながら頭を下げた。花丸はくすりと笑った。
ようやく飲み込んでいう。
「ん、気をつけて行ってね」
「はい、遼さんも」
「あ、いい忘れていたけど……」彼女のやさしげな瞳に俺はつい口にする。「すくなくとも俺は、花丸さんを高く評価してるから。今回だって、誰よりも、可愛かったと思うよ」
花丸は青い光のなかでもわかるほど顔を赤く染めた。
「その、アイドルとして、だけど……」
「あ……ええと、ありがとうございます」
花丸は視線を落として消え入るような声でいった。
「そ、それじゃ」
山門の前で振り向くと、花丸は小さく手を振った。俺も振り返して、参道を下りた。
・
数日後、花丸からメールが届いた。
今度の沼津の花火大会でライブをやることになった、という内容だった。あの日のことについては詳しくは書かれていなかったが、ライブをするということは、つまりそういうことだろう。
胸のつかえが、ようやく下りた気がした。
花火大会に行けるようにバイトの日程は調整しておいた。花丸と一緒に行けないのは残念で仕方なかったが。
その週の平日の放課後には、ひさしぶりにバスに乗って内浦まで行った。キャリーバッグがあったからだ。自分のぶんはすでに取り出したが、それでもかなりの重さだ。
花丸とは自宅で会う約束を取りつけていた。
階段を苦労してのぼり、ようやく花丸の家にたどり着く。
呼び鈴を鳴らして待った。
じっちゃが来たら、どうしよう。いや、そのときはそのときだ。
「はーい」
よかった。花丸の声だ。
ガラリと玄関の扉が開き、花丸が顔を出した。いつもの練習着姿だった。
「こんにちは、遼さん」
「こんにちは」
花丸は大きく扉を開いて俺を招いた。
「どうぞ。わざわざすみません」
「お邪魔します」
バッグと共に中に入る。花丸の勧めに従い、上がり
「重かったでしょう、お疲れさまでした」
花丸の笑顔で疲れが吹き飛ぶ気がした。
「さすがに最後の階段が、つらかったね」
俺がそういうと、花丸ははっと息を飲んだ。
「あ、オラ、伝えておくのを忘れてしまったずら……。車や自転車で通れる、別の道が裏にあるずら……」
平身低頭してあやまる花丸をなんとかなぐさめて、顔を起こしてもらった。
「うう、申し訳ないずら……」
ちょうどそのとき、花丸の祖母がやってきて、お茶をふたつ置いていった。俺は頭を下げた。
花丸はまだしばらく落ち込んでいたが、思い出したように顔を輝かせた。
「あ、遼さんにお話があるんだ!」
「ん、花火大会の、ライブのこと?」
「それもあるんだけど、なんと、ダイヤさんたちが、Aqoursに入ることになったずら!」
同じく三年生の
俺は耳を疑ったが――彼女たちが一年のときのことを考えれば、それもありかもしれなかった。
「一年のときに、ライブで歌えなかったのは、三人にいろいろ誤解があったずら。それがやっと、解決して……無事に一緒に、Aqoursをやれることになったずら!」
花丸は目を輝かせる。
「これでAqoursも百人力ずら!」
ダイヤ以外のふたりはまったく知らないが、過去のことを考えると彼女たちの経験はAqoursにとってはプラスになるはずだ。
そして――きっとまた美少女なのだろう。
「花火大会のライブは、九人ですよ」
「わかった、必ず行くね」
「はい、よろしくお願いします」
花丸がどう歌うのか、そしてあのダイヤは――とても楽しみだった。
それからバッグの本をふたりで片づけて、俺は花丸の家をあとにした。
帰る直前、祖父が廊下の奥から、こちらを気にしているのがちらっと見えた。俺は目礼しておいた。
・
直後、更新されたAqoursのブログを確認してみると、やはりふたりは美少女だった。うむ、なにか不条理を感じなくもない。
花火大会はバイト先の書店や図書館からもそう遠くない河川敷で行われる。
地元の利を生かして、ある橋のたもとの位置に場所を取った。いわゆる穴場だ。有料の観覧席もあるが、さすがに
立ち見にはなるが背中はコンクリの壁に
「よう、早いな」
すっかり日が暮れて人が増えてきたころ、私服姿の北村があらわれた。
昨日、部室でAqoursのライブについてちらっと話を出したところ、北村が乗ってきたのだった。「花丸ちゃんがライブなら、どうせ遼はひとりだろ」というのが、やつのいい分だった。
「まあね、せっかくだから」
俺は肩をすくめてみせた。
「ほい、これ、やるよ」
「ああ、どうも」
