移動を開始する前に、スーツケースをコインロッカーに入れるように花丸に話した。重いスーツケースを持ち歩くのは大変だろう。
「遼さんはいいんですか?」
鍵をかけた花丸が俺を見ながら聞いた。
俺は肩をすくめてみせる。
「俺のは
「マル、風呂敷を持っていますけど……」
「まさか風呂敷で二日間、ずっと持ち歩くわけには行かないでしょ」
「はい、だから買う本は厳選しなきゃ、って思っていました。ということは……」
花丸は目を輝かせる。
「たくさん買っても大丈夫ずら?」
「まあ、バッグに入るくらいなら、ね」
「でも、遼さんに悪いです。重いものを持ってもらって、さらに沼津まで……」
花丸は
「ほら、俺も結構、買おうと思ってるから、そのついでだよ。大丈夫」
花丸に笑いかける。
「そうですか……。すみません、それでは、お願いします」
花丸は両手をそろえて一礼した。
うん、花丸の力になれるならお安い御用だ。
ふたたびJR――今度は黄色い電車だ――に乗った。
「地下鉄だと乗り換えが必要なんだよね」
「そうなんですね」
花丸は感心したようにうなずく。
俺も一度しか来たことがないが、花丸に先輩風を吹かせるのはどうにも
「でも、遼さんがいてくれて、よかったなぁ。危うくひとりになるところだったずら」
花丸はふうっと息をはいた。
「ん、でも、ダイヤさんもついてきてくれたと思うよ」
「それだとルビィちゃんに悪いずら。遼さんには重ね重ね、感謝です」
ぺこりと頭を下げる花丸。
「いや、俺も来たかったから」
花丸と一緒にいたかっただけなのにそういわれるのは、すこしこそばゆかった。
東京までダイヤとたまたま同じ電車だったことを話す。さらにたまたま行き先が同じだったので案内してきた、というと花丸はうなずいた。
「偶然って、あるものなんですね」
必然だという気もしたが――黙っておいた。
御茶ノ水駅で降り、西口から外に出て広い通りを歩き出す。秋葉原ほどではないがこの通りも混雑していた。
それとも、東京だとこのくらい当たり前なのかな。
「花丸さん、行きたい本屋さんは、チェックしてきたの?」
俺は歩きながら聞いた。
「はい。何軒か、調べてきました。スマートフォンに、ブックマークっていうんですか。してあります」
お、使いこなしてるみたいだな。
ビルの前のスペースに立ち止まり、花丸に見せてもらう。
「この、大宮書店と、ほりかわ書店は、外せないずら」
花丸が持つスマートフォンを隣からのぞき込むような形になった。ふわりと花丸から清潔感のある香りがした。
「くすのき書店も行きたいかなぁ……」
花丸はすこし前かがみになっている。そこで身長差のせいで自然に、シャツの胸元から内側が見えそうで――。
「……遼さんは、どこに行きたいですか?」
花丸がくるっと俺のほうを向く。
俺は急いで体を起こした。
「……?」
花丸は首をかしげる。
気づかれて、ないよな。うん。
素知らぬふりで続けた。
「そ、そうだなあ、俺はなんとなく、歩きながらのぞいていくのがいいかな」
「あ、それもいいですね」
「えっと、一軒だけ離れてるけど、あとは通り沿いだね。そこは最後にして、このまま行けばよさそうだよ」
「はい!」
花丸は
・
神保町。それは魅惑の地だ。スクールアイドルの聖地が秋葉原なら、本好きの聖地は神保町だろう。
坂を
「はぁ、このビルが丸ごと、本屋さんなんだぁ」
花丸はタイル張りのやや古風な外見のビルを見上げた。この新刊書店はたしか売り場が六階まであって、おそらく神保町でも一、二を争う広さだ。
