Fate/GrandOrder ~憎悪と慈愛と復讐の救済を~   作:三枝 月季

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序章 「特異点F 炎上汚染都市 冬木」
寝覚めは最悪


 

 苦しいのか、それとも、愛おしいのか。分からない微睡みの中にいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「先輩。起きてください、先輩」

 

(……マシュ?)

 

 これは夢なのだろうか、それにしては、頬に感じる息吹や声までもが、あまりにリアルだ。

 

「……起きません。ここは正式な敬称で呼びかけるべきでしょうか……」

(正式な敬称?)

「――マスター。マスター、起きてください。起きないと殺しますよ」

「………………死体蹴りは良くないと思うよ。マシュ」

 

(まぁ、私も人の事は言えないんだけどね)

 

「良かった。目が覚めましたね先輩。無事で何よりです」

「…………なんだが物騒な事を言われた気がするのだけれど?」

 

 どこか既視感のあるやりとりだな?と思いながらも、身体を起こした私の視界を埋め尽くした情報は、暴力性に富んでいる。どうにも現実は私に優しくはないようだ。

 

 人の気配を感じられない街を炎が総べている。その町並みの造りを見るに、ここは恐らく日本だろう。先程までいた管制室も煉獄の様相だったが、目の前に広がる災厄の規模はその比ではない。経験などないはずなのに、空襲という単語が頭に浮ぶ。

 

【――アア、ソウダ。間違イナクコレハ戦火ダ】

 

 ゾワリと悪寒が蠢いた気がした。

 

「……すみません。言い間違えました。正しくは殺されますよ、でした」

「えっと……何に?」

 

 お互いの吐いた息が白くけむり、私は学校の夏服(半袖のセーラー)から露わになった両腕を擦る。カルデアがあった場所ほどではないが、この街からは確かに冬特有の乾いた冷気を感じる。けれど、ここを日本と仮定するなら、それは可笑しな事だった。だって、私が日本を発つ前に水をやった家の庭の夏椿では、蜩が忙しなく愛を乞うていたのだから。

 

「……その、想定外のことばかりで混乱しています。落ち着きたいところですが、今は周りをご覧下さい」

「GI――GAAAAAAAAAAAAAAA!!」

「おk、嫌でも把握できた」

 

 マシュの言に目線を動かすと、奇声を発して、こちらへと駆けてくる群体が目に映る。ぼろ布を纏い、手には武器のようなものを持ったそれらは、明らかに生体ではなかった。

 

(何あれ、がしゃどくろ? ってこっち来たぁあああぁ!!)

 

 次第に、はっきりと浮かび上がる。その輪郭が作る衝撃には声も出ない。

 

「――言語による意志の疎通は不可能。――敵性生物と判断します!!」

「マシュ!?」

 

 十字型の大きな盾?で、一体目の骸骨を吹き飛ばした後に、武器を振り上げて私へと肉薄した骸骨の攻撃を防ぐマシュからは、管制室で瀕死になっていた少女の面影は感じられない。

 

 まるで、あの時と立場が反転したようだった。黒紫の鎧に身を固めた女騎士(マシュ・キリエライト)が、その背に私を庇っている。

 

「マスター、指示を。わたしと先輩の二人で、この事態を切り抜けます!!」

 

 二体目を叩き伏せると、私の手を取り駆け出すマシュ。その俊足に必死に食らいつきながらも、存外冷静な脳裏が疑問を呈した。

 

「指示って言われても何を、っていうかマスターって?」

「その反応はごもっともなので、今はこれだけを理解して下さい。現状、戦う術を持ちうるのは、わたしだけであり、その担い手は先輩、貴女です!!」

「なっ――」

 

 繋いだ手から感じる温もりに、これは確かな現実なのだ。という理解が深まる。けれど、納得は出来なかった。加害者と被害者が手を取り合っているなんて、そんなことがあってたまるか。

 

【オゾマシイ】

 

 ふと、マシュの左手に重なった、血塗れの右手の甲が痛んだ。焼き鏝を押し付けられる感覚とは、こんな痛みだろうか。幻痛にしては生々しいそれは、奇しくも、三重に八角形の()を形作った。

 

(…………耐えられない)

 

 何故だか、そう思った。

 

【振リ払エ、切リ落トセ】

 

