どらごんたらしver.このすば   作:ろくでなしぼっち

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第10話:真名契約

「──て、わけで隣国に行くことになったんだが……大丈夫だよな?」

「王女様……アイリスちゃんの護衛でダストさんの故郷にですか。もちろん大丈夫ですよ」

 

 朝食中。飯のついでとばかりに切り出されたクエストの話に私は了承する。

 ダストさんの故郷にはいつか行ってみたいと思ってたし、その目的が友達の護衛、戦争を回避するためだと言うなら断る理由はない。

 

「でも、少しだけ意外ですね。ダストさんがそんなクエスト受けてくるなんて。あの国には近寄りたくないみたいな感じだったのに」

「実際行きたくはないんだがなあ……ま、アイリスには黙ってて貰った恩もあるし、弟子みたいはもんだからな。仕方ねえよ」

「そうですね。アイリスちゃんは弟子みたいな……って弟子ってなんですか!?」

 

 アイリスちゃんがダストさんの正体を気づいてたみたいなのも聞き逃せないけど、そんなことどうでもよくなるくらい衝撃的なんだけど。

 

「だから、弟子みたいなものだって。戦いかたとかは大して教えてねえが、実戦の感覚を鍛えるのに付き合ってた時期があってな」

「完全に初耳なんですが……」

「そりゃ教えてねえからな」

 

 なんでこの人なんでもないことのように言ってるんだろう。一国のお姫様の教師役って凄いことのはずなんだけど……。

 …………、まぁ、この人の経歴を考えれば確かに些細なことなんだろうなあ。本当、この人なんでチンピラなんてやってるんだろう。お姫様といろいろあってリーンさんともいろいろあってこうなっちゃったみたいだけど。

 リーンさんの件は多少は聞いてるけど隣国のお姫様と何があったかは全然教えてくれないし。

 

「つーより、お前こそアイリスが王女だって知ってたのな」

「まあ、知ってたと言うか知ってしまったと言うか……」

 

 とりあえずめぐみんはいろいろ反省するべきだと思う。一国の王女様を盗賊団の下っ端にするとか頭おかしい。

 

 

「それより護衛のメンバーはどうするんですか?」

「確定してんのは護衛対象のアイリスを除けば、俺とゆんゆんとジハード。それにアイリスのお目付け役でレインが来るみたいだな。他はまだ決まってねえ」

「決まってないって……リーンさん達は一緒に行かないんですか?」

 

 てっきりいつものみんなプラスαで行くのかなって思ったのに。

 

「つれてけるわけねえだろ。エンシェントドラゴンの時と一緒だ。アイリスを守りながらあいつらまで面倒見る余裕は流石にねえよ」

「そんなに危険なんですか? 正直私のイメージじゃアイリスちゃんに護衛なんて必要ないくらいなんですが……」

 

 魔王軍幹部でも倒せそうなくらいいろいろ規格外なのがアイリスちゃんだ。

 そしてドラゴンと一緒のダストさんはそんなアイリスちゃんに負けないくらい……むしろハーちゃんや子竜の槍の能力を考えればそれ以上にデタラメ人だ。

 そんな二人が他に手が回らなくなるって……。

 

「実際アイリスは人類最強クラスだ。出会った頃のあいつならともかく今のあいつなら旦那やウィズさん相手でも互角に近いだろうし、あの国のドラゴン使いやドラゴンナイトを相手取っても一組なら勝てる可能性が高い」

「それなら……」

「だがな、それでもあの国のドラゴンとドラゴン使いのコンビは瞬殺出来ねえ。それは基本的には俺も一緒だ。ただでさえそんな相手だってのに騎竜隊……局地戦最強を誇る奴らが出てきて、その最強たる所以の戦術を使われたら流石に俺やアイリスでも()()()()()()奴らは守れねえよ」

「なんていうか……たまにダストさんの話の中で出てくる隣国の騎竜隊ですけど…………そんなに強いなら本当魔王軍と戦ってくれてたら良かったのに……」

 

 ダストさんやアイリスちゃんでも苦労するくらい強いなら幹部相手でも普通に戦えそうだし。

 

「それを紅魔族のお前が言うかー。こと火力で言うなら紅魔族総出の魔法一斉射撃が最強なんだぞ? 紅魔族とアクシズ教徒が真面目に戦ってくれればいいのにって話をライン時代に聞いたことある」

「こ、紅魔族はちゃんと王都がピンチになったら駆けつけますし」

「そもそもピンチになる前に出てこいよって話だがな」

「………………」

 