「こっちに来ると、もっとすごいよ」
俺は花丸をうながしてもう少し通りを歩く。ゆるい左カーブを曲がると、その先はずっと真っすぐだ。
「ふわぁ、たしかに、これはすごいずら」
花丸はぽかんと口を開けて歩道の真ん中で立ちつくした。
通りには書店の看板がずらりと並んでいた。視界の果てまで続いている、といってもいいだろう。
ネットで調べて本屋の数はわかっているつもりでも、実際に見るとまた違う。花丸の驚きは想像できた。
でも、ちょっと場所が悪いかな。
そのままだと通行人にぶつかりそうだった。一瞬、迷ってから、思い切って花丸の手を取った。
「花丸さん」
歩道の端へと引き寄せる。
「あ、すみません」
花丸はあわてて移動した。そのまま俺の手を両手でつかみ、まっすぐに俺を見つめる。
「すごいずら。オラ、感動したずら!」
なにかをお祝いするように手をぶんぶんと上下に振る花丸。
「もう、こんなに本屋さんがあると、どこから行っていいのか、迷ってしまうずら!」
「う、うん、そうだね。よさそうなところから、見ていけばいいんじゃないかな」
「はい、そうします!」
花丸は白い歯を見せて笑い――自分がなにをしているか気づいたようだった。
「あっ、オラ……すみません」
ぱっと手をはなし、視線をそらした。頬が赤いのは、本屋に感動したことだけが理由だろうか。
「とりあえず、ここは?」
近代文学全般と書いてあるすぐ近くの店を身振りで示す。
「はい、行ってきます」
花丸はいそいそと店内へ入っていった。
はあ、びっくりした。手を握ったのは俺のほうだけど、まさかあんなふうに握り返してくるとは。
しかし、手を握るくらいで喜んだりして、中学生みたいだな。
俺は内心で苦笑した。ただ、花丸の手は思った以上に柔らかくて、温かかった。
・
目の前の書店は、神保町のほかの大多数の店と同じく古書店だった。ここもタイル張りですこし懐かしい感じの店構えだ。
通りに面した戸は一面ガラスで、店内がよく見えた。通路の部分以外には、戸の内側に
戸の上には伸縮式のオーニング――というほど
店の前にはワゴンがふたつあった。片方は文庫本が無作為に詰め込まれていて、どれでも百円だ。もう片方は判型の大きな本だが、旬を
ワゴンをざっと確認してから書店に入った。
店内に入ると、まず古書店特有のにおいが鼻をついた。かび臭いような、干し草のような、なんともいえないものだ。沼津の古書店でも同じにおいがするが、神保町のそれは密度が何倍にも濃い気がした。俺はこのにおいが嫌いではなかった。
店内の壁際には天井まで、中央にも天井ぎりぎりの高さの書棚が、ぎゅうぎゅうに並んでいた。さらに書棚の上にも本が積まれている。
棚のあいだの通路は人がすれ違うのがやっとだ。何人かの客が本の背中をじっくり眺めたり、本を手に取ったりしている。
店の一番奥には小さなカウンターがあり、カウンターの向こうで白髪の店主が本を読んでいた。
俺は並んでいる本に目を走らせた。
うーん、あまり俺向けの本は、ないみたいだ。花丸にはどうかな……。
花丸は隣の通路で見つかった。上気した顔で一心に棚を見つめている。
「花丸さん、なにかよさそうな本、あった?」
小さな声でそう呼びかけると、くるっと花丸は振り返った。
「素晴らしいずら!」
同じく小さな、しかし熱気のこもった声で花丸は答えた。両手を胸の前で祈るように組あわせる。
「オラの好きな作家さんの本が、こんなに並んでるなんて! オラ、どれを買えばいいか、悩んでしまうずら」
花丸の目はきらきらと輝いていた。