 ……耳鳴りがする。本能が囁いているのだ。断ち切れと、お前の縁は決まっているじゃないかと。

 

【何ヲ躊躇ッテイル?】

 

(うるさい)

 

【楽ニナレ】

 

(黙れ)

 

【サモナクバ】

 

「やめっ――」

 

 マシュの為にも、手を放さなきゃ!!と、行動を移そうとしたその瞬間に感じたのは、鋭い殺意だった。

 

「先輩ッ!!」

 

 強い力で彼女の守備範囲へと引っ張り込まれるのと、さっきまで私が居た場所が抉られるのは、ほぼ同時だった。

 

 コンクリートの地面が穿たれ、欠片が宙を舞う。その的確に狙い定められた攻撃には目を剥いた。マシュがいなければ、今頃、私の脳漿が辺りに花を咲かせていた事だろう。

 

 しかし、安心するにはまだ早い。私の頭に鳴り響く警鐘は、かえって激しさを増している。

 

「マシュ!!直ぐにここから離れ――」

 

 けれど、そんな私の声は無情にも掻き消され、マシュの盾は火花を上げた。

 

「ッ!!今度は何が起きたのっ!?」

 

 遅かったか!!と、内心で毒づきながらも、私は敵襲に負けないように、大声で尋ねた。

 

「くっ、分かりませんッ!!恐らくは狙撃されているのかとッ!!」

「はぁっ!?」

 

 懸命に盾を支えながらマシュが叫び、私はその内容に眉を顰める。この猛攻が狙撃?だとしたら、随分と派手だ。忍耐を要する狙撃手には向かない戦術とも言える。一撃必殺を完遂出来なかった以上は、仕切り直したほうが良いはずである。現状のこちらの防御態勢にヒビはないのだから、尚更だ。

 

(……いや?何か引っかかる)

 

「ッ!!先輩は絶対に私から離れないで下さい」

「けどっ!!」

 

 こうしている間にも、後方からは骸骨兵達が迫ってきている。このままではジリ貧になるのは明白だった。と同時に――

 

(ッ!!そうか!!そういう事か!!)

 

 鋭敏な直感が敵の狙いに勘付き。

 

(……卑劣だが賢い手だ)

 

 口角を歪める男の姿を幻視する。

 

「……私をデコイに使ったな」

 

 その優秀さが気に入らないし、鼻につく。相手を斃せればそれでいいという(相手の殺し方に拘らない)敵ほどに、厄介なものはない。そういう輩は大抵、己の武功を誇らない仕事人だからだ。感情に干渉されない分、容赦なく確実性を取る連中の手強さは、嫌と言うほど知っている。

 

 だからこそ、敵の考えは容易に読めた。

 

「先輩っ!?」

 

 けれど、それは私を戦力のうちに数えないからこそ、成立する話である。

 

「……はぁ~、全く。私はとことん運がないのね」

 

 そんな推測を裏付けるかのように、敵の攻撃はマシュの盾を中心に展開されており、骸骨集団には流れ弾一つとして当たらない。その性格は勿論の事、つくづく良い腕をした狙撃手だ。この調子なら、一体目の接敵まで一分もかからないだろう。

 

「ったく、死に場所くらい、好きに選ばせなさいっての」

 

 悪態を吐きながらも、現状を打破する為に考えを巡らす。最高なのは狙撃手を下す事だが、見たところ飛び道具を待たないマシュは勿論のこと、今の私の腕では、流石に目視の出来ない相手は撃ち抜けない。それに得物を同じくする分、嫌でも敵との力量の差は分かる。その直感を信じるならば、全力の一矢で、やっとどうにか隙が作れるか?というところだろう。それで確実にマシュが助かるのなら、己の命を惜しむ道理はないのだが。状況を鑑みるに、敵は端から二人とも狩る心積もりらしい。

 

 まんまと罠に嵌められてしまった事は悔しいが、どうしようもない。こうなった以上は、骸骨兵の相手は私が務めなくては――

 

「……まぁ、いいわ。マシュ!!その背を私に預けなさい。貴女には私の命を預けます」

 

 1、2、3……6体か、まぁ、頑張ればどうにかなりそうだ。

 