 だって仕方ないじゃないですか。ピンチに駆けつけるのがかっこいいんですから。

 ……とは、流石に言えないなぁ。

 

「ま、騎竜隊は対人間なら間違いなく最強だが、魔王軍相手なら紅魔族の方が若干強いんじゃねえかな。幹部級を相手にすんのにその巨体が邪魔して複数同時に戦うのが難しいし、魔王軍相手だとあの戦術も効果が薄まるからな」

「つまり人間である私達にしてみれば全く意味のない慰めですよね?」

「まぁな。だからリーンたちを連れて行く余裕ないって話なわけで」

 

 そう言われると納得するしかないのかなぁ。

 

「で、でも……ハーちゃんの能力を考えても無理なんですか? 予めハーちゃんやミネアさんに魔力を吸収させて強化してたら最強の部隊を相手にしてもみんなを守れるんじゃ……」

 

 なんて言っても限界まで強化したハーちゃんやミネアさんはダストさんと一緒にあのエンシェントドラゴンに力を認めてもらえるくらい強い。強化が不十分だった死魔との戦いを思い出しても、その強さは圧倒的だった。例え世界最強の部隊を相手しても有利に戦えると思うんだけど。

 

「現実的じゃねえな。こっちから攻めるタイミングを選べるんならありな選択ではあるが」

「? 予め……つまりずっと警戒して強化してるのは難しいってことですか?」

「そうだな。まず第一に過剰魔力で強化してる状態はジハードやミネアにとってかなり負担だ。特に下位ドラゴンのジハードにはな」

 

 そう言えば、ハーちゃんがよく眠る傾向があるのはそのせいだってバニルさんやダストさんが言ってたっけ。

 

「第二にそんな状態のドラゴンたちを暴走しないように制御し続ける俺がきつい。ただでさえきついってのにいつ始まるか分からない戦いを警戒しながら制御続けるとかマジで死ぬ」

「そっちはダストさんのことですし、口ではいろいろ言いながら何とかしそうだからいいですけど……ハーちゃんやミネアさんに負担がかかるなら確かに駄目ですね」

「おい、俺の方はいいってのはなんだ。マジできついんだぞ」

 

 たとえきつくても、自分だけの問題ならなんとかするのがダストさんじゃないですか。

 普段はどうしようもないくらいろくでなしなのに、出来るのが自分だけという状況なら誰よりも無理してしまう人だから。

 

 以前、リーンさんがダストさんのことを『眼の前で女の子が溺れていても素通りする男』だと表現していた。多分それは一面として正しい。

 きっと、女の子が溺れていても近くに他に助ける人……テイラーさんやリーンさんがいればダストさんは自分で動かない。

 でも、もしもその場にダストさんしかいないなら、ダストさんはきっと悪態をつきながら助けて…………その後、助けた礼を要求するだろう。

 ダストさんとはそういう人だ。

 

 

「何て言うか…………ダストさんって本当面倒くさい人ですよね」

「面倒くさい女代表みたいなお前にだけは言われたくねえぞ…………。つうかマジできついってのに」

「別にそれは疑ってませんけどね」

 

 あんな力を余裕で制御してるとか言われたら人間やめすぎてるし。

 …………、まぁ、四大賞金首を倒す力を制御する時点で人間やめてるレベルなんだけど。

 

 

「それで、そのクエストですけど、私がなにか特別に準備することありますか? 複数日に跨ったクエスト自体は初めてじゃないですし、長旅用の準備はしますけど」

「まだ少し準備始めるには日が早えから、長旅の準備自体はまた後日頼むわ。とりあえず今日は護衛のメンバー探しを頼みたい」

「パーティーメンバー探しですか?…………あの? 頼む人間違えてません? 自慢じゃないですけど、私は友達少ないですよ?」

 

 多少は増えたけど、多分この街で私より友達が少ないのはめぐみんくらいだと思う。

 

「本当に欠片も自慢じゃねえな! 言ってて悲しくねえのか」

「ふっ……そんな段階はとうの昔に過ぎ去りましたよ……」

 

 具体的に言うと3日くらい前に。

 

「そう言いながら涙目になってるのは突っ込まないでやるか……」

「お願いします…………」

 

 うん、まぁ、辛いのは辛いよね。一応ネタに出来るくらい吹っ切れたのは確かだけど。

 

「まぁ、あれだ。お前のダチって強い奴らばっかだろ? 旦那やウィズさんは言うまでもないし、紅魔族やアクシズ教徒のお偉いさんもいる。そいつらに声かけてくれねえかなって」

「なるほど…………そう言われてみれば私の関係者って強い人多いですね」

 

 眼の前の人がその筆頭だけど。

 

「俺も俺でいろいろ準備ってか考えねえといけねえことがあるからよ。頼むわ」

「了解です」

 

 とりあえずめぐみんに声を掛けてみようかな?

