比企谷八幡は自転車に乗る   作:あるみかん

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まだ乗れません……


比企谷八幡は学校に行く

真新しい制服に袖を通し、バッグを背負い靴を履く。

右手には松葉杖。

5月になり比企谷八幡は他より約1ヶ月遅れで総武高校に通うことになる。今日はその初日。

病み上がり(怪我だけど)な上、初めての登校。さらにバス通学。おまけに松葉杖装備ということもあり彼の朝は早い。

とどめに入学式すらも出席できなかった彼は自分がどのクラスかわからないのでまずは職員室へ向かわなくてはならない。

クラスの人達の前で自己紹介とかしないといけないのだろうか。元来人付き合いが苦手な彼にとっては苦行どころか拷問にも等しい仕打ちのことを考えると憂鬱だったが、

 

(それにしても松葉杖って厨二心を擽るよな……)

 

この男、意外と切り替えが早いようだ。

 

 

 

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バスを降り、高校まで長くない道のりを歩く。

同じ時間帯に登校してくる学生からほんのり視線を集めている。どうも松葉杖と、彼の特徴的な目がその原因らしい。

 

ともあれ、職員室へ向かう。そして気づく。

 

 

 

「職員室どこだよ……」

 

 

 

呆然とすること数分。

 

「きみ~。どうしたのかな~?」

 

見ればお下げ髪のかわいらしい女の子。ほんわかした雰囲気と前髪の隙間からのぞくおでこがまぶしい。

 

「あ、その、き、今日から登校なんですが、職員室の場所がわからなくて……」

 

「そっか~。一年生の子かな?じゃあ先輩のわたしが連れてってあげよ~」

 

「あ、ありがとうございます、助かります(ていうかこの人先輩だったのか……)」

 

 

職員室までの道のりを先輩と二人で歩く。彼女の一歩後ろを歩いていると何故か歩みを緩め横に並ぶ。二、三度繰り返すと、

 

「も~、ちゃんと隣にいてくれないとお話できないでしょ~」

 

驚いた。初対面の人は大抵この眼を見てあからさまに引いた態度をとる。この目つきだけで敵と見なされてきた彼にとっては彼女の言動は予想外のことだった。

 

すいません、と答え先輩の横を歩く。

職員室までの短い時間ではあったが、入学式の日に犬を助けようとしてはねられて入院してたこと、お互いの好きなこと、先輩が一年生のときの文化祭がものすごくてそのときの三年生の先輩に憧れて生徒会に入ろうとしていること。

彼女は話上手で聞き上手なのだろう。話すことが苦手な彼でも彼女との会話は楽しかった。

 

 

 

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そんなこんなをしているうちに職員室に到着。先輩にお礼を言い、職員室のドアを開ける。

 

担任から、下駄箱と駐輪場の場所。出席日数については補講か、プリント提出で補うこと。体育に関しては自分で体育顧問と相談すること。教室に入ったら皆の前で自己紹介してもらうことなどを告げられる。やはり衆人環視の自己紹介は避けられぬようだ。

 

 

 

そして教室。

 

担任の

 

「休んでいた比企谷が今日から復学することになった。皆よろしく頼むぞ。比企谷は入って自己紹介しろ」

 

扉を開けるとクラスメイト注目が集まる。

 

「…………た…………だよ……」

「………………じゃ……?」

「いや、………………よ……」

 

心なしかざわついている。目か?この目がいかんのか?と思いつつも懸命に平静を装い、

 

「今日から復学する比企谷八幡です。まだ、リハビリ中なので迷惑をかけることもあるかと思いますがよろしくお願いします」

 

昨夜考えに考えた自己紹介をなんとか噛まずに言えたことに安堵する八幡。

まばらな拍手で答えるクラスメイト。

 

「比企谷の席は窓際の一番後ろだ。席につけ」

 

担任に促され席につく。席につくまで、ついてからもちらちらと彼を観察するような視線。その原因はすぐに判明した。

 

 

 

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「比企谷君さあ、入学式の日に犬をかばって跳ねられたってマジ?」

 

朝のホームルーム終わってすぐ前の席の人に話しかけられた言葉がこれ。

 

「あ、いや、その……なんで知ってんの?」

 

「結構噂になってるよー。今年の新入生にヒーローがいるって」

 

「そーそー、身を呈してヤ⚪ザの車からかばって組長だかに認められたとか」

 

「ファッ?!?!?!」

 

確かに黒塗りのお高い車だけど雪ノ下さん家って建設会社だし、パパノ下さんは県議員だし。

 

(陽乃さんの名誉のためにも)誤解は解きつつも、一ヶ月遅れで加わる異分子も受け入れてくれる高校生活に八幡は小さく、だが確かに胸を高鳴らせていた。

 

 

 

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比企谷八幡にはやりたいことが一つだけあった。

それは自転車部の創部。

土日の休みは朝のヒーロータイムが終わればロードに出ていた。

しかし、平日は学校から帰ってせいぜい1~2時間程度の練習。

バイクは小遣いとお年玉のほか、旅行についていかないことでもらえた食費を充てた(おかげで料理が上手くなった)。

パーツは跳ねた慰謝料ということで陽乃さんの家が出してくれた(おかげでやたら戦闘力の高いバイクに変貌を遂げた)。

ロードに出た時に必要なドリンク(マッカン含む)や携帯食料なんかは小遣いをやりくりしてそこに回す。そのため、朝ごはんと弁当は小町と交代で作っている。パンなんて買ってる金銭的余裕などない。

 

しかし、部費が出ればドリンク等はそこから捻出できる。部室とローラーがあれば雨の日も練習できる。

彼の内心は野心に燃えていた。

 

 

 

 

 

 

入部、創部期間…………4月中

 

 

 

 

 

 

彼がそれを知ったのは翌日のことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 




八幡には優しい世界。
都合上、一年生の間は帰宅部になってもらいます。
普通の学校は創部はとにかく、入部まで制限されることはそうはないと思いますが。

ともあれ、次回、ようやく自転車に乗れそうです。

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