「先輩っ!?」

「振り返らないで!!押し負ければ死ぬわよ!!」

「ですがっ!!」

「先輩を信じなさいマシュ。私はただ(・・)殺されるのだけは、我慢ならないタチだから」

 

 我ながら酷い台詞だと思う。管制室でマシュを見捨てておいて、言える事ではない。でも、まぁ嘘をつくよりは、幾分かマシだろう。

 

 後ろ手に、肩甲骨の下まで伸びた髪の毛を数本引き抜き、切れた唇に軽く挟む。そのまま傷口に沿わせて引き抜けば、私の黒髪が鮮血を纏った。

 

 準備は完了した。あとはアレを喚び出すだけでいい。けど――

 

【コワイ?】

 

(ええ)

 

 ゆっくりと目を閉じる。久しく感じていなかった種類の恐怖を、確かに愛しいと感じた。

 

(……けど、私らしくもないでしょう?)

 

 目を開ける。その瞬間、クツリ。と、闇が嗤った気がした。なのに――

 

「先輩ッ!!攻撃が止みました。今のうちに此方へ」

「――――え?」

 

 マシュの言葉に、思わずと思考が停止する。盾越しに敵がいるだろう方向に目を凝らすも、人間の視力で捉えられる情報など、たかが知れている。ここまで私達を追い詰めておいて、手を緩めた敵の行動には疑問が残るが、折角のチャンスを無駄にする道理はない。ただ――

 

【####################】

 

「先輩ッ!!」

「ッ、ええ、分かったわ」

 

 マシュに手を引かれ駆ける私の中では、行き場を失くした闇が騒ぎ出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――ふう。不安でしたが、なんとかなりました」

 

 幸いにして、骸骨兵たちは頭脳戦に弱く、また一体一体は大した戦力を持ち得なかった為、住宅街を縫って駆けるうちに、何体かは振り切る事が出来た。それでも撒けないしつこい個体とだけ戦闘を展開したが、勘を取り戻しつつある私と、姿を変えたマシュの敵ではなかった。

 

「お疲れさま、マシュ」

 

 とはいえ、私は始終囮役に徹していたので、敵と矛を交えてはいないのだが。

 

 兎も角、最後の敵の消滅を確認した私達は、狙撃を警戒して、近くの民家の中に入る。格下相手とはいえ、命のやり取りで疲弊した身体が悲鳴を上げているが、それが何よりも、生きている事を証明していた。

 

「ありがとうございます。先輩も、お怪我はありませんか?お腹が痛かったり、腹部が重かったりしませんか?」

 

 玄関先に腰かけた私に、一切の疲労を感じさせないマシュの気遣いが沁みる。そんな彼女は、盾が邪魔なのか、それとも先の狙撃手を意識してか、座らずに辺りを警戒している。

 

「……心配ありがとう、主に腹部の。けれど今のところ、どこにも異常はないわ」

「そうですか。何よりです」

 

 マシュの言葉に思わずと下腹部を擦るが、危惧するほどの問題は起こっていない。

 

「それはそうと、今のはなんだったのかしら?」

「……わかりません。この時代はおろか、わたしたちの時代にも存在しないものでした」

「確かに、見たことのない……生き、物?だったわね」

「あれが特異点の原因……のようなもの、と言っても差し違えはないような、あるような……」

 

 特異点……。と、マシュの言葉を声に出さずに反芻する。それは冷静になれば思い当たる事だった。私達が生きている事にも、ここが管制室ではない事にも、その全てに説明のつく事象。

 

 どうやら私は、あれだけ嫌がっていたレイシフトに助けられたらしい。その代わりに、もっと悲惨な目に遭っている気がしないでもないが。

 

「……そう。とにかく、この後の行動をどうするか決める必要があるわね」

「はい、ですが、それにしても…………」

 

 ため息と共に吐き出した私の打診に、マシュが歯切れの悪い返事を返してくる。

 

「何かしら?」

 

 そんな彼女の反応に、一抹の不安を覚えて、顔を上げる。すると、彼女もこちらを窺っていたのか、すぐに私とマシュの視線が交錯した。

 

「いえ、その、先輩の冷静さが、不思議で」

 

 痛いくらいに真っ直ぐ私を見つめるマシュに、頬杖を突いた私は、少しだけ思案する。

 

「…………ああ、なるほど。それは簡単なことよ。マシュ」

「そう、なんですか?」

「ええ、言うなれば経験の違いね。それに、私は冷静なわけではないわ。これは単なる慣れという名の感覚の麻痺よ」

 

 間違っても憧憬や羨望の眼差しで見ていいものではないし、何よりもマシュにはこうなっては欲しくない。

 

「……それは、どういう意味ですか?」

「……っ、それは」

 

(はは、こりゃあ、私も焼きが回ったかな?)

