どらごんたらしver.このすば   作:ろくでなしぼっち

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第27話:それが理由

――ゆんゆん視点――

 

「……何をしているのですか、ゆんゆん」

「っ!…………って、なんだめぐみんかぁ。もう、驚かせないでよ」

 

 後ろからの声に驚いたけど、振り返ってみれば親友兼ライバルの少女。頭のおかしい爆裂娘と魔王軍でも評判らしいその姿に私は安堵の息をつく。

 

「なんだとはなんですか、失礼な反応ですね。……というか、なんですか? 人の格好を上から下まで観察して。この格好がなにかおかしいんですか?」

 

 今日のめぐみんはいつもの魔法使いの格好ではなく白系統のラフな格好をしている。里にいた頃は同じような服ばっかりだったのに最近はおしゃれというか、クエストの時以外はいろんな種類の服を着ているみたいだ。

 めぐみんの性格からしておしゃれに気を使うとか思えないから、カズマさんにプレゼントとかされてるのかな。それともカズマさんの気を引こうとおしゃれに目覚めた……?……里にいた頃のめぐみんを知っているからかあんまり想像できないなぁ。いや、最近のめぐみんが凄い女の子やってるのは認めざるをえないんだけど、昔からのイメージは簡単にはなくならない。

 

「べっつにー。おかしいなんてことはないし、里じゃ孤高の天才を気取ってためぐみんが随分女の子らしくなったなぁとかも思ってないよ?」

「なんですか、そのにやにやした顔は。馬鹿にしてるんですか? そもそも、格好を言うならあなたの方が私よりずっとおかしいじゃないですか。いつもいつも黒っぽい服ばかり着て。しかも里の頃と比べると露出も多いですし。前から言おうと思ってたんですが、あなた里を出て痴女にでも目覚めたんですか? 教育に悪いので里に帰ってもこめっこには近付かないでくださいね」

「そこまで言う!? からかったのは謝るからもうやめて!」

 

 私も黒っぽい服ばっかり着てるなぁとは思うし、露出多いかなって気にしてるけど。でも、黒系統以外の服を自分で選ぶ自信なんてないし、黒系統の服でがっちりした服だと友達に存在を気づいてもらえない気がするから仕方ないじゃない。

 

「ふっ……また勝ってしまいましたか」

「いつのまに勝負になったのよ……」

 

 いつもの手帳に勝敗記録を取るめぐみんにため息を付いて。口喧嘩だといつまで経っても勝てなそうだなと思う。かと言って爆裂魔法しか使えないめぐみんとまともに魔法勝負出来ると思えないし、勝てそうなのは体術と女としての魅力くらいかな?……前者はともかく後者はまた痴女とか言われそうだからこっちから勝負は挑めないけど。

 

(……別に今は里にいた頃ほど勝負を挑もうとは思っていないけどね)

 

 昔の私にとって『勝負』は一種のコミュニケーション方法だったけど、今は別にそれだけに頼らなくてもいい。最近はそこまで集まっていないけどめぐみんと遊びたければ『盗賊団』があるし、少ないとは言えイリスちゃんとかリーンさんみたいな友達も増えた。

 

(でも、それとは別にいつかはちゃんと『勝負』をして…………勝たないといけないよね)

 

 紅魔の長になるものとして。いつまでも同級生に負けてはいられない。めぐみんがどれだけ凄い魔法使いなのかは分かってるつもりだし、今の私では魔法使いとして勝てないことも自覚している。それでもいつかは絶対に勝つ。

 

 めぐみんは私にとって超えなければいけない『壁』だ。

 

「……なんですか、ニヤニヤしたり嫌そうな顔してたかと思えばいきなり真面目な顔になって。一体全体何を考えているんです?」

「うん。めぐみんは『壁』だよねって、改めて考えてた」

 

 そんな私のある種の敬意を込めた言葉を受けて、めぐみんはなぜだかピキリと音がなりそうな感じで固まる。

 