北村が差し出したプラスチックのカップを受け取る。
北村はあとふたつ、ビニール袋に入れてぶら下げていた。
「それで、部長はまだ?」と北村。
「まだだよ」
そう、一緒に部室にいた泉もなぜか来ることになっていた。
ふたりでカップのコーラを飲みながらしばらく待つ。
「あ、部長」
北村が気づいて手を振る。泉が人混みを抜けてきた。
「こんばんは、北村君、里見君」
泉は白いカットソーに膝下丈の青系のフレアスカートだった。そういえば私服姿は初めてかもしれない。
「はい、部長」
北村は泉にカップを手渡す。
「私、炭酸、苦手なんだけどね」
泉がそういっているのが聞こえてきた。
会場にアナウンスが流れる。そろそろ始まるらしい。
「それで、Aqours、だっけ。ライブは何時ごろなの?」
泉が俺に聞く。
「前半と後半のあいだなので、八時前ですね」
「ふーん、楽しみね」
花火が打ち上がるこもった音に俺は視線を向ける。すぐに光の輪が空中に開いた。すこし遅れて腹に響く低音が届く。
最初の一発に続いて、スターマインが始まった。
俺はしばらくAqoursのことは忘れて――忘れようとして――花火に見入った。
『続きまして、浦の星女学院より、スクールアイドルグループ、Aqoursの特別ライブを開催させていただきます』
来た。
「お、いよいよだな」
「花丸ちゃん、どんな感じなのかしら」
北村と泉が話す。
俺は背筋を伸ばした。会場も静かになる。
ステージに花丸たちが小さく見えた。スクリーンにも映像が映る。こちらは九人のシルエットだ。
そして曲のイントロが始まった。思いのほか静かな曲調だった。
ライトが照らされ、まず果南が歌い始めた。千歌と曜があとに続く。
俺はステージとスクリーンを交互に眺めた。
三人に代わってダイヤと花丸、ルビィが中央へ出た。ダイヤは凛とした振る舞いで歌った。花丸とルビィがくるりと輪を描く。丈の短い、着物風の衣装は可愛さと共に気品を感じさせた。花丸に特によく似合うと思うのはひいき目だろうか。
そして鞠莉と善子、梨子が引き継いだ。
花丸のライブを生で見るのは初めてだった。スクリーンは全員を順番で映す形になるので、ステージが遠いのが悔やまれる。
オペラグラスでも持ってくればよかったな。
それでもメンバーたちが懸命に歌っているのはしっかりと伝わってきた。なによりも心に響くのは全員の、そして花丸の、輝くような笑顔だった。
全員が一緒になり曲はサビへと差しかかる。ちょうど花火が打ち上げられた。大輪の花を背景に九人は歌っていった。
そして最後、ステージのうしろにまるで滝のように花火が輝く。九人が静止して、曲が終わった。
会場は大きな拍手に包まれた。俺はそこに加わる。北村と泉も。
「いや、想像以上によかったぞ」
北村は興奮したように話す。
「そうね。もっと素人っぽいのかと思ったけど」
泉もうなずいた。
たしかに東京でのライブより、さらに一歩、よくなっていた気がした。
「それに、花丸ちゃん、可愛いじゃない」
俺にウインクする泉。
「まあ、そうですね」
ぶっきらぼうにそう答えると、泉はにこりと笑った。
「いろいろ経験を、積んでるみたいね、感心感心」
経験、か。どうなんだろうな。
「俺はだんぜん、善子ちゃんだけどなあ」と北村。
「善子ちゃん、ってどの子よ?」
「えっと……」
会話するふたりの隣で俺は直前のライブを思い出していた。
今度の歌詞、すれ違いと和解……がテーマなのかな。となると、やっぱり新しく入った三人の影響か。うん、Aqoursはまだまだ成長しそうな気がするな。
あ、でも、今回も花丸の作詞じゃないってことか……。
やがて後半の花火が始まり、俺たちは注意を戻した。
さまざまなプログラムが続き、結びの一発で花火大会は終わった。
北村は近くに止めた自転車で江の浦まで帰るといった。泉は俺とは方向が違うらしく、俺たちはその場で別れた。
河川敷から少し離れると、いつもの静かな街が戻ってきた。
花丸、泉もいってたけど、今日も可愛かったな。九人になって、ずっとよくなったし……。東京に行ったあと
それにひきかえ、俺は……。
あと数日で夏休みだ。秋締め切りの新人賞に、もし応募するなら、夏休みが勝負だろう。
作品、それなりに進めてきたけど、あまり筆が進んでないんだよな。
このままだと、花丸に顔向けできないぞ。あんな偉そうなことをいっちゃったし。……よし。
誰もいない路上で、俺はひとり決意を新たにした。