「ねえリア、気付いた?」
パックがとある方向を見ながらのんきに言う。エミリアはパックと同じ方向を見ながら、静かに頷いた。
ここにいるのは最近では珍しく、エミリアとパックだけで、どこに居るかと言えば、それはアーラム村にある花畑だった。
騎士となったスバルだが、今日に限って、スバルはロズワールに頼まれた仕事で遠出をしていて数週間は帰ってこない事となっていた。
エミリアも王選の勉強をしていた所で、しかしスバルが居ないことで長いこと根を詰めていた。それを見兼ねたペトラがオットーに報告し、オットーがロズワールに頼み、アーラム村の結界を見て回るように命じたのだった。オットーがスバルへの愚痴をこぼしていたが、それは別に気にしなくていいだろう。
そうしてアーラム村を訪ねたエミリアとパックは、直ぐさま結界の張り直しに向かい、それを全て張り直したのだ。
聖域での一件から、アーラム村の人たちとエミリアとの関係は良好だ。エミリアがアーラム村に訪れると、皆が歓迎してくれて、スバルの事も尋ねられた。
スバルの話をしたエミリアは、ふと昔の事を思い出す。昔、といっても1年前程度ではあるが、この村で起きた魔獣の一件だ。その後、スバルはエミリアをでぇとに誘ったのだ。
ふと気付くと、エミリアはスバルと歩いた道のりを辿り、花畑に足を踏み入れていた。あの頃からも変わらずに咲く一面の花は、元気一杯だった。しかし、魔法使いであり精霊使いでもあるエミリアとその精霊は、花畑を踏み入れた直後に違和感に気付く。
「マナが、全く無い……?」
その花畑の一角には、本来あるはずのマナが一切存在していなかった。
「パック、どういうこと?」
「ごめんリア、ボクにも何が何だか分からないよ。ただ、おかしいことが起きているのは間違いないだろうね」
マナの存在しない花畑の一角は、他と同じ様に花が咲いている。ただただ、そこにはマナが一片たりとも感じられないのだ。
しかし、何故だろう。エミリアは小首を傾げる。自分が持つ感覚が理解出来ないのだ。
マナは一切無く、しかしそこは一度見たことがあるだけの花畑だ。それなのに、何故だか。この感覚を知っているような気がした。
その場所に、なんとなく、見知った大事な黒髪の少年の気配を感じたのだ。
「スバル?」
エミリアは、殆ど無意識にマナの無い空間に手を伸ばす。
「リア、待っ――!」
パックの焦燥した声が、エミリアの僅かにとがった耳に届く。しかし彼女は、答える暇も無く。
――意識が、暗転する。