「ふ…ふふっ……真面目な顔して何を考えてると思ったらそれですか。なんですか、私の事憐れんでいるんですか? それとも痴女と言われたことを根に持ってるんですか? ええ、確かに私はあなたに比べれば壁ですよ。それどころか最近無駄に成長しているイリスに比べても壁でしょうね。流石にクリスよりかは大きいですがこめっこ並の壁です。むしろこめっこにすら負けてるかもしれません。……人を妹以下の絶壁扱いとか言うじゃないですか」

「誰もそんなことは言ってないよね!? そもそもなんで胸の話になってるの!?」

 

 今にも爆裂魔法の詠唱を始めそうなめぐみんの様子に私は必死になって否定する。確かに勘違いしそうな言い方をした私も悪いけど、後は全部めぐみんの自爆じゃないの。

 

「え? 胸の話じゃないのなら私が壁とはどういう意味ですか?」

「…………あ、ごめん。やっぱり胸の話で良かった。……うん、めぐみんの胸は壁みたいだよね」

 

 ……改めて聞き直されると本当の事は言いにくい。というか恥ずかしすぎる。

 

「上等ですよぼっち娘! なんですか、胸が大きいことがそんなに偉いんですか!? だったらその大きい胸をさらけ出して街中を歩き回って自慢すればいいじゃないですか!」

「きゃーっ、きゃーっ! 脱げる! 本当に脱げちゃうから!」

 

 私の服を剥ぎ取ろうとする力に必死に抵抗する。小さいとはいえ私よりもレベルが高いめぐみんの力は侮れない。単純な力や体術て負けるとは思わないけど、服を介しての引っ張りあいとなればそのアドバンテージは微々たるものだ。

 ……というより、脱げやすい私の服で引っ張りあいすると考えるなら、脱がそうとしてるめぐみんの方が有利かもしれない。

 

「脱げればいいんですよ! むしろ脱げろ!」

「ほ、本当やめて! 見えちゃう、下着見えちゃう!」

 

 必死の抵抗むなしく、露出の多い私の服は段々とはだけてくる。今のまま抵抗していれば遠からず私の下着姿は白日のもと晒されしまう。

 こうなったら、魔法を使ってでも……っ!

 

「『カースド――」

「なんですか、魔法ですか? そっちがその気なら私も『エクス――」

「わーっ、わーっ! 分かった、謝るから! 全部私が悪かったから! だから脱がすのも爆裂魔法もやめて!」

 

 街中で爆裂魔法を撃とうとする親友に全面降伏をして。

 私はなんでめぐみんが頭のおかしい爆裂娘と呼ばれているのか、改めて理解した。

 

 

 

 

 

「本当、めぐみんったら……めぐみんには常識がないの?」

 

 街中で女の子の服を脱がそうとしたり、爆裂魔法を撃とうとしたり。前者はともかく後者は大惨事じゃ済まないと思うんだけど。

 ……いや、前者も私がこの街に居られなくなるし冗談じゃ済まないんだけど。

 

「別にこれくらい紅魔の里じゃ日常茶飯事じゃないですか」

「変人しかいないあの里でも流石に里の中で爆裂魔法撃とうとする変人はめぐみんしかいないと思う……」

 

 まぁ、あの里なら実際に爆裂魔法を撃たれてもテレポートで逃げて何事もなかったように里の復旧始めるんだろうけど。

 

「私だって流石に爆裂魔法を普通に撃つ気はなかったですよ? 空に向かって撃って爆風で攻撃するつもりでした」

「なんでドヤ顔なのよ……」

 

 確かにめぐみんの爆裂魔法の制御力を考えれば私以外に人的被害を出さないのかもしれないけど。だからと言って街中で爆裂魔法を撃とうとする非常識さは変わらない。

 

「それに魔法を使うにしても、テレポートで逃げたり私を飛ばすんじゃなく、攻撃魔法を使おうとするあたりあなたも十分変人ですよ。上級魔法を街中で撃つのは犯罪なんですからね」