 

「ちなみにカズマパーティーは全員なしだからな。レインから釘刺されてるし」

「…………はい」

 

 まぁ、うん。連れて行ったら戦争止めに行ったはずなのに、開戦して帰るはめになりそうな人たちだからね。特にめぐみん。

 

「ああ、あと一人も連れてこれなかったら、旅してる間お前のことはずっとぼっち娘呼びだからな。頑張って見つけてこいよ」

 

 …………うん、絶対見つけてきてダストさんを見返してやろう。

 恋人さんの意地悪な笑顔に私は心の中で強く決めた。

 

 

 

 

 

──ダスト視点──

 

「うーん……マジでどうすっかねぇ……」

 

 サキュバスの店。ゆんゆんを見送った俺は喫茶店の体裁も取ってるここにきて頭を悩ましていた。

 

「さっきからうんうん悩んでどうしたんですかダストさん。ゆんゆんさんかリーンさんでも怒らせましたか?」

 

 そう言って紅茶を運んできたのは今日もここでバイトをしてるらしいロリサキュバス。一応店をやめた身らしいが冒険がない日は普通にここでバイトしてんだよな。

 

「あいつら怒らせたからってなんだってんだ。つうかなんだ? 俺別に紅茶なんて頼んでねえぞ?」

 

 水持ってきてくれとは頼んだが。

 

「私のおごりですよ? ここでのバイトで精気とお金を貰ってるんですけど、お金の方は正直あまりいりませんし」

「ま、クエストでもそれなりに稼いでるしな今のお前は。てか、奢りだったら酒もってこいよ酒」

 

 わりとこの店の紅茶が美味いのは知ってるが。

 

「一応ここは喫茶店って事になってるんですよ? お酒なんて置いてるわけないじゃないですか」

「一応だろ? 大人のための店なんだから酒くらい置いとけよ」

「むしろその大人のための店だからですよ。お酒飲んだら熟睡しちゃって夢が見づらくなるんですから」

「あー……そういう理由もあんのか」

 

 さすがはサキュバスの店。男から精気を絞るためのことは徹底してんな。

 

「それで、結局何を悩んでたんですか?」

「いや、今度護衛クエストで故郷に行くことになってよ。お尋ね者のあの国でどうやって正体隠そうかと」

「ダストさんの故郷にですか? 正体を隠すって……故郷にいたのはもう何年も前のことですよね? 気づかれるものなんですか?」

「まぁ、俺だけだったら多分髪の色を黒にでも変えればバレない気はするんだがな」

 

 流石にセレスのおっちゃんやフィールの姉ちゃんまでそれで騙せる自信はねえが、それ以外はどうにかなると思う。

 バレる可能性があるくらい俺に近い奴らだったら多分黙っててくれるしな。黙ってくれなかったときは自分の人望の無さを呪うしかないが…………ま、そのあたりは大丈夫だろう。ぶっちゃけ、追放処分になってる俺だけだったらバレてもいくらでも屁理屈こねられるしな。

 

「じゃあ、何が問題なんですか?」

「ミネアだよ。あいつは竜失事件以降じゃ最長齢クラスのドラゴンだし、あの美しさだ。確実にバレる。で、あいつはあの国保有のドラゴンってなってるからバレたらすげえ面倒いんだよなぁ」

 

 俺があの国に帰れない一番の理由だ。俺の家のドラゴンだったミネアは国接収されてて…………俺はそれを盗んで連れて行った事になってる。

 

「一応目的があの国とこの国の戦争止めるためだからな。ミネアの存在はその引き金を引きかねない」

 

 実際に戦争が決定的になれば……つまりは向こうから襲ってくるようなことがあれば関係ないが、それまではミネアの存在がバレるのはまずい。

 

「なるほど。理由はわかりました。でも、そんなに悩むことですか?」

「悩むに決まってるだろ。ミネアを……俺の相棒を連れていけるかどうかって話だぞ? 戦力的にも心情的にもすげえ悩むっての」

 

 やっと一緒に入れるようになったってのに、また長い間離れ離れとかマジできついぞ。

 