「それはよかった。でも、あまり、悩んでる時間、ないよ」
「ええっ、どうしてですか」
花丸は一転、悲しそうな顔になる。俺はにやりと笑った。
「なにしろあと、何十軒もあるわけだし」
「はわわ、そうでした」
花丸は目を白黒させた。
「とりあえず、よさそうな本屋さんの目星をつけておいて、あとでまた来ようか」
「はい、そうします!」
俺と花丸は一通り店内の本を確認してから次の書店へ向かった。
・
「はあぁ、まさか
何軒目かの――十何軒目かもしれない――店を出た花丸はうっとりとした表情だった。
俺は花丸から六冊ぞろいの箱入りの古本を受け取った。値札は見ないことにする。
「すみません、遼さん」
「いや、大丈夫だよ。毎回、いわなくていいから」
俺は花丸に微笑んでみせた。
とはいえキャリーバッグは順調に重さを増していた。俺の買った本もあるものの八割ほどは花丸だった。うむ、予想通りだ。自分をほめてあげたい。
ふと空腹を覚えてスマートフォンを確認する。午後一時をすぎていた。
「花丸さん、そろそろ食事にする? それとも、時間がもったいないかな」
「うーん、悩みますね。でも、腹が減っては
戦か。花丸にとってはそうなのかもしれない。
神保町はカレーが有名らしいと俺が提案すると、花丸も乗ってきた。
事前に調べておいた店へ――前回来たときには混雑していてあきらめた――行ってみる。
雑居ビルに入ると古書店の隣がその店だった。今日は幸い、数人が待っているだけで、すぐに順番が来た。
カレーはどこか懐かしい味で、まろやかだった。なぜかついてきたふかしたジャガイモもおいしかった。
「本屋さんと一緒っていうのは、神保町らしいですね」
花丸も気に入ったようだった。
昼食を食べ終えて書店めぐりを再開した。
「本屋さんは、通りの南側と西側に集中してるんだよね。どうしてかわかる?」
「ええと、どうしてですか?」
「本が日光で焼けないように、らしいよ」
「おお、なるほど」
「見て歩くほうは、片側だけですむから、楽だよね」
そんな豆知識を披露しながら歩く。
ふたりとも興味のない店は冷やかすだけにして、どちらかが見たい本屋だけ、じっくり見ていった。
一軒の前で花丸が立ち止まり、なかをのぞき込む。
「ここは、善子ちゃんが喜びそうずら!」
オカルト専門書店だった。ふむ、この前、沼津で会ったときもそうだったし、そういうキャラなんだな。納得だ。
そのまま店内に入るのかと心配したが、花丸は歩みを再開した。
「ここは、どんな本屋さんかな?」
次の書店も、店頭のワゴンには例によって雑多な格安本が並んでいた。通りに面した窓からは、中がちらりと見える。あれ、ここはもしかして。
俺が止める間もなく花丸は自動ドアから店内に入っていった。
すぐに花丸は出てきた。顔を真っ赤にして。ああ、やっぱり。
「オラには早すぎるずら……」
アダルト専門書店だった。
まあ、そういう店もあるな。俺ひとりなら、立ち寄るにはやぶさかではないけど……。
ちらっと隣の花丸を見る。うん、今日はやめておこう。
次の書店までなんとなく気まずい雰囲気が流れた。
読み
しかし楽しい時間がすぎるのはあっという間で……そろそろ花丸が最初に挙げた書店に行かないとまずそうだ。
「はぁ、もうそんな時間ですか。まだまだ足りないですね」
「うん、俺もそう思うけど」
その書店は御茶ノ水駅への帰り道から少し外れたところにあった。わかりにくい場所だったが、地図アプリを使って無事にたどり着く。
雑居ビルの一階のごく狭い書店だった。ぎっしりと棚に本が詰め込まれていて、いままでの本屋よりもさらに密度が高い。