「あー……うん。全くもって正論なんだけど、めぐみんにだけは言われたくない」

 

 本当に爆裂魔法を街中で何度か撃っているめぐみんに比べれば、私なんて可愛いものだと思う。というよりどっかのチンピラさんを止めるためには中級魔法だけじゃ威力が足りないし。

 

「まぁ、何だかんだであなたも紅魔族の一員と言うことですね」

「それは否定できないのが悔しい……」

 

 いや、あの里の事は好きだし、あの里の長になるんだから否定しても仕方ないんだけどね。

 

 

「それで、結局あなたは何をしていたのですか? 私には誰かをストーキングしてるようにしか見えなかったのですが」

「………………い、いやだなぁ、めぐみん。なんで私が尾行なんてしないといけないの?」

「何でもなにも、あなたは以前友達に会おうと意味もなく路地裏を徘徊するというストーカー予備軍な行動をしていたそうじゃないですか。なのでついにぼっちを拗らせて直接的に友達をストーキングしてるのかなと」

「何言ってるのよめぐみん。そんな理由で尾行なんてするわけないじゃない。だってそれじゃ友達と偶然会えない」

 

 見つからないように追いかける尾行と、偶然会うためにウロウロするのは全然違うと思うんだけど。

 

「いえ、ですからその偶然を必然にするためにですね。家や宿から出てきた友達を密かに追いかけ、街中で偶然会ってもおかしくない場所に行ったら偶然を装って出てきて出会いを演出しているのかと」

「………………さ、流石の私もそこまで拗らせてないわよ」

「あなた今ちょっといいなって思いませんでしたか?」

「………………そんなことない」

「思いっきり目を泳がせてるじゃないですか」

 

 でも、そっかぁ……そうすれば()()に友達と()()出会えるんだ。

 流石にしないけどね。……昔の私なら分からないけど。

 

「まぁ、別に理由はどうでもいいですか。それよりも誰をストーキングしてるのか気になります」

「だから誰も尾行なんてしてないから!」

 

 そんな私の叫びを無視して、私が覗いていた壁の先に顔を出すめぐみん。

 

「んー? 誰をストーキングしてるんですか? 少なくとも私が知っている顔はないのですが」

「え? さっきまでそこでナンパしてたのに……って、あっ!?」

 

 追っていた背中が道の先、遠くに見える。いつの間にかあの人は日課を終えていたらしい。

 

「ごめん、めぐみん!また今度ね!」

 

 次に向かうところは大体想像がつくけど、ここまで来て 見失うのも馬鹿馬鹿しい。最低限の挨拶を済ませて私は走り出した。

 

 

 

 

 

 

「おい、ルナ。なんか割のいい仕事くれよ。金がねーんだよ、金が」

「……この間のグロウキメラ討伐クエスト、最初の提示額の倍支払いましたよね? ゆんゆんさんと山分けをしてたとしても数日で使い切れる額じゃないと思うんですが」

「二等分じゃなくて三等分だからな。つーかA-ランク以上のモンスター相手にあの報酬は安すぎんぞ」

「初期報告のB-ランクの情報を元に作られたクエストですから。倍の報酬を払ったのだけでも異例ですよ?

 ダストさんの言うとおりA-ランク以上のグロウキメラだと分かっていれば一千万エリス以上の報酬は確定、報告にあった再生能力を考慮すればAランク相当と判断して5千万エリス以上のクエストになっていたかもしれませんが」

「…………やっぱ一旦撤退してギルドに報告してから倒しゃよかったぜ」

 

 

 ギルドの酒場。その柱の陰に隠れながら。私はギルドの受付でルナさんに絡んでいるチンピラさんの様子をうかがう。

 

「なんですか、誰をストーカーしているかと思えばダストじゃないですか」

「うん、実はそうなんだけど…………って、めぐみん? どうしてここにいるの?」

 

 私と同じようにひょこりと柱から顔を出すめぐみんにそう聞く。当然のようにいるけど、私ちゃんとめぐみんに挨拶して別れたよね?