「いえ、そういう話じゃなくて…………ダストさんは連れて行っても大丈夫な方法を持ってるじゃないですか」

「あん? なんかいい方法あったか?」

 

 あれだけ綺麗で大きなドラゴン連れて行ったらどうやっても絶対バレるだろうに。

 

 

「あの……とぼけてるんじゃなくて本当に気づいてないんですか? あの黒いドラゴンさんと同じように人化させればいいだけだと思うんですが……」

 

 

「…………。あー……。ああー…………。……その手があったか」

 

 そういや俺苦労してドラゴンを人化させるスキル覚えてるじゃねえか。

 

「何ていうか……ダストさんって基本的には頭の回転早くて悪知恵とか働くのに、たまに凄い間抜けになりますよね」

「言うな……」

 

 旦那にもそんな風に思われてる節あるから。

 

「でもミネアを人化かぁ……一度もしてないから全然頭になかったぜ」

「してないんですか? 話せるようになるんですしてっきり何度かしてるものと思ってましたけど」

「ミネアが人化したそうにしてたらそりゃするが、別にそうじゃなかったしなぁ」

 

 ミネアは人の言葉分かるし、俺もあいつが伝えたいことが何かくらい分かる。別に言葉を交わさなくても心は交わせてるから、わざわざ人化させる理由はない。

 

「そうなんですか。人化させてたらいつでも一緒にいられるのにどうしてしないんだろうとずっと思ってたんですけど」

「…………、あれ? そうか、人化させたら同じ部屋とは言わずとも同じ宿で一緒に飯食ったりできるのか。…………なんで俺今までミネア人化させてねえんだ?」

「間抜けだからじゃないですか」

 

 ぐぅの音も出ねえ……。

 

いふぁい(いたい)いふぁい(いたい)なんふぇほっふぇふぁつまむんふぇすか(何でほっぺた摘むんですか)~!」

 

 まぁ、ぐぅの音も出ないくらいロリサキュバスの言ってることは正しいが、それはそれとしてその呆れ顔はムカつくからほっぺたを引っ張らせてもらうが。

 

 

 

「うぅ……ダストさんに辱められました……」

「人聞きの悪いこと言うな。誰がお前みたいな未成熟な奴に手を出すか」

 

 この間とある理由で地獄にある旦那の領地に行った時に会った夢魔に比べれば月とスッポン並みに色気に差があるし。

 そもそも実際に手を出すのはゆんゆんだけで十分で後は夢で満足してるっての。

 

「ま、お前のおかげで悩みはなんとか解決したしな。今日の夜はいつもより多く精気吸ってもいいぞ」

 

 どうせ護衛のクエストの日まではゆっくりするつもりだし。多少明日に影響でるまで精気吸われても問題ないだろ。

 

「それはありがたいんですけど…………そのクエストって何か準備するものあるんですか? 長くなるならバイトのシフトもありますし日程とか教えてもらえるとありがたいんですが……」

「ん、あー……悪い。先に言っとくべきだったか。本当悪いがロリサキュバス……お前は今回のクエスト連れてけねえんだ。ちょっとばっかし危険が高いからよ。リーンたちと一緒に留守番しててくれ」

 

 俺としても夢見させてもらいたいし、ダチのこいつにひもじい思いさせるのもあれだから連れていきたいんだが……サキュバスのこいつじゃドラゴンやドラゴン使い相手にはほぼ無力だと思っていい。空が飛べるアドバンテージもドラゴン相手にはほぼないし。

 リーンよりは連れて行っても大丈夫だろうが、テイラーよりは大丈夫じゃない。そんな感じじゃ連れて行くのはやっぱり難しい。

 

 

「…………、やっぱり今の私じゃ力不足ですか?」

「…………、まぁ、そうなるな」

 

 はっきり言うのも気まずいが、それ以外に説明のしようがない。こいつを傷つけないような都合のいい嘘なんて思いつけねえし。

 

「じゃあ、もしも私は今よりもっと強くなれば連れて行ってもらえますか?」

「そりゃ、ゆんゆんと同じくらい強ければ連れてっても大丈夫だろうが……流石に今から行くまでに強くなるのは無理だろ」

 

 悪魔のこいつにはレベルがない。つまり旦那やウィズさんに付き合ってもらって養殖する(レベル上げ)とかも出来ないんだ。

 悪魔が強くなるには良質な感情……サキュバスのこいつなら精気をたくさん食べて月日を重ね続けるしかない。

 

「出来ますよ。ダストさんが協力してくれるなら」

「協力?」

 

 まさか一気に強くなるくらい精気を吸わせてくれとかじゃねえよな? 仮に俺が死ぬまで精気を吸ったとしても大して強くはなれないはずだが……。

 

 

「はい。……ダストさん、私と『真名契約』をしてください」

 

 

 『真名契約』?