 

 知らないうちに心まで弱ったのだろうか?少なくとも、昔の私なら、どんな目に遭おうと、こんな風にペラペラと自分の事を喋るような愚挙には出なかったはずである。

 

(でも、まぁ、このままの状態で死地を脱するのは難しそうだしなぁ~?いっその事、この身体については話してしまおうか?)

 

 なぁんて事は勿論、許されはしない。正直に話すには取引材料が必要不可欠だ。馬鹿正直に真実を告げて生きて帰れたとしても、私に待っているのは実験体(モルモット)としての未来だろう事は明白である。正直者が馬鹿を見る。とは私の為にあるような言葉だ。それに――

 

『よいか、要らぬ犠牲を出したくないのなら孤独を甘んじる事だ。愛しきものを手にかけるのは、もう懲り懲りであろう?』

 

 私はマシュを殺したくはない。死にかけの命を楽にするためのそれとは違う意味で。

 

「……先輩?」

 

 痛みを堪えるように、ゆっくりと目を閉じる。

 

「ごめんなさい。なんでもないの、少し頭痛を感じただけ、それだけよ」

 

 唇が震える。私はうまく笑えているだろうか?いい加減、普通でいる演技にも嫌気が差してきたところである。いやはや、大和撫子を気取るのは難しいな。

 

 と、いろいろと我慢の限界に近い私を現実へと引き戻したのは、甲高い女性の叫び声だった。

 

「今の声は!!」

「……イヤな予感がする」

 

 マシュが盾を握り直し、私は立ち上がる。

 

「どう聞いても女性の悲鳴です。急ぎましょう、先輩!!」

「ええ」

 

(……借りていくわね)

 

 マシュへと肯定を返しながら、軒先に立てかけられた金属製のバットを一度だけ振り下ろして、私は彼女の後に続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何なの、何なのよコイツら!?なんだってわたしばっかり、こんな目に遭わなくちゃいけないの!?」

「あれは――」

「もうイヤ、来て、助けてよレフ!!いつだって貴方だけが助けてくれたじゃない!!」

「オルガマリー所長……!?」

 

 悲鳴の聞こえた方向に急ぐと、そこには骸骨兵の集団に追い立てられた、白猫のような美女が居た。

 

「マシュ!!所長を軸に8時と10時の方角にそれぞれ1体!!その後は2時の方角の3体!!」

「了解です、先輩は所長をお願いします」

「ええ、武運を」

 

 私の了承と励ましの言葉に、しっかりと頷いたマシュは、恐怖と戦いながらも敵と相対し、私は狂乱の最中にある所長へと駆け寄った。

 

「あ、貴女たち!?ああもう、いったい何がどうなっているのよ――っ!!」

「何はともあれ、ご無事なようで何よりです所長。さ、立てますか?」

「なっ、貴女この状況で、よくそんなを事言えるわねぇっ!!カルデアはどうなっているの?どうして私が特異点にいるわ――っ!!」

 

 あからさまにパニクる所長の様子に、このままでは落ち着いて話も出来ない。と思った私は、管制室でのお返しとばかりに、思い切り所長の頬をひっぱたいた。こういった唐突な痛みは、思考を強制的に遮断するのに特化しているから便利ではあるが、おかげで別の嫌な記憶を思い出してしまい、私の感情の波は、収まるどころか増してしまう。

 

「……失礼を。ですが死にたくなければ落ち着いてください所長。そのお気持ちは察して余りありますが、貴女がそんな有り様では立ち行かなくなります」

 

 けれど、感傷に浸っている暇などない。故に私は簡潔に謝罪を述べた。

 

「戦闘、終了しました。お怪我はありませんか、所長」

 