 

「誰をストーカーしているか気になると言ったでしょう。しかも寂しがり屋のあなたが自分の方から話を終えてまで追いかける相手です。こっちも追いかけて確認するに決まっています」

「…………本当、めぐみんって里にいた頃と比べると変わったよね」

 

 むかしのめぐみんは個人主義で爆裂魔法と食べること以外はどうでもいいって感じだったのに。

 

「それはお互い様だと思いますけどね。…………で、なんであのチンピラを尾行なんてしてるんですか? ついにあの男に惚れましたか?」

「めぐみんって頭いいはずなのにバカとしか思えない発言をするよね。やっぱり紅魔族一のバカなの?」

 

 私がダストさんに惚れるとか。……それは確かに槍を持って助けに入ってくれた時はちょっと格好いいなと思ったような気がしないでもないけど、それにしてもあれに惚れるとかない。

 

「うるさいですよ紅魔族一のぼっち娘。……じゃあ、なんであの男を尾行なんてしてるんですか?」

「…………そんなの、私のほうが聞きたいわよ」

 

 だって、そうだ。ダストさんを尾行する理由なんて何もない。あの人はただのチンピラで、尾行してまで調べるようなことは何もないんだから。

 

「ま、分からないのなら分からないでいいですよ。カズマが起きてくるまで暇なので私もあなたの理由の分からない尾行に付き合っていいですか?」

「もうお昼過ぎてるんだけど……カズマさんまだ寝てるの?」

「寝てますね。借金がなくなってからこっち出不精なのは今更ですが、最近はそれに輪をかけて怠けてますからね。控えめに言ってぶっころりー並のニートですよ」

 

 カズマさん……。アクセルで1番の鬼畜ってだけで他はまともだと思ってたのに……。いや、お金は数え切れないくらい持ってるし働く必要ないのは確かなんだろうけど。

 

 

 

「ま、今更もらった報酬で騒いでも仕方ねえか。で? なんか割のいい報酬はねえのかよルナ」

「そうですね……基本的にクエストの難易度に対して報酬がいいのは依頼者のいる個人クエストですが、そっちの方は大体がダストさんお断りって指名されてるんですよね。ダストさんが受けるとすればゆんゆんさんかリーンさん、どちらか保護者が一緒でと」

「それなりに高い報酬だと危険があるしリーン連れてけねぇんだよなぁ。かと言って今回に限っちゃゆんゆん連れてくのも気が乗らねえし……」

「ギルドクエストならダストさんお一人でも受けられますが……この間のクエスト含め基本的に難易度に対して報酬は低いですからね。割がいいといえるクエストはジャイアントトード討伐クエストくらいです。ただ、あれも本当に駆け出しの冒険者の方が困るんで乱獲は認められませんが」

 

 

「相変わらずあのチンピラはお金に困っているようですね」

「うーん……たしかに相変わらず金使いが荒いけど、少しはマシになってた気がするんだけどなぁ」

 

 少なくとも数日で70万エリスも使い切るような事は最近はなかったはずだ。

 

「じゃあ何か欲しいものでもあるのかもしれませんね」

「やだなぁ、めぐみん。ダストさんが欲しいものがあるからってお金貯めたりするわけないじゃない」

「そうなのですか? まぁ、アクセル随一のチンピラ言われてるあの男がそんな殊勝なことするイメージはたしかにありませんが」

 

 例外はドラゴン関係のことだけど…………ついこの間もハーちゃんに特製ブラシをプレゼントしてたし、流石に連続ではないと思う。

 

 

 