 

「それってあれか? 前に言ってた、悪魔の真名を利用するっていう?」

 

 確か、悪魔の真名さえ知ってたら誰でも結べる主従契約だっけか。悪魔の真名を話さないことを代償に悪魔を絶対服従させるっていう悪魔側にしてみれば全然割に合わないやつだったよな。

 

「……いや、それでどれくらい強くなるかはしらねえけどよ、流石にそこまでする必要はねえだろ」

 

 俺と契約するってことは俺に絶対服従ってことだろ?

 

「必要はないです。でも、私はそうしたいって思います」

「…………、なんで、そうしたいって思うんだ?」

 

 誰かに従わなきゃいけないなんてクソ喰らえな状態になってまで強くなりたい理由はなんなんだ。

 

 

「だって、ダストさんが言ったんじゃないですか。『友達』になれって。……私はあなたの友達ですから、友達の力になりたい……頼ってほしい……そう思う『約束(けいやく)』です」

「…………、そうか。お前は悪魔だもんな」

 

 友達になる……そんな契約をしたなら、それを全力で履行するのが悪魔としての性であり挟持だ。あの時はこいつを縛らないために言ったダチになれって契約だったが、それは俺が思った以上に重いものだったらしい。

 

「でもよ、だとしたらやっぱ止めといたほうがいいだろ。ダチに絶対服従なんて絶対おかしい」

「大丈夫ですよ。だって、ダストさんって『友達』には甘いですもん」

「…………」

「そして、自分の言うことを素直に聞いてくれる相手には酷いことを絶対に言えない人だってことも知ってます」

 

 それは……確かにそうだ。仮に俺の言うことを絶対に聞かないといけない立場のやつがいたとして、そいつに立場を利用して酷いことをさせるようなら、それは完全に俺が嫌う貴族の姿そのものだから。

 

 ……確かに、俺がこいつと真名契約を結んだなら、今よりこいつに甘くなりそうだな。

 

 

「だからダストさん。私は……───はあなたとの『真名契約』を望みます」

「……それが、お前の真名か」

 

 顔を寄せ、耳元で小さく囁くロリサキュバス。

 

「はい。これでダストさんは私の真名を知りました。後はダストさんが私に仮の名前を付けてくれればそれで『真名契約』は結ばれます」

「…………、俺は間違えちまったのかもな。あの時お前に望む事をよ」

 

 こういう関係になりたくなかったからダチになってくれと言ったはずなのに。それなのに結局その契約が始まりでこうなろうとしてる。

 

「かもしれせんね。でも、別にいいじゃないですか。ダストさんが酷いことをしなければ誰も不幸にならない……むしろ絶対服従な点以外は真名契約は利点ばかりなんですよ?」

「そうかよ」

 

 はぁ……、ここまで来たら断るのも無理か。確かにこいつの言う通り俺が気をつけさえすればいいだけだしな。

 

「で、仮の名前だっけ? ロリーサじゃ駄目なのか?」

「別にいいですよ? まぁ、できればちゃんと考えて付けてほしいですけど……」

 

 ちゃんと考えろつってもな……。俺にそんなセンスなんて欠片もねえぞ。

 

「そうだな…………、じゃあ『リリス』ってのはどうだ?」

 

 この間会った夢魔の名前だけど……まぁ、仮の名前だし別に著作権とかないからいいだろ。

 

「り、りりっ…!……む、無理です! そんな名前恐れ多すぎます!」

「ん? そうか。んー……じゃあやっぱロリーサでいいだろ。ゆんゆんやリーンもそう呼んでるし、今更違う名前を名乗られても混乱するだろ」

「はぁ……まぁ、それもそうですね。付け方はともかく響きはちゃんと可愛いですし」

 

 ちゃんとした名前ね…………。もしも、いつか旦那が言ってたように別の選択をした俺なんてのがいたら、こいつにちゃんと名前を付けてやる俺もいたのかね。

 ……って、考えても仕方無さ過ぎることだけどな。それは今の俺とこいつの関係に何も影響を与えないことだから。

 

 

「それじゃあ、これからよろしくお願いしますねダストさん。友達としても主人としても。…………ご主人様とかマスターとか呼んだほうがいいですか?」

「ダストでい…………いや、()()()()()