「うわぁ」
花丸は感動の吐息をもらした。俺にはよくわからないものの、品ぞろえは花丸の心を
花丸は気合を入れて棚を見ていき、最終的に古書を一冊、買い求めた。表紙の版画らしきイラストが美しかった。
その本も無事にキャリーバッグに収まった。
うん、アキバでなにか買って帰ろうかと思ったけど、このままだと無理だな。
キャリーバッグを引きながら駅へ歩いていく。
裏通りは表通りとは打って変わって静かだった。
「どうだった、神保町は?」
「想像以上に、すごかったずら。あんなに本屋さんばっかり、並んでるなんで、思わなかったなぁ」
花丸は興奮冷めやらぬようすで話した。
「そうだよね、ほんと」
「また来たいずらー。今度は、丸一日、堪能したいずら!」
それは同感だった。もしよかったらそのときも、一緒に来られればいいな。
坂道に差しかかって俺は手に力を入れる。
「あ、遼さん、本を持ってもらって、すみません」
「いや、キャスターついてるから、大丈夫」
花丸はキャリーバッグを引く俺の手の上に、自分の手を重ねた。はっとして花丸を見ると、花丸はにこりと微笑んだ。
「駅まで、マルが持ちます」
「えっ、本当に大丈夫だけど」
「いいからいいから。遼さんには、沼津まで持って帰ってもらわないと、ですから。よいしょ!」
花丸の手は
まあ、駅までなら、任せるか。
花丸の手の感触を思い出しながら駅までゆっくりと歩いた。
・
電車の車内で花丸のスマートフォンが鳴った。花丸はあわてて電話に出る。ちょうどそのとき、電車は秋葉原駅に到着した。
「ルビィちゃんからでした。駅に着いたって」
花丸は電話を切ってそう話した。ぴったりのタイミングらしい。
電気街口から左手、店の並んでいるほうへ出ると、ルビィが手を振っているのが見えた。となりにはダイヤもいる。
「ルビィちゃん、お店は回れた?」
「うん、すごいんだぁ。何軒も、専門のお店があって。ルビィ、
「よかったねぇ、ルビィちゃん!」
「うん! 花丸ちゃんも、本は買えた?」
「もう、ばっちりずら。ねえ、遼さん」
ふたりのやり取りを微笑ましく見守っていた俺は、突然、話を振られて動転する。
「そ、そうだね。ずいぶん、買ったんじゃないかな」
「えへへ、そういうことずら」
花丸とルビィは楽しそうに微笑みあった。
「じゃあ、俺はこれで」
花丸に声をかける。
「遼さんは、みんなと会わないんですか? 紹介しますけど」
「いや、俺はいいよ。これから、行きたいところもあるし」
もちろん、それは言い訳で……なにより恥ずかしかった。
「そうですか……」
花丸は残念そうにしたものの、それ以上、引き留めなかった。
「あの、本当にありがとうございました。沼津までもうすこし、お願いしますね」
「うん、わかった。花丸さんも……ライブ、がんばってね」
「はい、全力を出します」
花丸は笑顔で頭を下げた。
ラブライブの前哨戦と聞いて、花丸たちがうまくパフォーマンスを出せるか不安になったが、このようすなら心配なさそうだ。
むしろ、へんにプレッシャーをかけるようなことは、いわないほうがいいだろうな。
「それじゃ、失礼します」
俺はルビィとダイヤに一礼してから電気街口へ向かった。
さて、花丸には行くところがあるっていったけど、どうしようかな。コインロッカーに
結構、疲れたよな。とりあえず帰りの切符を買って、と。
そういえば花丸はまったく疲れたそぶりを見せなかった。きっと練習を積んでいるせいだろう。
俺もがんばらないとな。……あれ?