「割のいいクエストはやっぱねえか。じゃあ、多少難易度は高くていいから報酬がいいクエストくれよ」

「では、グリフォンの討伐クエストを200万エリスでどうですか?」

「グリフォン討伐で200万は安すぎねえか……。つーか、最近グリフォン討伐クエスト多すぎだろ」

「そうですね。ギルドの上層部でもそろそろアクセル周辺のモンスター分布にグリフォンを追加するかどうか検討中です」

「グリフォンが生息するとか駆け出しの街として不味すぎるだろ。まぁ、どっちにしろ俺一人じゃグリフォンに勝てないしそのクエストはパス」

「そうですか? あなたが本気を出せば余裕だと思うんですが。ダストさんの言うとおり、駆け出しの街周辺にグリフォンが出没するのは好ましくありません。早く討伐したいのでお願いできませんか?」

 

 

「グリフォンの討伐ですか……。あの男が受けないのでしたら私が受けましょうかね。今日はまだ一日一爆裂も終わっていないことですし。そろそろカズマも起きる時間ですから。…………って、どうしたんですか、ゆんゆん。なんだか微妙な顔をしていますが」

「ん……? 微妙な顔って?」

 

 別に変な顔してるつもりはないんだけど。

 

「いえ、屋根を登ったらいきなり梯子を外された子供のような顔をしていますよ」

「んー…………気のせいじゃない? だって、私がそんな顔をする理由どっかにある?」

「…………ま、あなたが気の所為と言うならそういうことにしておきますか」

 

 ? 本当、めぐみんは何を言っているんだろう。

 

 

「もうちょい報酬を弾んでくれるならグリフォン討伐クエスト受けてもいいぜ? 俺一人じゃ無理だろうが、手伝ってくれるあてがないわけでもねえし」

「はぁ……そう言われましても、ギルドからこれ以上報酬金を上げることはできませんよ」

「別に金はいい。その代わりお前のでかい胸を揉ませろよ。どうせ独り身で持て余してんだろ?」

「本当にギルドで賞金懸けますよ」

「おうおう、俺がそんな脅しに…………すんません、マジで謝るんで賞金首リストに追加するのはやめて下さい」

 

 ためらいなく土下座して謝っているダストさん。ギルドの受付でそんなことをやっているのは凄く目立つし、凄く情けない。

 

「ゆんゆん、あなた……」

「ん? どうしたのめぐみん。もしかして私また変な顔している?」

 

 今の私はダストさんの行動に呆れた顔してるだろうし、変って言ったら変かも。

 

「いえ……いつものあなたの顔ですよ」

「そう? ま、めぐみんにはいつも呆れさせられてたし、めぐみんが見る顔としてもいつもの顔かもね」

「おい、ぼっち娘。それはどういう意味かはっきり言ってもらおうか。そもそも呆れるという意味ではむしろあなたのぼっちっぷりの方が――」

「――あ、めぐみん。ダストさんがギルド出ていっちゃうみたい。追いかけるよ」

 

 ルナさんやルナさんがセクハラされて怒っている冒険者から逃げるように、ダストさんはギルドを出て行く。

 

「ああ、もう! あなた、人の話を聞かずに自分勝手な所、あのチンピラに似てきたんじゃないですか!?」

 

 仮に私がそう変わっているとしても、そんな影響を私に1番与えてるとしたらめぐみんだと思うけどね。

 出ていくダストさんの背中を追いかけながら、私はそんなことを思っていた。

 

 

 

 

 それからも、私とめぐみんは密かにダストさんを尾行し、そのチンピラの所業を観察し続けた。流石に街中とかでは会話を拾うことまではできなかったけど……。

 

 

「あれは、ア……こほんっ、イリスのお付のまともな方ですね。あの2人知り合いだったんでしょうか?」

「そう……かな? 確かにあの女の人の方から話しかけてたけど…………逆ナンとかじゃない?」

「確かにレインは微妙に行き遅れてますが、流石にあんな男を逆ナンしないといけないほど落ちぶれてはいないと思いますよ」

「いやいや、ダストさんって顔だけは悪くないし、きっと実態を知らずに逆ナンしちゃったんだよ」

「あの様子はそんな風には見えませんけどねぇ……」

 

 綺麗で落ち着いた女性がダストさんと妙に親しげに話しているのを目撃したり、

 