 すると、タイミング良くマシュが戻ってくる。どうやら、彼女にはもう、骸骨兵は敵じゃないようだ。それは恐らく、マシュの姿形が変わった事とも関連があるのだろう。Aチームの平均的な練度が、どれほどのものなのかは知らないが、きっと、その頃のマシュと今のマシュとでは、別人と言えるレベルで、戦闘力に開きがあるはずだ。

 

 私が勘を取り戻すのとは似て非なる要因で、彼女は戦いの腕を上げている。そこまでは、観察から推測可能だった。ただ、魔術師ではない私では、真の意味で、彼女の身に起きた事を理解するのは難しいだろう。

 

 それに、何も変わったのは彼女だけではない。私は金属バットを握っている、自身の右手の甲を擦る。既に痛みはないが、相変わらず、三重の八角形は、赤く存在を主張していた。

 

「…………どういう事?」

 

 ふと、そんな私とマシュとを交互に見ながら、所長が驚きを露わにする。

 

「所長?……ああ、わたしの状況ですね。信じがたい事だとは思いますが、実は――」

「サーヴァントとの融合、デミ・サーヴァントでしょ。そんなの見ればわかるわよ」

 

(デミ・サーヴァント?)

 

 マシュの発言に、所長は喰い気味に声を荒らげ、私は首を傾げる。

 

「わたしが訊きたいのは、どうして今になって成功したかって話よ!!いえ、それ以上に貴女!!貴女よ、わたしの演説に遅刻した一般人!!」

「はい!?」

 

 すると、さっきまで腰を抜かしていた所長は、私へと詰め寄ってきた。

 

「なんでマスターになっているの!?サーヴァントと契約できるのは一流の魔術師だけ!!アンタなんかが、マスターになれるハズないじゃない!!その子にどんな乱暴を働いて言いなりにしたの!?」

「そんなこと言われましても……」

 

 人差し指で私を押しながら、所長が喚き散らすが、私には彼女が何を言っているのか、全くと言っていいほどに分からないのだ。それよりも――

 

「それは誤解です所長。強引に契約を結んだのは、むしろわたしの方です」

「なんですって?」

「…………ご歓談中、申し訳ありませんが、お二人とも、直ちに此処から離脱する事を推奨します」

 

 いつの間にか、辺りは静寂に包まれている。思い返してみれば、マシュと交戦していた骸骨兵の何体かは、不自然な撤退をしていたように思う。私は、その撤退理由を、マシュに勝てない。と、察知したからだと結論付けたのだが、どうやらそれは、致命的な誤りだったようである。

 

「先輩?」

 

 私から見れば正面、所長とマシュの後方、数十メートル先へと視線が固定される。

 

「いい?落ち着いて、あれを見て」

 

 そのまま、私がそれらを指し示すと、盾を片手に、私達を守護するように動いたマシュの顔色が変わる。

 

「……まさか」

「ヴェスヴィオ火山の犠牲者に近いのかしらね。どっちにしろ悪趣味だわ」

 

 それらを見つめたまま吐き捨てる。そして、そんな自分が意外でもあった。

 

「……何よ?ここからじゃあ、きちんと見れな――って、あなた勝手な行動はっ!!」

「先輩ッ!!」

 

 けれど、所長は夜目が効かないのか、状況を理解し切れていないようなので、確認の意味も込めて私は動いた。

 

「……恐らく、私の勘が正しいのならばッ!!」

 

 管制室でのコフィンさながら、乱立する数十体の対象に向かって駆け、一番近い位置にあったそれに狙いを定めて、金属バットを力一杯振り被る。刹那、石像の頭が粉々に砕け散るや否や、その首からは、鮮血が噴水の如く迸った。

 

「ひっ……」

「……そ、んな」

 

 所長が引き攣った悲鳴をあげ、マシュが驚愕に口元を覆う。私はと言えば、可笑しいくらいの惨たらしさに、ヒュウと口笛を吹いていた。

 

 白かった夏服が、鮮血で深紅に染まっていく――

 

「……もう一度、言いますね。早く此処から離れましょう?」

 

 その懐かしい不快感に、私は口元を歪ませて嗤った。

 




 
 主人公の行動が(結果として)キチガイじみてる…… 最凶属性とは……?

 それはそうと、金属バットが(ひいては主人公が)強いのか?石像が脆いのか?は謎なところである。

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