切符売り場へ向かおうして、うしろからついてくるダイヤに気づいた。目があう。
ダイヤは俺に近寄ってきた。
「里見さんは、これから、どちらにいくのですか?」
「秋葉原に行こうか、帰ろうか、というところですけど」
「そ、そうですか……」
これはもしかして……。
「ダイヤさんは、どうされるんですか?」
「私は、用件もすみましたので、なにもなければ帰ろうかと……。で、でも秋葉原観光というのも捨てがたいですわね」
まさかとは思うが、俺が秋葉原に行くなら、ついてくる気だろうか。
俺としては別に困らない……いや、店によっては困るか。とにかく、デートみたいになるのは、ちょっと願い下げだな。花丸が知ったとしても、事情が事情だし、どうにかなるとは思わないけど。
「やはり、俺は、帰ります」
ダイヤは安堵の色を浮かべた。
「それでは、偶然ですが、一緒ということになりますわね」
「そうですね」
偶然ということにしておこう。
ダイヤは俺のキャリーバッグに視線をやった。俺は肩をすくめる。
「花丸さんの荷物を、あずかったので」
ダイヤは眉を上げて、唇の端に笑みを浮かべた。
切符を買って駅に入る。ダイヤはずっとつかず離れずの距離を保っていた。
東京駅から東海道線に乗った。土曜日の午後、時間もそれほど遅くないので、無事に座ることができた。キャリーバッグは網棚に乗せ、ダイヤとは向かいあわせだ。
ダイヤ、わざわざ東京まで行ったのは、ルビィに会うためだよな。俺は、その、不純な目的だけど。ルビィを応援してるってことかな。
行きのときよりも、ダイヤには話しやすいように思えた。途中、思い切って口を開く。
「ダイヤさん、二日目、残らなくてよかったんですか?」
ダイヤは、はっと顔を上げた。すぐに目をそらす。
「あそこに残っても、なにもできませんわ」
それはそうだろう。ルビィとともに楽屋に入れれば――むしろ
一日だけでもルビィと一緒にいてあげたかった、ということだろうか。ただ、それを
俺は少し話をかえる。
「Aqours、ライブでは、どのくらいまで行けますかね」
「さあ、わかりませんわ。ただ……最悪の結果も、覚悟しておくべきかと」
最悪の結果……最下位、ということだろうか。
「でも、Aqoursは人気みたいですけど」
「あくまでも、それは人気が上昇している、ということにすぎませんわ。上位に比べれば、実力差は歴然としております」
そんなに厳しいのか。たしかに俺は、上位グループの動画を頻繁にチェックしているわけでじゃない。たまに目にするだけで……。
俺はごくりと唾をのんだ。
「ここで一度、自分たちの力を思い知ったほうが、あの子たちのために、なるのかもしれませんわ」
ダイヤは自分自身にいい聞かせるように、そうつぶやいた。
途中、電車は特急の通過待ちでしばらく停車した。
ダイヤは席を立ったかと思うと、缶コーヒーを二本手にして帰ってきた。俺に一本を差し出す。
「どうぞ。お口にあうかどうか、わかりませんが」
「……どうも」
彼女なりの感謝の気持ちの
日がかなり傾いたころ電車はようやく熱海に到着した。そこで乗り換えて、沼津に着いたときには、すっかり街はオレンジ色に染まっていた。
改札を出たところでダイヤと目礼を交わして別れ、家路につく。
いまごろ、花丸たちも旅館に着いたかな。今日は神保町をふたりで歩いて……本当に楽しかったな。また、行く機会があればいいけど。
明日は、いよいよライブか。ダイヤのいっていたこと、気になるな。
・
翌日の午前中、自宅のパソコンの前で待機した。
イベントの生配信は予定通り始まった。
Aqoursは二番目だった。順番が抽選でないのなら――あまり期待されていない、ということかもしれない。Aqoursのライブは悪くなかった。曲はPVと同じだが、そのときよりも声に張りが出て、動きも切れがあった。
そこで
レベルはだんだんと上がっていった。最後の数グループにもなると、まさに玄人はだしという言葉が当てはまる、そんなライブだった。ヒートアップする会場のようすも映像越しに伝わってきた。
すごい。これが高校生なんだ。
俺は半ばあっけにとられながら映像を見つめた。
たしかにAqoursはがんばっていた。でもそれは、スポーツでいえば県大会準優勝と全国上位入賞を比べるようなもので――求めるレベルが違いすぎた。
最後に上位のグループが表彰されたが、Aqoursはそこに含まれていなかった。
花丸の可愛さは誰にも負けていない、それだけは断言できる。それでも……あのレベルを目指すのか、花丸たちは。
それはもしかしたら、
そこまで考えて、はっとダイヤがいっていたことを思い出した。
そうか、ダイヤはこれを知ってたんだ……。
今日の夜には、花丸たちが帰ってくる。どんな言葉を花丸にかければいいのか。俺はしばらく悩み続けた。