 

「あの男、小さな女の子の荷物をひったくりましたよ」

「何普通に言ってるのよめぐみん。流石にもう尾行してる場合じゃ……」

「おや? なんだか、普通に並んで歩き出しましたね。もしかして、荷物を運んであげてるのじゃないでしょうか」

「めぐみん……ダストさんがそんな普通の人みたいなことするわけないじゃない」

「いえ……私もそう思いますが、様子を見る限りそうとしか……」

「じゃあ、きっと何か変なものでも食べたんだよ」

「なるほど。正気じゃないなら納得です」

「でも……あの子ってどこかで会ったことあるような……」

「奇遇ですね。私もどこかで会ったような気が……」

 

 どこかで見たことのある女の子や旅姿のセシリーさんと楽しげに話をしているダストさんを目撃したり、

 

 

「思いっきり鼻の下を伸ばしてますね」

「まぁ、ウィズさんは女性から見てもきれいな人だしね。ダストさんみたいな女好きなら鼻の下を伸ばしてて当然かも」

「………あなた、微妙に嬉しそうですね。嫉妬でもするんじゃないかと思っていたんですが」

「めぐみん……何をどう考えたらあの人に嫉妬するなんて考えが出るの? 何か変なものでも食べたんじゃない?」

「本気で哀れみの目を向けないでくださいよ! 流石にあの男と同列扱いは納得しませんよ!?」

「いやぁ……割りと似た者同士じゃないかなって最近思ってるんだけど」

 

 情けないくらいウィズさんに鼻の下を伸ばしているダストさんを目撃したり、

 

 

「あ、リーンさんだ」

「……何やら小言を言っているように見えますね」

「内容は聞こえなくても大体想像つくなぁ……」

「あ! ナデポですよナデポ! イケメンにしか許されないナデポをダストがやってます! 通報しないと!」

「どこに通報するのよ……。それにあれは撫でてるんじゃなくてグシャグシャにしてるだけだし……」

「あ……ファイアボール撃たれましたね」

「本当……ダストさんって懲りないんだから……」

 

 いつも通りリーンさんにやられてるダストさんを目撃したり、

 

 

「どうでもいいですが、あの男が会ってるのが女性ばかりなのはどういうことなんですか?」

「ダストさん女好きだからね」

「それだけじゃ説明がつかないくらい女性の知り合いが多い気が……って、またギルドに戻ってきましたね」

「あー……じゃ、次はバニルさんの所かな」

「……みたいですね。………………気のせいか、今日1番あの男が楽しそうに見えるんですが」

「ダストさんってバニルさんの事がドラゴンの次に好きらしいし、いつものことだよ」

「バニルもバニルで妙に楽しそうに見えるんですが……」

「バニルさんってダストさんの事『ダスト』って名前で呼んだりするしね。バニルさんもダストさんの事この街で2番目くらいに好きなんじゃないかな」

「そんなどうでもいい上に微妙な気持ちになる事実、知りたくありませんでしたよ……」

 

 いつも通りバニルさんとイチャイチャしているダストさんを目撃したりした。

 

 

 

「暗くなってきましたね。いい加減カズマも起きているでしょうし一爆裂してこないといけません。私はそろそろ抜けさせてもらいますよ」

「こんな時間に爆裂魔法とか本気で迷惑だから街からたくさん離れてからしてよね」

 

 伸びをしながらそんなことを言うめぐみんに、私はジト目をしながらそう返す。

 

「夜に浮かぶ爆裂魔法はそれはもう綺麗なものなんですよ?」

「だからなんなのよ……」

 

 花火としてあがる爆発魔法が綺麗なのは知ってるけど、爆裂魔法は綺麗とかそんなの考える前に普通に命の危険覚えるから。

 

「あなたも爆裂魔法を覚えれば私の気持ちが分かりますよ」

「ウィズさんも覚えてるし、()()()も覚えてたから私も爆裂魔法覚えたい気持ちはあるけど…………流石にポイントが足らなすぎるわよ」

 

