比企谷八幡は自転車に乗る   作:あるみかん

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※初投稿につき、乱筆乱文にご注意ください


比企谷八幡は自転車に乗れない

「知らない天井だ……」

 

お約束の台詞を口にしたところで周りを見渡す。

壁にカーテン、更にはシーツまで白一色の部屋。病室である。

 

「あ!お兄ちゃん起きた!ナースコール!ナースコール!」

「……小町?」

「お兄ちゃん、登校中に車に跳ねられたんだよ!小町すっごい心配したんだから!あっ、今の小町的にポイント高い!」

「はいはい、高い高い」

「ぶぅ~お兄ちゃんおざなり~」

 

……最後の一言がなければなぁ。ていうかそのポイント貯まるとどうなんのよ?

 

「でも、小町ほんとに心配したんだからね!お兄ちゃん起きないんじゃないかって……」

「……すまん、心配かけたな」

 

 

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その後、医師の問診と診断。

気を失っていたこともあり頭部の精密検査も受けることとなった。

 

 

結果:頭……異常なし

右肩……打撲

右足……骨折

 

 

……骨折。

はい。3週間の入院が決まりました。

 

母ちゃんが仕事を早退して入院の手続きをしたり、小町が着替えや本を持ってきてくれたり、意外にも親父が血相変えて会社から直接見舞いにきたり。

 

「親父、母ちゃん、小町……。心配かけてごめん」

 

驚くほど素直に言葉が出てきた。

親父と母ちゃんは驚いた顔で、

 

「いいから、安静にして早く治せ」

 

小町は横でニマニマしていた。

なんだよその顔は。俺が素直に謝っちゃダメなのかよ……。

 

 

 

 

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翌日。

痛み止めが切れたのか肩と足がひどく痛む。最悪の目覚めだな……。

昨日は3人とも面会時間ギリギリまで残ってくれていた。そんなささやかなことすら入院している身にはとても嬉しく感じる。

 

朝食後、しばらくして医師がやってきた。

なんでも、今後の治療や、リハビリの予定を組むらしい。

そこで、先生にお願いをしてみる。

 

「明後日からエアロバイクに乗りたいんですが」

 

けんもほろろに断られたが、こちらも真剣である。

何度も頼んで30分だけならと許可を得られた。

 

リハビリの予定が決まったことでやるべきこと。それは松葉杖の練習である。

そもそもリハビリ室まで移動しないとエアロバイクにも乗れやしない。

早速両手に松葉杖を装備し廊下に出てみる。意外にも簡単に使いこなせる。そりゃ怪我人が使うものが使いづらかったら困るもんな……。それにギプス&松葉杖って小学校の頃なら注目の的だし、何より厨二心を揺さぶってくるよね!

 

 

 

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リハビリ初日。

隣には呆れきった顔で見つめてくるマイスイートシスター小町ちゃん。

「言われた通りタオルとかウェアとか持ってきたけどさあ……。跳ねられて3日で自転車乗りたいってお兄ちゃん馬鹿なの?」

「自転車馬鹿ということなら誉め言葉にしかならんぞ」

「本物の馬鹿がいた……」

 

先生付き添いのもと、早速エアロバイクに跨がる。

右足のギプスごと固定用の革バンドに通してペダルを漕ぐ。負荷は一番軽いもの。それでもペダルは回らない。

歯を食いしばり、痛みに耐えながらなんとかペダルを回そうと試みる。

 

(自転車に乗ってるときだけは眼を輝かせてるお兄ちゃんが自転車であんなに苦しんでる……)

 

小町が何度も眼を逸らしそうになりながらも見守ること約5分。

漸くペダルを一回りさせた彼の瞳は初めて自転車に乗れたときのように煌めいていた。

 

 

 

 

 


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