「ふふっ…………やっぱりダストさんはこういう所は甘々ですよね」

「うるせーよ。……ったく、やりにくいったらねえ」

 

 これからは命令みたいにならねえように気をつけねえといけねえのか。誰も不幸にならないみたいなこと言ってたが間違いなく俺は面倒なことになってんじゃねえか。

 

 

 

 

 

──ゆんゆん視点──

 

「ただいま帰りましたー」

「あるじおかえりなさい」

 

 宿の部屋。帰ってきた私に使い魔のハーちゃんがトトトと駆けてきて抱きついてくる。

 本当ハーちゃんは可愛いなぁ……今日はいろいろ疲れたから本当癒やされる。

 

「おー…………ゆんゆんおかえりさん」

「はい…………って、ダストさんなんか疲れてません? 何かあったんですか?」

 

 私もわりと疲れてるはずだけど、そんな私以上にダストさんは疲れているように見える。

 

「ああ、まぁロリーサとちょっとな……」

「そうですか、ロリーサちゃんと…………ってあれ?」

 

 ダストさんってロリーサちゃんのことロリサキュバスって呼んでなかったっけ?

 

「それで? お前はちゃんとメンバー見つけてこれたのか?」

「えーと…………ええ…………まぁ…………見つけたと言うか見つけてしまったと言うか…………」

 

 私が見つけたメンバーが誰か聞いたらダストさん怒るだろうなぁ。もしくは呆れるか。

 …………多分両方かな。

 

「? よく分かんないが一人でも見つけらたならいいぞ。ミネアも連れていけるし、ロリーサも行くことになったから多分もう十分だろう」

「え? ミネアさんはともかくロリーサちゃんも一緒で大丈夫なんですか?」

 

 幻惑系の魔法が得意なロリーサちゃんだけど、魔法抵抗力が恐ろしく高いドラゴンやドラゴン使い相手に決められるほどの効力はない。空を飛べる以外はほとんど無力な気がするんだけど……。

 

「まぁ、今のあいつなら多分大丈夫だろ。単純な戦力としては微妙だが使い方次第じゃ切り札になりそうだしな」

「はぁ……えと…………ロリーサちゃんと何があったんですか?」

 

 ダストさんが疲れてることと、ロリーサちゃんがダストさんに認められるくらいの力をいきなりつけてるのは何か関係があるのかな。

 

「あったというかあってしまったというか……まぁ、あれだ。少なくとも浮気じゃないから気にすんな」

「いえ、ダストさんに浮気なんて器用な真似出来るとは思えないのでそんな心配はしてませんが…………本当何があったんですか?」

 

 そう言えば前にロリーサちゃんも気になることを言ってたような……。

 

「あー…………一言で言うとあれだ。俺、今日からロリーサのご主人様なった」

「ちょっとなにをいってるかわからないです」

 

 

 その後。詳しくされたダストさんの説明に私は驚きと呆れと少しの嫉妬に更に疲れさせられることになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、隣国へ出発する日。

 

「おいこら、ゆんゆん。確かに俺は強い奴を見つけてこいとは言ったがな…………いくらなんでもこいつはねえだろ」

「あ、あはは…………まぁ、私も流石に駄目かなぁと思ったんですけど……」

 

 ジト目をしてその人を見ているダストさんの言葉に私は苦笑いを浮かべる。

 

「何よ? 私が一緒に行ってあげるっていうのに何が不満なのよ?」

「不満しかねえよ! お前は俺の敵だろうが!」

 

 何が不満なのか心底わからない様子のその人……魔王の娘(アリスさん)の言葉にダストさんは声を荒げる。

 

「そうね敵ね。で? それが何? そんな小さいこと気にしてるからあんたモテないのよ」

「欠片も小さいことじゃねえよ! あと俺がモテないなんてこともねえからな!」

「そんなこと言ってるけど、そこのところどうなの彼女さん?」

「えーと…………ノーコメントで」

 

 正直そのへんは私もよく分かってないんだよなぁ…………。前は特に悩まずモテてないって答えられたんだけど。

 

「ま、あんたがモテてるかどうかなんてどうでもいいか。とにかく、私が一緒に行ってあげるんだから泣いて感謝しなさいな」

「感謝どころか泣きたくなるくらい不安しかねえけどな!」

 

 

 

 

 そんなこんなで、勇者の国の姫を護衛するパーティーに魔王軍の姫も加えて。隣国への、戦争を回避するための旅が始まろうとしていた。


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