 ポイント不足を解消できるなら覚えるのも悪くないと思う。今の私なら里を出た頃のめぐみんくらいの威力なら爆裂魔法撃てる魔力はあると思うし。

 

「族長の娘権限でスキルアップポーションをたくさん作ってもらうというのはどうですか?」

「スキルアップポーション一本の値段知っててそれは流石に無理」

 

 いや、あの里なら割と簡単に作れるのも知ってるんだけど。それにしても爆裂魔法を覚えられるだけのスキルアップポーションを金額で計算すると…………うん、これ以上考えるのはやめよう。

 

「残念です。まぁ、爆裂魔法を覚えたくなったらいつでも言って下さい。ポイントさえあればすぐに教えてあげますよ」

「いつになるかは分からないけど考えとく」

 

 まぁ、上級魔法も覚えられたしテレポートも覚えた。『ライトニングブレア』とか最上位の属性魔法を覚えたい気もするけど、そこまで行くと趣味の域だし、無理して覚える必要はない。同じ趣味ならポイントをためて爆裂魔法を覚えるのも確かに悪くはないと思う。

 …………まともにやってたら覚える頃にはおばあちゃんになってそうな気がするけど。

 

「あなたはまだストーカーごっこを続けるのですか?」

「んー……そろそろダストさんと約束してた時間だし一旦宿に帰ろうかな」

「約束ですか?」

「うん、ちょっとお詫びにご飯を奢る約束してて」

 

 グロウキメラ討伐クエストにリーンさんを連れて行ったお詫びだ。

 

「…………あなた、あの男にいいように利用されてるんじゃないですか?」

「……そうかもね。否定はできないけど」

 

 ご飯を奢らされることは多いし、クエストに付き合わされることも多い。客観的に見れば私がダストさんに利用されているというのは否定できない。

 

「だったら――」

「でも、それだけじゃないから。だから、私はあの人と『友達』なんだよ」

 

 あの人と一緒にいてマイナスを被ったことが数え切れないのは確かだ。でも、マイナスだけだったわけでもない。

 

「それに……里にいた頃、ダストさん以上に私をいいように利用してた子と『親友』やってるからね」

「…………卑怯ですよ。そんな風に言われたら私には何も言えないじゃないですか」

 

 バツが悪そうに、あるいは不貞腐れた様子でそんなことを言うめぐみんは何だか可愛くて――

 

「ちょっ! なんですか! 人の髪をグシャグシャにするのはやめて下さい!」

 

 ――どこかの誰かがするのと同じように、めぐみんの髪をグシャグシャに撫でる私だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ダストさん、ハーちゃんのことくれぐれもよろしくお願いしますよ?」

「分かってるって。というか、ドラゴンのことに関して言えばこの街一番の男に何を心配してんだ」

 

 ギルドの酒場。約束通りダストさんに夕食を奢っている私は今日からのことを心配する。

 

「だって、ハーちゃんは女の子じゃないですか。童貞のダストさんに襲われないか心配で心配で……」

「お前は俺を何だと思ってんだよ!? 上位種になって人化してるならともかく竜の状態で襲えるか!」

 

 心配というのは私の可愛い使い魔であるハーちゃんのことだ。

 ハーちゃんもすくすくと大きくなり、流石に私と同じ宿で寝泊まりするのは流石に難しくなってきた。仕方がないので宿の一階にある馬小屋の方で飼うことになったんだけど、その事を相談したらダストさんが夜の間は自分がハーちゃんの面倒を見たいと言ってきた。

 ハーちゃんも一人で寝るよりは懐いているダストさんと一緒のほうがいいだろうとその話を受けたんだけど………ダストさんにはリーンさんを襲ったという前科があるらしいので油断はできない。

 

「ったく……そんなに心配だったらお前も馬小屋で寝るか?」

「んー…………それも悪くないかもしれませんね」

 

 ハーちゃんと一緒に寝れるというのはかなり魅力的だ。どうせダストさんは私を襲うことはしないだろうし。

 

「…………お前、俺のこと全然男として見てねえな」

「何を今更なことを言ってるんですか?」

「まぁ、確かに今更かもしれねえけどよ……それにしてもだな……」

「それに、ダストさんだって私の事そういう対象だとは思ってないじゃないですか」

 

 散々セクハラはするくせに、肝心なところでは全然女として扱ってくれていないのはダストさんの方だ。

 

「…………まぁ、お前は顔と身体だけは俺好みに成長したが、中身と年齢はクソガキのまんまだからな」

「そういうことです。…………私ももう少しで17歳ですし、中身はダストさんなんかよりずっと大人なんでクソガキ扱いは全然納得できませんけど」

「自分が大人だって主張するとか思いっきりガキの反応じゃねぇか。そんなんだからお前は中身ガキ言われんだよ」

「…………別にダストさんに大人の女扱いされても全然嬉しくないですしいいですけどね。……いいんですけど、この無性にダストさんを殴り倒したくなる気持ちは何なんでしょうか」

 

 クソガキ扱いされてきたことは今となってはそこまで否定する気はない。だって、もしも私がダストさんの守備範囲内だったのなら、きっとダストさんと友達になんてなれなかったから。

 でも、これからもダストさんにクソガキ扱いされると考えると……。

 

「…………このぼっち娘、相変わらず凶暴だなぁ」

 

 …………どうしよう、ほんと殴りたい。

 

 

 

「ん?ゆんゆん、カエルの唐揚げ食わねぇのか? だったらもらうぞ」

 

 怒りを抑えてた私の唐揚げをひょいと取って食べるダストさん。

 

 

 ………………………………

 

 

「おいこら! 俺のステーキを勝手に食べんじゃねぇ! あ、全部食いやがった! このクソガキ表にでろ!」

「こっちの台詞ですよチンピラ冒険者! 毎回毎回負けてるくせに懲りない人ですね! いい加減実力差を理解させてあげます!」

 

 

 ダストさんの喧嘩を買いながらも私は思う。この街に修行から帰って来てすぐの頃、私がこんなに賑やかな夕食を取るなんてこと想像もしなかった。親友であるめぐみんは既にパーティーを見つけていて、引っ込み思案の私はその輪にお邪魔することも出来ず、一人寂しく夕食を食べる毎日だった。

 

「お! いつもの喧嘩か? うしっ、お前ら賭けをしようぜ! 俺はダストが負けるに1万エリス!」

「……俺はゆんゆんが勝つに2万エリスだ」

「んじゃ、あたしもテイラーと一緒で」

「では我輩は――」

「「「――見通す悪魔さんの賭けへの参加はご遠慮ください」」」

「だったら私はダストが勝つ方にこの体を――」

「――はいはい、ダクネスは黙っていようね。というか、ダクネス、助手k……カズマにしかなぶられたりしないって心に決めてたんじゃないの?」

 

 それが今はこんなに騒がしい。食べてる相手に不満はあるけど……それでもあんな寂しい食卓に比べればずっとマシだ。

 

(…………もう、あんな食卓は嫌だなぁ)

 

 

 私は願う。

 

 

「くそっ、どいつもこいつも俺が負けると思いやがって。……おい、ゆんゆんこうなりゃ八百長だ。お前わざと負け――」

「――るわけないですよね? 『カースド・ライトニング』」

「だよなぁ!」

 

 

 この騒がしい食卓がいつまでも続くことを。

 

 

「くっ……このぼっち娘まじで凶暴すぎだろ。なんで喧嘩しながら笑ってんだよ?」

「仕方ないじゃないですか。…………だって、楽しいんです」

 

 

 本当に。本当に。

 

 

「上等だよ凶暴ぼっちが! その笑顔のまま土の味を覚えさせてやるぜ!」

「出来るならどうぞ。…………出来ないと思いますけどね」

 

 

 

 そう願っていた。


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